家主スガナミ せいちょうにっきスガナミととくべつな関係になった永浦さんが、スガナミのおうちに来るようになってしばし。サメのじゃんけんで、僕が永浦さんちの子になることが決まった。だけど、すぐに永浦さんちに行くのかな、と思ってたら、「先生が東京にいる間は、このサメちゃんも一緒にいさせてあげてください」って永浦さんが言ったから、もうしばらくだけ僕はスガナミんちのサメってことになった。
永浦さんがそう言う理由も、分かる気がするよねー。んで、多分スガナミも分かったんだろう、ふわっと笑って、「うん」って言ってた。てかさー、ほんと永浦さんが何言ってもスガナミはふわっふわでにっこにこになるよね。これが恋の病ってやつかー。いや、でも永浦さんかわいいし、仕方ないよね!
にしてもスガナミは忙しい。登米にも行かなきゃだし、東京での仕事も忙しいし。ある日、おうちにたくさんの段ボール箱とか白いモフモフとかが届いた。あー、お引越しの準備始まるのかーって思ったけど、全っ然!二箱ぐらい、本棚の本を詰めてみたけど、そんだけ!
その後、スガナミと一緒にちょっとだけ来た永浦さんに、「準備全然すすんでないじゃないですか」って笑われて「お手伝いしましょうか」って言ってくれてるのに、「そんなことにあなたの手を煩わせるわけには」とかなんとかきざっちいこと言ってた。いや、そんなこと言ってる場合じゃなくない?
それ以来、永浦さんはおうちに来なくって、スガナミもいない時間が断然長くって。さびちい。
そう思ってたら、三日ぶりぐらいにドアが開いて、スガナミ帰ってきたかなと思ったら、永浦さんが一人でお部屋に入ってきた。部屋の中をぐるっと見て、呆れた顔してる。ねー。ほんとスガナミがすんません。とおもったら、おもむろに腕まくりして段ボール箱を組み立て出した。せっせと箱を作っては、本棚の本を詰めてる。お引越し準備してくれてるー!
作業が数箱進んだところで、永浦さんに電話がかかってきた。スガナミだ!へー!こうやって電話持たないで声聞いておしゃべりできるんだ!べんりー!普段もスガナミがこうやってしゃべってたら、僕も永浦さんの声聞けるのになー。そっか、作業しながらお話するつもりだから、今はこうやってるのか。
「すみません、さっきメッセージ見ました」
スガナミの平謝りの声が聞こえる。スガナミも大変なー。
「先生がいないの分かってて、おうちに行きますって連絡でしたから、気にしないでください」
永浦さんが、ちょこっとぷんすかしながらも、思いやりこめて話してるのがかわいい。
気持ちがストレートなのが、永浦さんのいいとこだよねぇ。
「引っ越しの手伝いしますって書いてあったから」
スガナミがシンミョーな口調で言ってる。いやいや、スガナミがやらなさ過ぎてるの、永浦さんにバレてるわけよ。
「ずっと会えてないですけど、私でもできる荷造りはさせてもらおうと思って」
って、永浦さん、スネてるのもあるのね。てかそりゃこんなけスガナミが忙しくて会えなかったらスネるよねぇ。
「今日もう26日ですよ。いいかげん部屋片づけないと。部屋こんな状態で来月から登米とか完全に無理じゃないですか」
ほんと、それ!そりゃ永浦さんだってスネるし呆れるよ!スガナミがほんとすんません!
「それはなんとかしますから。あなたも忙しいんだし」
いや、なんとかなんないし!今、なんとかなってないし!
「いいです やります」
わー、拗ねスネの永浦さんだー。ぷんすかしてるのもかわいいー。いや、かわいいとか言ってる場合じゃないんですけども!
「部屋なんかほっといてください。そんなことをさせるために鍵を渡したわけじゃないんですから」
ってじゃあどうするために鍵を渡したんだよ、ってなるよ?!
鍵渡したって会えてないんじゃあねぇ。
「何ですか?見られて困るものでもあるんですか?だったら言っておいてください。そこは見ませんから」
永浦さん強気ー。でもねー、スガナミだからたぶんだいじょぶー。
「見られて困るものなんて無いですよ」
ほらね!
「それはそれでおかしくないですか?」
永浦さん、ナイスツッコミ!でも、見られて困るものって何?
なんか、おそるおそるなスガナミの声が聞こえる。
「怒ってますか?」
その一言に、永浦さんのぷんすかがしゅんっって収まった。ん?なんか、永浦さんの匂いが変わった?
「怒ってません 仕事で忙しい人に、頑張ってる人にそんなことしたくないです」
「すいません。ずっと…」
「いや、いいんです。謝らないでください。でも先生に話したい事たくさんあったんです」
なんだろ、永浦さんのいつものストレートっていうか、無邪気な感じの匂いが一気になくなっちゃった。うーん、なくなったんじゃないな。なんていうか、その永浦さんをどこかに仕舞っちゃって、別の永浦さんが出てきた…感じ?スガナミといるときはみたことない永浦さんだから僕がびっくりしてるだけかな。
「何を考えていたんですか?」
うわー、スガナミの甘い声~。ほんと永浦さんと話すときは声がやっさしいよね。
「私やっぱりいつか地元に島に帰って何か自分にできることがしたいんです」
そーなんだ!てか、永浦さんの地元ってどこ?何て海?あ、海とは限らないか、人間だから。
「うん」
「でもまだ何ができるのか分かんなくて、先生みたいに今目の前にいる人たちのために働く、そういう働き方もあるのかもしれないし…」
ん…?ん?
それって、スガナミと一緒にいることを永浦さんが諦めてない?なんか、諦めなきゃいけない、って自分に言い聞かせてない?さっきから、スガナミと一緒にいたい永浦さんより、我慢しなきゃな永浦さんが、永浦さんの中で勝ってる気がする。僕は何言ってんだ?そんでも、なんかいつもの永浦さんじゃないのは確か。え、このままで大丈夫?スガナミ気づいてる?他のサメたちも、ざわついてる。やっぱりそう思うよね?!
あわわわって心の胸ビレを振ってたら、電話の向こう側でばさって音がした。
なんだなんだ!
「今から会いませんか?」
よし!よし!スガナミよく言った!!
てかスガナミの嗅覚、サメ並みじゃない?やっぱり永浦さんのことだからかなぁ。
「これから勤務で…」
って、永浦さんがしり込みしてる。今までだったら、絶対うんって言うのにー。
「送ります。会社まで」
スガナミも譲らない!そう、今はこれぜったいゆずっちゃだめなやつ!
「15分 会いましょう」
病院ちかくの橋のとこで、って言いおいて、立ち上がった気配のスガナミからの電話が切れた。電話が切れて、永浦さんはなんだかものすごーく考えてる顔してる。会えるのがうれしい!じゃなくて、会っても何を言っていいか決めかねてる感じ。意を決して立ち上がった永浦さんは、物思いにふけった感じでおうちを出てった。
えー、どーなるんだろ!あれ、永浦さんがあのままだったら、多分、もうこのおうちには来ないかもぐらいだよ。やだやだー。僕もう、すっかり永浦さんちの子になるつもり満々なのにー。ばかー!スガナミのばかー!
やきもきしても、僕にはどうすることもできなくって。日が暮れて、他のサメたちと、どうなったかねぇ…ってしょぼしょぼしてたら、夜にスガナミが帰ってきた。四日ぶり?おかえりー!てか、あの後どうなったの?!全サメが固唾を飲んで見守ってたら、部屋に入ってきて「永浦さん、こんなに進めててくれたんだ…」って呟いてる。いやだから、その永浦さん!どーなったの?!
デスクチェアにどさっと座って、うわぁあって顔を覆ってる。え、そのリアクションどっち?どっちのやつ?もう、ジンベイザメくんとか、心臓がモタナイって卒倒しそうになってるし。がんば、ジンベイザメくん、がんば!
「よかった…。気づくのに間に合って本当によかった…」
ん?これは、よさげ?よさげなやつ?
おもむろに電話を取り出したスガナミがだれかにかけてる。永浦さん?永浦さんだよね?
「あ、永浦さん。はい、さっき帰りました。荷物、進めてくれてありがとう」
きたー!永浦さん!きたー!
サメ棚の全サメが、心の胸ビレでスタンディングオベーションしております!立てないけど!
もう泣きそう。涙腺ないけど!
「うん。うん。…はい。待ってます」
「うん、明日から3日、休みを言い渡されました。いい加減、準備を進めろ、と中村先生が」
「えっ?ひどいなぁ」
永浦さんが何言ってるか分からないけど、スガナミはいつもどおりのあっまあまなしゃべり方で、あぁ、なんか危機は脱したっぽいことは分かる。いや、これで脱してなかったら、別の意味でスガナミが危機的。そうでないとは思いたい。
ゆるゆるの顔で電話を切ったスガナミが、スマホを握りしめて額にあててる。いやー、ほんと!サメの皮一枚つながってよかったね!まーでも、こうやって永浦さんの危機に気づいて動いたってのが、スガナミの成長したとこなんだよね、きっと。
これからも見守らないとなー。永浦さんは任された!ジンベイザメくん、他のサメのみんな、向こうに行ったらスガナミをよろしくね!