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    Me Media naranja法的な婚姻関係を結んでからもしばらくは気仙沼と東京で遠距離婚になっていた百音と菅波がついに一緒に住み始めたのは、届の提出から1年以上経ってのことだった。それぞれの仕事の充実と発展に伴い、内容やエリアが変化する中で、お互いの中間点がちょうど見いだせたことをもって、同居の場所が定まったのである。二人にとっては、なんとなく思っていたより早かったな、というのが感想だったが、ずっと二人を見守ってきた周囲にとっては、やっとのやっとだ、というのが感想だった。

    大学病院所属のまま、地域医療に力点を置いた新しい取り組みに参画する菅波と、気仙沼での活動をつづけながら、東北太平洋3県や気仙沼以外の特定第三種漁港にも仕事の範囲が広がっている百音は、めいめい、家をあけることもそれなりに多い。一緒に住み始めて最初にしたことは、余白の大きなカレンダーを買ってリビングに吊り下げることだった。お互いの予定を書き込んで、在・不在を見える化すると、この日はいないんだな、ということよりも、この日は一緒だ、ということに意識が向く。

    夕飯を一緒に食べられる日は、先に帰った方が何かを作るようにしよう、と言い出したのは菅波である。料理をするということに関して一日の長がある百音がその役割に捕らわれないように、また自分がそれに甘えないように、という思いで、それは百音にも伝わっている。とはいえ、医学生時代の下宿から数えれば一人暮らしも20年弱になろうという菅波も、やっていた自炊など炊飯を除けば、袋麺をゆでる時にキャベツも一緒に入れるか適当に肉と野菜を炒める程度のこと。先生、無理しないでくださいね、と思わず百音が言ってしまったのもむべなるかな。

    結局、菅波が作る日は、大体のところカレーか、豆腐の味噌汁に野菜炒めか焼き魚か、というようなメニューに着地する。それに、百音が作れる日に多めに作り置いたり、近隣から差し入れられた総菜が添えられれば、十分に恰好がつき、何より、二人で食卓につくことができれば、それが何よりのごちそうである。

    その日も、菅波が支度した夕飯は、予定通りに炊き上がっていた登米のひとめぼれに、豆腐とわかめの味噌汁、亀島からおすそ分けされていたアジの開きを焼いたのと、退勤の帰り道に立ち寄ったスーパーのポテトサラダ。帰宅した百音に、後何かあったっけ、と菅波が聞けば、これもそろそろ食べきっちゃいますかね、と、冷蔵庫から切り干し大根の煮物が入った保存容器が取り出される。

    二人そろって食卓に着けば、帰ってきたらあったかいお味噌汁ができてるのほんとにうれしい、と笑う百音に、作り置きの在庫把握がどうにもできないのはどうしてだろう、と自分に頭をひねる菅波である。ありもので適当な料理を作れないのと同じで、名前の付いたものを名前の付いた単位でないと把握できないのだろうか、と箸を使いながらもぶつぶつ言う菅波に、それは適材適所で私が担当しますから、と百音がなだめるのも、二人にとっては楽しい食事である。

    食後、二人で食器の片づけをしていたところで、百音が、そういえば、と、帰宅の際に台所の隅に置いた袋からいくつかのオレンジを取り出した。同僚からおすそ分けでもらったのだという。デザートに食べませんか、という百音の提案にもちろん菅波は賛成で、食器の拭き上げは菅波、オレンジの切り分けは百音、と分担が決まる。

    ガラスの器を2つ、ワークトップの上に出した百音が、まな板の上でオレンジをひとつ、半分に切ったところで、その断面を見て、あ、なるほど、と小さく独り言をこぼした。

    「どうかした?」
    という菅波の問いに、百音がオレンジの断面を指さす。
    「これを見て、この間、外国のことわざを調べたときのことを思い出して」
    「外国のことわざ?」

    うん、と百音がうなずく。来月に実施する小学生向けのワークショップで天気にまつわることわざを紹介しようと思い、日本のことわざだけでなく外国のことわざも何かないか、と調べたのだという。

    「で、お天気のことじゃないけど、へぇ、って思ったのが、スペインのことわざで『あなたは私の半分のオレンジ』とか『オレンジの片割れのあなた』っていうのがあって」
    「どういう意味?」
    「自分の魂のパートナーとか、運命の人、とか、そういう意味」

    菅波の顔を見ながら二つの意味を口にする百音の頬にうっすらと朱が刷かれている。思いがけない言葉が百音の口からこぼれて、菅波の目じりもほんのりと色づく。

    「オレンジなんですね。リンゴでも、他の野菜でもなく」
    「スペインではなじみのある果物だからなんでしょうか」
    「房の大きさや位置関係はオレンジによって違うから、切ってもぴったり合うのは元の1個ってことかな」
    「そうかも!」

    菅波の推察に、目を輝かせてうなずく百音がまたかわいく、確かに、別のオレンジだと、ぴったりじゃないもんなぁ、と、別のオレンジを切った断面を見比べる百音を見ながら、菅波は布巾で茶碗を拭きながらも口元が緩みっぱなしである。

    食器の拭き上げもオレンジのカットも終われば、二人でまたダイニングテーブルに戻って、食後のフルーツデザートとしゃれこむ。切りたてのオレンジはみずみずしく、先ほどの食事の脂分が程よく洗われるようだった。

    それにしても、とオレンジを食べながら口を開いたのは百音である。

    「オレンジの片割れや半分が、魂のパートナーだ、ってことは、元は一つだってことなんでしょうか」
    だとしたら、私と先生もどこかで元々ひとつだったってこと?と首をかしげているが、さらりと、魂のパートナーで運命の人だ、と言われてしまった菅波は、思いがなかなか言葉にならない。

    そうですねぇ…と声をひねり出しながら、何とか会話の波に乗る。

    「半分や片割れであることは本当にそうだと思いますが、元が一つだったか、というと、それはどうだろうか、というように思います。百音さんは、僕と出会う前から、百音さんという一個人だし、何かが欠けていたわけではない。僕も、百音さんが与えてくれたものはたくさんあるけど、それは欠損を埋めたものではないし…」

    でも、魂のパートナーだ、ということは確かだ、と思うと、結局どういうことなんだろう…と菅波がうーむ、と考え、百音も、うーむ、と考える。

    「ふたつがひとつになって、それで、またはんぶんこなんですかね?」

    百音の言葉に、菅波がふわりと笑う。

    「だとしたら、すてきですね」
    「ね。先生となにか、わけっこして、私、になってるんだったら、うれしいです」
    「僕も」

    うんうん、と頷きながら、オレンジをほおばる百音の嬉しそうな笑顔に、菅波の顔もほころぶ。

    「自分で誰かを見つけて、この人なんだ、って気づけてたらいいですよね」
    「ですね。運命で決まってるんじゃなくて、運命を見つけに行く、のかな」
    「いいですね、運命を、見つけに行く」

    百音の復唱に、菅波はうん、とうなずく。

    「運命で決まってるから、って言ってしまうと、病に倒れることも、災害に遭うことも、運命の一言で何もできなくなってしまう。それに座して待つだけのことはできませんからね」

    菅波の言葉に、今度は百音が力強く首肯した。
    そっか、そうだ、と百音が笑う。

    「お医者さんも、気象予報士も、運命に抵抗することが仕事なんですね。やっぱり似てます、お医者さんと気象予報士」

    在りし日の菅波の言葉を持ち出す百音の笑顔に、菅波はその時のようにはにかんで、うん、と相槌を打つ。生活を共にするようになり、お互いの仕事のステージも変化して、それでも、二人の寄って立つところはずっと同じ。そんなことをふとオレンジが気づかせてくれて。二人が過ごすリビングには、窓から柔らかく月の光が届いているのだった。

    ねじねじ Link Message Mute
    2024/08/25 23:58:39

    Me Media naranja

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