お誕生日ぐらいフツーにしろつっかれたー!
連休中日だもん、そりゃこれぐらい疲れるほどに忙しくないと、それはそれで張り合いがないってものだけど。オープンクローズの時間も変更してるから、今日のシフトは変則的に16時まで。昨日はお休みだった分、出が早かったのもあって一日が長い。帰ったら、洗濯して、あとなにしよっかな。
昨日は、一日前倒しでモネの22歳の誕生日を奈津さんたちとお祝い。そりゃ、誕生日当日に私たちがお祝いするのは野暮ってものだもの。おつきあいして初めての誕生日、そりゃ菅波先生とサシでお祝いしてもらわなきゃ。でも、三連休だけど、先生は登米でのお当番があるとかで、今日と明日しかこっちに来れない。モネも、台風シーズンはなかなか東京離れられないし。(しかもやっぱりばっちり台風18号が西日本に来てる)
だからこそ、初めてのお祝いをばっちりしなきゃ!って、この明日美サマが腕を振るってモネのお洋服をコーディネートしておいたわけですよ。とびきりおしゃれ!って感じにしちゃったら、あの朴念仁外科医センセはどぎまぎすってんころりんしちゃうだろうし、モネも落ち着かないだろうから、モネのよさが引き立つシンプルなベージュのワンピース。空色の羽織もので、いつも青チェックばっかりの菅波先生とさりげなく色味もリンクさせて。なんだかんだ歩き回る系のデートが多い二人だから、かわいいけど歩きやすい靴も一緒に選んでおいた。
今頃、行くって言ってた水族館(もう都内の水族館は全部行きつくしてるんじゃないかな)でお茶でもしてるかな…って思いながら、汐見湯の暖簾をくぐって番台の奈津さんにただいまーって言いかけて、その言葉がしりすぼみになったよね。そんで、奈津さんと、「マジ?」「そうなの」って目で会話しちゃったよね。
いるし。モネと菅波先生。リビングのテーブルに、二人そろってこっちに背を向けて座って、なんかパソコン覗き込んでるし。いやね、その、ふたつの椅子の距離がめちゃくちゃ近いですね?とか、肩触れ合っちゃって仲良しですね?とか、あるよ?あるけどさ?
モネ、お誕生日じゃん?そんで、めっちゃおめかししてるじゃん?うん、後ろ姿からも似合ってる。やっぱり私の見立てはばっちり。
いや、そうなのよ。だのに。だのに!
そんな素敵なモネを目の前にして、なんでこの唐変木ドクターは冷静に仕事の話できちゃいますか?
思わず私がバッグを床にドサッと落としちゃって、その音で二人がこっちを振り返る。
振り返る向きも仕草もなんなら表情もシンクロしちゃってて、いやなにその、ごちそうさまな感じ。
「あ、すーちゃん、おかえり」
「おじゃましてます」
「モネ、ただいまー!すがなみせんせい、いらっしゃい!…ってそーじゃないのよ!」
私の剣幕に、二人がキョトンってした顔してる。
いやその、キョトン、までお揃いなのどうなってるの。
登米に住んだらインストールされる何かなの?
「モネ、今日お誕生日だよね?」
「うん」
「それで、菅波先生がお祝いに東京来たんだよね?」
「はい」
パードゥン?みたいな顔されてもですね、聞きたいのはこっちの方ですよ。
「なんでまだここで仕事?してるの?」
私の質問に、首をかしげてたモネが、あぁ!って得心の声を上げる。
いや、あぁ!じゃないのよ。
「先生が来るまでに、ってやってた作業があったんだけど、ちょっと悩んでて。そしたら、先生が少し早めに到着したから、出発しようって予定の時間まで相談して…たんだけど、確かに時間すぎちゃってた」
って、どーせ2時間ぐらい早く来たんでしょう、菅波先生のことだから。
「すみません、つい、僕があれこれと質問をしてしまったから…」
「いえいえ、私がいろんな選択肢を出してしまったからで…」
「そんな。それも、永浦さんが今の課題の考察を深めていればこそですよ」
「先生に相談してると、道筋が見えてくるんです」
おーい、それ、今のいま、やんなきゃダメ?
トゥディ イズ バースデイですよ?
まぁ、ある意味二人の通常運転って感じもするけど。
けど!
私が帰ってきたからには、これを放置はできないわよね。
奈津さんは優しすぎるってなもんよ。
「はいはい!」
って、また二人のワールドに入りかけたところに手をたたく。
「それで、キリはつきそうなの?」
「うん。だいぶとめどはたった」
「じゃあ、もう、いいからお出かけ、してきなさい!」
私がドきっぱりいうと、モネが目をぱちくりさせて、先生がそう言えば、って顔をしてる。
いや、そういえば、じゃないのよ、ドクター?オーケイ?
「ね、せっかくのモネのお誕生日なんだからさ!ちゃんとお祝いしてきなよ。菅波先生も、お祝いのこと、ちゃんと考えてたんでしょ?」
私の言葉に、菅波先生が、えぇ、まぁ、ってうなずく。よろしい。
ってか、これでこの後ノープランだとか言ったら、もう私、中村先生?に投書するとこだからね。
モネが広げてたパソコンを閉じて、バッグに入れる。
入れるんかい、とも思うけど、台風シーズンはお仕事がどう変わるかわかんないから、まぁそれは仕方ないよね。
でも、ほんと、開くのは緊急時だけにしなよ?
リビングの隅っこに置いてたモネの赤いボストンバッグを、菅波先生が自分のキャリーケースの上に載せて、じゃあ、行きますか、って、その辺はもう呼吸が合ってるあたり、ほんと二人の空気が出来上がってるのよねぇ。また、はい、って張り切って言うモネのかわいいこと、かわいいこと。ほんと、このかわいいコーデを網膜に焼き付けろってんだわ。明日のお洋服もレースのブラウスでちょっと大人っぽいコーデにしてあるから、ちゃんと悩殺されるといい。
おじゃましました…って言いながら先生が先に出て行って、モネも、行ってきまーすってその後を追いかけてる。
いってらっしゃーい、ってその後ろ姿を見送って、暖簾越しに見てたら、上がり框で靴を履いた二人は広い玄関を出る前にもう手をつないでて。あーもー!仲良しじゃーん!
だのに!察するに3時間も仕事の話を!ここで!していたと!
もー!お誕生日ぐらいフツーにしろ!
つっかれたー!
奈津さーん、とりあえず、砂糖吐きそうだから、ブラックコーヒー、飲も!