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    ゆめのあと◆死ネタです(ノボリさんが)
    ◆ネタバレになりますがクダリちゃんが現実の存在ではありません
    ◆シャンデラが無駄にヤンデレですみません。シャン→ノボっぽい
     あたくしには素敵なマスターがおりますの。お名前はノボリさん。そのノボリさんにはね、それはかわいらしくて、そっくりな双子の弟さんがいらっしゃいましたのよ。ええ、いらっしゃいましたの。お二人は本当にそっくりで、とても仲がよろしかったわ。
     ご挨拶がおくれてしまいましたわね。あたくしはシャンデラ。こちらの洋館の、ヒトモシたちのお仲間にしていただきたくって参りましたの。いかがかしら、あたくしのこの炎の体。自分でこんなこと言うのもなんですけれど、ゴーストポケモン界の貴婦人だなんて褒められたこともありましてのよ。その方、なかなか見る目のあるジェントルマンだったと思いますわ。ノボリさんも嬉しそうにしてくださっていました。あまり笑わない方ですけども、あたくしには分かりましたわ。ええ、あたくしには、素敵なマスターがおりますのよ。

     ノボリさんと弟さんに起きたこと、その責任の一端は、きっとあたくしにもあると、思っておりますわ。あたくし、その場におりました。心底、心底驚いてしまって、何があったやら、あまり覚えておりませんの。気づいたらノボリさんは地下鉄の座席に呆然と座ってらして、あたくしがその傍に浮かんでおりました。どこか遠くで鉄道員さんたちが騒ぐ声が聞こえたような気もいたしますわね。あたくし、大好きな彼が意気消沈しているのを見ておられませんでしたの。あたくし、一生懸命考えましたわ。きっと人間とポケモンとでは頭の良さが違いますから、あたくし本当に一生懸命考えなくっちゃならないと思いましたの。地下鉄のね、座席に座るノボリさんの隣に浮かんで、あたくし本当に一生懸命考えました。どうしたらノボリさんのためになるのかしらって。ノボリさんったらまるで身動きせず、ずうっと座っていらっしゃいましたから、考える時間ならたっぷりありましたの。
     それでもう、あたくし一生懸命考えて、決めましたわ。彼がどうしようもなく孤独になってしまったっていうのなら、それを癒してあげればいいって。それには、ノボリさんとあたくしが隔てられていてはいけないって、思いましたのよ! だってそうでしょう? からだとからだで隔たっているから、あたくしたちみんな孤独なんですわ。でも、あたくしにはその隔てを取り払ってしまえる力がありますの。素晴らしいことですわ。ノボリさんもそれならきっと喜んでくださる。そう、お察しの通りですわ。彼の魂、あたくしの中にお迎えしました。
     あたくしがノボリさんに近寄ったら、ノボリさん、あたくしの知っているよりずっとずっと冷たいお体をしていらっしゃいました。あの憎たらしいにやけ顔のバイバニラもかくやといったところでしたわ。うわごとみたいに何かを呟いていらっしゃるから、何かしら、って思って、近づきましたら、あたくしの体がいつもより温かい、ですって。あたくしが温かいんじゃなくって、ノボリさんが冷たいのにね! でもあたくしそれでたまらなくなってしまって、それであたくしもっとあっためてあげようって、そう思って、ノボリさんのことそおっと優しく抱きしめましたわ。はじめての抱擁でした。ノボリさんはしゅっとまっすぐしていて、透明でとってもきれいでしたわ。
     この火種はね、はじめについつい少しだけ燃やしてしまったほかは、大事にとってありますの。だってあたくしの大切な大切な……ああ。ですからね、ともかく、あたくしはこれを大事に持って、それで、特別なときに少しだけ燃やすことにしますの。それでずっとあたくしとノボリさんは一緒、彼もあたくしもずっとずっと寂しくありませんわ。

     その後はもう特には何ということもございませんでしたわね。久しぶりに地下鉄から出て……ああ、地下鉄のご説明はまた今度いたしますわよ。どれだけぶりかの月と星を見ながら、こちらのお館に参りましたの。こちらのことは風のうわさというやつで存じておりましたので。ヒトモシに、ああ、ランプラーもいらっしゃいますのね。あたくしとノボリさんも、ここに住まわせていただいてよろしいかしら。
    「本日はバトルサブウェイ、マルチトレインのご利用、まことにありがとうございます。よくぞここまでいらっしゃいました。」

     マルチトレインでわたくしとクダリが挑戦者様にお会いするのは少々久しぶりです。今回のお客様は研究員のお二人でいらっしゃいます。なんでも夢の跡地の奥で調査をなさっている、その息抜きにわざわざおいでいただいたとのことで。知略をめぐらせたバトルができそうな予感に、クダリも浮足立っているようでございます。
     ですが夢の跡地とは、どうも記憶にひっかかるものがございます。頭をひねってはみるのですが、どうしたことか、このひっかかりの正体がわかりかねます。随分前に何かがあったような気はするのですが。
     しかし、のんびりしている暇はございません。わたくしが眉根を寄せている間にも、挑戦者様はスリープにニョロゾとポケモンを繰り出していらっしゃいました。クダリが困ったように笑ってこちらに顔を向けました。

    「ノボリ、どうしたの? バトルはじまっちゃってる。はやくポケモン出さないと。」
    「ええ、失礼いたしました。ご迷惑をおかけいたします、少しぼんやりしていたようでございます。ですが、バトルは確実に行わせていただきますので、どうかご心配なさらぬよう願います。シャンデラ!」

     ようやく場が整って、クダリは声高らかにダストダスに指示を出しました。遠くカントーに生息しているとの噂を聞くポケモンに、クダリはどうやら興奮して仕方がない様子です。わたくしも負けてはおられません。シャンデラはそわそわとわたくしの言葉を待っています。

    「シャンデラ、あやしいひかりです!」
    「スリープ、さいみんじゅつだ!」

     寸暇を置かず、シャンデラが不穏にぎらつく光を放ちました。相手のスリープはまんまと混乱いたします。ですが、相手も状態変化わざはお得意のようです。さいみんじゅつをもろにくらってしまい、クダリのダストダスはねむってしまいました。クダリは無意識に左手の爪を噛み始めております。わたくしのかわいいクダリ、バトル中でなければすぐにでもやめさせるのに。クダリの手はまっさらできれいですが、あの悪癖をやめさせなければ爪の形が歪んでしまうかもわかりません。それにしても、一体いつからあの癖が始まったのやら、ふと疑問に感じました。随分昔からの癖であるように思いますが、不思議と思い出すことができません。どうもわたくしは今日、少々疲れているようです。

     クダリから目を引きはがして、続けざまにシャドボールをシャンデラに命じます。ですが、わたくしの意識が散漫だったからでしょうか、寸でのところでスリープにはかわされてしまいました。地下鉄の隅に影の球は溶けて消えてしまいます。研究員様は少しばかりほっとしたように口角を引き上げられました。

    「よし!……がんばれスリープ、ゆめくいだ!」

     研究員様は、今なお混乱の解けぬスリープに呼びかけました。シャンデラの光にあてられて眼つきのうつろなスリープは、研究員様の言葉が届いているのやらいないのやら、それでも何とか頭を振りかぶりました。しかし狙いが定まらない様子です。クダリのダストダスはまだ目を覚ましません。ですがスリープがふらつく足で相対したのは、どうしたことやら、なんとこのわたくしでした。
     シャンデラもクダリも、もちろん相手の研究員様も驚かれたご様子ですが、いかんせんポケモンがトレーナーを狙うなどということ誰が考えつきましょう。当然、わたくしもスリープとクダリのダストダスにすっかり気を取られてしまっておりました。何がスリープをそうさせたのか分りかねますが、しかしスリープはわたくしにゆめくいの攻撃をしかけてきたのです。

     わたくしは、起きているはずでした。はっきり意識を持ってポケモンバトルをしているはずですのに、わたくしの体からもやもやとした白っぽいものが抜け出て行きました。
     同時にわたくしは、信じられない光景が地下鉄の窓に映るのを目にいたしました。わたくしの体から白いもやもやが吸い出されると同時に、わたくしの隣に立っていたはずのクダリの体が形を失ったのでございます。
     一瞬ゆらめいたクダリの体は、その白いコートごと、ピンク色の煙になってしまいました。煙はいくばくかの時間そこに留まったあと、ゆっくりと薄れて消えていってしまいました。何が起こったのかわたくしにはまるで理解できません。ただわたくしのかわいい弟が、わたくしと同じ姿をしていつでも共にあった弟が、ピンク色の頼りない煙に姿を変えて消えてしまったのです。動揺のまま手を伸ばしても、わたくしの腕はクダリであったらしい煙をかき乱すばかりです。わたくしのクダリはどこに行ってしまったのですか。わたくしの頭は恐慌をきたしました。視界の端、どこか遠くで、研究員のお二方が唖然としていらっしゃいます。誰かの叫び声が聞こえました。それから、何事ですか、だとか、勝負は一旦とりやめだ、だとかの話し声も。何があったのやらわかりかねますが、どうやらポケモンバトルはうやむやになったようです。それはそうでしょう。マルチバトルで、片一方のトレーナーがいなくなってしまっては、お話になりません。それにしてもどうして片一方のトレーナーはいなくなってしまったのでしょう……ああ、そうです、クダリ、クダリ、どこに行ってしまったのですか。どうしてクダリはここにいないのでしょうか。どうかクダリの声を聞かせてくださいまし、ああ、どうか、どうかクダリ。
     今、地下鉄の座席に座るわたくしの向かい側、暗い窓には、わたくしの姿だけが映っております。がたんごとんと、地下鉄の走る音だけがただ響いております。ということはつまり、先ほどまでバトルをしていたはずの車内はいつの間にやら静かになってしまったようです。濡れた床が蛍光灯の明かりを反射して光っています。誰かが水ポケモンを使ったのか、それとも、長く見ぬ地上は雨なのでしょうか。足元から吹き上げる暖房がいやに熱く感じます。
     わたくしは少しずつ、何があったのかを整理しようと試みました。しかしわたくしに分かるのは、どうやらクダリが姿を消してしまったらしい、そのことだけでございます。
     ですが、わたくしとクダリは二人で一つ、二人でサブウェイマスター。何があったかは分かりません。しかしクダリがわたくしの隣に立っていない以上、わたくしはサブウェイマスターではいられません。そう思って帽子とコートを外した瞬間、わたくしは今日(恐らくは今日でしょう、どれくらいの間ここに座っているのかはよくわかりませんが)あったことをようやく思い出しました。
     黒い帽子とコートを外してみると、地下鉄の窓に映っているのはわたくしでありクダリでございました。わたくしの完璧な相似形は、窓の中でかすかに微笑んだように見えました。

     窓の中にその姿を見て、わたくしは長く長く息をはきました。とうとう理解してしまったのでございます。わたくしのしていたことを。いつからそこにいたのでしょう、シャンデラが心配そうに空中をただよっております。

     クダリの爪を噛む癖がいつからのものだったのか、わたくしは先ほどまで思い出せませんでした。ですが、わたくしはあの子の子供っぽい癖を愛しておりました。やめなさいと叱っても天真爛漫に笑うあの子をわたくしは愛しておりました。けれど本当はその反対なのでした。わたくしの愛することをあのこはしていたのです。あの子はわたくしの見ていた夢なのですから。
     きっと、あの混乱したスリープは、わたくしが白昼夢を見ていることを感じ取ってしまったのでしょう。

     ずっと昔を思い出します。うんと小さな頃、わたくしは電車の大好きなこどもでした。そしてひとりぼっちでした。

     孤独な子どもだったわたくしは、とにかく電車に乗るのが大好きでした。にこりともせずに地下鉄に乗せてもらっては、ずっと向かいの窓をにらみつけていたのではないでしょうか。そこにはいつだって、わたくしの姿が映っておりました。
     いくつの時だったでしょうか。その日も、わたくしは電車に乗っておりました。もう一人で電車に乗っても構わない時期だったように思います。どこに行くつもりでいたのか、ともかくわたくしはいつものように地下鉄の窓をにらみつけながら、とりとめのない白昼夢を泳いでおりました。はじめはぼんやりとしていたその白昼夢は、いつしか私自身にすっかりなじんで、その時分にはまるで現実のように思えておりました。夢の中で、地下鉄の窓に映るわたくしと同じ形をした彼はわたくしの双子の弟でございました。不愛想なわたくしとは真逆の、少し幼くてよく笑う弟は、孤独なわたくしの半身でした。いつだってわたくしは、誰と話しても埋まらない寂しさを奥歯で噛みしめ、見えない弟の手を握りしめておりました。
     はて、迷子でしょうか。ふと気づくと、そんなわたくしの傍らにムシャーナがおりました。彼女はわたくしのにおいをひとしきりかぎ、あのねむたげな目を開けてわたくしの目を覗き込んできたのです。不思議な感覚でした。赤ん坊が母親に見つめられるのは、あんな心地なのでしょうか。じんわりと視界が淡いピンク色に揺れました。わたくしは上の世界をもう随分と見ておりませんので、あれがどんな花の色なのか存じません。ともかく、わたくしの知るうちではとびきりに優しい色をしておりました。気づいたらムシャーナはどこにもいなくなっていて、わたくしの向かい側、いつもわたくしが睨みつけていた窓の下の座席に、わたくしの完璧な相似形をした双子の弟が笑っていたのでございます。

     だからクダリとわたくしは二人で完璧だったのです。日々規則正しい地下鉄での生活に守られて、わたくしとクダリは完璧な一対でございました。けれど、ムシャーナが煙で現実にしてくれたわたくしの白昼夢は消えてしまいました。真実を思い出したわたくしはまた孤独でございます。

    「おや、シャンデラ。……わたくしは、独り言を言っておりましたか。」

     ずっとそこにいてくれたらしきシャンデラが寂しそうに体を揺らしました。喉が、少しばかり乾いてかすれています。どうやら、本当にわたくしは一人で話し続けていたようでございます。いつもならクダリがいてくれたから、独り言にはなりませんでした。ああ、でもクダリがわたくしの白昼夢で、地下鉄の窓に映った幻であったというのなら、わたくしはずっと独り言を言っていたとおなじことなのでございましょうか。もうどうにも、何も分かりません。
     シャンデラが心配そうに寄り添ってくれました。けれど彼女はわたくしとは重なる部分が少なすぎて、わたくしはなお一層クダリを思ってしまいました。どうやら泣いてしまっていたようで、シャツに歪んだ円形の染みがいくつも落ちております。

    「シャンデラ、今日あなたは一段とあたたかいのですね。ありがとうございます、シャンデラ。」

     どうやらわたくしはシャンデラに抱きしめられたようでございます。目の前がシャンデラの炎の紫色でいっぱいになっておりました。その向こうで地下鉄のつり革も、窓も、そこに映るわたくしでありクダリである姿も揺れております。シャンデラの炎は本当にきれいな色をしておりました。
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    2022/07/09 16:46:27

    ゆめのあと

    #サブマス #pkmn #死ネタ #二次創作
    死ネタのような何か。クダリが現実の存在ではない。シャンデラが仄暗いノボ←シャン風味。
    初出:2012/3/13(Pixiv投稿)

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