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    悪魔の筋書きあの悪魔に気に入られてしまったのなら、いずれ気付くことになるだろう、逃げるという選択肢がどれだけ無意味なことか。


    それは、窮地に陥ったグリンデルバルドの苦し紛れの足掻きだったのかもしれない。逃げ場のない地下鉄のホームで大勢の闇祓いに取り囲まれ、劣勢を察した闇に君臨する邪悪な魔法使いは手近な位置に居たニュートに狙いを付けた。

    闇祓いではない彼に呪術への耐性はなく、突然杖の矛先を向けられ回避行動も出来ないまま、杖の先端から放たれる魔法をまともに受けてしまった。

    結果としてそれが決定的な隙を生み、グリンデルバルドはマクーザの闇祓い達の手によって生きたまま拘束された。

    魔法史上類を見ない程強大なオブスキュラスがノーマジの街中で暴れ死傷者を出した事件は、表向きは黒幕の逮捕という形で一旦幕を閉じることになったのだった。




    マクーザ施設の地下に位置する白を基調とした部屋は、現在魔法結界によって二つに区切られている。水銀に似た結界は常にゆらゆらと揺らぎ続けており、その向こうの様子は分からない。

    二つに区切られた部屋の内の片方は、ニュートに与えられたスペースだ。一人掛けのソファとテーブル、水差しとベッド、最低限の調度品が部屋のこちら側に寄せて置かれている。窓もない為壁掛けの時計の針の音だけが時間の経過を訴えていた。

    静寂が室内を満たす中、ニュートはソファに腰掛け魔法動物に関する本の頁に視線を落としていた。だが読書に没頭することができず、ここ数時間で何度目かも忘れた溜め息を吐く。

    決してソファが硬いとか、本の内容に興味がないという訳ではない。もっと煩わしく、忌々しい外因がニュートの機嫌を降下させていた。

    「憂鬱そうだな、スキャマンダーの」

    此方の神経をわざと逆撫でる愉快そうな声が聴こえたが、ニュートは口を結んだまま再度読書に集中しようと視線で無理矢理綴られた単語を拾い上げる。この頁を読もうとするのは何度目だろうか、三行目から先になかなか進めない。

    「大方私とは話すなと言われたのだろう?浅はかな入れ知恵だな、会話等しなくとも開心も洗脳も容易い。きみは特にやりやすそうだ」
    「うるさい」

    反射的に言葉が浮かび、ニュートは咄嗟に口元に手を当てて覆った。今のは実際に口に出して発した訳ではない。脳内で思っただけだ。

    しかしニュートに話し掛け続けていた声の主は嬉しそうにニュートの思考に応えた。

    「そういう所が付け入り易いと言っているんだ。きみの心は隙だらけだ。少し逆さにして揺さぶればきみの飼っている魔法動物のように本音がじゃらじゃらと溢れ出てくる」

    ニュートは本を閉じるとソファから立ち上がり室内を無意味に歩き回る。何か他に没頭出来ることをと考えるが、トランクも杖も今手元にはない。この部屋に入る前に取り上げられてしまった。

    「動物たちが心配か?それともあの、オブスキュラ――」
    「うるさい!」

    しんとした室内に自分の声が響き渡りぎくりとする。ニュートの言葉に従った訳ではないのだろうが、声の主はくつくつと喉の奥で笑うような気配をさせるだけでニュートを激昂させた言葉の続きを言おうとはしなかった。

    どっと疲労を感じ、ニュートはベッドの縁に腰を下ろす。膝の上で組んだ両手に額を押し付け俯いた。人に心を覗き込まれていると思うだけで呼吸すら息苦しく感じる。

    ティナの妹、クイニーも心を読んでくるが彼女には悪意がない。良くも悪くも彼女は素直だ。

    この男のように此方を騙そうとしない、唆そうとしない。一刻も早くこの気が狂いそうな部屋から解放されたかった。

    ニュートは今呪いを受けた状態にある。

    呪いの術者は史上最悪の闇の魔法使いグリンデルバルドであり、現在結界を挟んだ向こう側に指先一つ動かせない状態で拘置されている。結界は人も音も通さないし、グリンデルバルドも許可なく喋る事は出来ない。

    それでも容赦なくニュートにあの男の声が聴こえるのは、相手の思考が直接脳内に響くからだ。

    グリンデルバルドから受けた呪いによって、現在ニュートとグリンデルバルドの魂は繋がり共有されている。その影響で思ったことが全て、互いに聞く気がなくとも伝播してしまうような状態だった。

    何故ニュートを殺さずこんなややこしい呪いをかけたのか、胸ぐらを掴んで揺さぶりながら問い質したい気持ちもあったが直接の会話は元より思念同士での会話も本来なら禁じられている。だがどうしようもないのだ、此方の思考はあちらに駄々漏れでグリンデルバルドはそれに乗っかって絶えず話し掛け続けてくる。この部屋に入って数時間、これでも耐えた方だと思う。

    呪いは非常に複雑で、マクーザの闇祓い達が今必死に解除の方法を探していた。下手を打てば正しく魂が離れずにどちらかが、或いは二人共が死亡してしまう可能性もある。

    このタイミングでニュートが死ぬことも、グリンデルバルドが死ぬこともマクーザに取っては余り芳しい状況ではないだろう。だから彼らも必死なのだ。

    当初はニュートとグリンデルバルドは別室で待機させられる筈だったのだが、対象者同士の距離が離れると著しく気分が悪くなる為(扉一枚隔てるだけで吐き気がした)、止むを得ず一室を結界で区切るという応急措置が取られている。室内のみならず部屋全体を結界が何重にも覆っており、許可のない者は出る事も入る事も出来ない仕様になっていた。無論ニュートも許可なしに部屋の外へ出る事は出来ない。

    どうしてこんなことに、幾度となく脳内で零した嘆きを再度浮かべる。溜め息のカウントがまた一つ増えた。

    ティナに乞われ殆ど成り行きでオブスキュラスと同化してしまった青年、クリーデンスを救う為偶然あの場に居合わせたが、本来ならこの件と自分は無関係の筈だ。酷いとばっちりもあったものだと文句の一つも垂れたくなる。

    「偶然?無関係?本当にそう思っているのか?」
    「話し掛けるな」
    「未だに蚊帳の外に居るつもりならば、随分と楽観的なことだな。それとも、魔法生物以外に興味がないだけか?」

    黙らせることを諦め、ニュートはベッドに体を投げ出した。何も考えたくない。だというのに脳内には絶え間なく言葉が捻じ込まれてきて酷く不愉快だった。

    「あそこであの結末を迎えるのは全て決まっていた事だ」
    「お前が捕まることまで計画の内か?」
    「そうとも」
    「それはそれは、素晴らしい計画だ」

    ごろりと寝返りを打ち目を閉じる。暗闇の中だと更に脳内に響く言葉がくっきりと輪郭を明らかにしたが目を開け続けているのも億劫だった。

    どうせ目を開けていても視界に映るのは閉塞的な空間だけだ。それならば無限に続く暗闇を眺めていた方が幾分か窮屈さも紛れる気がする。

    「全て私の筋書き通り。多少の計算違いはあったが、まあ誤差の内だろう。どうだ、これを聞いて闇祓いの奴らへ報告するか?」
    「報告したとして、お前の言う筋書に影響があるのか?」
    「然したる障害ではないな」
    「ならしない」
    「ほう、何故?」
    「人同士の諍いに興味はない。お前が魔法生物を悪用するというのなら、話は別だが」

    ニュートが返答を脳内に浮かべた途端、大きな笑い声が頭に響いてきて思わず顔を顰めた。余りに反響して煩いものだから、眩暈と共に頭痛すらする。自分と自分以外の意識が混ざって気分が悪かった。

    「そうか、ダンブルドアがきみに目を掛ける理由が少し分かった。奴は恐れているんだ、きみのことを」

    脳裏に優しげな微笑みを浮かべた男性教師の顔が浮かんで消える。ニュートを理解しようとし、退学処置に唯一反対してくれた恩師。ニュートが尊敬する数少ない存在の内の一人。

    「先生は僕をそんな風には思わない」

    意識と記憶がこんがらがって、思わず先生という呼称を久方ぶりに使った。今は学者という立ち位置から自分がそう呼ばれることもあるが、ニュートがそう呼ぶ人物はこの先もずっと彼だけだろう。

    「どうかな、奴も人だ。人が人である限り恐れは必ず付きまとう。奴が恐れているのは、きみが人を見限る事だ。今はまだそちら側に居るが、条件が揃えばきみは容易くこちら側へ来る。自分の意思で、境界線を踏み越えて」
    「僕はそちら側には行かない。絶対に」

    会話を禁じられていたことも忘れ、ニュートは堅い口調で否定した。鼓動がやけに早くなり、苦しくなって大きく息を吸い込んでは吐き出す。これは呪いの影響なのだろうか、それともグリンデルバルドが何か仕掛けてきているのか。

    魔法結界を隔てた自分に、杖も詠唱もなく?

    そんなことが可能なのだろうか。分からない、自分が置かれている状況も、体の不調の原因も。

    「絶対などと軽々しく口にするものではないよ、スキャマンダーの。きみのその確信はいつ崩れてもおかしくない砂の塔の上にある」
    「違う、ちがう…」

    ニュートの深層を容赦なく暴き立てる声音はいつしか甘い猫なで声に変わり、ニュートの思考を緩やかに溶かしていく。高熱を出して寝込んだ時のように、思考全体がぼんやりと鈍麻していた。

    「違わない、何も。私には分かる。きみの心はとても澄んでいて綺麗だ、お陰で奥底までよく見渡せる。きみが何を恐れ、何を欲しがっているのかも」
    「見るな……さわらないで、…やめてくれ」

    闇が恐ろしい。だが上下の瞼が張り付いてしまったかのように開けられない。自分の体の自由が利かなかった。汗ばんでいるのに薄ら寒い。反射的に抱き込んだ自分の肩が震えているのが分かった。

    グリンデルバルドもニュートの異常に気付いたのか少し思案するような間を置いてニュートを追い詰める事を止める。

    「少し深くまで繋げ過ぎたか。他人とここまで長く繋がるのは初めてだろう、スキャマンダーの。私の魔力ときみの体の相性が良くなかったようだな」

    最早答える余裕もなくぐったりと身を投げ出すニュートの頬に、ひやりとした掌の感触が触れる。熱を持った頬にその冷たさは心地良かった。掌は顔の輪郭をなぞるように頬を滑って行き、シャツのボタンを緩めて首に直接触れる。

    「ここできみを壊してしまうのは勿体ない。印をつけよう、誰にも見えない場所がいい。いつかきみが人を見限り、世界に愛想を尽かせた時すぐに分かるように」

    ぐっと肩を押され、内側に丸めていた体を仰向けに転がされた。僅かに呼吸がしやすくなり、酸素を取り込む為に開けた口を何かが覆い呼吸を奪う。息苦しくなり自分の上に伸し掛かるものを押し退けようとするがびくともしなかった。

    口の中に生温い柔らかなものが入ってきて口内をぞろりと蠢く。嫌悪感から顔を背けると唇を覆っていたものが一度離れ、強い力で顎を掴まれて再度塞がれた。

    口腔を蹂躙するものへ体内の酸素と共に、何か違うものも明け渡しているような気になる。同時に得体の知れないものが入ってきている感じもした。

    「……っ、は」

    漸く口が解放されて、ニュートはたどたどしく新鮮な酸素を肺に送り込む。麻酔でも打たれたかのように全ての感覚が遠かった。

    上下が張り付いて開かなかった瞼が僅かに開く。薄らと眼前に誰かが居るのが分かったが、やけにぼやけてピントが合わない。ただ何となく、その人影の視線が自分に注がれているのだけは分かった。

    「私はいつでもきみを歓迎する。また近い未来に会い見えよう、それまでおやすみ……ニュート」

    囁かれる声は酷く甘く、酷く優しく、何とかぎりぎりのところで意識の端にしがみ付いていた指を一本ずつ剥がしていき、ニュートの意識は成す術なく眠りへと沈んでいった。


    「ニュート」


    はっと意識を現在へと引き戻す。足元へ落としていた視線を上げると、眼前に立つ女性が気遣わしげにニュートの顔を覗き込んでいた。

    「もう体は平気?」
    「ああ、ごめん。ちょっとぼーっとしてただけ、大丈夫だよティナ」

    出港を直前に控えた船の前で、ニュートはいつものトランクを片手に見送りに来たティナに向かって微笑んだ。

    あの後、呪いは呆気なく感じる程簡単に解かれたがニュートは原因不明の熱を出して数日間寝込んだ。グリンデルバルドの呪いと直接の関係があるかまでは分からなかったが、大事を取って熱が引くまでの間はアメリカに留まることを許され事情を知る病院の個室でマクーザ職員であるティナの看病の元養生していた。

    熱もすっかり引いた退院の日、グリンデルバルドは何事もなく護送されたとティナから事の顛末を聞いたニュートは安堵する反面少しだけ落ち着かない気分になった。

    あの日、結界で区切られた部屋に入ってからの記憶がニュートにはない。一生に一度あるかないかの、忘れようにも忘れられない体験だった筈なのだが熱のせいか全体的にあやふやで上手く思い出せなかった。

    何かの拍子に重大な情報をニュートが得てしまったが為にオブリビエイトされたのかもと考えたがグリンデルバルドとは結界を隔てていたし、他に呪いの類を受けていないか精密な検査もして異常なしと判断されたのだ。グリンデルバルドがニュートに何かをする隙はなかったように思う。

    ――その筈だ。

    どうにも釈然としないのは、相手があの最強の闇の魔術師と謳われたグリンデルバルドだからだろうか。

    長く一緒に居た為か名残惜しかったがティナに別れを告げイギリスへ渡る船に乗りこむ。ニュートを乗せると船は間もなく舷梯を引き上げ、ゆっくりと港を離れ海の上を移動し始めた。

    イギリスに着くまでまた長らく船に揺られていなければならない。気長に待とうとニュートは宛がわれた客室のベッドの縁へ腰掛けると読みかけだった魔法生物に関する本をトランクから取り出した。

    ブックマークを挟んだ頁の三行目から。その行為に何処か既知感を覚えたが本を読み進める内そんな違和感も薄れ、本の内容がスムーズに脳内へと流れ込んでくる。

    いつしか既知を感じたことすら忘れ、ニュートは読書に没頭していった。
    亮佑 Link Message Mute
    2022/11/12 11:59:36

    悪魔の筋書き

    pixivからの移設です
    #ファンタビ #グリニュー

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