イラストを魅せる。護る。究極のイラストSNS。

GALLERIA[ギャレリア]は創作活動を支援する豊富な機能を揃えた創作SNSです。

  • 1 / 1
    しおり
    1 / 1
    しおり
    江夏優は自覚が足りない江夏"エコー"優はオメガである。
    それはレインボー部隊に属し彼と面識のある者ならば周知の事実であり、そして然程気にすることでもないというのが自他に共通する認識であった。
    彼らに求められるものは課せられる任務を難なくこなす実力を有しているかどうか、その一点のみであり、エコーはオメガの身ながら大半がアルファを占める部隊でも何ら遜色なく生まれ持った能力をフルに活用し実績を残している。世間に未だ根強く蔓延する性差別も実力至上主義のレインボー部隊においては存在せず、性別という括りは男女の別も第二性においても些事に過ぎなかった。
    ――ただしそれは、任務を遂行する場合においての話だ。
    実戦さながらの過酷な訓練を終え、隊員らは体中にまとわりついた泥土や埃を洗い落とすため共同シャワールームに向かう。本日の訓練で得た改善点や互いの能力を更に活かすことの出来る作戦を各々言い合う声が男子更衣室内に忙しなく飛び交っていた。
    既にほぼ満員状態の更衣室の出入口の扉が開き、静かに男が入ってくる。戸口に一番近い場所にいたイェーガーが何気なしにそちらを見やり、入ってきた人物を認識すると同時に悲鳴に近い声を上げた。
    「ぅおッ……?!おい待て、エコー!入ってくるな!」
    イェーガーの叫び声で更衣室内の喧騒が静まり、その場の全員の視線が今し方入ってきた人物――エコーに集中する。反応は多様だったが彼が入ってきたことに驚いているのは全員に共通していた。
    入室するなり見咎められたエコーは不快そうに眉を顰め、じろりとイェーガーを一瞥する。
    「なんだよ。俺がシャワールーム使うのにどうしてお前の許可がいるんだ、イェーガー」
    イェーガーからだけでなく室内全体から余り歓迎されていない空気を感じたエコーがぐるりと室内を見渡すと、既に服を脱ぎ終えた隊員のいくらかが居心地悪そうに身動ぎした。
    「……エコー、お前には個室のシャワールームがあるだろ」
    更衣室から続くシャワールームの扉に手を掛けていたサッチャーが宥める口調で述べるとエコーは興味なさそうにああ、と相槌を打つ。
    「あそこ遠いし、狭いんだよ。こっち使った方が効率的だ」
    「だからってお前……」
    その場での押し問答が面倒になったのか、エコーはイェーガーを押し退け更衣室に入ってくる。
    「俺は気にしない。あんたらもそうしたらいい」
    それだけ言い捨てて他隊員同様汚れた服に手をかける。室内の誰かが息を飲む気配は静まり返った空気の中によく響いた。構わず顔の下半分を覆い隠しているマスクを無造作に引き下げようとしたエコーの手を、傍に居たリージョンが掴んで止めた。
    「待て待て、話を聞け。手間なのは分かる、分かるがそれでも個室を使え。これはお前さんのためでもあるし、俺たちのためでもあるんだ。身内が起こしたの処理なんて誰もしたくないんだよ」
    更衣室内の空気は戦場とはまた違った意味でひりついている。空気を読むという、日本人の大半に備わっている処世術を身に付けていないエコーにも伝わる程に。エコーは目元に皺を寄せて不満を顕にし、リージョンの手を乱雑に振り払った。
    「何故オメガであると言うだけで俺だけ不便を被らないといけないんだ」
    「だが必要な不便だ。縛られることで守られるものもある。お前さんの尊厳もそうだ」
    柔らかな語調を意識したリージョンの言葉に、彼はまた気だるげな溜め息を吐いた。
    「……個室がリフォームされたら考える」
    「俺からシックスに打診しておこう」
    間髪入れず述べたサッチャーの顔をおざなりに見やり、エコーは踵を返して更衣室を出て行った。足音が遠ざかっていき聞こえなくなると、漸く張り詰めていた室内の空気が弛緩する。時が止まったように固まっていた隊員らは安堵の溜め息と共に再び動き出した。
    「……ビビった」
    半分脱いだ中途半端な格好で硬直していたミュートの呟きに隣のスモークが同意を示す。
    「アイツ危なっかしいよなあ。俺たちが何とも思ってねえって本気で思っていやがる」
    確かに任務中であれば誰がオメガだとかアルファだとか、そんな些末なことを気にしている余裕はない。普段もかくあれと意識すれば、誘蛾灯に飛び入る蛾の如くオメガに惹かれるアルファの本能的欲求を押さえ付けることも容易ではある。
    しかしだからといって四六時中気を張っている訳にはいかない。戦場での環境が苛烈であるなら尚のこと、精神の緩急は身体の休息同様誰しもに必要なものだ。
    エコーは自分の生まれ持った第二性の影響力を軽視している。普段の周囲の反応から自分がオメガであることを周囲も意識していないと思っており、先程のように時折酷く無防備な真似をする。彼にとって自分がオメガであるという事実は興味の外にある有象無象の一つでしかないのだろう。
    だがアルファがオメガを意識せずにいること等不可能だ。遺伝子に染み付いた欲求は理性では抑えられない。故に皆アルファの群れの中に一人放り込まれた状態にあるオメガを、慎重に、細心の注意を払って、適切な距離を保とうとしている。
    そうでなければは避けられずとうの昔に起こってしまっているだろう。彼らの水面下の献身を知らずにいるのはエコー当人だけだ。
    江夏"エコー"優はオメガである。そしてその自覚が決定的に足りない。
    各国の精鋭を集めたレインボー部隊に属する隊員らは、そんな彼の無自覚で無防備な言動に振り回されている。
    亮佑 Link Message Mute
    2022/11/12 13:12:17

    江夏優は自覚が足りない

    pixivからの移設です
    #R6S

    more...
    Love ステキと思ったらハートを送ろう!ログイン不要です。ログインするとハートをカスタマイズできます。
    200 reply
    転載
    NG
    クレジット非表示
    NG
    商用利用
    NG
    改変
    NG
    ライセンス改変
    NG
    保存閲覧
    NG
    URLの共有
    OK
    模写・トレース
    NG
  • CONNECT この作品とコネクトしている作品