bathroom休みが合うと、どちらかの「二人でしたいこと」を出来る範囲で叶えるのが最近の流行りだ。前回はスカイダイビングに駆り出されて死ぬかと思ったけれど、彼はとても満足そうだったので、ヨシとした。…もう一度と乞われたら断る自信はある、多分。
今回は僕の希望を叶えてもらえる番、という訳で昼間から風呂に入っている。二人で。
「俺は気持ちよくてありがたいけど、雄牛ちゃんはこんなことしていいの?」
バスタブに脱力して浮かび、縁に首を預けて彼が言う。
「してみたかったんです」
恋人の髪を洗う、と言うのを。
「そなの。んじゃ遠慮なく」
楽しげに軽くのけぞり、目を閉じる彼は本当に猫のようだ。もっと撫でて、とねだってくる。撫でる代わりに指先に少し力を込め頭皮のマッサージも兼ねれば、んあーと色気のない鳴き声が聞こえて笑ってしまう。
「えー何コレきもちいーい…」
「寝ないで下さいね?」
「んあー…わかんにゃい…」
会話の間も、彼の髪と僕の指からしゃくしゃくと続く音はまるで、岸に打ち寄せる小波のようにバスルームに振り続ける。
泡を集め落とし、顔にかからないよう慎重に湯をかけてすすぐ。露わになった額は形がいいのに、普段は下ろした前髪で隠れて見えない。見えるのはこんな時と…
「…ッ」
「どしたの?」
連想してしまった行為に手を止めた僕を心配して、大きな目がくるりとこちらを見た。捉えた。
「シャワーと、手桶から掛けるのと、どちらがいいかなと思って」
「シャワー!」
ごまかせた、のだろうか。んー、と声に出して思案した彼は何も追求せず、にこやかに決断を下す。強めにしてね、と付け加えるのも忘れない。なるほど、強めのシャワーが好き、と。心の手帳に新しく書き込んで、僕は水が湯に変わるのを待つ。
「熱くないですか?」
「快適ー」
もう目を閉じている。飛沫がかかるのを防ぐのもあるだろうけど、半分以上は睡魔かな。語尾がだいぶ溶けている。シャワーをあてながら、人より大きな手をいっぱいに広げて彼の頭を揉んで、泡を洗い流してゆく。耳に入らないように、顔にかからないようにするにも、僕の大きな手は役に立った。
流し終え、軽くタオルドライをしてトリートメントを毛先に揉み込む。この人、普段そんなのあんまししない、と言っていたけれど、なかなかどうして傷みはない。正直羨ましい。
「少し待ってください、ね…?」
すうすうと寝息が聞こえてくる。あらら。本当に寝てしまったとは。病気ではなさそうだし、湯加減は適切だから、あと数分はこのままでいてもらっても問題ないだろう。
自然光で明るいバスルーム。
それを反射する水面。
揺らめきを映す、彼の、寝顔。
あらわになった額に、吸い寄せられるように唇を押し当てた。かわいい。愛しい。僕の。大切な人。
「流しますよ」
眠る彼に念のため声をかけ、お好みの強さで再び髪を流す。最後に、起きるまでキスをした。されるがままのあなたなんて、滅多にないから。
「雄牛ちゃんのえっち」
起きた彼は完全に獲物を見つけた猫の顔で目を細めて笑った。