Night,night,KINGクンタラの間抜けな王族を利用するのだと持ちかけてきた父の策を母と練り直し、父を、殺めた。のしかかっていた重い重い荷が消えてゆくような心地さえして、バラーはあおのいた。その姿が、悔恨に見えたのだろうか。新王を救った勇者になってしまった"クンタラの間抜けな王族"クマラ・ヴァルマは、手当を受けた後、ひょっこりと王の、バラーの寝室に姿を現した。
流れた血は引きずった跡を残し先刻までの無残さを鮮やかに残す。国母様もいらっしゃったとは、失礼しましたと間の悪い己を恥じ退室しようとするのを呼び止めたのはバラー本人だった。賊が、あなたをも狙うやもしれぬという見え透いた嘘と口実を目を白黒させて飲み込み、国賓を迎える部屋に、今、二人で、いる。
「ばっ、バラー殿…いえ、陛下はおケガは…」
「ない。あなたが守ってくれたゆえ」
す、と顔を寄せ、小声で話を合わせていただきたい、と囁かれれば、また目玉をむいてぎこちなく頷く。
「コッコンドモワタクシガオマモリモウシアゲル」
いや、マヒシュマティの獅子王には無用と存じますがとは、本心であろう。バラーと言えば、棒読みとはいえ守ってやろうと言われたのは人生で初めてで、思わず、目の前の落ち着きのない男を凝視してしまった。
「私を。守ると」
「あーいやその、武術では全く私はお役に立てませぬので、そうだなええと、あっ!」
閃いた!と今度は顔を輝かせる。忙しい男だ。周りにはこんなに表情を変える者などおらなんだ。
「どうぞ!」
何を思ったか、自らの膝を揃え、そこを手のひらでぽすぽすと叩く。なんの仕草であろうか。クンタラ特有の文化であろうか。
バラーの、余人では読めぬ表情の変化をあっさり読み解いたクマラは、ひざまくらでございます、と得意げに微笑んだ。名前のごとくそこを枕に体を横たえるのだという。
ああ、奴と母上がしていたアレか、と推測できたはいいが、この状況では己がバーフと同じ体勢を取る役だ。そんな、無防備な。
「今宵は大変でしたでしょう。ささ、どうぞ」
男の膝は硬いのでは、と至極真っ当な感想を持ったが、あまりに期待の眼差しで見つめられ、にこにこと笑ったままの男に毒気を抜かれて、バラーは飛躍的に素直にそこへ頭を預けた。温かいが、それほど心地が良い訳ではなさそうだ。
「では、失礼して」
ふわ、と髪に何かが触れた。そっと、撫でられている。何度も、何度も。これはもしかして、寝かしつけられているのでは。
しかしなぜかはねのける気にはならなくて、撫でさせるままにする。クマラの手が暖かいのは傷による熱であろうと思い至るが、いかんせんまぶたが重い。ひとつふたつ、大きく息をすると、バラーは深い眠りに入っていった。