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    【hrak腐/未来捏造】スタートライン【ホー常】 摩天楼の上。空に近く、されど遠く。師に抱えられて初めて空を飛んだあの日、彼と共に見た景色を眺めながら独り、息をついた。ゆるりと辺りを見回し、茜色から夕闇へと染まっていく空の上から街を一望する。同時にかさり、と音を立てながら鞄の中に一枚の書類を仕舞った。ホークス事務所のサイドキックとしての内定通知書を。
     これからは俺も、師が護り続けてきたこの美しい街の――護り手のひとつとなるのだ。ぐ、と拳を握り、決意を新たにそっと目を閉じる。耳に届くのは風の音。地上とはまた違った力強さと疾さを纏った風が全身を吹き抜けていくようで、其れが酷く心地良かった。
     このまま、空が完全なる闇に染まるまでの間、これからヒーローとして護っていくべきものを目に焼き付けておくのも悪くはないか。そうしてまたひとつ息をついた途端、背後から聞こえてきたのは、今となってはすっかりと聞き慣れた剛翼の羽音。

    「――…ホークス」
    「こんなとこでなーに黄昏てんの? 常闇くん」

     トン、と軽やかな音を立てて舞い降りた師は、当然のように隣に移動してくる。「ん?」とまるで幼子のように首を傾げながら問うてくる彼に、薄く笑うことで返した。

    「いえ、特に何がというわけではありませんが。無事に就職も決まりましたので、俺がこれから護っていくものを心に焼き付けたく」
    「常闇くんは相変わらず真面目だね。ま、そこがいいとこだけど。これからも頼りにしてるよ。漆黒ヒーローツクヨミ」
    「…御意!」

     短く答えて、再び街を眺める。風の音以外何もなく、静寂だけが流れていく空の上で、只二人。そうして空を染める色彩が消えてゆき、そこら中がすっかりと闇に染まった頃。ふと思い当たり、隣に立つ師へと問いを投げかける。

    「…処で、ホークスこそ何故此処に? パトロール途中だったというわけでもなさそうですが、何時もの夜間飛行でしたか? それにしては時間が何時もより早い」
    「うんまあ、ちょっとね。……それよりここ、懐かしいね。常闇くん、覚えてる? 俺が君を初めて夜間飛行に連れてったのもここだったよね」
    「ええ。記憶しています。貴方に抱えられて、風になったあの日を忘れたことはない」

     幾度の季節が巡ろうとも、忘却の彼方に消せるはずもない。
     「地面に縛りつけられる必要なんてない」そう告げた貴方の声も目も風にたなびく髪の毛も呼吸音も、全部、全部覚えている。きっとあの日から芽生え始めたのだと確信できる、師へと抱くこの感情も、何一つとして失われることなく、この内に在り続けているのだ。

    「もうあれから三年かぁ。月日が経つのは早いもんだね」
    「同感。光陰矢の如し、とはまさにこのことかと」
    「思い返すと、俺、常闇くんには驚かされてばっかりだったな。ホラ、最初のインターンの時に俺について来れてただけでもけっこう驚いたんだよ」

     あれもまた、記憶に新しい。体育祭指名で俺が選ばれたのは、鳥人であったことと一年A組の者であったことが理由の大半を占めていて、俺個人が評価されていたわけではなく、彼の第一志望ですらなかった。俺は伝書鳩ではない、と沸々とこみ上げる悔しさを糧に臨んだインターン、追いつき並び立つことこそ叶わずとも、その姿を見失わずにインターン初日を飾れたこと。その日の夜に、夜間飛行へと連れ立たされたのだった。

    「……で、それだけでも結構驚かされたんだけど。二回目のインターン、まあつい去年のことだけど、それでもっとびっくりさせられるとはね」
    「ッ、」
    「さあどれぐらい成長してるかなーと思ってわくわくしてたら、まさか成長に驚かされる前に愛の告白されるなんて、想像もしてなかった」
    「ホークス!」

     かつての思い出話から唐突に、流れるように丁度一年前に己が仕出かした其れに言及され、思わず語気を強めて師の名を呼ぶ。そんな俺の反応など意に介すこともなく、僅かな反応すら返さずに彼は続けた。

    「でもって、すぐに『返事は要りません、聞くつもりもない』だもんなぁ…驚くってレベルじゃなかったよ、ホント」
    「それ、は」
    「ねえ、今更だけどさ、あの時どこまで気がついてたの。…俺の演技、甘かったかね」
    「………いえ。貴方の振る舞いは、完璧だった。俺がどこまで理解していたか、と、その答えには窮します。あの頃の俺は、貴方の極秘任務について何も存じ上げず。予想すら、していなかった」

     ずんと肩を落とし、胸に降り積もる重いものをまとめて吐き出すように、一度深く息をつく。何も知らず、想像もせず、彼の背中だけを見ていた日々。だからこそ察せたこともあれば、全てが終わるまで察せぬままであったことも。師がかつて就いていた「極秘任務」に関しては、完全に後者だった。

    「本当に、何となし、としか言い様がない。貴方の背を追いかけるたび、モニター越しに貴方の活躍を目にするたび…貴方の表情に、いずこにか陰が見える気がして。其れが何故なのか、までは分からない。其れでも、何かしなければ、という焦燥に駆られました。何も、しなければ…貴方が、闇に溶けて、雲散してしまう気がした。只の予感、と切り捨ててしまうにはあまりにも確信めいた鮮明さでもって」

     何時か彼は闇に消えてしまう、という得体の知れない確信めいた予感。それが、俺の前からなのかこの世からなのかは当時の俺では察すことは叶わず。只々、如何にかして留めなければ、手を伸ばさなければと強く思った。だが風の如くに自由な気質を持つ彼のこと、生半可な方法では内側に指先の一本すら踏み込むことは許されないだろう。況してや正式なヒーローでもない、学生の一人でしかないこの身なれば、尚更。
     ならば、どうすればいい。何を、どうすれば師の心に届く。考えて考えて、結果導き出された答えはひどく陳腐なものだった。

    「それで、あの告白?」
    「…慙愧に堪えませんが、然り」

     経験も実力も足りない若造たる俺が示せる強さなど、其れしか持ち合わせていなかった。だが、俺は想いの強さが起こす奇跡を知っている。雄英に居る間、学友達が何度も見せてきた其れ。俺の全てを賭けようと決めてしまえば、何の迷いも無かった。


     『ホークス、好きです。俺は、貴方を愛している』

     『貴方に想い人が居ることは知っている。故に、返答は要りません。聞くつもりも更々無い』

     『只、知り、覚えていて欲しい。貴方を愛する人間が、貴方を大切に思い守りたいと思っている人間が此処に居るということを』

     『ですから、どうか』


     ――どうか、闇に消えないで欲しい。全身全霊で伝えた想いに、ホークスはどんな顔をしていたのだろうかと思いを馳せる。情けないことに、当時は彼の顔をまともに直視することができず、伝えるだけ伝えたら直ぐに逃げるように立ち去ってしまい。その後は互いに何も無かったかのように振る舞い続けていた。それで良かったのだ。同じ想いを返されぬことなど初めから承知の上で、其れでも少しでも、ホークスが抱える陰を切り払えるのならばと。何が彼の心に陰を落としているのかなど理解はできなかったけれど。
     全てでなくて構わない、ほんの一握りで良い。貴方の心が闇に染まりそうになった時に片隅に思い出す存在として、俺が、居ますと。譬え微力であろうとも、それでも、と。本当にそれだけであったのに、今頃になって漸く話題に出るなどとは予想もしていなかったのだ。
     なんとも言えない気まずさにちらりと隣を見遣れば、ホークスは感情を映さぬ瞳のまま、俯きがちに静かに口を開いた。

    「…これでもさ、極秘任務で動いてた身だし、絶対誰にも気づかれないようにって常に気ぃ張ってたんだ。なのに、常闇くんってば何か知ってるみたいな口ぶりで。どこで見抜かれたんだ、どこまで知ってるんだって、柄にもなく死ぬほど焦ったよ」

     エンデヴァーさんにもオールマイトにも気づかれなかったのに、よりにもよって君に。そう続けた声に、悲痛さが滲み出ているように聞こえたのは、気の所為などではないのだろう。

    「エンデヴァーさんにあんなひどい跡が残るような傷負わせたってことも、滅茶苦茶キツかったのに。常闇くんまで巻き込んじゃうのかって思ったら、全身の血が冷えてくみたいだった」
    「………」
    「最後まで君を巻き込まずに済んで、本当に良かった。心からそう思う」
    「…ホークス」

     どこまでも温かく、優しい風のような響きだった。喩えるならば、親が生まれたばかりの赤子に向ける、この世で一番愛おしいものに吹き込むかのような情感の篭った声音。射抜くようでいて何処か甘やかさと優しさを孕んだ瞳が、真っ直ぐに己を見つめている。
     反射的にどくん、と胸が高鳴る。この声と瞳は、今でもなお師に鷲掴みにされたままの心臓には少々悪い。頬にまで熱が上がった気がするが、この夜天の中では気づかれはすまい。落ち着け、落ち着け、と内心、己に言い聞かせる。落ち着いてどうにかなる感情ではないと、自覚はしているけれど。

    「常闇くん」
    「はい」
    「……まだ、間に合うかな」
    「…? 間に合う、とは、如何いう?」
    「君の中に、まだ、俺はいる?」
    「は」

     ざわり、と風が騒いだ気がした。今しがたホークスの声帯が紡いだ言葉の意味が、よく理解できない。じっと穴が空くほどに見つめられて、身動ぎさえ叶わずに呆然と師を見つめ返すことしか出来ず、無言を貫いていると、ホークスは焦れたように言葉を紡ぐ。

    「…今まで、色々…本当に色々あったけど、なんとか任務とか連合のこととか、全部カタつけられて。俺もやっとスパイじゃなくてただのヒーローとして生きられるようになった。禊が終わったとまでは思ってないけど…それでも」
    「………」
    「常闇くんの言ったとおり、あの時の俺は色々としんどかったし、闇に消えそう、ってのもあながち間違いじゃなかったかもね。その分、子供の頃からずっと憧れのヒーローだったエンデヴァーさんの存在に、活躍に、救われてた。
    …あの時の告白からして、こればっかりは確実に気がついてたんだろうから改めて言うけど。エンデヴァーさんには憧れてただけじゃない。お察しのとおり、ガチガチのガチな初恋だったよ」
    「…はい」
    「初恋、だった、んだ。本当にちょっと前まで、具体的には、一年前、までは」

     過去形であることを強調するように、更には具体的にと年月の区切りを付けて言葉を紡ぐ師を見つめる己の眼球が震えていることに、自覚はしても抑えることは出来なかった。己の中に在り続ける、どう足掻いても捨てることも消し去ることも出来なかった感情が、体の内側で暴れ出すような感覚を覚える。

    「…さっきも言ったけど、常闇くんがどこまで知ってるのかって、巻き込んでしまうのかと思ったらぞっとした。エンデヴァーさんを巻き込んだだけでも辛かったのに、君まで俺のせいで傷つける羽目になってしまったらと思うと、気が狂いそうだった。…君の存在が、自分で思ってたよりもずっと俺の中で大きくなってたことに、驚きもした。…好きだって言われて、脳が沸騰するかと思うぐらい、嬉しかった。君が俺を好きだってことを知ってて、覚えててほしいって、その言葉にどれだけ救われたことか」

     口を挟む隙すら与えず、ホークスはひたすらに語り続けた。一瞬たりとも視線を逸らすことなく、ひたすらに真っ直ぐに俺を見て。

    「最初、なんでここにいるのかって聞いたね。……サイドキックの皆から、ツクヨミがうちの事務所の内定取ったって、聞いたから。今なら伝えられるかと思って、探してた。…見つけられて、良かった」

     其処で師は一度言葉を切り、ぐしゃりと一度、己の髪を掻き混ぜた。それからゆっくりと息を吐き出して、佇まいを整え、みたび、口を開く。

    「遅くなって、ごめん。あの時事情があったとはいえ何も答えられないままでいて、ごめん。
     …常闇くん、好きだよ。俺が今、この世で一番愛しているのは、他の誰でもない、君だ。……もう一度、聞くよ。俺はまだ、君の中にいる?」

     都合のいい、夢でも見ているのかと思った。一年前までは確かにかのNo.1ヒーローへと向けられていた熱い視線が、今は俺に向けられている。蹌踉めきそうになる足を必死に保たせれば、身を打つ風の冷たさも、彼の真っ直ぐな声も、存在感すらあまりにも鮮明で、夢などではない、紛れもなく現実なのだと世界から訴えられている気がして、くらりと目眩がした。少しばかりの羞恥心と、溢れんばかりの歓喜に、今にも崩れ落ちてしまいそうだ。ほんの少しでも気を抜けば震えそうな声を、気合で保たせながら絞り出す。

    「…ホークス。其れは、少々…狡獪かと。俺の、諦めの悪さを……知らぬ貴方ではあるまいに」
    「いや、こればっかりは十割方本気で聞いてるよ。好きな子の気持ちを推し量ることはできても、正しく読み取るなんて俺にだって無理だもん」

     其の言葉通りというべきか、まるで暗闇に怯える幼子のように不安げな瞳とかち合った。諦めが悪い、と口にしたことから察しても良かろうに、明確な答えを聞けぬうちは確信出来ぬようだ。其の姿は、つい先程までの俺とまったく同じ緊張を宿しているようで。
     ……嗚呼、三年越しの想いが今、遂に通じ合ったのだ、と。漸く実感出来た気がして、心からの幸福に満ちた笑みを師へと向ける。
     焼け付くような胸の痛みも、根幹を揺さぶられるような激情も、噎せ返るような幸福も。全て貴方から覚えたもので、貴方以外の誰からも与えられることなどないのだと。其の確信の下に、師を真っ直ぐに見つめ返して口を開いた。

    「ホークス。――――」

     続く言葉は、風に流されていく。それでもすぐ隣に立つ師には確かに届いたようで、彼は喜色の滲んだ笑みを浮かべ、俺の体を抱き込んだ。両肩にかかる腕の力は強く、伝わってくる体温はひどく心地良く愛おしい。凪ぐ波のように、心が安らかさに満たされていく。
     きっと今この世の中で一番幸福な人間は間違いなく俺だろう。そんな自惚れた感情を抱きながら、そっと師の背中を抱き返した。


    【スタートラインの前日譚】

     今日はエンデヴァーさんとのチームアップ任務。空を見上げれば、雲ひとつない晴れ渡った青が広がっている。いつもの俺ならば、きっともっと、様々な感情に全身を絡め取られて、ぐちゃぐちゃになっているのだろうけれど。

    「……んじゃ、俺はこれで失礼しますねー。エンデヴァーさん、あとはお任せしちゃっていいです? 俺、福岡に帰りますんで」
    「ム。なんだ、もうか? 忙しないな。飯ぐらい食っていったらどうだ」
    「一緒にってことです?」

     少し前までの俺ならば、きっと複雑な思いを胸に秘めたまま、それでも少しでも近くにいたくて、どんな理由からであっても誘って貰えることが嬉しすぎて、迷わず頷いていただろうと思う。そうして自分の中にある感情が未だ断ち切れずに、埋み火のようにじりじりと燃え尽きることなくそこに「在る」ままであることを何度でも思い知らされて、何度でも自分を嫌いになる。ずっと、その繰り返しだった。だけど、もう。

    「そのお誘いはありがたいんですけど、早く向こうに戻りたいんで」
    「……その焦り方、また何か隠しているんじゃないだろうな」
    「ははは! 俺、信用ないですねー。別にそんなんじゃないですって」

     へらりと笑ってみせれば、エンデヴァーさんの眉間の皺が緩んだ気がした。まだ少し怪しんではいるけれど、少なくともかつてのような任務によって早期の帰省をと目論んでいるわけじゃないことは確かそうだと、安堵しているような、顔。すっかり表情ひとつで本心かそうじゃないかを見破られるようになってしまっているものだと、軽く苦笑いを零した。それだけ信頼してもらっている証拠かな、とただただ凪ぐ波のように穏やかな心境でいられている自分自身が、なんだか嬉しい。

     じっとエンデヴァーさんの顔を見つめる。思い出すのは、ほんの数日前に目にした光景だ。任務のためにと轟家まで飛んできた時、上空から確かにその光景が見えた。
     大きくて無骨な手のひらが、まるで怯えるように白い頬に伸ばされ、壊れ物を扱うように、そうっと優しく触れては緩く撫ぜる。その真白い頬の持ち主は、少しばかり呆れたような強い目をしていたけれど、仕方がない人だというかのように穏やかに笑ってその手を受け入れ、包み込むように己の手を重ねていた。泣きたくなるように優しい、情愛に満ちた夫婦の姿。それを目にした瞬間――本当に本当に、嬉しかったんだ。

     きっと少し前までの自分ならば、あんな二人の姿を前にしたら、ただただ張り裂けそうに痛む心を持て余すだけだっただろう
    鋭く突き刺すような痛みから逃れようと、周りに目を向けることもせず、目に映るすべてを拒絶するように空を舞うだけだったに違いない。
     だけど今は、よく晴れた春の日の凪いだ湖のように、穏やかな気持ちであの人を――奥さんを大切に慈しもうとしているエンデヴァーさんを見ていられる。悔しさでも悲しみでも絶望でもなんでもない、微笑ましいな、良かったな……と、素直にそう思いながら見ていられることが、どうしようもなく嬉しかった。

    「なんか勘違いされてるみたいですけど、俺が早く福岡に戻りたい理由なんてひとつですよ。俺、見ちゃったんで」
    「見た? 何をだ?」
    「奥さんと玄関前でイチャついてるエンデヴァーさん。奥さんに大切そうに触れてるアナタ見てたら、俺も大事な子抱きしめたくなってきちゃって! だから早く帰りたいってことです!」

     そう告げた途端に目の前の顔が一瞬硬直して、次の瞬間には思いっきり目が釣り上がった。それを目にした瞬間に思いっきり地面を蹴って飛び立つと、同時に周りを取り巻く気温が一気に上昇したのがわかる。ホークス貴様ァ! と怒鳴る声に向かって笑顔でひらひらと手を振り、その後は振り向くこともなくひたすらに飛んだ。
     目指すは、我が愛すべき福岡の街。最高速度で飛びながら、かつて小さな鴉から受けた愛の告白と、彼が我がホークス事務所へ就職を希望してくれた時のことを思い出して、ぽうと灯るような暖かさが胸に宿っていくのを感じた。あんなことがあって、その後だって散々なことに巻き込んだり、そもそも彼の告白を無かったことのように振る舞い続けてきたりと、彼に対してはとことんまで不誠実であった心当たりしかなさすぎて自分でも愕然としてしまうぐらいだ。なのに、それでも俺の元を選んでくれた。それが、気持ちはあの時から変わっていませんと訴えられているようで、柄にもなくそわそわとした気分になる。
     ……とはいえ、あの子から告白を受けてから今までの日々を思えば、まだ俺のことを好きでいてくれている保証なんてどこにもないだろうとも思う。職場体験にインターン、せっかくの経験を活かすならこのままウチで、と考えただけの可能性だって大いにある。
     ましてや、彼はあの告白について「返事は要らない、聞くつもりもない」そう言っていた。彼の口ぶりからして、当時の俺がエンデヴァーさんに憧れではなく本気の恋心を抱いていたことなんてとっくにバレていたのだろうから、俺への恋心なんて、伝えたあの時点でとっくに昇華してしまったかもしれない。もうとっくに、俺を好きだったことなんて過去の、僅かにほろ苦さの残る淡い夢のようなものに変わってしまっているかもしれない。……今の俺と、同じように。

    (ま、それでも、良か。諦めるって選択肢は、もう無かもんね)

     仮にそうだとしても、もう一度、今度は俺から恋に落とすつもりで臨んでやろうと心に決める。
     あの子が、あの子だけが、俺の心を動かして――どころか、すっかりと奪い取ってしまったのだから。十年以上しつこくしぶとく燻り続けて、ちっとも衰えやしなかったあのフレイムヒーローへの恋心を、たった一年足らずでいちヒーローとしての憧憬へと落ち着かせてしまったのだから。だから、彼には責任がある。

    「抱きしめに、行くよ。――常闇くん」

     願わくば、どうか。君の心に、まだ俺がいてくれますように。
    青藍 Link Message Mute
    2022/07/31 21:24:52

    【hrak腐/未来捏造】スタートライン【ホー常】

    人気作品アーカイブ入り (2022/08/01)

    ※pixivからの再掲です。初出:2018年12月20日

    未来捏造/常闇くん18歳(卒業前)、ホーさんのあれこれは全部解決済みな設定です。
    炎←ホー←常からのホー常がくっつくまでのお話。ふたりの口調がだいぶ迷子。
    2ページ目は追加分のホーさん視点のなにかです。

    常闇くんにホーさんを救って欲しかっただけのお話です。
    嫌なフラグなんて全部粉砕して幸せになってほしい。

    #ホー常
    #hrak腐

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