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    【やる夫派生/腐向け】微妙な19のお題:03【やらやる】【03. 理由なんていりませんただ好きなんです】





     俺にはとんでもなく好きな人が居たりする。どれくらい好きかって、人間とはこれほどに誰かを好きになれることがあったのかと思うほど。好きで好きで好きで好きで好きで好きで仕方なくて、それこそ気が狂うほど壊れるほどに。
     初めのきっかけは一目惚れ。高校の入学式、俺は新入生代表に選ばれ、壇上に立って挨拶をすることになった。原稿を片手に、柄にもなく緊張してドキドキしながら壇上に上がり。
    (そういえばこういう時って、一番奥の壁を見るようにすればあんま緊張せずにスムーズに話せるって聞いたな)
     なんて思い出して実行に移すことで、なんとか挨拶を終えて。よし、乗り切った! と、体育館中から聞こえる拍手の音に囲まれながら、ちらりと視線を下に向け、自分が戻るべき席を確認した、その瞬間。
     それはもう、文字通り「一瞬」だ。俺の左斜め後ろの席に座っていた、白い饅頭によく似た、無表情で拍手する男。たった一瞬、その姿を目に映しただけで、俺は恋に落ちてしまったのだ。
     一目惚れなんて二次元にしか存在しないものだと思っていたのに、仮に存在したとしても中身を知ってしまえばすぐさま幻滅する、その程度のものでしかないと思っていたのに。
     いざ経験してみればまったくもってそんなことはなく。幸いにも同じクラスになれたこともあり、知れば知るほど好きになって、言葉を交わせば交わすほど捕らわれていった。
     ああ、神様ありがとう。あんな可愛らしい子と同じ時代同じ星同じ人種に生まれて来れて、俺は本当に幸せ者です。

    「やる夫! 良かったら今日一緒に帰らないか!」
    「………いいけど」

     うんざり、といった様子で答えられるも、断られなかった! と思うと嬉しくて頬が緩む。
     やる夫の厭わしげな色を宿す目には気づいているけど、言葉では拒絶されていないのをいいことに知らないフリをしてやる夫の隣に立ち、歩調を合わせた。

    「思はずも まことあり得むや さ寝る夜の 夢にも妹が 見えざらなくに」
    「……えーと、何でいきなり万葉集?」
    「おっ、今のだけで万葉集って分かるんだ? 意外と博識だよなー。そういうとこときめくだろ。これがギャップ萌えってやつ? ほんと大好きです結婚してください!」
    「だが断る。それで何で万葉集なんだお?」

     告白兼プロポーズは華麗に一蹴され、いいからとっとと答えやがれとばかりにドスのきいた声で問いかけてくるその姿さえ愛おしい。
     ああ許されるのなら今すぐに抱きしめて頬擦りしたいあわよくば胸に抱き込んで頭に顔を埋めて思いっきり匂いを吸い込みながら眠りたい!!
     気を抜けば実行に移してしまいそうなぐらいに沸騰した頭を必死に宥めつつ、大きく息を吐き出してから、やる夫の問いに答える。

    「いやあ、他人が作った唄に自分の気持ちを重ねるってのはどうかと思ってたんだけどさ。この唄ばっかりはホント今の俺の気持ちそのまんまだよなーと思って」
    「…………」
    「『あなたを想わずにいるなんてことが、本当にできるものだろうか。寝る夜の夢にさえあなたが見えて仕方がないのに』…要するに俺の頭の中は寝ても覚めてもやる夫でいっぱいってことだろ!」
    「………………………………ああ、そう」

     満面の笑みではっきりとワンブレスで告げれば、呆れたようにたっぷりと沈黙されてからどうでもよさそうに呟かれる。
     ああ、ジーザス! そんな姿すら愛くるしいとか反則じゃあありませんかMy Honey! You're my dear! You're my all!

    「うっせえ誰がマイハニーだお。発音がやたら流暢なのが逆にイライラするわ。てかジーザスの使い方おかしくねーかお?」
    「え、今の声に出てた? ごめん、無意識だっただろ。あとジーザスの使い方おかしいのか? おk、後で調べとくだろ。教えてくれてありがとう愛してる!」
    「……おめーはほんといつもいつも人生楽しそうで羨ましいお、どんだけ(頭が)ハッピーなんだか」
    「そりゃあやる夫といられれば俺はいつだってハッピーだろ! ああ今日もやる夫が可愛くて人生が楽しいっ!!」
    「はいはい」

     眉一つ動かない(というか動かせないんだろうが)表情も、鬱陶しそうにそっぽ向く仕草も、後ろからでも見て取れるぽよんぽよんと弾む腹肉も。全部ぜんぶ、俺にとってはこの上なく可愛らしいものにしか映らない。
     見れば見るほど、今までの人生でモテ期が一度も無かったらしいのが信じられなくなる。こんな途方もなく愛らしくて、こんなに魅力に溢れた存在感を放つ子なんてそうそう居ないのに。

    「つーかさあ、おめーってなんでそんなにやる夫にこだわってんの?」
    「えっ」
    「お前に好かれる意味とか理由、やる夫にゃ全くわかんねーんだけど…やる夫のどこがそんなにいいってんだお?」

     ゲテモノ趣味かなんかとしか思えんけどお、とやる夫は続けた。……正直何を言ってるんだこいつ、と思う。

    「そんなん、やる夫が自分の魅力をわかってないだけだろ? 俺としちゃ、お前がなんでモテないのかさっぱりわかんねーもん。…あっ! でも、俺だけがやる夫の魅力に気付いてるって結構美味しいだろ! やべえちょっと興奮してきた!」

     言いながら改めて自覚して、興奮のあまり少し息が苦しくなってくる。誰も知らない、気がついていないやる夫の魅力を自分だけが知っている。それはなんという幸運だろうか?
     湯あたりを起こしたみたいに顔に熱が集まってきて、眩暈までしてきた。やばい、これは本当に嬉しい事実だ。

    「あの、興奮でも何でもして構わないんで、せめて外で、それも大声でそういうこと言うのやめていただけませんかね」
    「…アッハイ、ごめんなさい。嬉しいからって調子に乗りすぎました」

     皮肉げに、かつ馬鹿にしながらも哀れんでるみたいな目で真っ直ぐ見つめられながら咎められて、本気の怒りを感じて心から謝罪した。
     我ながら、さすがに今のは無かったなと反省。やる夫のこととなるとすぐにタガが外れてしまうのは、俺の悪い癖だ。いくら近づくことを許してもらえているとはいえ、この先嫌われないとは言い切れないのだから、もう少し冷静にならなくてはいけない。
     …さっきの冷たーい目にすらトキメいてしまったぐらいの恋心であるとはいえ、だ。

    「わかってくれればいいお。で、結局理由は何なんだお」
    「うーん……別に理由とかいらなくないか? ただ好きってだけじゃ駄目?」

     好きになったきっかけはと問われたなら、一目惚れだと淀みなく答えられるけれど。何故それほどまでに執着するようになったのかと問われれば、実を言うと自分でもよくわからない。
     邪険にされて、鬱陶しがられて、疑われもして、ぶん殴られたこともあったりして。たとえどんなに好きであっても、そこまでされたら普通なら諦めた方がいいのかなと思うのが普通だろうし、百年の恋も冷めてアタリマエ、ぐらいの状態なのかもしれない。
     だけどそれでも、諦められない。これほどの想いが自分の中に芽生えようとは、生まれてこのかた想像もしていなかった。理由なんて必要ない。ただ、どうしようもなく好きで好きで――愛しているのだ。誰よりも、何よりも、やる夫ただ一人を。どんなに言葉を尽くしても、なびく素振りを全く見せない頑なさすらいとおしくて、諦めようなんて気持ちが全く湧いてこないのだから、仕方ないだろう?
     心の底から言い切れる。誰に気持ち悪がられようと、たとえばやる夫本人にさえ否定され、拒絶されようとも。こんなにまで誰かを好きになれるのは、やる夫が最初で最後だと。

    「…別に、駄目だとか悪いとかは思わねーけどお。やる夫みてーな無表情の奴つかまえて可愛いとか言える意味がさっぱり理解できねーから」
    「? 無表情だからって、それが何だよ。お前の無表情なとこも含めて、文字通り頭のてっぺんから足のつま先まで丸ごと全部、俺は好きだよ」
    「…………」
    「無愛想に見えてほんとはめちゃくちゃ感情豊かなとこも、なんだかんだ言って俺がこうやって付き纏うの許してくれる優しいとこも、大好きだろ」

     やる夫は本人が言う通りいつも無表情で、だけど無感情というわけではないのはこれまでの付き合いでよく分かっている。いつも冷静に見えるのは、其れ即ち、周りを信用していないからだ。
     感情を上手く表に出せない自分を、本気で好きになるような奴なんているわけがないと。恋愛どころか、誰かと友情を築くことさえ諦念しているのだろうと思う。
     その不安や諦念感を払拭させて、ただ安心感や幸福感だけを与えてあげられたらいい。そして、やる夫にとっての最初で最後の恋人に、俺がなれたのならもっといい。そう心から願っている。
     何があろうと諦める気なんてさらさらない。本当の恋を知った男の子は強いのだ。

    「…別に、優しくなんかねーお」
    「そうか? 最初の頃、俺のこと印象づけようと思って色々やらかしちまったじゃん? 今思い返すとさ、嫌われても仕方ない行動だったかもって思うんだよな。なのに今、こうやって一緒にいるの許してくれてんだから、十分優しいと思うだろ」
    「…………」
    「やる夫は、優しいだろ」

     にっこりと微笑みながら言うと、無言で目を逸らされた。どこか気まずそうな、いたたまれなさそうな雰囲気で、ぽつりぽつりと呟く。

    「…そりゃまあ、確かにアレはねーだろって思ったし、最初はどういう嫌がらせだおって思ってたけど」
    「ハイ、その切は実に申し訳ありませんでした…」
    「いやもういいお。…えーと、表現方法がアレなだけであって、お前の気持ちが真剣だってのは、ちょっと前からわかってた、から。…本気で、やる夫んこと好きだって言ってくれてんだって、ちゃんとわかってんだお」

     思ってもみなかったやる夫の発言に、一瞬思考が停止した。足も止まり、呆然とやる夫を見つめるだけの人形みたいに立ち尽くすと、やる夫も一度足を止めて。

    「だから、…悪かったお」

     ぺこり、と軽く頭を下げられた。何について謝ってるのだろう、謝罪が必要になることなんてされた覚えないんだけど、むしろ俺の方があれこれ…と今までの思い出を引っ張り出すも、心当たりはひとつも浮かんでこなかった。

    「えと…何で謝んの? 謝られるようなことなんて、された覚えないだろ」
    「いや、本気だって気づくのに随分時間かかっちまって、適当にあしらったり殴ったりとか…ごめんなさい、だお」

     改めて丁寧に謝罪を告げられて、思わず全力で叫び出したい気分になった。
     ああもう、俺の好きな子はなんて可愛くて、なんて優しい子なんだろう。自分の人を見る目は間違っていなかったと、こんな子に出会えて本当に幸せだと、世界中の人間に自慢したい気分だ。

    「…いーやいや、さっきも言った通り、いくらなんでも嫌われても仕方ないやり方だったって自分でも思ってるから、気にしないでほしいだろ。それに、片想いって意外と楽しいからあんま苦じゃなかったし」
    「え」

     珍しく本気で驚いたのか、無表情は変わらないけど、やる夫の瞳孔が微かに揺らいだ。黒目がいつもよりも大きく見える。
     ああ、こんな顔も好きだなあ。また一つ、好きなところが増えた。出会ってから一年二ヶ月と一七日目、まだまだ新しい「やる夫」を見つけられるんだと、そう思うだけで嬉しくて仕方ない。
     ほら、これも一つの楽しみ方だろ? 片恋の、ってよりはむしろ側にいられる楽しさって言った方が近いかもしれないけど。

    「…片想いが楽しいって、それはやらない夫の頭がおかしいからじゃねーの?」
    「失礼な」

     ついさっきまでの殊勝な態度はどこへやら、いつも通りのやる夫に戻ってしまった。でも、それでいいと思う。つい一年前に自分がやらかしたことを思えば、そりゃあ嫌がらせ以外のなにものにも見えなかっただろうと反省する気持ちは、やる夫の罪悪感を慮ってのことなんかじゃない、俺自身の本心だから。やる夫にいつまでも気にされてしまっては、逆に辛い。

    「なんつーの? 片想いだって、意外と楽しいことも嬉しいことも沢山あるだろ」
    「…たとえば?」
    「んー、そうだな、たとえばさ? 少しでも長く、少しでも近くにってやる夫のことばっか考えてー、朝学校行って、やる夫の顔見れるだけで幸せだろ。おはようって言って、おはようって返して貰えたらもっと嬉しいし。今みたいに会話のキャッチボール続けられたらもー……最高だろキャー! 神様ありがとう! ビバ人生! 生まれて来て良かった☆ 父さん母さん俺を産んでくれてありがとう! ……って思うし」

     話しながら、本当にやる夫と出会ってからは毎日が楽しくて仕方なくて、幸せだなと改めて思う。
     毎日顔を見れるだけで嬉しくなって、話しかけて貰えるだけで一日中上機嫌になれたり。落とした消しゴムを拾ってもらったとか、肩についてたゴミを取ってくれたとか、そんな些細なことが舞い上がるぐらい嬉しかったり。こんな幸せって、他にない。

    「どんな小っさいことだって、お前が俺の日常に僅かでも関わってるって、そんだけでたまんなく幸せになれるだろ」
    「…そうなんかお」
    「うん、毎日すっげー楽しい」
    「じゃあ一生片想いでもいいんかお?」
    「んー…一生こうやって側にいるの許してくれるならそれでもいいけど、やっぱ俺のこと生涯の伴侶として選んでほしいだろ」
    「…わかったお。じゃあ、検討しとくわ」

     思いがけない返答に、再び一瞬思考が停止する。え、今なんとおっしゃいましたかMy Honey。

    「え、ちょ、ええ!? 待って待って待ってやる夫、何それ、それって期待していいの?」
    「前向きに検討するように善処しますお」
    「その言い方だと『いいえ』のフラグにしか聞こえないだろ! え、どっち? なあどっち!?」
    「ノーコメントですお」
    「あああああ今だけはその無表情が怖い! でもやっぱり可愛いしどうすればいいの大好きだろ愛してる!」
    「はいはい、ありがとうだお。…ところで、一つ言いたいんだけど」
    「うん、何々?」
    「お前のテンションの上下、さっきから見てると真剣に心配になってくるレベルだお? 躁鬱の気でもあんじゃねーの。一度健康診断行って診てもらえお、特に頭とか頭とか頭とか、……あとついでに血圧も」
    「えー。おいおい、知らないのか? お医者様でも草津の湯でも、惚れた病は治りゃせぬ…ってな」
    「なんで群馬県民でもないくせに草津節のまんまで言ってんだお」
    「そういうやる夫こそ、元は群馬県民謡の歌詞だって知ってるじゃん」

     こんなくだらない、色気の欠片もない会話だってやる夫となら楽しい。片想いでしかない現状でさえ、今お前は幸せなのかって聞かれたら、俺は迷わず首を縦に振ろう。
     今の会話だって、嫌味のように聞こえなくもないが「血圧も」ってことは、本気で心配してくれている気持ちもあるんだろう。そのことに気がつける自分を誇らしく思うし、ああ本当に俺の好きになった子は優しいなあ、なんて考えるだけで幸せな気分になれる。
     なんでもない、些細な日常を幸せだって思えること。全てが、やる夫のおかげ。だからもうしばらくは、片想いのままでもいいかなって思うんだ。

     ……「しばらく」はな?
    青藍 Link Message Mute
    2022/09/25 21:33:24

    【やる夫派生/腐向け】微妙な19のお題:03【やらやる】

    素直ヒートやらない夫×無表情やる夫設定のやらやる馴れ初め話(?)のような何かです。
    やらない夫は相変わらずやる夫が好きすぎて頭のネジが吹っ飛んでます。

    このお題見た瞬間、こんな話しか思いつかんかったんや!(;`・ω・´)

    やる夫視点はこちら(novel/4242167)になります。

    ※「微妙な19のお題」様(http://www.geocities.jp/hidari_no/fr.html)に挑戦中です。

    #やらやる  #やる夫腐向け
    お題なのでシリーズ扱いにしてありますが、続き物ではありません。

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