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    しおり
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    しおり
    花の香りとコーヒーと歩く度に俺の黒い尻尾と白銀の髪が揺れる。
    今日も今日とて暇を持て余した俺は、街を自由に散策していた。

    「今日はどこにいくかなー」

    なんの予定も考えず、気の赴くまま俺は歩を進める。
    適当に人の多そうな所で、背負ったリュートで引き語りをしても良いし、露天を冷やかし混じりに覗いても良い。
    グレインの楽器店によってラルゴと遊ぶのも楽しいだろうし、陰気なイェルドの顔を拝みに行って怒鳴られるのも、ありかもしれない。

    ……そういやいまだにイェルドが雇ってるっていう店員に会ったことねえな

    夕方にでも顔を出してみるかな、と俺は一応の予定として考えておく。
    ひょいひょいと人混みの間をすり抜けるように歩きながら、俺はコロシアムから少し離れ、王城やら貴族街、それに騎士団本部に近い所までくる。
    コロシアム周囲が荒くれ者や庶民的とすれば、この辺りは中流階級以上の市民向け、と言ったところか。
    あのあたりの雑多さや喧騒さに比べれば、落ち着いた雰囲気が流れていた。

    不揃いな石畳ではなく、きちんと整えられた白亜の石畳は昼の陽光に輝き、御者に操られた馬車が広い通りの真ん中を行きかっている。

    「さて、なんとなくここまで来たが……」

    周りを見て、自分の格好が随分浮いていると自覚する。
    腰の直刀に、更にナイフを二本も下げ、リュートを背負ったいかにも旅の芸人でございという風体の俺に対し、周りを歩く獣人達はみな上品な洋服に身を包んでいた。
    武器なんて何一つ身につけていなくても堂々と歩けるほど、このあたりの治安は良いのだろう。
    騎士団のお膝元もお膝元、時折甲冑姿の騎士たちが散見された。
    治安維持を通常業務とする第一騎士団や首都内での犯罪取り締まりを請け負う第七騎士団の面々だろう。

    ふと渋面を浮かべる団長の黒豹の顔を思い出し、俺はうへえと溜息をつく。
    話は意外と分かる人物ではあるのだが、根っこから真面目な彼を俺は少し苦手としてた。

    ……冗談、通じなさそうだもんな

    俺は再び適当に歩き出し、そんなことを思う。
    少し進めば華やかな店が連なり、様々な食べ物の香りが俺の鼻をついた。
    どうやらこの辺りは食事処が軒を連ねているらしい。
    もうすぐ昼時という時間もあって、多くの人で賑わっていた。

    「そーいや、腹がすいたな」

    俺は匂いに釣られて、通りをあっちへふらり、こっちへふらりと歩いて行く。
    そこでなにやら大きな行列が出来ている店を見つける。
    通りの端にあり、歓楽街との境目に立つ大きな酒場だった。
    夜は大人の社交場となりそうなそこは、今の時間は若い女性や妙齢のマダム達の憩いの場となっているようで、かしましい声が響いていた。

    「良さそうだけど、並ぶのはな……」

    俺は他の店を探そうと、くるりと振りかえって元来た道を戻ろうとする。

    「……ん?」

    その時、視界の端に小さな細い小道を見つける。
    俺はなんとなくそこに歩み寄って、少し顔を覗かせた。
    小道は隣の通りまでの抜け道のようになっており、道幅も狭く馬車がすれ違えないくらいだった。
    両側の建物に光が遮られ、人通りもない。
    薄暗いそこには独特の雰囲気が漂っていた。

    俺は、その小道の入り口からほど近くに立て看板が立っていることに気付く。

    興味を持った俺は、小道へと足を踏み入れ、その店の前に来る。
    『喫茶エディブルフラワー』と看板の掛けられた扉は開いているが、昼時というのに客の気配はない。

    「覗いてみっか」

    俺はいつも通り、能天気にひょいと顔を店に突っ込んだ。
    客席はがらんどうであったが床も壁も、掃除が行き届いていてとても綺麗だ。
    頭上では、シーリングライトファンが回転している。
    天上のライトはすこし薄暗いが、壁の要所に小さな照明がつけられ、木目が残る床や壁を照らし、落ちついた雰囲気を出していた。

    その上、テーブルの上には小さな花瓶が置かれ、テーブルごとに違う種類の花が活けられている。
    ふんわりと花の香りが漂い、いい気分を誘った。

    「すんませーん。誰かいませんかー」

    声をかけると、直ぐに奥の厨房らしき所から、花柄のエプロンをした猫の老婆が現れる。
    小さな丸眼鏡が、温和な表情をさらに丸くしていた。

    「おやおや、すみませんねえ」

    のんびりとした声でやってきた老猫は、俺を席まで案内してくれた。
    俺はカウンターでもいいと言ったのだが、一番奥のソファー席に座らされる。
    俺は装備を脇に置いて、年代物だがふっかりとクッションの効いたダークレッドのソファに腰掛けた。
    すべすべとした手触りが、高級感を出していて、手入れもしっかりされているのが分かった。

    「ゆっくりしていってねえ」

    柔和な笑みと共に老猫は、手製のメニューを手渡して、そう言った。
    俺は手元のメニューに目を落とし、とりあえずオリジナルコーヒーを頼み、用意してくれている間にじっくりと見ることにした。

    「……ああ、エディブルフラワーって、食用花のことだっけ」

    ふとメニューの写真に写っている料理のそばに添えられた花を見て、俺はそんな知識を思い出す。
    様々な種類のコーヒーに、花を使った多様な紅茶。
    食べ物は、軽食から腹に堪りそうなガッツりとしたメニューまで多く載っていた。

    「はい、お待ちどうさま。オリジナルコーヒーです」

    「ああ、どうも」

    店の名前に合ったかわいらしい花のワンポイントが入ったカップとソーサーをお盆に載せ、老猫はにこっりと笑いながら俺の前へと静かに置いてくれた。
    ふわりと立ちのぼる焙煎された豆の香りと、傍に添えられた蜂蜜の香り。

    「砂糖が良ければお持ちしますよ」

    俺は首を横に振り、やんわりと断る。
    透き通った黄金色の蜜を少しティースプーンですくい、真っ黒なコーヒーの中へと垂らす。
    スプーンを持ち上げた時に、蜜の中に覚えのある花の香りが俺の鼻をくすぐった。

    「……この蜂蜜……桜……?」

    「あら、お客さん。サクラを知ってるのねえ」

    「ああ、東の出身でね」

    聞けば、サクラの花の蜜だけをミツバチに集めさせた蜂蜜らしい。
    随分と高級なものをと思うが、知り合いから市場よりも安く卸して貰っていると老猫は答えた。
    俺は添えられたミルクは置いておき、カップを持ち上げて口に添える。

    「……うまい」

    口を通り鼻に抜ける豆の香りと苦み。
    酸味がほとんど感じられず、代わりに純粋な豆の旨さがしっかりと感じられ、俺は目を見開いた。
    その後に残る、ほんのりとした花の蜜の香りが、絶妙な後味を生む。

    「うふふ、久しぶりに褒められて、嬉しいわあ」

    俺は老猫を立たせたままは忍びなく、テーブルを挟んだソファを勧める。
    老猫はお言葉に甘えてと答えながら盆を置き、ゆっくりと腰を下ろした。

    「こんなお婆ちゃんで、ごめんなさいねえ。あと50若ければねえ」

    「いやいや、十分に魅力的だぜ」

    「あらやだ、お世辞を言われちゃったわ」

    ふんわりと花の様な笑顔を浮かべる老猫に、俺も微笑を返す。

    「でも、最後のお客さんが、こんなにハンサムな方で嬉しいわ」

    「……最後?」

    俺はコーヒーにミルクを加え、豆と花、そして新鮮な乳の香りを楽しんでいたが、老猫の言葉に眉を上げ、空になったカップをソーサーに戻した。

    「ええ、このお店、閉めようと思っていてねえ。もう私も歳で……ほら、こんな有様だから……」

    ぐるりと感慨深く見回しながら老猫は呟く。

    「……この店はずっと一人で?」

    「いいえ、主人と二人で……でも随分前に他界してしまって、その後は私一人で」

    「それは……」

    俺が言葉に詰まると、老猫はなんて事のないように笑顔を浮かべる。

    「いいのよう、すごく幸せそうな顔で私の前で逝ってしまったの。先に行って待ってるって言ってくれたわ」

    あの人と一緒でずっと幸せだったの、とのろけられてしまい、俺は苦笑した。

    「じゃあ、ここは思い出の店なんだな」

    「ええ……でも、こんな寂しい状態にしておくよりも、思い出に仕舞ってもいいのかもって思うようになったわ」

    色あせてしまった毛色の手を擦り合わせながら、老猫はくすりと笑う。

    「子供達も自立して他国で暮らしてるし、なんの当てもないけど……ここを売ったお金を教会に寄付して、孤児院で子供たちと過ごそうかと思ってるの」

    「……そうか」

    俺は、内心もったいないような気持が湧いてくるが、口を出すべきじゃないなと思い、それだけを口にした。
    その時、すっかり空腹が限界にきていた俺の腹が鳴る。

    「……おっと、これはレディの前で失礼を」

    俺が大仰に頭を下げれば、老猫は口元を押さえて、声を抑えながら笑った。

    「いいえ、若いんだもの。しっかり食べなきゃねえ。何か作りましょうか?」

    「じゃあ……この、季節のパスタとサンドイッチと、後はワインも貰っても?」

    「あら、お昼からお酒なんて……」

    老猫が驚いて、口元を盆で隠す。

    「せっかくの素敵な女性と出会いましたので、乾杯したくて」

    俺がきざっぽく笑ってウィンクすれば、老婆はきょとんとした後、笑いながら厨房へと入って行く。
    厨房の老猫は上機嫌な様子で、鼻歌を歌いながら、調理を始めた。




    パスタとワインのマリアージュを楽しんだ俺が店を出ると、入れ替わるようにスーツを着た犬の男が喫茶店にやってきた。

    「なんだよ、俺が最後じゃなくなっちまうじゃねえか」

    俺は少し面白くなかったので、足を店の方に戻す。
    一体全体、どこのどいつだと【耳】を澄ませると、思わぬ会話が聞こえてきた。

    「……ではこちらが契約書になります。店の証文の変更手続きが終わり次第、お伝えしますのでそれまでに退去の準備をお願いしますよ。おおよそ一週間くらいですので」

    「はい、分かりましたわ」

    男が出てくる足音がしたので、俺は魔法を使って店の屋根の上に隠れる。
    眼下で喫茶店の扉がからんとベルを鳴らし、すれ違った男が出てきた。
    男はそのまま歓楽街の方向へ向かって歩いて行く。

    「ふーん……銀行員かなんかかねえ」

    俺はそういうごちゃごちゃした利権関係には疎いため、何となく気になって後をつけてみることにした。
    どうせ暇だしな、と内心で呟きながら。

    男はそういうことには素人なのだろう。
    特に俺は尾行に気付かれることなく、男が入って行った建物を確認する。

    「……カジノ、ねえ」

    一旦通り過ぎ、俺は少し離れたの娼館の壁に寄り掛かって呟く。
    今、尾行した男が入って行った建物はいわゆる賭博場だった。
    つまり、あの店を買ったのはこの賭博場のオーナーと言うことになるのだろう。

    はてさて、と俺は悩みこむ。
    なんともきな臭い状態にはなったものの特に何か事件があったわけでもない。
    老猫によれば既に店の売却金のうちの一部が渡されており、さっき【耳】で聞いた金額も妥当な値段だ。

    正当な手段を踏んでいて、老猫も不満がないのであれば、俺が口を挟む余地はないな、と俺は思考を打ち切った。
    聞き覚えある足音が、聞こえてきたからだ。

    「……あれ? ユースさん」

    「よ、エヴァン」

    「なんていうか……珍しいところで会いましたね」

    エヴァンは周りの歓楽街を見回して、首をかしげる。

    「そ、俺、これから娼館で働くことにしたから」

    「え……えええええ!!」

    「嘘だ」

    「ちょ、なんですか! もう!」

    簡単に引っ掛かるエヴァンをからかい俺は、口端を持ち上げて笑う。
    エヴァンが怒り半分、呆れ半分で肩をいからせたり落としたりしていると、隣の黒い熊がすこし困ったように佇んでいた。
    大柄で、額に大きな傷があるのが特徴的だった。

    「そんで……あんたもエヴァンと同じ騎士なのか?」

    「あ、はい。レンゲ=レインフォードと言います。あなたがユースさん、ですか」

    「おうよ、俺が噂のユースでございってな」

    おどけて見せるが、はぁと生返事をするだけなので、俺は苦笑しながら騎士団って真面目な奴が多いんだなあと零す。

    「いや、当たり前ですから。みんな真面目じゃなきゃ騎士団なんてやっていけませんから」

    やれやれ、とエヴァンは首を横に振る。
    例外もいるにはいますが、とエヴァンの言葉を俺はしっかりと【耳】に記憶した。

    「それで、なんでこんな高級娼館やら高級ホテルが並ぶ歓楽街に、ユースさんがいるんですか?」

    そもそも店はまだ開く時間じゃないですよ、と言うエヴァンに、俺はどうしたもんかと頬を掻いた。

    「まあ、別にたまたま通りかかっただけなんだが……」

    と続けようとして、俺は大きな怒鳴り声が【耳】に届き、反射的に駆けだした。
    遅れて扉が力任せに開けられる音と、人が地面にたたきつけられる音。
    それを聞いて、エヴァンとレンゲも、遅れて俺の後に続く。

    「たく、しつこい鼠だな。何度来ても、金がねえなら諦めな!」

    腹部を抑え、息も絶え絶えと言った様子のグレーの鼠が通りの真ん中でうずくまっている。
    鼠を投げ捨てた大柄な牛は、唾を吐き捨て、扉を閉めた。
    俺はちらりとそれが先程通り過ぎた賭博場であることを確認して、鼠に声をかける。

    「よう、坊主。なんだ、カジノで素寒貧すかんぴんにでもなったか?」

    その小さな体躯を俺は引っ張り上げ、服の土を払ってやる。
    しかし、意識を失っていて、反応はない。

    駆けつけたエヴァンは何事かと目を開いていたが、直ぐに呪文を詠唱して鼠の怪我を癒す。
    レンゲの方は建物を睨み、今にも突入しかねない雰囲気だった。

    「待て待て、落ちつけ。とりあえずこっちの話を聞こうぜ」

    俺とエヴァンが宥め、レンゲも落ちついたのかこくりと頷いた。

    「とりあえず、どこか落ちつける場所へ……騎士団の本部が近いですし、そちらに行きましょう」

    白を基調とした壁紙が貼られた応接間。
    エヴァンが手続きやら何やらをしている間、俺とレンゲは鼠をここへ運びソファに寝かせた。
    緑色の皮張りで、よく誰かが寝ているのかすこしやつれた感もあるが、それは気にすることはないだろう。

    「しっかし、何があったんかねえ……」

    俺は成り行きで再び訪れた騎士団の詰め所に、落ちつきなくそわそわと尻尾を振る。
    どうにも堅苦しいここの空気感には、なじめる気がしなかった。
    【耳】を澄ませてみるが、特になにか変わった情報はない。

    エヴァンはあの賭博場についても調べてくると言ってたため、しばらくは戻ってこないだろう。
    つまり、しばらくレンゲと二人きりなわけなのだが、この真面目な騎士に俺はどう話しかけたらよいか頭を悩ませる。
    寡黙そうだが性格は大人しく真面目そうで、どうにも俺とは反対で、きっかけをつかめずにいた。

    「うぅ……」

    「お、気付いたか」

    レンゲとの会話を続ける自信のなかった俺は、これ幸いと鼠に近寄る。
    心配そうにレンゲも俺の後ろから覗きこんだ。

    「……え、と……ここは……?」

    上体をゆっくりと起こし、鼠は俺とレンゲの顔をみて首を傾げる。

    「ここはジークリア王国第二騎士団の詰め所。その応接室だ」

    レンゲがゆっくりと告げるが鼠は、急にはっとした顔になると部屋を飛び出ようとする。

    「おっ……とと」

    俺は逃がさないように咄嗟に首根っこを捕まえて、宙釣りにする。
    レンゲが非難気味な視線を投げてくるが、俺は不可抗力だと目で訴えた。

    「は、放せ! 俺は、何も悪くない!」

    「あー、いや。別にお前は捕まってるわけじゃ……」

    それでも暴れ続ける鼠に、俺は溜息混じりに手を放した。
    鼠は一度床に尻もちをついた後、また全力で扉へ向かい外に飛び出していった。

    「ユースさん、なんで手を放したんだ!」

    「……いやだって、放せってあいつが言ったじゃねえか」

    急に口調が変わって俺は少し驚くが、軽く肩をすくめてみせた。

    「怪我もまだ十分に治ったかも分からないのに!」

    「ちょ、ちょっ」

    激しく叱責され、流石に俺も少し身を引く、落ちつけとジェスチャーをするが憮然としたレンゲは、鼠を追いかけようと扉を開けた。

    「おまたせしまし……わぶへ!?」

    奇妙な悲鳴を上げてちょうど扉の前にいたエヴァンがレンゲの腹に跳ね飛ばされて尻もちをつく。
    レンゲは慌てて、謝りながらエヴァンを助け起こした。

    「び、びっくりしましたー……どうしたんですかレンゲさん? そんなに慌てて……」

    「鼠の少年が気がついたのだが……逃げ出してしまって……」

    「あー……」

    エヴァンは何かを察したように言葉を濁した。
    その反応にレンゲは疑問を覚えたのか、落ち着きを取り戻す。

    「えっとですね、ちょっと調べてみたんですが……」

    エヴァンは少し言いにくそうに、語り始めた。

    「実は……あの賭博場“から”被害届が出てたんです。あの少年に関して……」

    「ほほう」

    予想外の情報に、俺は片眉を上げた。

    「あの賭博場が近日、支店を出す予定だったらしいんですが、どうもそこの土地の売買をめぐって、あの少年とトラブルになっていたみたいですねえ」

    「……あの喫茶店か」

    俺の脳裏に、あの小さな老猫の笑顔が浮かんだ。

    「そうなんです。喫茶店の……あれ、なんでユースさんが知ってるんですか?」

    エヴァンの疑問に、俺は片目を閉じて、

    「わりい、俺、ちょい野暮用」

    「え、ユースさん?!」

    制止の声を背中に置き去りにして、俺は走りだした。



    【耳】に残る心音と呼吸音。
    俺は個人ごとに異なるそれを、全て認識して記憶している。

    「……あっちか」

    一度目を閉じ、目的の人物の音を広域の多種多様の音の中から拾い上げる。
    俺は一直線に向かうため、魔力を強く練り上げた。

    「『大いなる竜を縛る祖霊よ』」

    重力を反転させ、任意の方向に『落ちて』いく。
    建物の壁を走り、屋根を飛び越え、最短距離で到達したそこは、昼間訪れた喫茶店だった。

    「なんでですか……っ!!」

    俺が店の前に飛び降りた時、店の中から大きな声が響いた。

    床を叩く靴の音。
    ガチャリとドアが内側から開き、先程の鼠が飛び出してきた。
    俺を見ると睨みつけるように眉をしかめ、直ぐに大通りの方へと走って行ってしまった。

    「……やれやれ」

    俺は頭を掻きながら、店内へと足を踏み入れた。
    昼間とは、打って変わって沈んだ空気が店内に漂っていた。

    「よう、ばあさん。また、来たぜーい」

    「……あら! また来てくれたの」

    それでも老猫は俺を見れば直ぐに笑顔を浮かべる。

    「あんまりにもコーヒーが美味かったから、もう一回飲みたくてね」

    俺は昼と同じ席に座り、同じように装備を外して傍に置いた。

    「はいはい、ちょっと待っててねえ」

    厨房へと戻った老猫はしばらくしないうちに、またお盆にカップを乗せて戻ってきた。
    俺はそのまま、また向かえの席へと老猫を誘う。

    「……なあ、ばあちゃん。さっき、鼠の坊主が来てたけど、なんかあったのか?」

    「あら、聞かれちゃったのね……」

    伏し目がちに老猫は一度目を閉じる。
    そこには、深い悲しみと言うより、もっと複雑な感情が含まれている気がした。
    きっと、それを読み取るには、俺の生きた年月では足りないのだろう。

    「あの子……クロムは、孤児院の子でね。よく教会に行った時に話をしたりしていたの。……血のつながらない孫みたいなものかしら」

    優しい眼差しを浮かべ、老猫はふうと溜息をついた。

    「あの子は元々捨て子で、浮浪民としてこの街に辿りついて、物を盗んだりして暮らしていたそうなの。でも本当はすごく優しい子なのよ」

    「……それが、どうしてこの店を買った奴に、喧嘩をふっかけてるんだ?」

    「あらやだ、そこまで知っていたの」

    「まあ、いろいろあってね。騎士団にもコネがあるもんだから」

    そうなの、と老猫は一度言葉を切った。
    俺は待つ間に、蜂蜜をコーヒーに注ぐ。
    今度はバラの香りが俺の鼻腔を満たした。
    老猫はゆっくりと、思い出を語るように、しゃべり始めた。

    「……この店を手放そうかと思ったときにね。あの子はこの店を継ぎたいって言ってくれたの。ここの花の匂いが好きだからって……私はそれがとても嬉しかった」

    にっこりと笑う老猫の顔は、本当に嬉しそうだった。

    「でも、その頃、だんだんお客さんが減っていてね。このままあの子に継がせても、大変な苦労をさせるだけだと思ったの」

    笑顔をすこし陰らせて、老猫は俯いた。

    「それで、当初の目的通り、この店を売りに出したってことか」

    「……ええ、主人と二人で始めた時、なかなかお店は上手く行かなかった時期があったの。あの時の苦労は二人だったから乗り越えられたけれど……その苦労をあの子にかけたくない、そう思ったの」

    俺はコーヒーを飲み干し、かちりとソーサーに置く。

    「けれど、あいつは諦めなかった。……店の証文、取り戻しに行ったんだな」

    「……でも払ったお金の十倍を払うなら、と言われたみたいなの」

    なるほど、と俺はようやく事情を把握して納得する。
    さて、どうするか、と思案していて、俺は店の外に鳴る足音に気付いて、にやりと笑った。

    「そっか、なんか込み入った話を聞いちまって悪かったな」

    俺は代金をテーブルに置き、装備をつけ直して立ちあがった。

    「いいのよ。どうしようもないことだわ。こんなおばあちゃんのお話に付き合ってくれて、ありがとうねえ」

    俺は黙って首を横に振って微笑した。
    コーヒーの礼を言って、俺は店を出る。
    そして、外に立っていたレンゲの顔を見上げた。

    「よ。俺を追いかけてきたのか」

    「……エヴァンがここにいると、言っていたので」

    言葉少なだが、きっとあの鼠の事が気にかかっていたのだろう。
    強化魔法の残滓が見えることから、出来る範囲で全力で走ってきたのが分かった。

    「なんだよ、堅苦しいな。さっき怒鳴った時みたいに話してくれて良いんだぜ?」

    「……あれは、ちょっと……」

    恐縮したように顔を伏せるレンゲの肩を、俺はぽんと叩いた。

    「エヴァンに、大体の事情は聞いたんだろ。あと、今の会話も聞いてたろ?」

    「……えっ?」

    俺はレンゲの耳を指差し、にやりと笑う。

    「強化魔法、使えるんだろ?」

    「……流石、ですね。その通りです。お話を、盗み聞きしていました」

    本当に真面目だなあと俺は頭を掻く。
    聞かれて困るような会話をしてはいないし、騎士の職務上必要だと思ってやったことだろうに、と苦笑した。

    「ま、いいや。説明する手間が省けた」

    俺はレンゲの肩を掴み、ぐいと顔を寄せる。

    「そんじゃあ、ちょいと手を借りるぜ」

    何のことか全く分からないレンゲが首をかしげるが、俺はなにも言わずにその腕を引っ張った。



    「だから帰れって言ってんだろ! 騎士団に突き出されてえのか!」

    絢爛な建物の外、カジノの前で鼠は警備員の牛につままれ、放り出された所だった。
    再び尻を地面に打ち付けるが、鼠は引き下がらない。
    地面に頭を擦りつけるように押し付けて、頼み込む。

    「違う! 金なら用意する、だから店の証文をくれ!!」

    「はっ、寝言は寝て言え! どこにそんな金があるんだ!」

    その頭に唾を吐きかけ、牛は扉を閉めようとする。
    鼠は慌てて扉に手をかけ全身を使って締まるのを阻止した。

    「い、今はない……でも必ず払う! 頼むからっ!」

    懸命に抵抗するが、どう見ても牛と鼠では体格差がありすぎた。
    このままでは扉に挟まれて、ペラペラの鼠が出来かねない。

    「よっと、邪魔するぜー」

    全く空気の読まない俺の声に、牛が怪訝そうにこちらを見る。
    俺は肩をすくめて、

    「なんだよ。もう営業してるんだろ? こっちは客だぜ?」

    俺の言葉に、牛はしぶしぶ扉を開く。
    力尽きたように鼠はへたり込むが、俺とレンゲの顔を見て、また逃げようとする。
    しかし、今度はレンゲががっちりと捕まえ、三度目の逃走は失敗に終わった。

    「は、放せっ」

    「んー、いいのかー? 証文、取り返したいんだろー?」

    俺がにやりと笑うと、鼠は目を丸くして、俺を見遣る。

    「……いいから、ついて来い」

    俺は顎で先を促し、賭博場の奥へと歩いて行った。



    「……ほう……」

    「どうだ? 悪い話じゃねえだろ?」

    俺はここのオーナーを【耳】で見つけると、するりとガードをすり抜け、接触を図る。
    初め、急に現れた俺に周りのボディガード達が剣呑な空気を醸したが、後ろの鼠を見て、オーナーはいきり立ったガード達を下がらせてくれた。
    なかなか器のでかい男だな、と俺は目の前の豪華な装飾を身につけた獅子人を見つめた。
    そして、俺は考えていた交渉を持ちかける。
    案の定、オーナーは興味を示していた。
    しかし、レンゲは慌てた様子で、声を荒げた。

    「ユースさん! 馬鹿かあんたは!?」

    「そうか? 勝てば、証文が貰えるんだぜ?」

    俺があっけからんと言えば、周囲から失笑が漏れる。
    誰も、俺達が勝てるなどとは思っていないのだろう。

    「うむ。その条件であるならば、この証文、賭けてもいいだろう」

    獅子はにやりと笑いながら、証文を見せつける。
    それでも鼠の少年、クロムは不安と不信が入り混じった目で俺を見る。

    「けど、負けたら、あんちゃんが……!」

    「おう。『負けたら、俺は一切の権利をここのオーナーに移譲し、奴隷となる』」

    俺がもう一度繰り返すと、ついに周囲のガード達から笑い声が上がる。
    つまり、俺は自分の命と全財産を賭け、勝負を挑んだのだ。

    「いやー、しっかし、流石に器がでかいぜ。まさか本当に受けてくれるなんてな」

    「ふふ、しかし、そこまで賭けるのだ。勝つ自信はあるのだろう? 『精霊使いの闘士』には」

    「おっと、流石に俺の素性はばればれってわけだ。もちろん、勝ち目のない勝負はしない主義でね」

    俺の不遜な笑顔に、獅子も不敵に笑い返す。
    互いに感情は表に出さず、腹の探り合いをしているが、どうせどっちも真っ黒だろと俺は高をくくっていた。

    「よかろう。では……この証文と、君の全てを賭けて、勝負と行こうじゃないか」

    「全ては賽の神のみぞ知る、ってな」

    ぎらりと、俺と獅子の視線が互いを睨みつけように交錯した。

    勝負のルールは簡単。
    これから行う20回のポーカーに持ち金はコイン30枚。
    俺かクロムが勝てば、証文はこちらの物に。
    獅子ともう一人選ばれた狐のプレイヤーが勝てば、俺の全財産と俺の身柄は獅子の物となる。

    「いやはや、楽しみだよ。君は娼夫としての技量も一流だと、風の噂で聞いているからね……」

    「おう、御褒めにあずかり恐悦至極って奴だ。たっぷりご奉仕するぜ……俺に、勝てたらな?」

    「うむ、せっかくだ。次の支店の地下に、“そういう”店を経営してみるのも面白いかもしれないな」

    俺と獅子はいたって平常通りの顔で会話をするが、クロムは気が気じゃないと言った顔でそわそわとしている。
    狐の方もギャンブル慣れしているようで始終目を細めて微笑していた。

    「……それでは始めようか公平を期すために、カードを配るのはプレイヤーの中から親を決め、順に回していくとしよう」

    「おう、異存はねえ」

    こうして、俺の命賭けのゲームが始まった。



    「……チェック。フルハウス」

    俺は手札を公開し、すこし眉を動かすだけの獅子と微笑のままのキツネの表情をうかがう。
    二人から出てきたカードは、スリーカードとフラッシュ。
    俺はにやりと笑いながら、テーブルの中央にまとめられた賭け金をかっさらう。

    しかし、17ゲームを終えて、俺のコインは30。
    クロムが20枚、獅子46枚、狐24枚。

    俺はカードをまとめ、次の親である狐に渡した。
    どうも、と小さく礼を言いながら狐はカードをシャッフルしていく。

    その動きを眺め、俺は内心で溜息をついた。

    ……たく、どいつもこいつも詐欺師ばっかだな

    俺は何気ない風を装いながら、獅子に視線を向ける。
    魔法による不正が出来ないように、事前に全員が制約の魔法に同意しており、この場、このゲーム中に限り、俺達は誰一人魔法による介入が出来ない。
    だが、カードは自分たちで触れるのだ。
    シャッフルすると見せかけて、自分に都合の良いようにカードを操作することくらい、手先が器用なら容易い。
    どうやら獅子も狐も、カードを操作して自分が親の時に、ばれない程度に良い役が来るように操作しているらしかった。

    ……ま、それは俺もだけど

    次に俺は、目線を右に流す。
    そこには、眉をひそめ、必死に目を凝らしてカードを見つめるクロムの姿。

    緊張と、もはや残り3ゲームを残すのみとなった状況で自身のコインが一番少なく、内心が表情にありありと出ていた。
    やれやれと思いながら、俺は【耳】を澄ませる。
    俺の【精霊の耳】は魔法ではない。
    強化魔法でない、ただの超聴力で、俺は獅子と狐の鼓動を読み取る。

    ……また、獅子に勝たせる気だな

    最初の手札を見た獅子の鼓動が少しだけ高まるのを感じた俺はそう判断した。
    表情を隠していても、身体の内部までは完全にコントロールできない。
    俺は不利な状況でも、食らいつく。
    自身の運が、必ず勝つと信じて。



    18回目のゲームを終え、19回目。

    「フルハウスだ」

    獅子が表情を変えずに手札を並べた。
    俺は憮然としたまま、自分の手札を公開する。

    「……フォーカード」

    にやりと俺は笑う。
    どうやら、運はまだまだ俺の味方らしい。
    これでなんとかお膳立ては整った。
    ラストのゲームに入り、俺は35、クロムは16、獅子は50、狐は19。
    まだ、かろうじて勝ち目がある。
    なぜならこれはただのポーカーじゃなく、チーム戦だと言うこと。
    これが個人戦ならば、もはや獅子はこのゲームを捨ててもほぼ一位が確定している。
    けれどこれは、2vs2の闘いだ。
    ここで、わざと賭け金を釣り上げてクロムの残りコインを全て俺に集めるようにすれば、俺のコインは獅子を超えることが出来る。

    だから、獅子は必ずこの勝負に乗ってくる。

    ただし、親はクロム。
    俺は慎重に【耳】を澄ませながら、配られた5枚のカードを見る。
    キングのワンペア。
    初手としては悪くない。

    「……3枚ベットだ」

    俺は参加金として最初に出していた一枚の横に三枚重ねたコインを滑らせる。

    「コール」

    「コール」

    「こ、コール」

    狐、獅子、クロムもそれに同じくコインを差し出す。

    「……さて、運命がきまる時だな」

    ようやく、獅子の表情が変わった。
    獰猛な肉食獣はその欲望を隠さぬまま、ギラリと俺を睨みつける。
    もはや、勝ちを確信しているのだろう。

    「おいおい、ゲームはまだ終わっちゃいねえぜ?」

    「ふむ、少し、早漏すぎたかな?」

    「俺は、がっつかれるのも、嫌いじゃないけどな?」

    軽口を叩き合いながら、俺達はクロムにカードを交換してもらう。
    俺は三枚、獅子は一枚。
    狐とクロムは交換しなかった。

    俺はその三枚を無表情のままめくる。
    キングが更に1枚と6が2枚。
    フルハウスだ。
    カードで口元を隠し、少しだけ口の端を曲げた。

    しかし、獅子の余裕の表情を崩さない。

    「余裕だねえ……4枚ベットだ」

    「コール」

    「ふ……君が私の足元で喘ぐ姿を見るのが楽しみでね。レイズ、6枚だ」

    一瞬だけ下卑た笑みを見せ、直ぐに口元をカードで隠す獅子。
    しかし、その目は獣欲で燃えるように揺れていた。

    「……コール」

    クロムはもはや消えそうな小さな声で告げながら、コインを突き出す。

    「のやろう……コールだ」

    これでチェックに入ると思った矢先、狐が予想外の行動に出る。

    「レイズ、9枚」

    狐が残り全てのコインを賭けたのだ。

    「おいまて! それは……!」

    「なにか問題があるかね?」

    俺の抗議の声は獅子の言葉に封じられる。
    狐の残り枚数は19枚だった。
    俺はまだ賭けに乗れる。
    しかし、

    「クロムが、参加できねえだろ。それは……どうすんだ」

    19枚となると16枚しか手持ちのないクロムは降りる(ドロップ)するしかなくなる。
    そうすれば、残るのは俺と狐と獅子の三人だけ。
    分が、悪すぎる。

    「コール」

    しかし、クロムは手持ちのコインを全て出し、勝負に乗った。

    「おいおい、コインが足りんぞ」

    獅子はにやりと笑うが、クロムは先程までの緊張した顔はどこへやら、覚悟を決めた表情で懐に隠していただろう小さなナイフをテーブルに叩きつけた。

    「足りねえ分は、俺の命を賭ける。ユースのあんちゃんも賭けたんだ。俺も賭けねえと、割に合わねえだろ」

    「……ふん、面白い」

    そのナイフを手に取り、獅子は力任せにクロムの前に突き立てた。
    大きな金属音と共にテーブルが揺れ、積んでいたコインが崩れる。
    獅子は牙を剥き、どす黒い感情をむき出しにして、クロムを睨みつけた。

    「……目障りだったんだ。楽に逝けると思うなよ。そっちの狼は飼い犬にしてさんざん遊んでやるが……鼠風情など、裏通りに捨てられるのがお似合いだからな」

    「吼えるのはいいが、さっさとチェックしろよ、おっさん」

    クロムは生意気そうな顔を最大限生かし、獅子の睨みを跳ねのける。
    獅子はぎらぎらと殺意をにじませながら、席に戻った。
    狐はやはり表情を変えぬまま、手札を投げる。

    「ストレート」

    「……フルハウスだ」

    俺もカードを公開するが、獅子の余裕の表情は消えることはない。

    「ふん、こっちもフルハウスだ」

    並べられたカードは、エース3枚とジャック2枚。
    俺よりも、高い役だ。
    勝ち誇った顔で獅子は椅子の背もたれに体重を預け、舌舐めずりをする。
    ぱちりと指を鳴らせば、俺の背後にガードが立った。

    「さあて……たっぷり調教してやるから覚悟しとけよ、犬っころ……」

    「……おい、おっさん。俺がまだ残ってるだろうが」

    クロムは勿体ぶるようにゆっくりと、一枚ずつカードを並べた。
    並ぶのは、2が4枚とクイーンが1枚。
    フォーカードだった。

    「へん……俺を舐め腐ってるからだぜ。ざまあみろ」

    中指を立てながら、クロムは中央のコインを全てかき集める。
    これでクロムのコインが、獅子を上回った。

    「俺の勝ちだ。約束通り、証文は頂いていくぜ?」

    クロムは一転して強気な態度で、獅子の横に控えていたガードが持っていた証文を奪い取り、悠々と歩いていく。
    最初から、クロムはイカサマが出来ることを隠していた。
    完全にカモだと思わせておいて、最後の最後で出しぬくために。

    勝負の前に、事前に俺はクロムとこのシナリオを考え、組上げていたのだ。

    「んじゃ、そゆことでー」

    俺もしてやったりという顔で、腰を折り、くるりと踵を返した。
    しばらくして、【耳】に恐ろしい怒号が響いた。


    「もーっ、心配しましたよ!! ユースさん!!」

    外に出れば、開口一番にエヴァンが俺に非難を投げつける。
    クロムはまたも逃げようとしたのかレンゲに捕まっており、恨みがましく熊の顔を見上げていた。

    「なんなんですか! レンゲさんが慌てて戻ってきたかと思えば、命を賭けてカードゲームに挑んでるって! どういうことですか!!」

    「え、いや、だってカジノだしな……」

    賭博場で賭けごとをしても、普通じゃないか? と言えばピクリとエヴァンの肩が震える。
    わなわなとそのまま身体全体が揺れて、ついに爆発した。

    「ゲームしてた事じゃなくて、命を賭けてた事ですよーーー!!!」

    「だー、わかった。悪かった! だから落ちつけ!」

    「分かってませんよ! ユースさんは毎回毎回危ないことに首を突っ込んでーーー!! そもそも店舗の売買は合法な手続きであってですねえ!」

    くどくどと説教を始めるエヴァンに、取り合えず場所を変えようと俺は宥め、レンゲに目線で合図した。

    「なんでそう簡単に自分の命をぽんぽんと……」

    それでもぶつぶつと文句を言い続けるエヴァンの肩を押し、俺はわざと人目の付かなそうな路地に向かう。
    すでに夜となった時間、複雑化した歓楽街の裏通りには、遠くの喧騒が聞こえるだけで誰もいない場所がいくつもあった。

    「……さて、この辺でそろそろ良いだろ?」

    「何がですか!」

    「あ、いや、エヴァンに言ったわけじゃねえんだけど……」

    俺は苦笑しながら、頬を掻く。
    くるりと振りかえれば、ゆらりと暗がりの影から、先程までと同じ微笑を浮かべた狐が現れる。

    「やはり気付いていましたか……噂以上の様ですねえ」

    ねっとりとした声質に、エヴァンは顔をしかめ、クロムは嫌悪感を丸出しにする。
    エヴァンは仕方なさそうに、声をかけた。

    「……なんの用ですか? 今込み入っているんですけど!」

    「……用件……言う必要ありますかい?」

    「こいつが欲しいんだろ」

    俺はさっとクロムが大事そうに握っていた証文を、奪ってひらひらと見せる。
    クロムが暴れるがレンゲの力には敵わない。

    俺は周囲の音に注意を払いながら、レンゲと目を合わせた。
    こくりと頷き、レンゲはクロムから手を放し、腰から下げていた鉄の爪がついた手甲を握りこむ。
    クロムは慌てて逃げようとするが、背後にもあの賭博場にいたガード達が立ちふさがっていた。

    「素直に渡してくれるんなら、話は早いんですがねえ」

    「おう、こちとらこの紙切れ一枚手に入れるのにたま賭けたんだぜ? ……次は、てめえらが賭ける番だろ?」

    俺が挑発的に笑えば、狐もうっすらと目を開けて口を残虐に歪めた。

    「ああ……実に、実にその通りだ。遠慮は、要らないだろ」

    その言葉と同時、複数の地面を踏みきる音が重なる。
    俺は真っすぐ狐に向かって剣を抜きながら走り、レンゲは後ろのガード達に向かう。
    狭い場所での混戦なら、格闘術を使うレンゲの方が向いている。
    それに対して魔法を織り交ぜる俺は少し広い方に陣取った狐を相手にする方が向いていた。

    「あー! なんでこうなるんですかねえ!!」

    エヴァンは文句を言いながらも魔法を発動させる。
    相変わらずの精度と威力の支援魔法だ。
    俺とレンゲに守護が施され、更に自身とクロムに防御結界を張る。

    エヴァンもレンゲも、若いとは思っていたが、それでもきちんと騎士を名乗るだけはあって場数は踏んでいるな、と俺は感心した。
    判断に迷いが少ない。

    「『草原を走る祖霊よ』」

    俺は魔法で加速しながら、剣に風を纏わせる。
    狐の得物は黒塗りの剣。
    どう考えても、闇討ちに使いますと言わんばかりの代物だった。

    俺は【耳】を頼りに、見えにくいその刃をなんとか防ぐ。
    背後で上がるレンゲの咆哮とエヴァンの詠唱。
    どちらも、余裕は感じられない。

    ……俺がこいつをさっさと片付けねえとな

    俺はさらに重力魔法を使い、最速の動きで狐の背後に回り込む。

    「……っ!」

    短い吐息と共に振り下ろした剣が狐を捉えたはずだった。

    「ぐっ?!」

    俺は腕に痛みを感じ、さらに背後から振り抜かれる音を聞きつけて地面を転がって回避する。

    「にゃろう……影を操る魔法か……」

    「ちっ、勘のいいやつだ……」

    にょろりと影が立ちあがり、先端を高速で突き出してくる。
    俺はそれを回避しながら、魔法を放つ。
    と、見せかけて、

    「せいっ」

    剣を放り投げた。
    あらぬ方向に飛んでいく剣を見て、狐は哄笑した。

    「どこを狙っている!!」

    「ちゃんと狙ってるっつーの」

    俺は余裕の笑みを浮かべ、後ろに大きく跳躍する。

    「『大いなる竜を縛る祖霊よ』!」

    瞬間、狐を中心に強力な重力場が生まれ、狐の動きが鈍る。
    影を使いそこから逃れようとした時、その影を重力で引っ張られた俺の剣が地面に縫いとめた。

    「な、なにい!?」

    「『五行転化、力は流転。陰陽の理に従い、我が意を為せ』」

    俺の剣に込められた魔力が、俺の呪文に反応して影を支配していく。

    「『千変万化』!」

    影の支配が俺へと移り変わり、俺は狐自身の影をもって狐を縛り上げた。
    俺はひょいと動けなくなった狐に当て身を食らわせ、気絶させる。
    一丁上がりと、地面の剣を抜いて、俺が振り返ると、レンゲが最後のガードに顔面に蹴りを叩きこんだ所だった。

    「よっし、全部片付いたな」

    ぱんぱんと俺は手を払い、満足気に腰に手を当て、尻尾を大きく振った。

    「……片付いてませんよ!! どうするんですかこれー!?」

    「……え、騎士団に任せる気だけど」

    「そっちじゃないです!! この証文ですよ! 不当な賭けごとで奪ったなんて、直ぐにばれちゃいますよ!?」

    「あーそっち? 大丈夫大丈夫」

    俺が能天気に笑うと、エヴァンは頭を抱え、レンゲも不審そうに俺を見る。
    クロムはと言えば、取り返した証文を渡すまいと抱えこみ、さりとて俺達の実力を目の当たりにして逃げれず、思案している顔だった。

    「あいつらが、不正をしてれば、そもそも契約は無効になるだろ?」

    「……はい?」

    ぽかんとした顔でエヴァンが疑問符を浮かべるので、俺は思わず噴き出す。
    むうっとエヴァンの頬が膨れ、俺はすぐに謝るのだが、曲がったへそはなかなか戻りそうになかった。

    「えっとだな。そもそも、この店の店主が店を売ろうと思ったきっかけは客足の遠退きが原因だろ。でもって、それがなんで急に起きたかって話だ」

    俺は指を一本立てて、順に説明を始める。

    「カジノの連中は、あのあたりに新たに支店を建て、勢力を広げようと考えたわけで、一帯の建物の権利を買い占めてた。けれど、あの喫茶店だけは固定客やら口コミで、それなりに客足もあって、簡単には地上げできないと考えた」

    「……え、まさか」

    「そ、ネガティブキャンペーンって奴だな」

    俺は肩を回してストレッチしながら、倒れたガード達を見る。

    「近くに新しい店が出来たのも、ちょうどこいつらの追い風になっちまったんだろうな。こいつらの思い通り、店の客足は途絶え、長年の常連客すらいなくなってしまった」

    そのタイミングで、と言いながら、俺はもう一度剣を抜いた。

    「お前らは、あそこのばあさんに売却の話を持ちかけた!!」

    振り向き、首筋を狙っていた影の刃を俺は弾いた。
    金属を叩いたような音が響き、狙いの逸れた影は傍の壁に突き刺さる。

    「……全く、どこまでも目障りですえね、あなたは……」

    「そいつは、褒め言葉として受け取っておくぜ」

    ロープか何かで縛っておくべきだったかと、俺は後悔したが、おそらく簡単な拘束では、あの影を止められないだろう。
    厄介だなあ、と思うが手はいくらでもある。
    なぜならこっちは一人ではない。

    「レンゲ、前衛頼む。エヴァンは騎士団に連絡と、クロムのことよろしく」

    早口で指示を伝え、俺は魔力を練り上げていく。
    レンゲが狐に相対している間に、俺は呪文を紡ぐ。

    「『揺れ進む祖霊よ。汝を妨げるものを焼きつくす、白刃と化せ』」

    影と打ち合うレンゲの後ろから、俺は光の精霊を呼び出す。
    束ねられた光の奔流が、影を根こそぎ消し去っていった。

    「レンゲ、やっちまえー」

    俺の気のない掛け声に、レンゲは答え、狐の側頭部を蹴り飛ばし、完全に昏倒させた。
    そして、ようやく俺は落ちついて剣を鞘にしまった。

    「……と、言うわけで、騎士団の方の調査でも、あの賭博場のオーナーが店を買い取るために不正な行為を働いていた証言が集まり、あの契約は破棄となりました」

    「そっか、わざわざ言いに来てくれて、さんきゅーな」

    俺はコロシアムの控室で、試合の準備をしながら、エヴァンに感謝を述べる。
    ついでに頭を撫でたら、なぜか慌てて逃げられてしまった。

    「でも、これで良かったんですか? あの店の店主……ロザリーさんは、客足のなくなったお店を継がせたくなかったんでしょう?」

    エヴァンは何度か深呼吸をして、むうと俺を睨みながら口を尖らせた。

    「いくら根も葉もない噂だったとしても、一度流れてしまった悪評は簡単には消せませんよ?」

    何とかはしたいですが、こればっかりは、とエヴァンは頭を悩ませていた。

    「ま、なるようになるさ。無理なもんは無理だし、どうにもならんこともあるさ」

    俺は最後に珍しく大きなマントで身を隠したまま、ベンチから立ち上がった。
    そろそろ、俺の出番が近い。

    「折角だ、エヴァンも俺の試合、見ていかないか?」

    一応職務中なんですが、と言いながら、エヴァンは笑って親指を立てた。

    「もちろん! 見てきますよ! 視察の一環として!」

    「しょっけんらんよー」

    「ち、ちがいますよー」

    俺の小声に耳を振って、否定するエヴァン。
    俺は喉を鳴らして笑い、後ろ手にひらひらと振って、いつも通り血の匂いが染みついた石レンガの通路を抜け、舞台へ向かった。



    『さあさ、今日もやってきた! こんの憎い色男! 勝っても負けても派手な『精霊使い』のユースだああああああ!!!』

    俺はマントの前をしっかりと閉じ、フードも被って中央近くの待機線を踏んだ。

    『なんだなんだー! 今日は顔まで隠しての登場!! てめえ、観客の女性の溜息が聞こえねえのか、ふっざけんな!!』

    「いやー、モテるのは辛いっすなー」

    そう呟くが、ガッツの怒声と共に観客の大多数の男衆からの罵詈雑言、そして恨み声が雨あられと降りこんできた。

    『この憎いキザ野郎をぶっ飛ばしてくれ!! 俺達男の頼みの綱になるのは、この猪の戦士!! 『猪突猛進』マーティいいいいいいいい!!!』

    重装備の鎧に身を包み、肩に大きな戦斧せんぶを担いだ猪が、鼻息荒く俺を睨んでいる。
    ふむと、俺はちょうどいいや、と思いながら、内心で目の前の猪に謝っておくことにした。

    『その澄ました顔をぶっ潰せるのか! はたまたユースが憎らしく華麗に決めるのか!! 試合開始いいいい!!!』

    ゴングの音が響き、猪は低い姿勢のまま一気に地面を蹴った。
    俺はそれを立ったまま待ち構え、斧が俺の肩に触れる寸前、俺は身を翻す。

    マントが剥ぎ取られ、俺の姿が、日の光に晒される。

    『……って、なんじゃその格好はーーー!!!!!!』

    思わず、実況のガッツも絶叫する。
    それもそのはず、今の俺はまるで闘いとは無関係な格好、レストランなどで働くギャルソンの服装だった。
    黒い皮靴、きっちりと折り目のついた黒のスラックスにベルトも黒、腰には小さな赤い花柄が散っている白いエプロンが巻かれている。
    糊のきいた白いシャツの袖をまくり、赤いベストにはワンポイントで白いラインが入っていた。
    ネクタイはダークレッドの落ちついた色合いに小さな猫の刺繍が目を引くデザインで、ネクタイピンは金の長方形で表にはシックなチェック柄が彫りこまれている。
    その上、メタルフレームの伊達眼鏡までつけていた。

    そして、俺が持っているのは剣でもナイフでもない。

    右手にはガラスで出来た三角型のコーヒーサーバー、左手には陶器に花柄のカップとソーサー。
    俺はサーバーに入っているコーヒーを優雅に入れながら、風の魔法で浮かせると、今度はカップを開いた右手で持ち上げ、中身をゆっくりと飲み干す。

    誰もが唖然とする中、プルプルと猪の肩がふるえる。

    「いやー、実は、最近お気に入りの喫茶店があってな。通い詰めててたらウェイターに抜擢されちまってよう」

    俺はよく響く声で、のんびりと語り始める。
    ぶちりと何かが引きちぎれた音。

    「な、舐めんなあああああああああああああ」

    思ったよりも高い声に俺は少し驚きながら、ひょいと力一杯振るわれた斧をかわし、皮靴の底で足を引っ掛ける。
    ぶへ、と悲鳴を上げながら、転がる猪を尻目に俺はカップを空にする。

    ……そろそろか

    俺はカップとソーサーも風に浮かせ、怒声を上げる猪に徒手空拳で構える。
    振り上げる斧の間合いから素早く足をさばいて避け、ぶれた相手の重心に掌を当てる。

    「ほい」

    「ぐへえっ?!」

    面白いように猪は吹き飛び、地面に仰向けに転がった。

    「……ったく、ゆっくりコーヒーくらい飲ませろよ」

    「んのやろーーーーーー!!」

    俺が挑発すれば、面白いように頭に血を上らせ、猪は文字通りの猪突猛進。
    俺は強化魔法と風魔法、重力魔法の三重の加速で、一転して迎え撃つ。
    今まで受け身だった俺が急に向かってくるのに、猪が一瞬ひるむのが俺には分かった。
    俺は冷静に猪の目線に集中し、縛った白銀の髪をなびかせ、距離を詰める。
    猪は急には止まれない。

    俺は【耳】と勘で地面すれすれまで身を低くして横振りの一撃をかわすと、全力で一歩左足を踏み込む。
    同時に足首を捻って地面に踵を食い込ませ固定。
    足のひねりをそのまま腰のひねりに変えて増幅。
    体幹の筋肉と骨がその力をほぼ減衰なく肩に伝え、あとは、弾丸のように掌底を突き出す。
    腕の筋と筋膜が波打ち、残像を残すスピードで放たれた。

    『発勁』

    猪自身の勢いも相まって、俺の掌底は猪の胸に突き刺さる。
    胸当ての金属を凹ませ、肋骨の間に衝撃を流し込んだ。

    ぴたりと猪は足を止め、俺はゆっくりと一歩離れる。

    肺と心臓に流し込まれた衝撃が弾け、猪は息をつまらせ、ゆっくりと胸を抑えて倒れた。
    あまりの衝撃に心臓マヒを起こしているようで、俺は世話のかかるなと、溜息混じりでぞんざいに胸を踵で踏み抜く。
    再度の衝撃に猪の心臓が復帰するのを【耳】で聞き届け、俺は拳を上げた。

    『くそが! かっこつけやがってふざけんな! ちくしょう!! 勝者、ユーーーース!!!』

    歓声とも怒号ともつかない観客の声を聞きながら、俺は大きく頭を下げて一礼し、踵を返した。



    「なんなんですか……」

    もはや突っ込む気力の無くなったエヴァンを見つけ、俺はくるりとその場で一回転して見せる。
    そして、片手の指で眼鏡の位置を直しつつ、

    「似合ってるだろ?」

    微笑しながらエヴァンの顔を覗き込む。

    「そういうことじゃないですけど……まあ、似合ってますけども……」

    「喫茶店の宣伝だよ、宣伝。客が来ねえなら呼べばいいって話だろ。だったら闘士の俺がやるのが、一番手っ取り早いってな」

    地道な声かけやらチラシ作りなんかも考えたが、目立つことに関しては一家言ある俺からすれば、これが一番効果的だろうと考えたのだ。

    「……なんでユースさんは、自分危険にさらしてまであんなことしたんですか?」

    「んー? ただのお節介だぜ」

    「それで自分の人権を賭けるなんて、頭おかしいですよ」

    俺は乾いた笑い声を上げて、縛った髪の先端を弄ぶ。
    うーんと少し思案してから、

    「まあ、折角のうまいコーヒーが飲めなくなるの、もったいねえなと思ってさ」

    後は成り行きだ、と適当にはぐらかした。

    「もしかして……目立ちたかっただけなのでは……?」

    「さて、どうでしょう?」

    俺とエヴァンは同時に吹き出して笑いあった。
    仕事が残っていると憂鬱そうに言うエヴァンと別れ、俺は待ち合わせの場所に向かうことにした。


    「よ、ばあさん。景気はどうだい?」

    俺は衣装の汚れや土を魔法で落とし、そのままの格好でエディブルフラワーにやってきた。
    少しさびしい空気だった店内には、何人かのお客の姿が見られ、厨房から料理や飲み物をお盆に載せたクロムがせわしなく動き回っていた。

    「あら、ユースちゃん。実は、クロムが頑張ってくれててねえ、ちょっとずつ昔の常連さんとかが戻ってきてくれてるんだよ」

    「そっか。そんじゃ、忙しそうだし、俺もちょいと手伝うかね」

    俺はすっと背筋を伸ばし、まずは、と周りを見回して、【耳】に聞こえる足音に気付く。
    そして、嫌な予感を覚えて、そちらに近寄った。
    するとちょうど厨房から足元を見ずに料理を運ぶクロムの姿。
    慌ていて転びそうになったクロムを、ひょいと支えた。

    「あ……ユースのあんちゃん。わ、わりい……」

    「早いのもいいが、せっかくの料理、台無しにすんなよ?」

    大きく頷き、次は少しゆっくりとした足運びで、クロムは注文された料理を運んでいく。
    生意気そうな顔立ちは変わらないが、明るい笑顔を浮かべたクロムは、ようやく年相応の少年らしさが見られた、

    「……さてと、俺もコーヒーでも淹れてくるかな」

    パンッと一度掌を叩き、俺は厨房へと続く、濃紺の暖簾を掻き分けた。
    忠犬 Link Message Mute
    2018/08/11 8:50:54

    花の香りとコーヒーと

    トラストルさん(https://twitter.com/Trustol)主催、ファンタズマコロッセウムの交流小説です。

    のりのりで書いたのにどうしてこうなった。

    エヴァンさん(https://twitter.com/Cait_Sith_king
    レンゲさん(https://twitter.com/dai66ot)お借りしてます。
    #ファンタズマコロッセウム #ファンコロ #ケモノ #獣人

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