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    Fractions#31_私の代わりにあなたが ゆっくり目が覚めると、しゃんとしてこない視覚よりも先に、匂いや肌に触れる寝具の感じが、ひとまず砦の自分の部屋にいることを教える。妙に明るいと感じた。朝の気配ではない。部屋を眺めわたして意識に引っかかる、応接椅子の背もたれごしに異国風の鮮やかな衣服の背中と後ろ頭。これは奇妙だ。なぜ、リオウが寝ている部屋にテラ・マクドールがいるのか。
     いや、寝ていたのではない。テラの後ろ姿は音から推して、本のページをめくった。
    「僕、どれくらい気を失ってましたか。」
     リオウの声に、初めてテラが振り返った。革張りの一人がけのソファの背もたれに腕をかけて、上半身を捻り、体をリオウの方に向けながら、一度後ろを振り返った。
    「二冊読み終わるくらいだ。」
     テーブルの上に、本が積んであるのだろう。
    「時鐘を聞いたな。二度ずつ四回。」
     それで、リオウは大体の見当がついた。今までで一番長くはないが、ちょっとくらっとしただけとはとても言えない。体の中の何かが尽きて、それを補うのに結構眠らなければいけなかった。どこが悪いのか、リオウは分からないし、医師のホウアンも知らない。ただ半璧の紋章が、宿主にタダでは力を使わせないと、今更に教えられただけだった。不完全な紋章は、使うたびに使用者の命を削る。知っていたならなぜ紋章を継いだ時に警告してくれなかったのかと、恨みがわかないでもないが、だが、戦場にあっては理不尽なほど強い「輝く盾の紋章」を、言ってみれば濫りに使ってきたのはリオウの意思である。その場に居ながらにして離れた部隊の負傷兵をたちどころに治癒することができるなんて、不条理な力が、代償を伴わないわけがなかった。
     こういう堂々巡りを、倒れて目覚めるたびにしているな、とリオウは思った。少し、同じところから始まって同じところに終わる思いなしに異なる刺激を加えるのは、テラの存在だった。リオウは死の気配にひやりと触れられたような感じを初めて覚えた。あの、始めから命のないもののような、底なしの暗い穴のような目が、リオウを見ていた。
    「具合はどうだい。」
    「……ふつう、です。」
     視線から逃げて、立派なベッドの天蓋を見つめる。べつに、具合が悪くなって意識を失うわけではないのだ。元気だと思っていたのに倒れてしまう。具合の良し悪しを聞かれても、なんの参考にもならない、良いと言ってしまってからまた倒れるかもしれない──という泣き言は、プライドにかけて引っ込めた。しかし空元気を使えないほどには、甘えている。
     テラは読み差しの本に栞を挟んで閉じ、椅子から立ち上がった。部屋の重い扉を半開きにして、おそらく門衛に、声をかけている。リオウが目を覚ますのを待っている人に伝えるためだ。シュウをはじめに軍の幹部たち、ホウアン医師、それにナナミ。
    「体調は〝普通〟だそうだ。」
     テラが伝令に伝えている。さっきのは、伝えるための補足情報として聞いただけで、彼の心から発した気遣いではない──そうだ、どうしてここにいるのがナナミじゃないんだ?
    「ナナミは……?」
     リオウは気の逸りが表に出ないように抑えながらベッドから起き上がった。テラは扉を閉めて、リオウの動作を観察するように視線を据えていた。
    「ていうか、なんでテラさんが。いつもなら、帰ってますよね。」
    「ナナミは、会議に出席している。」
    「は?」
     ナナミが気を失ったリオウのそばにいない理由が会議、とは、あり得ないことで、一瞬で理解ができなかった。
    「君が倒れて、皆忙しそうだったから、君の言う通り部外者は辞そうと思ったのだが、ナナミに止められたんだ。彼女は僕がこっそりいなくなろうとしている時に見つけるのがうまい。なんでも──」
     テラはふっと小さく息を落とした。
    「ハイランドに勝つ前に君が死んだらどうするか、会議で決めるらしい。そこに自分はいなければいけないから、代わりに君を見ていてくれ、と。」
     高所で足を滑らせるような、悪寒が背中を突き抜けた。
    「……な、なんですか、それ。」
    「慌てるな。ナナミの理解も正確じゃない。」
     リオウはぐっと奥歯を引き締めた。
    「君は新しい都市同盟を象徴としてまとめて引っ張ってきた存在だから、万一が起きた場合でも、結束を緩めないように──各都市に継戦の意志を確認する、くらいのことだ。ナナミは呼ばれていなかったようだが、それが彼女には余計不安に思えたんだろう。」
    「……僕が死ぬ前提の話?」
    「前提というより仮定だ。一般論として、強力な治癒の紋章の使い手がたまたま味方でもなければ、矢の一本で誰でも死ぬ。」
     新都市同盟という人の集まりは、求心力も、戦力的な意味でも、リオウ個人の資質に頼っている部分が大きい。それは、リオウ自身に自覚はなくても、幹部たちは理解しているし、だからこそ、リオウが原因もきっかけもなく突然倒れるような状態には、強い危機感を持っている。
     リオウは、自分が死んだらこの戦争はどうなるかなんて考えたことがなかった。ナナミは、そんな仮定は試みに考えてみるのもお断りだろう。会議の場で、暴れていないといいが。
    「そんな重大な議題を協議すると部外者に漏らすべきではないんだが……。聞いた上で僕がトランに帰ったら、それはそれで悶着を構えてしまうと思って、君の姉上の使命とするところを、恐れ多くも代行させて頂いたんだ。」
     テラは、部屋を戻って応接椅子を一脚、両腕で抱えてリオウのベッドのそばに置いた。それに座って、上半身を乗り出し気味に、膝の間で指を組み合わせる。ぴたりと注がれる眼差しは、リオウを落ち着かない気分にさせた。ただまっすぐ見つめるだけで、自分は意味のある存在だと人に思わせる一種の才覚について、シュウに教えられたことがあった。
    「喉渇かないかい。」
     気をつけろ、とも。
    「え? いえ、別に……。」
     リオウはずっと気をつけている。必要以上にテラを好ましく思わないように。リオウが起きてから喋りどおしのテラは飲み物が欲しかったのかもしれないと、目を逸らしてわざとらしく考えた。
    「なにか、して欲しいことは。」
     穏やかな声音とあの例の才覚が、幾本もの鉤縄のように引っかかってきて、振り払いたくても、心を引っ張られる。リオウは、国という後ろ盾もなしに、ただ自分が支柱となって、軍団を従えて、一国に戦いを挑んでいる。いくつもの犠牲の責任の行き着くところに、自分はいる。多くの、あまりにも多くの人がリオウを信じている。孤独は、ナナミたちが和らげてくれるとしても、いくらリオウが鈍くとも、その重さを感じない、などということはない。
     縋る相手が欲しくないかと言われたら。これまで生きてきて、いつも誰かに助けられてきた。自分一人だけの力で乗り越えてきたことなんて、何もないのだから。
    「……僕が、死んだら。……戦争、代わってください。」
     リオウが少し俯いて、少し微笑んでこぼした言葉に、テラは眉を顰めて口をへの字に曲げた。
    「なんで君が死んだ時の話になるんだ?」
    「え? でもして欲しいことって……。」
    「僕が聞いたのは、着替えたいとかりんご剥いてほしいとかそういうやつだよ。」
    「いや、風邪じゃないんですけど。熱もないし……。」
    リオウはないはずだ、と思って自分の手を額に当てた。熱はない。
    「『戦争代わってほしい』? 君が本当に本気なら死なないでも、今からでも代わってあげよう。でもそうしたいわけじゃないね、リオウ君。」
     テラはじわじわと半目になって憤っていた。リオウは急に君付けで呼ばれたので、そのせいばかりではないが、慌てた。
    「えっ、あ……それは、そうなんですけど。」
    「僕にやらせたら、誰それは敵だけど生き残って欲しい……等の注文は受け付けないからな。」
     話したことはないはずだが、知られているようだった。戦っているハイランドの現皇王がリオウの親友であること。そのジョウイが半璧の紋章の片割れを宿していて、すなわち、今この瞬間もリオウと同じように命を削り取られていること。リオウがこの戦いから手を引いたら、ジョウイの命運を誰かに預けてしまうことになるから、リオウは退けないことも。
     そう、退けない。譲れないのだ。
    「……ですよね。」
     結局、何もしてもらえないのだが、本気で降りたければいつでも代わってやる、とくれた言質が、釣り針のように一本、リオウの心を引っ掛けて、それはもうずっと取れなくなった。ただ、この瞬間には気づいていない。部屋の外が騒がしくなってきて、早足の幹部たちの先頭をナナミが突っ走ってくると、音で想像するのに心が忙しくなっていた。
    goban_a Link Message Mute
    2021/01/27 18:47:01

    Fractions#31_私の代わりにあなたが

    落書きクオリティだぶり
    ガバの紋章の呪いにかかっています(半端な真紋が命を削云々がどのタイミングだったか忘れちゃった)齟齬が合っても許す者の印plz
    ぼち…テラ
    にす…リオウ

    #二次創作 #幻想水滸伝 #Wリ

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