オンイベ中に小説書けるかなチャレンジ2 始めて人を殺したときのことを覚えている?
「ああ覚えてるぜ」剣柄を叩いて、腰に差しているのがその時とは別の剣だと剣本人から悪態をつかれてから、男は改めてにやりと笑う。しかしそれもちょっとのことで、手を顎に、頭を傾け、片眉をぎゅっと引き寄せて考え込む様子を見せる。
「しかし死んでる人間を斬ったのが、『殺した』ってことになるのかね?」
少なくとも彼にとっては「殺した」ことになるのだ。
始めて人を殺したときのことを覚えている?
「なんだ、藪から棒に……。」
不快そうにしかめっ面をする。不躾な質問だと感じたようだが、彼の逆鱗はぜんぜん違うところにあるので怒っているわけではない。男は軽くため息をついた。
「戦士が魔物しか斬れなくてどうする。いざってときにビビらないように、心構えは済ませとくもんさ。」
彼はこちらの反応を窺っている様子もある。
「確か13の時だ。……12だったか?」
始めて人を殺したときのことを覚えている?
「……。」
そう言われて、彼の脳裏によぎったのは、ナイフの柄に自分の体温が移って溶け合うようになっていた腕の先へ、刺した相手の血潮がなお熱く感じられたことだったが、それは彼の最初の経験ではなかった。彼は最初の記憶を、言ってみれば、忘れていたのだ。それが恐ろしく感じられた。
「あのときだろうな、とは思うけれど、必死で……よく、覚えていません。」
寒そうな顔色をしていた。
「僕は、たくさんの人を殺した……。
自分で手をくださなくても……。」
己の成してきたことに、彼は慄いている。
始めて人を殺したときのことを覚えている?
この問いは彼を当惑させた。なんでそんなことを聞かれるのか――聞かれなければいけないのか、と、少し憤ってさえいた。
「わかんないよ。夜中で、真っ暗だったし。逃げてたし、ぼくは武器がこれだから。」
といって、机の上に投げ出されてあるトンファーを指差して、目だけそこに留めた。
「『あ、今殺しちゃったな』なんて……そんなすぐに分かるようにならないよ。」
斜め下を見た。今の彼には、分かる。
始めて人を殺したときのことを覚えている?
「さあ。戦争のときじゃない?」
彼はそっぽを向いた。戦場では、魔法は、大人数でいちどきに唱えるものだ。そうでなくても離れたところから放つし、自分がとどめを刺したかどうか、で、自分が殺したかそうでないか変わってしまうなら、問題としては些末であると思う。
「これでも抑えてるんだよね。あっちの鍛え方がヤワなんじゃないの。」
彼は、そういうものだと思っている。
始めて人を殺したときのことを覚えている?
「……ああ。」
自分が人を殺したという行為の定義が、彼の場合は他の人より広い。
「最初は、分からなかったよ。最初っていうか、ほとんど100年ちかく。
事故とかだと思ってた。でも、あとから考えると、おれのせいなんだよ。
おれがいたせいだ。おれのせいで、みんな……。」
彼は右の手首をつかんで、深くうなだれた。
始めて人を殺したときのことを覚えている?
玉座の男は片ひじをついたままで愉悦の笑みを浮かべた。
「俺が斬ってきたのはすべて豚だ。」
始めて人を殺したときのことを覚えている?
「うーー……ん……。」
彼は記憶を丹念に掘り返してみた。たぶん、おそらく、名前も知らない海賊を斬ったのが初めての実戦だから、その時であろうが、本当にそうだろうか?
薪で誰かを強かに殴ってしまった……ということがなかっただろうか? なにぶん、あまりにも遠い過去だ。
「うーん……覚えてない。ごめん。」
謝ることはない。
始めて人を殺したときのことを覚えている?
「覚えているよ。」
すっと細められると、真っ黒な両目は眼差しが尖る。
「でも、どうしてそんなことを聞くんだい?」
私はまだ人を殺したことがないからだ、と答えた。
「嘘をおっしゃい。」
彼は私の答え方があまりにも適当なのを見ていた。
「あなたの過去を詮索するのではないけれども、人を傷つける経験は、かえって自分のことも傷つけるものだ。あまり軽々に尋ねることではない、し――」
彼は私に釣られるようにじわじわと笑顔になった。
「そんなに楽しそうにすることでもない。」
私は、ナタを腰の後ろから抜いた。