イラストを魅せる。護る。究極のイラストSNS。

GALLERIA[ギャレリア]は創作活動を支援する豊富な機能を揃えた創作SNSです。

  • 1 / 1
    しおり
    1 / 1
    しおり
    狐六方 空模様こそ嫁入りと言われて、葉隠れの空は青いというのに飴のようにぱらぱら、木立ちを樋に雨水は宙を歩いて、漫ろ歩いて、いつか地に落ちる。
     きつねの幼姫の足下へ、彼女を娶る婿君とつないだ手の上にも。
    「あ 」
     幼くして夫婦になった二人で揃って森を歩くのは、彼らの眷属と地神へのお披露目のためで、ふいに立ち止まった花嫁の後ろには長々続く従者の行列があり、つんのめったりぶつかるものあり、傘やら幟やら賑々と揺れた。
    「冷たい…」
     ぱっと離れたつなぎ手を覆う銀の毛並みに雫。若君は悪戯ものを掃ってやり、もとのように手をつなぎなおして、行列はふたたび賑々と、進み始めた。
     先頭をゆく露払いが妙なものを見たのはその後である。一人が花嫁に常侍る老女に耳打ちをして、行列の通り道の傍に家があることを告げた。
     人の入らない山である上、通り道が選ばれている。急に現れたのでもなければ、間違ったとて人家にぶつかる事などあろうはずもない。
     齢経て誰より物を知る嫗狐は、眉間の真ん中に皺を集めてしばらく思い、行列をこのまま進めるように言い渡した。
     りん、しゃん。囃し手の持つ鳴り物の音が木々に吸い込まれていく。少しく地が開けて、露払いの言い通り山家が覗ける。塀囲い、門の類の無いあばら家、突然な破れ縁。白茶けて侘しい障子の放たれた、粗末な室。
    「ばば、人?」
     幼姫は僅か青ざめて、良人につないだ手の握りを強く。彼女の恐れを知った彼は、同様少なからず緊張しながらも、気をつけて穏やかに手を握り返した。
     老婆は破れ縁の向こうに睨みを効かせて、行列を目前にする人が坐す形のあるのを確かめる。
    「人ですが、ご安心なさい。眠っています。恐れず、進まれよ」
     山家の前に差し掛かり、人がいた。きっちり此方に膝を揃えて、その膝の上に両手を揃えて。
     彩多い青乱の衣、彼らの仲間内に見えるような毛色の天窓あたま、解かれてかかる目元に紅、固く瞑じている。
    「きれいな人」
    「仙ちゃん?」
     幼い姫は横目で少し窺うつもりで人の姿に目を留められていた。花婿は驚き、初めて声を上げる。
    「人が死と呼ぶものは我々にはありませねど、終わりはあります。三宝の上に剣があるのが見えますか」
     老婆は花嫁に諭す如く、姫は眼差しを導かれて、人の膝前に据わる三宝と、横たわる剣を見た。
    「我等の由縁、我等の今様、我等の道行きを知れば、以ってあの男は我等を終わらせる事ができるのです。剣の使い手はただのつまらぬ人間から現れます。
    ―― あまり、見なさいますな。」
     途端、眠る人は美しいけれど恐ろしいものに見えて、息を潜めて目を外す。
    「――こわい」
    「――大丈夫」
     瞬きの度に、幼い姫の目蓋の裏には青の綾が踊っていた。人が目を覚まさないのが不思議だった。
    「無闇に恐れるものでもありませぬ。ああした者がなくば、人の念に結ばれたが最後、我等は我等でなくなってしまいますゆえ。
     それに、恐らく、あの者は使い手にただ今なったところでしょう。姫様にお知りいただくべく何方かが召し寄せたものかと。この地で人の子が目を覚ます事は叶いますまい」
    「襲ってきたって、返り討ちにしてあげる。」
     婆が頼もしいことと笑う。姫の恐れは晴れて、はにかみながら、神意によって夢に捕らわれている人を二たび見やると、男は眠ったまま、畳に指をついて身を低く伏した。若君が声を立てて笑い、姫は微かに憐憫を誘われて、ゆっくり身を起こした男は――
     青い目の灰めいた影から幼姫の眼を穿ち、
    「あっ」
     きりと細め、
    (どうぞ ご贔屓に。)
     若君が咄嗟に立ちふさがり、男の眼を姫の前から隠した。
    「……、
     姫様、ご挨拶を。
     あのものと我等は、これから長の時をすれ違い続けます。それは幸いな事なのですよ。」
     幼い狐の夫婦がそろって男に目礼すると、男は再度礼を返し、またもとのように眼を瞑った。
     ぱち、ぱち、雨の雫が破れ縁を打つ音が鳴り続いた。(了)
    goban_a Link Message Mute
    2024/08/12 14:16:15

    狐六方

    劇場版モノノ怪でワァーってなったので、すでにネットの海に消えた2012年ころのものを今ここにトキハナツー
    でもこれは「あやかし」の話です。「怪」での薬売りさんの言葉「つまらない人間ですよ、俺は」を一応信じて、人間が薬売りをある種「襲名」する時があるのではないか…と考えて書いたもの。「もののけ」は「あやかし」が人間の情念に中って罹る病、それを時間と場所を移動しながら治して回るゆえの「薬売り」なのではないかなあ~とか思ってました。
    最近の中村監督のお話で、退魔の剣の使い手たちが薬売りである、とついに分かった時の私の心のドタバタときたらとんでもないものだった。 #二次創作 #モノノ怪

    more...
    Love ステキと思ったらハートを送ろう!ログイン不要です。ログインするとハートをカスタマイズできます。
    200 reply
    転載
    NG
    クレジット非表示
    NG
    商用利用
    NG
    改変
    NG
    ライセンス改変
    NG
    保存閲覧
    NG
    URLの共有
    OK
    模写・トレース
    NG
  • CONNECT この作品とコネクトしている作品