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    二又道のもう片方「俺は、家を出るよ。屋敷を出て、セイヴァールに行く」

     逆光のなか、丸く膨らんだリュックを背負って、兄はそう言った。
     オレは信じられないものを見る目でその姿を見つめ、あわてて駆け寄る。
    「ギフト。フォルス君と仲良くな。―――元気で」
     そう言って頭を撫でてくれた兄に、オレはすがって泣きついた。衣服をつかみ、行かないでくれと兄をみあげる。泣きぬれた視界のなかで、兄は苦しげな顔をしていた。
    「どうして兄さん。行かないでよ。僕を置いて行かないでよ」
     兄の大きな手が、オレをあやす。
    「ギフト……」
     兄は長い時間辛抱した。オレもまた、兄を解放しようとはしなかった。
     どのくらい時間が経ったか。
     しゃくりあげ、泣きつづけるオレの声にまぎれ、兄がふと、
    「ギフト……お前も……」
    と言いかけ、口を閉ざした。
     つづきが気になり、兄の茶色の瞳をのぞきこむ。そのときオレは、兄の迷いに気がついてしまった。
     父と母、家名、住み慣れた屋敷。そして友。
     一呼吸の沈黙のあいだに、それら全てと兄とを秤にかけ、オレは兄をとった。今までの人生で一番の勇気を振りしぼる。
    「僕も連れて行ってよ。兄さん!」

     兄はオレの手を振り払わなかった。

    ***

     それから十数年が経ち―――。
     オレは、兄と同じ、セイヴァールの街でくらしていた。


    「よくきたな、ギフト」

     扉をあけて、オレを迎えいれてくれた兄は、いつもどおりの兄だった。オレの目をみて、唇の端をあげて笑う。
     ほんの1年前までは、兄の部屋は、オレの自宅でもあった。就職して自立し、職場のちかくにアパートを借りた今も頻繁に立ち寄ってはいるのだが、こうして迎え入れられるたび、何となしに照れくさい気分になる。
     オレは殊更表情を変えないようにして、「来たよ」とだけ言った。
    「今日は休みか」
    「うん。―――これ、前に兄さんに貸してあげるって言ってた本。もってきた」
    「おっ、ありがとな」
     片手に持った本入り紙包みを持ち上げてみせると、兄は破顔した。
    「まあ入れよ。菓子あるぞ」
     言われる前に、オレは部屋に上がっていた。


     今日も今日とて、兄の部屋では扇風機が大活躍していた。首ふり機能で部屋にぐるりと風をおくる。
     そんなそよ風では足りないのか、定位置の椅子に腰を下ろした兄は、ワイシャツの前ボタンを3つ開け、うちわで襟もとに風を送りこんでいた。兄は暑がりなのだ。
     冬は冬で、セーターで着ぶくれる寒がりに変身する兄である。
    「今日も暑いなあ。お前、その髪切るか縛るかしろよ」
    「今日はそうでもないよ」
     オレは長い髪を耳にかけると、窓の位置関係を確認し、計算上一番風が通りやすくなる場所に扇風機を移動した。
    「あ、何か突然すずし……」
    「前も言ったと思うけど兄さん、扇風機を置くべき場所ってのがあるんだよ」
     位置の微調整を完了して振り向くと、背をまるめ、うっとりとした顔で扇風機の風にあたる兄の姿があった。
     オレは苦笑する。いまの兄は、とてもではないが異世界調停機構最強の戦闘力を誇る召喚師には見えない。

    「それにしても、あいかわらず汚いよね、兄さんの部屋は」
     部屋をみまわす。
     いつ来ても、雑然としている。オレと同居していたときよりも明らかに悪化している。
     不潔という訳ではないし、物をまとめ置こうという本人の努力の跡自体はみられる。だが、どうにも散らかってる感があるのだ。部屋の主は、基本的に整理整頓が苦手なのだろうと思う。
     指摘された部屋の主はというと、扇風機の風にそよそよと髪をなびかせながら、
    「いま、ガウディの奴がいないからさあ」
    などと、平然と言っている。
     オレは呆れ気味に溜息をついた。
    「部屋の掃除なんかでこき使ってるから、愛想尽かされたんじゃないの」
    「違えよ」
     現在第何十回目だかの冷戦中であるらしい兄は、憮然として否定した。
    「あいつが勝手に掃除してたんだ。頼みもしないのに。というかお前、いつまで突っ立ってる」
    「オレどこ座ったらいいの」
    「どこって、そこのいつもの椅子に座れよ。うえに乗ってる物とか床に下ろしていいから。あと、その辺に煎餅入った皿あるからな。食べていいぞ。
     で、煎餅食いながら、ちょっと聞いてくれよギフト。俺はとうとう召喚師を辞めるかもしれん。あの野郎に、今回ばかりはほとほと愛想が尽きてな―――」
     オレは、物置と化していたオレ用椅子を発掘し、腰をおろした。今日も痴話喧嘩の内容を散々聞かされるようだ。


    「―――でさ、俺がそう言ってやったら、あの堅物何て言い返してきたと思う? ズット前カラ、貴方トハ感性ガ合ワナイト思ッテイマシタ、だって。じゃあ、最初から俺の響友にならなきゃいいだろ。誓約しなきゃいいだろ。何で誓約したの、って話だ。そう思わないか?」
    (この煎餅、甘いやつだ)
     バキリと口に入れたあとで後悔した。甘ったるい煎餅は、好きじゃない。
     オレは我慢して、甘い甘い煎餅を麦茶で一気に胃に流しこんだ。
    「俺は流石に頭に来たから―――あ、ギフト。ざらめ味の煎餅もあるぞ」
    「うん、いい」
     オレはなんとなしに立ちあがった。兄の部屋を観察する。
     棚のうえを見ると、また物が増えていた。片手をあげ、にやけた猫の置き物がオレを見つめている。何となく生理的嫌悪をわきたたせる笑顔だ。
    「そいつは招き猫って言ってな。しあわせを招きよせるそうだ。幸薄い俺にはぴったりのラッキーアイテムじゃないか。―――で、さっきの話のつづきなんだが……」

     兄は最近、妙にシルターンにかぶれている。
     ただでさえ物の多い部屋にはエキゾチックな置物がふたつみっつと仲間入りし、机のうえにはカブキのパンフレットが置かれるようになった。2週間くらいまえだったか、台所には満を持して「しょうゆ」が登場した。兄の貧相な食生活のどこで出番があるのか、疑わしいところではあるが。
     外食する際は、専ら寿司屋に行っているようだ。オレも何度か兄に、シルターン特区の寿司屋に連れていかれた。先日は、赤味魚の寿司を口に入れるオレの向かいで、兄はエビのマヨネーズ和え海苔巻を美味いとしきりに絶賛し、舌鼓を打っていた。ただ、3年前から密かに和食店めぐりに凝っているオレから言わせてもらえば、兄の寿司へのハマリ方は若干ミーハーである。

     元はと言えば、兄と響友の冷戦のきっかけも、兄のこのミーハーっぷりが原因であるようだった。
     1週間前。風雷郷時代村一日観光から帰ってきた兄は、目前で見たニンジャ・ショーの興奮冷めやらず、ちょんまげゆるキャラのうちわを片手に、
    「本当いいよなシルターンは! 神秘的かつエキサイティングでさ。最高の休日だった。ただでさえ俺は仕事で機械機械してるから、プライベートでまで機械浸りになりたかねえよな」
    と口走ったそうだ。ロレイラル機械兵器の響友の目のまえで。
     この発言を宣戦布告と受けとった響友との間で、即日開戦。
     熾烈な戦闘をかわした後、冷戦に突入したと聞く。

    「おまえは相棒だから別だって、俺はきちんと言ったんだぞ。でもあいつは捻くれてるから、聞く耳持たん」
    「ふーん」
     どうせあと2日くらいしたら、なし崩しに終戦するであろうことを知っているオレは、兄の愚痴を何となく聞き流していた。
     兄のうちわがぴたりと止まる。
    「ところでお前、何やってんだギフト」
    「片付け」
     床に積んである本の背表紙を確認し、本棚に戻していく作業をしながら、オレはこたえた。
     これこれ、と兄がうちわで手招きする。
    「いいって。お前がそんなことする必要ない」
    「だって、気になるし」
    「部屋の汚さでいえば、お前の研究室も大概だろ」
    「自宅はきれいだよオレ。それに、自分の部屋が汚いのは気にならないけど、人の部屋が汚いのは気になるんだよ」
    「弟よ……」
     オレは手に取った本を見て、眉をひそめた。ふりかえり、ひろげた本を兄に突きつける。
    「なあ兄さん。オレ、本の頁の端を折るのだけは許せないんだ。オレが貸した本では絶対にやらないでくれよ」
    「やらないよ。俺は人から借りた本はキレイに大切に使うから」
    「あまり説得力ないなあ。この部屋、友達とか呼べるの」
    「普通に呼んでるぞ。この程度の散らかり具合、男友達は全然気にしないし」
    「彼女は呼べないだろ。―――おっと、呼ぶ彼女がいなかったね。ごめん、肩落とさないでくれ兄さん」
     沈んだ表情で黙りこむ、三十路近くの兄をなぐさめる。心の傷をえぐってしまったみたいだ。
     兄は、最近また彼女に振られたばかりだ。
     伝聞ではなく断定しているのは、オレがその現場の目撃者だからである。
     もちろん、そんな塩っ辛い場面、見たくて見た訳ではない。仕事の帰り道、偶然通りかかった公園で見てしまったのだ(なお、別れ話に何故か兄の響友が当然のように同席し、兄の隣に浮遊していたのも、併せて目撃した)。
     兄は、オレに見られたことに気づいていない。オレも、弟としての情けで兄には黙っている―――が、いつか機会があれば、胸の大きさだけで選んでいるからこうなるのだ、ということだけは兄に言っておきたい。

    「振りかえってみると、俺ぁ寂しい人生送ってるな……。彼女はいないし。響友は薄情だし」
     顔を片手でおさえて、兄は悲劇にひたっている。
    「まずいな、憂鬱スイッチ押しちゃったな。まあ落ち着けよ兄さん。兄さんにはこうやって貴重な休日に部屋を訪ねてくる、可愛い弟がいるじゃないか」
    「弟は彼女のひとりも作らねえで、兄貴の部屋で休日すごしてるし」
    「……喧嘩売ってんの?」
     兄はうちわをその辺にポンと放り投げ、頭のうしろで手を組み合わせた。
    「彼女は別としても、お前、休みにどこかに遊びに行ったりしないのか。仕事をはじめたばかりで頭がいっぱいになるのは仕方ないが、ちゃんと息抜きはしなきゃ駄目だぞ、ギフト」
     だから、息抜きのために兄さんの部屋に来ているんだけどなあ。
     そんなことを言ったら、また兄には「弟はブラコンだし……」と嘆かれるのだろうか。
    「はじめたばかりで頭がいっぱいというより、今本当に、仕事が楽しくてしようがないんだ。女にも興味がないし、どこかに遊びに行ってもただ疲れるだけだし。兄さんの部屋で、仕事の本を読んでるのが一番いいよ」
    「ふーん。やっぱりお前は変わってるなあ」
     兄にしみじみ言われると、弟としては何とも言えない気分になる。
     先ほど貸したばかりの本を手にとり、パラパラとめくりながら、兄はつづけた。
    「でも、ちょっと感性変わってる方が、研究には向いてんだろうな。お前はすごいよ。毎日こんな難しい本を読んで」
    「別に、すごかないよ。本を読むだけだったら誰でもできるよ」
    「できないよ」
     頁に視線を落としたまま、兄は頬に笑みを浮かべている。
    「お前は毎日むずかしい本を読んで、研究して、社会のために頑張ってる。誰にでもできることじゃない。大したもんだ」
    「……」
     こんな穏やかなひと時にそぐわないくらい、オレは兄の言葉に動揺していた。
    「どうした」
    「……い、いや」
     オレはうつむいて顔をかくし、必死に平静をよそおった。
    「兄さんがオレを褒めるなんて、珍しいと思ってさ」
    「そうか? そんなことないだろ。今までだって、散々褒めてきただろ」
    「そんな」
     反論しようとして、ふいに口をつぐむ。眉を寄せて、オレは考えこんだ。
    「いや、そう……かもしれない。たぶん、そうだったんだろうね。今までは、オレの受けとり方に問題があったんだと思う。オレ、兄さんの言葉を素直に受けとれないところがあったから」
     いつになく、オレの心は剥きだしで、透明になっていた。
     ―――今なら言えるかもしれない。
     オレはひとつの告白をするために、兄へと向きなおった。

    「兄さん、オレはさ。最近までずっと、ひどいコンプレックスを抱えてたんだ」
    「コンプレックス?」
     兄が不思議そうに問いかえす。
    「召喚師になれなかったから。兄さんもフォルスも、召喚師になれたのに、オレだけなれなかった。それが悔しくて、寂しくてね」

     かつてのオレは、この事実を認めるのにも苦しみもがき、七転八倒した。
     事実になんとか向き合えるようになってからも、劣等感は胸のうちに重く在りつづけた。
     きっと、この暗い感情は生涯消えることはないんだろう。ちょっと前までのオレは本気でそう考え、胸のうちは誰にも、とくに兄とフォルスには決して明かすまい、と固く決意していたのだ。
     だが、研究に明け暮れ、人から頼りにされる満ち足りた毎日をおくるなかで―――オレのこだわりはいつの間にか溶けて小さくなっていたようだ。こんな風に、口からポロリと吐きだせるほどには。

    「なれなかったって……お前は、ならなかったんだろ」
    「なれなかったんだよ。オレ、口に出したことはなかったけれど、ずっと憧れてたんだ、召喚師」
    「そう、だったのか」
     兄は本を閉じ、考えこむような顔をした。
    「うん。―――でも、早い段階で諦めてもいた。オレは、兄さんがガウディと誓約したと聞いたとき、凄いと思った。ロレイラルの機械兵器と心を通わせるなんて、凄い、ってさ。でも、『凄い』と思う時点で、ダメなんだよな。無意識のうちに、異界の住人とのあいだで、一本線を引いてしまってる。これじゃあ響友と誓約することなんて無理だ、ってオレは悟った」
    「ギフト……」
    「でも、せめて異世界調停機構運営の研究所に入れてよかったよ。いまの仕事はオレの天職だ。毎日すごく、満ち足りてるんだ」
     オレの本心だ。笑みを浮かべて言うと、兄はホッとした表情を浮かべた。
    「そうか」
    「ああ。それに、兄さんにも喜んでもらえたから……。故郷をふたりで飛びだして以来、兄さんには苦労かけっぱなしだったからさ。すこしでも、恩返しがしたかった」
    「……俺は何も苦労なんかしてねえよ」
    「嘘だ」
     オレは強い口調で否定した。兄が、目をみはっている。
    「無色から追手がかかって、異世界調停機構に庇護を求めてからというもの、兄さん、嫌な思い沢山しただろ。機構や警察から監視されて、調べられて、疑われてさ。周りの邪推をしずめるために、兄さんは調停召喚師になって、無理して成果をあげつづけてきたんだ。オレ、分かってるんだ。そういう嫌な部分を全部、兄さんが引き受けてくれたってこと」
     兄が何かを言おうと口をひらいたが、結局言葉は出てこなかった。
    「フォルスがカゲロウと誓約して、セイヴァールにやって来たときにさ。あいつ、話して聞かせてくれたよな。オレたちの屋敷近くの森で、ゲートに落ちて、カゲロウと出会ったって。そして、ちょうど同じ日に、オレたちの屋敷から人が消えた。父さんも母さんもいなくなっちまった……って」
     兄の顔が、さっと青ざめた。
    「その話聞いてさ、兄さん。オレに黙って、1回村に帰ったんだろう? そこで何か見たんだろう。オレ知ってるんだ。兄さん、セイヴァールに戻ってきたあと、泣いて―――」
    「ギフト!」
     鋭い叫び声がひびき、オレは咄嗟に目をつむった。
     次の瞬間、オレをつつむぬくもりがあった。
     兄の腕だった。オレは窒息しそうなくらい力強く、兄に、抱きしめられていた。
    「兄さ……」
    「言うな」 兄の強い声が、オレの言葉をさえぎった。「お前は、何も心配しなくていいんだ。全部兄さんに任せときゃいいんだ」
     懐かしい、兄のにおいに包まれる。オレはおずおずと、兄のたくましい胸に耳をあてた。
    「俺は苦労なんて何ひとつしちゃいねえよ。お前が側にいて、俺を信じてくれていた。だから俺は、ただの一度も、苦しいだなんて感じたことなかった。俺のとなりで、小さなお前がすくすくと大きくなっていってさ。それを見てたら、ほかのことなんてどうでもよかった。本当に」
     しばらく耳をあてていると、兄の鼓動が聞こえてきた。おだやかなテンポで、時をきざんでいる。
    「まあ、お前は何考えてるのか分からないところあるから、兄貴としては結構ハラハラさせられもしたけどさ。のめり込むと人の言うこと聞かないで突っ走るし。一時期ひきこもったし。時々フォルス君と派手に大喧嘩して、俺を板挟みにするし。あっ、こう考えると結構苦労させられてるな俺」
     どっちだよ。とオレは兄の胸のなかでつぶやく。
    「学園卒業後の進路も俺に全然相談しないから、かなり心配してたんだぞ。就職活動してる風もないし、俺が気をもんでも、お前は大丈夫って言ってばかりでさ……。そしたら卒業式直前になって突然、研究所に入ることになったから、って事後報告してきただろう。俺は本気でびっくりしたんだ。お前はいつだって俺を驚かせる」
     正直なところ、卒業直前まで本当に進路は決まっていなかったのだ。趣味の研究にのめりこんでいるうちに、気づけば就職活動の時期を逸してしまっていた。
     このままでは兄に顔向けできない、と青ざめたオレは、心やさしい赤毛の友人に付き合ってもらってセイヴァールを駆けずりまわった。
     が、成果はかんばしくなく。
     最後に駄目元で学生時代の研究結果を売りこんだ先が異世界調停機構研究所だった。卒業式直前、研究生見習いとして研究所の内定をもらえたときには、オレが一番驚いた。
    「研究所に入ったら入ったで、見習いのくせに独自研究で成果をあげて、すぐに正規研究員に昇格してさ。聞いたぞギフト。召喚術状態異常を予防する新薬だっけ? お前今度、その研究をまかされたそうじゃないか。大したもんだ」
     あつい。
     さっき、兄に今日は大した暑さじゃないと言った気がするが、いまはあつくてたまらない。気温と、兄の体温以上に、オレの体中があつくなってる。
    「人からお前を褒められるたび、俺はいつもバカみたいに舞い上がっちまう。自分が褒められるのより、何倍もうれしい」
     背にまわされていた手が、オレの頭にポンと置かれた。乱暴にかき回される。
    「お前と一緒にセイヴァールに来て、本当によかった。お前は俺の、自慢の弟だよ。ギフト」

     腕のなか、無言をつらぬくオレに、不安になったらしい。兄がオレの顔をのぞきこんできた。
     オレは兄の胸にもぐり、顔をかくした。
    「……どうした? おしゃべりな兄貴で、怒ってるのか」
    「ちがうよ。なんでもないよ」
    「耳があかいぞ」
    「なんでもないったら。兄さんには分からないよ」

     自分がいま、弟の身のうちに、どんな革命を起こしたか。
     兄は絶対、わからないだろう。
    yoshi1104 Link Message Mute
    2018/09/29 5:04:51

    二又道のもう片方

    (ギフト+エルスト)

    もし、ブラッテルンが「一緒」にセイヴァールに家出してきていたら、というIF話

    ##サモンナイト

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