馳走テイスティング「監督生、今日はグラタンにしたんだな」
「半月ぶりの贅沢になるかな」
「贅沢のレベルが低すぎないか?」
「下手に散財すると後で泣くことになるからね……」
遠い目をする監督生にデュースとジャックは首を傾げた。
「小エビちゃんはドリンク何にするー?」
「レモネードをお願いします」
「お前いっつもそれだよなー」
「カニちゃんはちょっと黙っててねーオレ今小エビちゃんの注文聞いてるから」
「いやそいつオレの付き添いなんすけど!?」
平常運転とは言えあまりにも理不尽な扱いにエースは思わず立ち上がって叫ぶ。
「そういえば小エビちゃんって誰かの付き添いで来ること多いよねー」
「一食奢る代わりにポイント譲ってくれと頼まれることが頻繁にあるんですよね」
「アハッ、餌付けされてんじゃん」
「違いますーこいつの懐事情への配慮ですー」
わざとらしい拗ね方をするエースに監督生は肩を竦めた。
「ジャミル先輩ジャミル先輩、ちょっと頼みたいことがあるんですが宜しいでしょうか」
「物珍しさに免じて話は聞いてやろう」
「ドライカレーを作ってくれませんか?」
監督生が告げた内容にジャミルは目を丸くする。
「……作ってほしい理由も聞かせてもらおうか」
「食べたくなったのは良いものの食堂のメニューには無いし、自分で作るのは無謀だったので料理が得意な人を頼ろうかと」
「賢明な判断だがダダでは引き受けられないな」
「材料の買い出しならやりますよ。寧ろそれくらいしか手伝えることが無いような……」
「身の程を弁えていて実に結構。その謙虚さに免じて依頼を受けてやろう」
「ありがとうございます」
謝辞を述べつつ監督生はぺこりと頭を下げた。
「──さて監督生、食べたいケーキのリクエストはあるか?」
「えっと……カフェモカのムースケーキはお願いできますか?」
「ふむ」
今ある材料を確認し、トレイは笑みを浮かべる。
「買い出しの必要は無さそうだな。早速作り始めよう」
「あ、自分も手伝い──」
「ケイト、監督生を捕まえておいてくれ」
「はいはーい」
何らかのリアクションをする暇もなく監督生は椅子に座らされ、目の前のテーブルに空のティーカップを置かれる。
「ユウちゃんはアッサムのミルクティーが好きだったよねー」
「そうですけどちょっと待ってもらえませんか」
「待ちませーん」
「寧ろ待つのはお前の方だぞ、監督生」
「毎度のことながら手慣れている……」
「そりゃあまぁ、な?」
「おもてなしはハーツラビュルの基礎教養みたいなもんだからねー」
そう自慢げに言ってトレイとケイトはほぼ同時に笑みを浮かべた。
「グリムーご飯できたよー」
「にゃっはー!待ちくたびれたんだゾー!」
「ほっほっほ、グリ坊は元気だのぅ」
はしゃぎ回るグリムの姿にゴーストたちは呑気に笑う。
「今日は何を作ったんだい?」
「ツナとタマネギ、それとニンニクを合えたパスタだよ」
「毎度のことながらうまそうに作るなぁ」
「ご相伴に預かれないのが実に残念だ」
「じゃあオマエらの分までオレ様が食ってやるんだゾ!」
「ヒッヒッヒ、そうさなぁ」
「グリ坊の食べっぷりは何度見ても飽きんからのぅ」
「自分の分は食べないでほしいんだけどな……」
苦笑いを浮かべつつ監督生はフォークに巻き付けたパスタを自分の口に運んだ。
「……今日もちゃんと食べてるみたいね」
『#今日のメニュー』というハッシュタグがついた監督生のマジカメ投稿とそこに寄せられたリプライに目を通し、ヴィルは安堵の息を吐く。
ここ数日寮長の仕事やらモデルの仕事やらで忙しかったせいで監督生の食事管理──と言っても極端な栄養の偏りが出ないように注意しつつ充分な量を食べさせる程度の調整を行えていないことに一抹の不安を覚えていたのである。
「それにしても食堂のグラタンが半月に一度の贅沢っていくら何でも貧相過ぎない?」
そう独りごちながらヴィルはディナーの予定を立て始めた。