最悪インプレッション「アンタのことはよく知ってるわよ、オンボロ寮の監督生」
「っ!?」
突然名指しで呼ばれたことに監督生は驚愕する。
「魔法が使えないだの、魂の資質が七つの精神のどれにも当てはまらないだの、別の世界から迷い込んだだの、そんな御託はどうだって良いわ」
後退りしようとした監督生の腕を掴み、ヴィルは不快そうな顔をする。
「……やっぱり勿体ないわね」
「え?」
「ねぇアンタ、今からでもアタシの個人レッスンを受ける気は無い?そっちの新ジャガどもよりはよっぽど──」
「お断りします」
「…………は?」
信じられないと言わんばかりの顔をするヴィルの手を振り払い、監督生はしかめっ面をする。
「自分はオーディションを受けません、グリムたちのサポートに徹します」
「……そう、気が変わったら声をかけてちょうだい。アンタの話になら耳を貸してあげても良いわよ」
「っか~~~~!何だよあの偉そうな態度!」
「すっげームカつくんだゾ!」
ヴィルがエペルを連れて去った後、エースとグリムは地団駄を踏みながら怒号を上げる。
「……監督生、だい──」
「じょばない」
「うわメッチャ震えてんじゃんお前!」
「柄にもねーことするからだゾ」
呆れ気味に言いながらグリムは今にも泣き出しそうな監督生の足をぺしぺし叩く。
「確かに珍しいな、監督生があんな露骨に喧嘩腰な態度を取るなんて」
「それだけヴィル先輩がムカついたってことだろ?」
「あれはムカついて当然なんだゾ」
「うーん……それもあるんだけどなんていうかこう……あの人に従っちゃダメな気がしたって言えば良いのかな……」
「いやいや、あれは突っぱねて正解でしょ」
「ついでに一発殴ってやればもっと良かったんだゾ」
「顔を狙うと見せかけて足を思いっきり踏みつけるとダメージが──」
「腸煮えくり返ってるのはよく分かったからとりあえずこの話は一旦終わりにしよう!?」
「……やっぱり惜しいわね」
「えっ?」
「どうにかしてあの子を──」
「あ、あの……ヴィルサン?」
エペルに呼び掛けられて我に返ったヴィルは一瞬ぽかんとした後、直ぐ様表情を引き締める。
「何ボサッとしてんのエペル、ステップの練習に集中しなさい」
「は、はいっ!」
慌てて練習を再開するエペルから視線を外し、ヴィルは溜め息を吐いた。