その足に相応しい靴を贈りましょう「ふん、ふん、ふん……♪」
「──あら、随分と上機嫌ね」
「っ!?」
「何よ、そんなに驚かなくても良いじゃない」
「そ、そうは言われましても……」
不服そうな顔をするヴィルに対し、監督生は頬を紅潮させながら目を泳がせる。
「──で、鼻歌を歌うほどご機嫌な理由は何かしら?」
「く、靴を……買い換えまして……」
「靴?」
視線を下げてようやく監督生が真新しいライトブラウンのトレッキングシューズを履いていることに気づいたヴィルは心底悔しそうな顔をする。
「アタシとしたことが言われるまで全く気づかなかっただなんて……!」
「お、大袈裟ですよヴィル先輩!」
わたわたする監督生にヴィルはふと気になったことを訊ねる。
「ところでアンタ、その靴は自分で買ったの?」
「は、はい。今まで使ってたローファーがダメになっちゃったのと、お金がそこそこ貯まったんで……」
「待ちなさい」
突然肩を掴まれた監督生はひゅ、と息を呑む。
「アンタまさか通学用の靴しか持ってないの?」
「え、えっと……」
「ルームシューズやプライベートで出かける時用の靴は持ってないのかって聞いてるのよ」
「ど、どっちも持って、ないです……」
監督生の返答にヴィルは深く溜め息を吐く。
「……予定変更ね」
「へ?」
「次のレッスンはアンタの靴選びを済ませてからにするわ」
「えっ!?」
突拍子も無いヴィルの発言に監督生は間の抜けた声を上げる。
「何よその顔は。ちゃんとアンタに似合って普段使いしやすい靴を──」
「そこじゃないです!」
「じゃあどこよ」
「えっとその……お、お金……」
「……それこそ心配無用よ」
「あいたっ、」
呆れ顔のヴィルに額を小突かれ、監督生は情けない声を上げる。
「アタシはアンタに靴を贈るつもりはあっても売りつけるつもりなんて欠片も無いわよ」
「……そう、なんですか?」
「そうよ」
「えっと……ありがとうございます……?」
「礼を言うのは靴選びが終わってからにしてちょうだい」
溜め息混じりに言いながらヴィルは肩を竦めた。