お楽しみの口実「待ちなさいそこのシーツお化け」
「ふぎゃっ」
ヴィルに頭を鷲掴みにされた監督生は情けない声を上げる。
「そんな貧乏臭い格好で出歩くことをアタシが許すと思ってるの?」
「いだだだだ」
「全く……」
溜め息を吐き、ヴィルは取り出したマジカルペンを軽く振る。
「わっ」
魔法で自分の装いが修道女のそれに変えられたことに監督生は驚きの声を上げた直後、頬を紅潮させる。
「……いや何でこんな格好なんですか!」
「あら、よく似合ってるわよ」
「そういう問題じゃなくて!」
監督生の反論にヴィルは肩を竦める。
「アンタは着て似合うものの選択肢が多いことを少しは生かそうとしなさい」
「似合うかどうかはともかく、恥ずかしいものは恥ずかしいんですよ……」
「それこそ慣れるしかないわね」
「うぅー……」
「唸ったところでどうにもならないわよ」
ヴィルの厳しい一言に監督生は深い溜め息を吐く。
「……お揃いには、しないんですね」
「だってまだ早いもの」
「まだ?」
不思議そうな顔をする監督生の腰に腕を回し、ヴィルは笑みを浮かべる。
「次の着せかえはアンタの首を噛んでからよ」
「っ……」
──吸血鬼に噛まれたものは新たな吸血鬼となる。
元の世界で読んだ本に記されていた内容を不意に思い出し、監督生は頬に冷や汗を伝わせる。
「何なら今ここでやっても──」
「結構です!」
食い気味の制止にヴィルはくつくつと笑う。
「じゃあ少し散策でもしましょうか。お誂え向きの場所を探すついでに、ね」