ひとくち「この寒いのにアイスですか」
突然かけられた声に私は顔を上げた。
「乱歩先生……」
いつの間に、と目の前の席に腰を下ろした乱歩先生を見て目を瞬かせる。
私の手には冬限定のアイスがひとつ。
先程、買い物ついでに買ってきたものだ。
「だって、冬の限定アイスですよ」
にこにこと笑みを浮かべながら、私はアイスを一口。
談話室は暖房のおかげで、廊下では羽織らないといけないカーディガンもいらないくらいだ。
「限定……ですか」
興味なさそうに呟き、テーブルに置きっぱなしのアイスの蓋を手に取る乱歩先生。
「美味しいですよ?」
甘すぎないチョコレートの風味が特徴の限定アイス。それを、見せびらかすようにもう一口食べて見せる。
「ホホウ」
ふむ……と考え込むような素振りを見せ、乱歩先生は不意に目を細めた。
「そういうことでしたら、一口いただいても?」
「あ!じゃあ、スプーンをもうひとつ持ってきますね」
と立ち上がろうとした私の手を乱歩先生が掴む。
「え?」
「一口、食べさせてはいただけないのですか?」
にんまりと笑みを浮かべた唇。
なっ……と呻いたまま固まってしまった私。
乱歩先生はニッコリと笑顔を浮かべて口を開いた。
「………………」
先生とアイスとスプーンを見比べ、私はすとんと椅子に座り直した。
早くと急かす乱歩先生の目は愉しげで……けれどそれに私は逆らえない。
スプーンにすくったアイスを差し出す。
パクリとそれを食べた乱歩先生が、ふふ、と笑った。
「確かに、これは美味しいですねぇ」
ぺろりと舌が唇を舐めた。
「あっ!」
突然取り上げられるスプーン。
それはアイスをひとさじすくい、私へと差し出された。
「サア、どうぞ」
「あ、いえ、その……」
辞退しようとした私を、じっと見つめてくる視線が捕らえる。
逆らえない……
私は口を開いた。
愉しげな目が細められる。
そして……目の前でスプーンは乱歩先生の口の中へと入っていった。
「え!?」
まさかの出来事に、からかわれたのだと気付く。
「先生!なんてことを………っ!」
抗議しかけて私は思わず目を見開いた。
甘さ控えめのチョコレートの味が口の中に広がる。
これ、は……
「んぅ……」
息苦しくて声を洩らせば、頬がするりと撫でられた。
「な!なにするんですか!?」
「美味しかったでしょう?」
ぺろりと再び唇を舐める舌。
そして、クスクスと笑いながら乱歩先生は指で私の唇を拭う。
直前に触れた乱歩先生の唇の感触を思い出し頬が熱くなる。
「もう一口……いかがですか?」
それは、アイスのことだろうか……それとも……
戸惑う私の目の前にアイスをすくったスプーンが差し出される。
促されるまま口を開けば、今度はアイスが口の中へと入ってきた。
ゆっくりと舌の上で溶けてゆくアイス。
ゆっくりと……
愉しそうな乱歩先生の顔が近付いてきた。