甘く残る「なんのつもりだ」
「貢ぎ物です」
和栗のアイスが美味しいと聞いて私はポー先生を無理矢理連れて街で人気のお店に来た。
普段とは違うカジュアルな私服のポー先生に合わせて私もカジュアルな服を選んだ。
これで釣り合いが取れているかと言うと……当然ながら私が見劣りするわけだけれど。
それはさておき。
目的のお店で、私は目的のアイスを、行列の果てにゲットした。……辛うじてひとつだけ。
もちろん、無理に引っ張ってきた上、長い列に並ぶことになったから、ポー先生は不機嫌だ。
お店からほど近い公園のベンチに並んで腰を下ろし、私はポー先生に和栗のアイスを差し出した。
もうひとつはお店の定番でもあるクッキー&クリーム。他の季節のアイスも全て売り切れていたのだ。
「お休みにわざわざお付き合いいただいたので、お詫びでもあります」
そう告げると、ポー先生は大きな溜息を吐いた。
「貴様はこれが欲しくて、この私を連れ出したのだろう」
「はい。是非先生にも食べていただきたくて」
それは嘘ではない。
私自身も食べたかったし、何よりポー先生にも食べてもらいたかったのだ。
まったく……と呟いたポー先生は私の手からアイスを受け取ってくれた。そして一口――
「なるほど。これは好ましい味だな」
「でしょう?」
気に入ってもらえたことが嬉しくて、にこにこしながら私はクッキー&クリームを一口。
大きめのクッキーの歯応えが好きで、私はよくこれを食べる。
美味しいなぁと思いながらも、やはり和栗のアイスは食べたかったとチラとポー先生の手元を盗み見た。
「どうした?」
「あ、いえ。アイス、美味しいですね」
慌てて誤魔化した私の耳に、ふと微かに笑う声が聞こえた気がした。
「え?」
突然陰った視界に驚いて顔を上げた私は、間近にあるポー先生の顔に固まってしまった。
何?と問うより前に、少しひんやりとした柔らかいものが唇に触れた。
続いて舌の上で溶けてゆく甘い、栗の……
「ッ!」
目を見張り、私は慌ててポー先生の肩を押した。
唇に触れていたものはすぐに離れ、口の中には甘い和栗のアイスの味だけが残る。
「な、な、な……!」
真っ赤になって狼狽える私に、ポー先生はニヤリと笑みを浮かべる。
「貴様が物欲しそうにしているからだ」
そう言って、先生はぺろりと自分の唇を舐めたのだった。