ちぇりー・ぶろっさむ
ある春の日の昼下がり。
休館日のその日。私は自分の買い物のついでに先生方のお使いを引き受けた。
ここぞとばかりに次々とお使いを頼んでくる先生方に、気付けばメモには文字がびっしり。
さすがに量が多くないか?と思いながらも出掛けようとしたところで、秋声先生に声を掛けられた。
「あ、先生も何かおつかいありますか?」
そう問うた私に、秋声先生は大きな溜め息をひとつ。
「君ねぇ……安請け合いしすぎじゃない?」
それ、と先生が視線を向けたのは私の手に握られたメモ。
「それ全部一人で持って帰ってくるつもり?」
まったく……と頭を抱えた秋声先生は、そのまま私の買い物に同行してくれることになった。
「秋声先生。ついてきてくださって、ありがとうございました」
思っていた以上に大荷物になってしまって、一人だったら無理だった……と、ついてきてくれた先生にお礼を告げる。
「……人に頼ろうとしないところ、君の悪い癖だよね」
溜め息まじりの言葉に何も言い返せない。
何だかんだで、特務司書になってからずっと、秋声先生は私を助けてくれている。
あはは……と目を逸らせば、くすりと笑うのが聞こえた。
「あれ?」
「どうかした?」
逸らした視線の先にあったものに、私は思わず声を零す。
「桜のアイスですって!先生、食べてみませんか?」
ピンク一色の店先に、たくさんの桜の花の装飾と共に掲げられた【さくらアイス】の文字。
「アイスって……そんな気候でもないのに物好きだね」
確かに、春とは名ばかりの風が吹けば少し肌寒さすらある気候ではある。けれど……
「でも、こういうのって季節限定なんですよ」
言い募る私。
秋声先生は、私が持っていた袋を取り上げ、
「ここで待ってるから、買って来れば?」
そう言って笑った。
両手にひとつずつさくらアイスを持って戻れば、秋声先生は目を見張って苦笑を浮かべた。
「ふたつ買ってきたんだ」
「え、だって……買い物に付き合ってくださったお礼にと思って……」
いらなかったのかなと思いながらも答えれば、ありがとうと返ってきた。
よかった。と渡そうとしたところで、荷物のせいで先生の手が空いていないことを思い出す。
どうしよう……と考えた私に妙案が浮かんだ。
「秋声先生、どうぞ」
口許へと差し出すアイス。
先生が手に持てないのなら、私が持ったまま食べてもらえばいいのだ!我ながらなんてナイスアイディア!
と思ったところで、秋声先生が私を凝視していることに気付いた。
「せんせい?」
あれ?なんだか、先生の顔が赤いような。
「……君は……大胆だね」
「え?」
ポツリと呟いたあと、アイスにかぶりついた秋声先生。
「こういうこと、誰にでもしてないよね?勘違いされても知らないよ」
勘違い?
首を傾げた私の目の前で、秋声先生は唇を舐めた。
ドキリと跳ねる鼓動。
「あ、あの……」
「あっちのベンチで座って食べようか」
ふい、と逸らされた視線。
踵を返して歩き出した秋声先生の背中を、私は慌てて追いかけた。
どうしたんだろう私は……
今見た光景が……唇を舐めた先生の舌が……脳裏に焼き付いて離れない。
ドキドキと激しく脈打つ鼓動が、おさまらない。