これから先、名付けられぬことを切に願うばかりだ、
「えーっと……あのねっ!」
今日こそ言わなければ、そう思って少女が口を開くと同時に目の前の少女もまた、声をあげたのだった――
―――☆―――
その昔、この星がまだ緑に包まれていた時代があったとかないとか言うけれど、少なくともそんな大層な御伽噺が語れるような世界じゃなかったのだけは断言できるわよね 森の木なんてほとんど無くてさあ 動物もほとんどいないし いたとしたらせいぜいネズミとかモグラみたいな穴ぐらの住人だけって感じだったんじゃねーかなあって思うんだけど そもそもなんでこんな話してるかっていうと 実は今あたしらがその森の穴倉から飛び出してきたからだったりしますんでね ちょっとばかり聞いてもらえるかしらん」
***
その日あたしたち兄妹三人が目を覚ました時すでに太陽は高いところにあって どうやらかなり寝過ごしてしまったようではあったけど それでも三人一緒にお風呂に入ったり朝ごはん食べたりとそれなりにまったりした時間を過ごせているあたりまだまだ余裕だなって思いながらもお昼ご飯まで食べ終えたあとにはもう出発の時間が迫ってきてしまっていたわけよ だから結局のところいつもみたいにみんな揃って馬車に乗ることにしたのだけど そういえばここん家の人たちに会うこともしばらくないだろうと思うともったいぶってもしょうがないからいっそ先に言っておくべきかもしれないわね ただちょっと待ってね……まだ荷造りが終わらなくて……」とお母さんが大きなカバンを手にリビングへと戻ってきたのを見てわたしたちも手分けしてそれぞれの荷物をまとめる作業を始めようとしていたまさにその時のことです ピンポーン インターホンのベルが激しく鳴り響いたのですからこれはきっと来客があったのだということをわたしたちは一瞬のうちに悟ってしまいますよね?ええまあそんな風に思うよりも早くにドアフォンの方を見に行ってしまった方が良かったんじゃないかとか色々言いたいことがないでもないんですけれどそれに関しては後でゆっくり考えてみるとしてですねとりあえずいま優先すべきはお母さんの対応ということになりまして そこでようやくお父さんが腰を上げてくれたと思ったら玄関に向かったお父さんなんだけど何を思ったのか今度はすぐにまた戻ってきてはさっきまで座っていた席に着くなり「今日ここに来た人には申し訳ないが用事があるので失礼します」なんて言葉とともにどこかへ電話をかけ始めてしまうし、次に兄貴も立ち上がるとその電話の様子を見守っていたお母さんに何かを告げるでもなくただ黙ってこちらを見ながら少し離れたところに立ってしまいますからつまりこの状況はまるでうちの家族四人だけになったみたいな形になっていてですよそれでいて外には宅配業者らしい格好をした人が立っていてですからこんな状況は普通なら絶対にあり得ないはずなのにどうしてなのかしらと思ってしまう気持ちもあってその思い込みが正しいのかどうかを確かめるために声をかけようとしたまさにその時のこと……
『こんにちわ、いつも大変お世話になっております』
スピーカー越しなので少し聞き取りにくい感じになってはいましたがどうにもこう挨拶をしているみたいだったんですよね だからなんとなくですけど相手側の方とは親しい間柄だというような印象を受けることができたわけでありまして、だからこそつい声をかけようと口を開きかけてしまったわたしなのですがしかしそれよりも先に目の前に座っている母の方が突然大声で叫んでしまわれてしまいましたのでよく見るとテーブルに置いてあったはずの湯飲みなどは全てひっくり返されて