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    メトロポリスを電車で行けば約束をして、待ち合わせをして出かける、と言うことに百音と菅波が慣れたかどうか、という頃。普段はそれでも汐見湯かいずれかの職場近くで待ち合わせをすることが多いが、その日はそれぞれの所用の出先の間をとって、赤坂見附で落ち合うことになった。住まいも職場も東京都内の東側に重心が寄っている百音には初めていく場所である。

    菅波もそれは心得ていて、待ち合わせ場所には分かりやすい駅前の交番を選んでいる。出口さえ間違えなければ絶対間違えませんから、と聞いていた通り、A赤坂3丁目口を出ればすぐに交番が見えた。定番の待ち合わせスポットらしく、ちらほらと待ち合わせをしているていの老若男女が佇む中、ひときわ上背がある姿がある。例のごとく先に着いていて、駅出口を注視していたようで、菅波は百音の姿を認めると足早に駆け寄ってきた。

    「こんにちは、先生。お待たせしちゃいました」
    「永浦さん、こんにちは。いえ、僕の用事が少し早く終わっただけで」
    いつものような挨拶を交わして、それがいつものような、になってきていることに、ふと二人で視線を交わして笑顔になる。はにかみつつ、菅波が「昼飯、まだですよね?」と百音に聞く。百音が頷き、先生もですよね?と、の問いに菅波も頷く。

    駅周辺で適当に目についたランチ営業をしている居酒屋に入って、定食もので腹ごしらえを済ませた二人は、目的地を目指すべく、改めて駅の改札に向かった。なかなか東京の西側にまで足が伸びない二人なので、今回西寄りで待ち合わせできることもありそのまま池袋の水族館に行ってみようという算段である。それを百音がコインランドリーで提案した時には、自分の趣味につきあわせるばかりでは、と菅波が躊躇を示している。結局、先生のサメの話が聞きたいんです、で百音がその案を通して、これで二人で出かける水族館は3箇所目である。

    「じゃあ、まずは池袋に出ないとだから、銀座線か丸の内線ですね」
    と菅波が言いながら改札を通るのに百音もついていく。構内の案内板には目の前のホームに銀座線の渋谷行きと丸の内線の荻窪行き、さらにその下に降りる階段の先に、銀座線の浅草行きと丸の内線の池袋行きという表示がある。さらにその隣には向こう向きの矢印の隣に半蔵門線永田町駅・南北線永田町駅・有楽町線永田町駅という案内まであり、東京の地下鉄に慣れない百音には何が何やらわからない。

    「えっと…さっき銀座線か丸の内線って言ってましたけど、あの池袋行き?っていうのに乗ればいいんでしょうか?」
    「ここから丸の内線で池袋を目指すと遠回りなので、このホームに来る銀座線か丸の内線の早く来た方に乗って、渋谷か新宿で山手線に乗り換えればいいかと」
    「早く来た方?どっちでもいいんですか?」
    「このホームの電車はどちらも西向きなので…。あ、丸の内線が来ましたね。とりあえず乗ってしまいましょう」

    話しているうちにホームに滑り込んできた赤い車両に乗り込み、百音がうーんと路線図を見上げている様子に菅波の口元が緩む。
    「難しいですよね、東京の地下鉄」
    「難しすぎます。さっき先生が言ってた遠回りっていうのは?」
    「それは、ほら…」
    と菅波が路線図を辿ってみせながら説明をすると、百音も丸の内線がどういうルートを走っているかを理解する。

    「先生はこれ全部頭に入ってるんですか?」
    「ちっとも、ですよ。自分がそれなりに使ってた駅や路線じゃないと、とてもとても」
    「だとしても、すごいですねぇ。いろんな行き方があるって考え方が私にはまずないですもん。東京に住むようになっても、あんまり電車乗らないままですし」
    「会社まで徒歩で行けますしねぇ」
    「そうなんです」

    などなど話をしていれば、新宿駅に着く。通勤ラッシュほどの混雑ではないが人の流れが大きく、菅波がぱっと百音の手を繋いで電車を降りる。降りても繋いだままになっている手に、百音は頬を淡く染めるが、その指に少しの力を込めれば、そっと同じだけの力が菅波から返ってくるのが照れくさくも心地よい。そのまま人混みを抜けて、JR新宿駅へ。地下鉄よりもさらに人の流れも複雑な様子に百音は何がどこやらである。繋いだ手を頼りに、改札を抜け、山手線のホームを目指す。

    階段を登っていると、電車がホームに入ってくる気配がする。残りの階段を百音は駆けあがろうとするが、菅波にその気配はなく、繋いだ手が間伸びする。
    「先生、電車来てますよ?」
    「すぐ次が来るから走るほどじゃないかと思って…」
    段飛ばしで階段を上がって百音に並びながら、少し焦った口調の百音に菅波が普段通りの口調である。

    並んで階段を上がるその間に電車が発車した気配があり、ホームに登り切ったところで次の電車が入ってくる。それに乗り込んだ百音が、うーむ、と何やら考える顔になるのが菅波にとってはそれもかわいいと思ってしまう。
    「どうしました?」
    菅波がその顔を覗き込むと、百音が口を開く。
    「やっぱり先生は都会の人なんだなぁ、と思って」
    「そうですか?」

    「私だって、知ってるんです。東京は電車の本数が多いって。だけど、やっぱり電車がそこに来てるって気配があったら、絶対、急がなきゃ!って思っちゃう。気仙沼駅から電車乗る時ってそうだったから。でも、先生はそうじゃないんだなぁ、って」
    ふむ…という顔の百音に、菅波が微笑む。
    「気になりますか?」
    その問いには、首を横に振る。
    「気になる、というよりは、そうなんだなぁ、って、また知らなかった先生のことが一つ知れたな、って思って」

    「ですね。僕も、永浦さんが電車に乗るときにそう感じるんだ、って知らなかった。どういう路線になるか、分かっている時は共有するようにしますね」
    「ありがとうございます。お願いします」
    礼を言いつつ、まだ、ふーむ、と感嘆した様子の百音に菅波の目は細くなったままである。

    あれこれ話をしていれば、新宿ー池袋間はあっという間である。また人の流れに巻き込まれながら電車を降りてホームから駅の外を目指す。新宿に池袋と都内でも屈指のターミナル二か所を一日に通るのも百音には初めてで、ひとりだったら絶対に迷ってたな、と内心で舌を巻いている。菅波とて用がなければ来ない場所だが、それでも流石に大きく迷うことはなく、折々に頭上の案内板を見ればいくべき方向は拾いとれる。

    地下の通路を抜けて階段を上がり、地上に出て振り返れば、すでにターミナルビルははるか後方である。
    「先生が、東京の人口は1300万人だって言った理由がなんかものすごーく分かった気がします」
    百音がこぼし、菅波が笑う。
    「言ったでしょ?もし僕たちが全く違うエリアに住んでいたら、ばったり、なんてことはなかなか考えづらい。あ、ちなみに最新の東京の人口は1396万人で、ほぼ1400万人なようです」
    「本当に、偶然の偶然だったんですね、また会えたの」
    「まぁ、あなたの会社があのエリアにあることは知ってはいましたが…」
    「え?!そうなんですか。だったら先生の病院にも近いって教えてくれててもよかったのに…」

    つい口をついた、という菅波の発言に百音が言葉を重ね、菅波は言葉を濁す。
    「いや、その、まだ永浦さんが働けると決まってたわけでもなかったですし…」
    「そうですけど…。私も先生の病院がそこだ、って知ってたらなぁ」
    「というか、永浦さんは僕の勤務先の名前の覚えてなかったじゃないですか」
    そういわれると、そのあたりをぼんやりとさせていた百音は苦笑しかない。

    談笑を交わしながらゆるゆると歩けば、高層ビルを核にした商業施設にたどり着く。その中層階にある水族館を目指しながら歩いていると、ある案内板を目にした菅波が、あぁ、と呟く。
    どうしたんですか?と百音が聞けば、あれ、と指差すのは、近隣の交通機関への案内である。

    「有楽町線の東池袋駅が近いんだなって。だとしたら、帰りは有楽町線から新富町まで行けばいいのかと思って」
    「そこから乗り換え?」
    「いいえ、そこから汐見湯もウチも徒歩圏です」

    歩いて行けるところにもひとつ駅があるって知らなかったです、と百音が言うと、多分、東銀座駅からも歩けますよ、とさらに追加情報がもたらされ、東京って…と百音が困り顔になるのを、菅波が慰めるように笑う。

    ふたりで電車に乗って出かけるだけで発見がたくさんで、そんな時間が愛おしい。
    水族館には何サメがいますかねぇ、と話をしながら歩きつつ、こうして相手のことを少しずつ知ることができることを、百音も菅波も言葉に出さず何より楽しいと思うのだった。
    ねじねじ Link Message Mute
    2022/08/16 18:10:54

    メトロポリスを電車で行けば

    #sgmn

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