イラストを魅せる。護る。究極のイラストSNS。

GALLERIA[ギャレリア]は創作活動を支援する豊富な機能を揃えた創作SNSです。

  • 1 / 1
    しおり
    1 / 1
    しおり
    そらより遥かな約束百音の27回目の誕生日のその日、二人が仙台駅で落ち合ったのは約束の1時間前だった。予定より1本早い高速バスを降りた百音が待ち合わせ場所に向かい、そこから見渡せるカフェを探すと、何やら論文を読む菅波の姿が見えた。やっぱり早く着いてる、と笑いながら電話を掛けると、慌てた様子で菅波が電話に出ているのが見える。

    「待ち合わせ場所に着きました!」
    「えっ?あ!」
    カフェの外を見て百音の姿を見止めた菅波ががたっと席を立つのが見えた。小さく手を振って見せると、「すぐ、すぐ行きます」と慌てて論文のファイルをリュックに突っ込む様子が見える。「慌てないで、待ってます」と電話を切れば、すぐに店を出て百音に向かう菅波が姿を現した。菅波が百音に駆け寄れば、待ち合わせ場所のステンドグラスのカラフルな光が二人を包む。

    「先生がどうせ早く移動するだろうなと思って、一本早いバスに乗りました」
    そういってニコニコする百音に、菅波は目頭をかきながら言う。
    「早い方がいいかと思って」
    「そんなことだろうと」

    ふわりと手を繋いで嬉しそうに自分を見上げる百音に、菅波は眩しそうに笑った。

    「今日、先生に会えるの、とっても嬉しいです。お天気ももってよかった。一週間前から天気図とずっとにらめっこしちゃった」
    「僕もうれしい。多分、今日、たくさん言うと思うけど、百音さん、お誕生日おめでとう」
    「ありがとうございます。誕生日の当日に会えるのって…」
    「5年ぶり」
    「ほんとに?あー、台風もありましたしね。そっか」
    「うん。だから、こうして会えて、うれしい」
    「うん」

    ぶらりと歩き出しながら、ゆったりと会話が続く。二人とも昼ごはんがまだだ、ということで、百音が莉子に聞いていて気になっていたという駅近くのスープカレーの店に足を向けた。比較的広い店舗で時間外れということもあってすぐに席に案内される。二人でメニューを覗き込めば、カレーの種類が豊富で、また野菜の切り方やスープのタイプ、カレーの辛さなどいろいろカスタマイズできる項目も多く、百音はあれこれと目移りする。あれかこれかと百音が楽しく悩む様子に、菅波の目じりはさがりっぱなしである。

    注文を通せば、高速バスと新幹線で見かけたあれこれについて話が弾む。高速バスの隣で、何やら勉強している学生がいて、スクーリングに通っていた頃のことを思い出した、という百音の話に、菅波も懐かしい表情になる。菅波が登米に通っていた頃、普段は新幹線を使っていたが、たまに登米から仙台へのバスで百音と一緒になることがあった。その時には、百音もテキストを開いて予習に余念がなかったことを目撃している。前髪があったのころからの時間をふと仙台で思い出すと面映ゆい。

    じきにスープカレーがそれぞれの前に配膳されると、スパイスの香りが食欲をそそる。いただきます、と手を合わせて食べながら、この休みの過ごし方の話になった。

    「この後、ホテルにチェックインして荷物を預けたら、天文台に行きませんか?」
    「天文台?」
    「うん。仙台に二人で来ても、駅近くか水族館ぐらいしか行ってないでしょう」
    「確かに」
    菅波の言葉に、百音がうんうんと頷く。7月に仙台に一泊した時も、水族館に行った以外は駅近くでぶらぶらとした程度だった。

    「山の方に行ってみるのも面白いかと思って。プラネタリウムもあるし、土曜の夜は公開天体観測もやってるんだって」
    「面白そう!行きたい!」
    「よかった」
    わくわくとした百音の様子に、菅波がほっとした表情になる。明日以降の過ごし方は二人で相談するにしても、今日という日ばかりは何かしら考えねばと仙台の地図を前に頭をひねった時間は楽しくも悩ましいでもあった。

    お互いのスープカレーを交換して、百音の4辛に瞬きが増えた菅波にかぼちゃ!かぼちゃ食べてください、と百音が大ぶりの素揚げのかぼちゃを譲り、菅波の普通の辛さのトマトベースのカレーに、百音が先生にしては冒険した味、と笑う。約一か月ぶりの一緒の食事が楽しく、それが数年越しに百音の誕生日当日に過ごしている日となれば、しみじみとうれしい。

    気持ちよく空腹を満たした後、宿泊先にチェックインして荷物を預ければ、身軽になって出かける支度が整う。バスに乗って30分ほど揺られれば、山をしばし上った先の天文台にたどり着いた。バス停から見える白く優美な建物に期待が高まる。展示とプラネタリウムの入館料を支払い、プラネタリウムの開始時間を確認する。天体観測の実施は19時30分の判断で実施となったらアナウンスが流れるのでまた受付で手続きと支払いを、という流れも聞いて、さて、と館内に足を踏み入れた。

    15時を軽く過ぎた館内は適度な混雑で、手を繋いだ二人はぶらりと展示を目指す。展示の導入エリアのダイナミックな宇宙のスケールを体感させつつ「天の川銀河」に焦点をあてたイメージ映像を楽しみながらすすめば、地球エリアでは地球の自転・交点・歳差運動、季節ごとの太陽高度の変化と四季の移り変わりの関係や緯度の違いによる太陽高度の違いなどのトピックが、地球・月の動きによって人間の時間感覚が成立していることを入口として、天体・天文への好奇心を結びつけるストーリーとして各項目を繋ぐ軸になっている。

    その奥には、大気圏エリア、近宇宙エリアと徐々に範囲を広げながら、複数のトピックをテーマごとに整理した展示が続く。菅波も各展示を面白く見るが、特に百音にとっては、いつも見上げる空とその向こう側にダイレクトにつながっている世界のことを知ることが楽しく、また、伝えたい専門的な知識をどのように噛み砕き、ストーリーだてすることでわかりやすく伝わるかという実例がとても勉強になる。特に仕事領域と重なる大気圏エリアでは、なるほど、こういうつながりで説明を組み立てるのか…など呟いたり頷いたりして展示を見ている様が、菅波にとってもうれしい。

    一通りの展示を周囲の倍以上の時間をかけて見終わり、プラネタリウムの開始時間まで少しあるから、と天文台内のカフェで一休みすることにする。オープンエリアにキッチンカーをベースにした店舗があり、空や宇宙にちなんだメニューなどが並ぶ。何にしようかな、とメニューを覗き込む百音が、デコレーションされた団子にどうも惹かれている様子に、菅波は口許を緩め、お団子食べたい?と聞くと、食べたい!と百音が顔を綻ばせる。

    イチゴショートという名前の団子と星空サイダーが載ったトレイを百音が嬉しそうに受け取り、菅波はホットのドリップコーヒーのカップを手にして、オープンスペースの一角に陣取る。

    「どの展示も面白かったですねぇ。わかりやすさと専門性のバランスも、とっても勉強になりました」
    「ね、面白かったし、勉強になった。空と宇宙って、ほんとにひとつながりなんですね」
    「私はもっぱら大気圏の仕事ですけど、会社には宇宙天気予報を事業化したいって考えてる人もいるんですよ」
    「へぇ。太陽風を予報して衛星の観測機器への影響を事前に予報しようってこと?」
    「とかとか。社長には、まだまだダメ出しされてますけど、面白いでしょう?」
    「面白いね」

    美味しそうにイチゴショート団子を頬張りながらあれこれと話す百音の話を、菅波は先ほど見た展示で得た知識や一緒に勉強した気象予報士試験の知識を引っ張り出しながら相槌を打てば、とても楽しい時間になる。菅波が登米に専従していた頃、こうして対面や電話で、取り留めなくお互いの仕事の話をしては意見を交わしていく時間が折々にあったが、この2年半はそんな余裕はなく、7月や8月の再会の頃は空白の時間を埋め、諸手続きに追われ、となかなか平時の時間とは言い難かった。緩やかに日常を取り戻している、そんなふうにも思える時間を百音の誕生日に過ごせていることが、二人ともしみじみとうれしい。

    プラネタリウムでは、投射される全天の映像に圧倒されつつ、研究員のライブ解説が軽妙でとても面白い。天体望遠鏡の技術的な進歩がどのように宇宙の姿を解明していったのか、暗い天体や目に映らない光の観測、ニュートリノや重力派といった見えない宇宙を垣間見る世界に、二人とも引き込まれていく。手を繋いで作り出された宇宙を見上げれば、百音の目はきらきらと輝き、菅波はプラネタリウム半分、百音半分といった割合でその時間を楽しむのだった。

    プラネタリウムを出る頃には陽が傾いている。天体観測開催判断までは時間があるので、と天文台の外に出れば、そこは惑星広場と名前がついていて、観測棟を太陽に見立て、水星から木星までの太陽系惑星軌道が75億分の1のスケールでデザインされていると説明があった。75億分の1って数字が天文学的だな、と菅波がいい、天文学ですから、と百音が笑う。二人で手を繋いで、夕焼けから薄闇に変わる光の中、曲線を描く惑星軌道を拾いながら歩くと、先ほどプラネタリウムで見た宇宙を散歩しているような、そんな気分になった。

    広場をぶらぶらし終わって建物に戻ると、ちょうど天体観測会の開催決定がアナウンスされているのが聞こえた。いきましょ!と百音が声を弾ませ、菅波も頷いて受付を済ませる。受け取った受付票を両手に持ってわくわくしている百音が、誕生日に先生と一緒に星を見れるなんてうれしい、と素直に言うもので、そのかわいらしさに菅波は思わず口許を手で覆う。

    案内に沿って、観測会の注意事項を望遠鏡そばの待機室で聞き、順番を待つ。長机に座ってそわそわと待つ百音の手を菅波がそっと握ってとんとんとすれば、百音がふわりと笑った。順番が来て、観測室のぐるりを囲むギャラリーに展示された写真を見ながら、望遠鏡の元を目指す。観測室に入ると、口径1.3メートルという大きな望遠鏡が目の前に現れ、その存在感に二人して感嘆の声が出る。こういう大きな機械を見ると、わくわくするんですよねぇ、と目を細める菅波に、百音も嬉しそうである。

    順番が来て望遠鏡を覗き込めば事前の説明通りに、はくちょう座の二重星のアルビレオが見えた。北十字を構成する星のひとつで、最もコントラストが鮮やかな二重星とも言われるという。宮沢賢治が『銀河鉄道の夜』でサファイアとトパーズに例えたというその色味は確かに鮮やかに美しい。青い星と黄色い星が並ぶ様に、二人とも言葉を忘れて時間いっぱいまで見入るのだった。

    荷物を置いた待機室まで、きれいでしたね、となかなか語彙力が追い付かない感想を延べつつ戻りながら、ふと思い出したように百音が言う。

    「サファイアとトパーズに宮沢賢治が例えていた、って解説の方が言ってましたけど、9月の誕生石ってサファイアなんですよ」
    「そうなんだ」
    「誕生日に空のサファイアを見れて、とっても嬉しい。天文台に誘ってくれて、ありがとうございます」

    にこにこと言う百音に、菅波は照れつつ、どういたしまして、と笑う。誕生日に誘う場所に天文台がどれほどふさわしいのかと、考えた後も悩みに悩んだが、こうして喜んでもらえて、心からの安堵を覚えるのだった。

    観測会への参加を終えた二人は、またバスに揺られて市内へと戻る。とっぷりと日が暮れた中、それなりに山道を抜けるバスに揺られていると、隣り合って座った菅波の体温で気が緩んだか、百音がうとうととなる。菅波はその様子に小さく笑みを浮かべ、椅子に少し深く座り込んで、自分の肩に百音の頭をもたせかけた。

    仙台駅に着いて、むにゃむにゃとなっている百音をそっと起こして、チェックイン済みのホテルに向かう。カードキーを受け取って部屋に入れば、フロントで預けたそれぞれの荷物が届いている。

    いい景色!と、窓際のソファに腰を下ろした百音の横に菅波も座って口を開く。
    「どうしたいか百音さんに聞いていいか、悩んだんだけど。天文台の時間が読めなかったので、実は晩ごはんの手配を何もしていなくて」
    申し訳なさそうな菅波の言葉に、百音は首を横に振る。
    「天文台に行けたの、とっても嬉しかったから。何か予約があって焦るよりよかったですよ」
    百音の言葉に、ありがとう、と深々頭を下げて、菅波が続ける。
    「でね、やっぱり遅い時間になってしまったので、選択肢が、このホテルのバーに行くか、インハウスダイニングにするかなんです。百音さんの気が向く方で…どうでしょう?」

    手配ができていないことを詫びられるが、何があるかは調べた上で選択を委ねてくれることに、百音はむしろ大切にされているなぁ、とうれしくなる。せっかくだし、バーに行ってみたいです!と選べば、じゃあ早速、と菅波が内線でこれから2名、と連絡を入れた。席は空いているということですぐに26階に向かえば、仙台の夜景を一望できる窓際のテーブル席に案内された。

    「先生とバーに来るなんて、いつぶりでしょ?」
    「いつぶりでしょうねぇ」
    ゆったりした雰囲気を楽しみつつ、何にしようかとメニューに額を寄せ合う。お祝いですから、やっぱりシャンパンでは?とグラスのシャンパンと、食事物をいくつか。

    適温でサーブされたシャンパンがふわりと薫る。
    「お誕生日、おめでとうございます」
    グラスを恭しく掲げる菅波に、すまし顔で「ありがとうございます」と百音は礼を言って、自分もグラスを掲げた。
    二人同時にグラスに口をつければ、天文台を歩き回った体に沁みる。

    「あぁ、おいしい」と百音の顔がほころび、うん、と菅波も笑顔でうなずく。ハイティースタンドでサーブされた仙台牛のミニバーガーやチップス、シーフードのグリルなど、軽めの食事も、むしろ話が弾みやすい。今日の天文台の展示やプラネタリウムを振り返れば、話す内容は尽きない。

    シャンパンの後、あと一杯は、とバーのオリジナルカクテルを飲んだ後、百音が手洗いにと席を外す。そのタイミングで、バーの店員に菅波が声をかけ、数言の相談すると店員は諾を返す。百音が席に戻り、残った食事を二人で平らげたところで、ハーブティーが置かれる。百音が頼みましたっけ?と菅波を見、菅波が夜遅めなのでノンカフェインにしてみました、と笑う。

    あたたかいお茶を飲んでほっとしている百音の前に、Happy Birthdayの文字が皿にデコレートされたデザートプレートがサーブされた。
    「えっ?予約してなかったのに?」
    驚いた顔をする百音に、こめかみをそわそわとかきながら、さっき、と菅波が笑う。さっき、百音さんが席を外している時に相談しました。間に合わせになってしまって、なんていうか締まらない…と自嘲気味だが、なんとも自分たちらしい誕生日だ、と百音はうれしさでいっぱいになる。
    「うれしい。ありがとうございます」
    百音が笑顔になったところで、店員が良ければ写真をお撮りしましょうか、と声をかける。ぜひ!と百音が自分のスマホを差し出し、プレートを挟んで二人の写真を撮ってもらう。撮ってもらった写真を見て、やっぱり先生、ちょっと緊張した顔になっちゃうと百音が笑い、もう諦めてください、と菅波も笑った。

    急ごしらえながらも心づくしのデザートを食べ終え、ほろ酔いの気分で部屋に戻る。ぽふりと百音がベッドに座ったところで、菅波があぁあ、と何やら言いながら、自分のキャリーケースを開けて中身をひっくり返しだした。百音がクエスチョンマークを頭上に浮かべながらその様子を見ていると、キャリーケースの奥底から、何やら黒い紙袋をやっと取り出した菅波が顔をあげ、その様子をずっと見られていたことに照れ笑いになった。

    「もう、色々と締まらなくて…」
    百音の隣に座りながら、菅波が紙袋から黒い箱を取り出す。
    「ここで渡すのはかさばらないものがいいかなと思って」
    誕生日おめでとうございます、とまた頭をさげつつ差し出された両掌に乗るほどの箱を受け取った百音が、その蓋を開けると赤いバラのプリザーブドフラワーが目にも鮮やかに姿を現した。

    「わぁ!きれい!ありがとうございます」
    言いながら箱の蓋裏に目をやると、12輪のバラの意味が書かれている。ダズンローズと呼ばれる、バラに12の意味を込めたアレンジメントの意味を理解し、百音が菅波を見つめる。

    「ほんとはプロポーズの時とか結婚式の時によく贈られるものなのだそうだけど。結婚式はまだ詳細も決めてないし、プロポーズも過ぎてしまったしで、あなたが産まれた今日、贈りたくて」

    そわそわと手を膝や首元にやりながら話す菅波に、百音が笑顔で抱き着く。抱擁を返しながら、ありがとうございます、という百音の思い一杯の言葉を耳元にうけて、菅波の口許は緩みっぱなしである。しばらく抱き合った後、抱擁を解いた菅波が、それとね、と紙袋からもう一つの小さな箱を取り出した。百音も見おぼえた、ターコイズブルーである。オーダーした結婚指輪の受け取りはもう少し先では?という顔の百音の左手をとって、その上にその小箱をのせ、その手を箱ごと包んで胸元にすすっと押し戻した。

    菅波の両手が離れたところで、百音が箱を開けると、中には小さなダイヤモンドが一つ埋め込まれたシンプルな指輪が一つはいっていた。

    「先生、これ…?」
    百音の問いに、またそわそわと菅波が口を開く。
    「うーん、何指輪かは位置づけが不明瞭だなと自分ながらに思うんですが」
    菅波らしい小理屈が入った発言を、百音はふむふむと傾聴の体勢である。
    「婚姻届は出したけど、結婚式はまだまだ先になりそうでしょう。気仙沼と登米の意向もあるし。別にその前に結婚指輪を着けてしまってもよいのだけど、それをどうするかも出来上がってからだし…」

    それで、とその指輪を指さす。
    「ブティックに相談して、結婚指輪と重ね付けもできるっていう同じデザイナーの指輪を。あなたにだけ、結婚したことに先んじてなにか身に着けてほしい、なんて、完全に僕のエゴでしかないのだけど、やっぱり贈りたくて」

    菅波の言葉を聞き、そこに詰まった思いを受け止めた百音が、そっと指輪を指先で撫でる。
    「ありがとうございます。確かに何指輪かよくわかんないけど、こうやって考えてくれたの、うれしいです」
    その言葉にほっとした菅波の頬に、百音が素早くキスを贈り、二人して照れ笑いになる。

    「指輪、つけてくれますか?」と百音がいい、菅波が「はい」と返事をする。
    菅波が箱から指輪を取り上げようとしたところで、ん?と百音が声を出す。
    「どっちの手のどの指につけるといいんでしょう…?」
    「あぁ…。確かに…」

    サイズは結婚指輪と同じサイズにしたけど、左手薬指?でも結婚指輪を最初に着けたい気もする。多分右手もサイズに大差ないから、右手薬指にする?でも、今のステータスは婚約ではない…。他の指…もサイズが合えば、っていうか、各指の意味知ってる?いや、知らないです…。

    甘やかなムードもなく、二人でああでもないこうでもないと議論をしてしばし。やっぱり左手薬指は結婚指輪にあけておきましょう、右手薬指で!と百音がジャッジを下し、はい、と菅波がうなずく。

    菅波の指が繊細に指輪を取り上げ、百音の右手をとって薬指に約束のかたちを贈る。
    しっくりと右手薬指に収まったそれを、菅波が親指でそっと撫で、百音がうれしそうにその様子を見る。
    「ありがとうございます。ずっと、大事にします」
    百音の言葉に、菅波は黙ってうなずく。ずっと百音の首元に添ってきたネックレスと同じデザイナーの指輪を付けた右手が、そのチェーンを撫で、それが寄り添ってきた時間を振り返る。それよりも長い時間を一緒にこれから、というのは二人とも同じ。今日、望遠鏡で見たアルビレオの黄色と青の二重星のように、ずっと一緒に。未来へ。
    ねじねじ Link Message Mute
    2022/09/17 16:25:22

    そらより遥かな約束

    #sgmn

    more...
    作者が共有を許可していません Love ステキと思ったらハートを送ろう!ログイン不要です。ログインするとハートをカスタマイズできます。
    200 reply
    転載
    NG
    クレジット非表示
    NG
    商用利用
    NG
    改変
    NG
    ライセンス改変
    NG
    保存閲覧
    NG
    URLの共有
    NG
    模写・トレース
    NG
  • CONNECT この作品とコネクトしている作品