プレミアムなトーク 菅波光太朗『晴れてるのに雨!"キツネの嫁入り"』とキャプションのついた傘を差した子供の写真
そこからカットが切り替わり、青チェックのシャツを羽織った男性が写る。
「東成大学医学部附属病院 呼吸器外科の菅波光太朗です。本日はよろしくお願いいたします」
慣れない様子で軽く頭を下げる。
「おはようございます。9月24日のイチあさ、本日のゲストは菅波先生です、よろしくおねがいします!」
「わぁ!本当に菅波先生に来ていただけました!」
司会の代吉と錫木アナが華やかな声をあげた。
「今日はお忙しいところ来ていただいてありがとうございます。ねぇ。我々も、先生と永浦さん、ついにご結婚かなと思っていたのですが」
「えぇ、まぁ、彼女が島に向き合うなら、それは一番大切なことですので…」
「というわけで、私も心の祝儀袋はちょっと仕舞わせていただいて…」
「今日は色々とお話聞かせてください」
それぞれの席に座った錫木アナ・菅波・代吉・花圓。
「改めて、今日のゲストは東成大学医学部附属病院とよねま診療所にお勤めの呼吸器外科医の菅波光太朗先生です。菅波先生はですね、指導医の中村先生と交代で東京の大学病院と宮城の診療所を1週間おきに勤務していらっしゃいました。その後、大学病院に籍を残したまま、診療所に2年間専従され、このたび、一度大学病院に戻ることを決められた、ということです」
錫木アナの紹介に菅波がうなずく。
「地域医療にほぼ専念していましたが、学ばなければならないことも多いということを改めて痛感し、一度戻ることになりました」
「でもねぇ、そうすることでまた永浦さんとはすれ違いになるっていう…」
「花圓さん、その辺はまた順々に話を聞きましょう」
「そうですね」
「で、ですね。今、話題にでた永浦さん。永浦百音さんとはよねま診療所が併設されている、登米夢想という施設でお知り合いになったんですよね。で、ひょんなことから森林組合の職員だった永浦さんの気象予報士試験の勉強をみることになった、と。そのあたりの話からまずお聞きしたいなと思うんですが…」
錫木アナの問いに、こめかみをかきつつ、菅波が口を開く。
「その年に登米夢想という施設に着任したのが僕と永浦さんでしたので、顔は見知っていました。とはいえ、仕事上の接点は基本的に無かったですし、ありていに言えば縁故採用で頼りないところもあった永浦さんには森林体験で小学生児童の安全確保に問題があったりと、未熟な面も目に付いたので…」
「『甘えてますよ』ってなかなかでしたもんね」
花圓の言葉に、菅波は縮こまるしかない。
「よくご存じで。あの、それはもう、自分もまだ未熟でしたから…」
それに代吉が言葉を重ねる。
「それがねぇ、今や保留してでも結婚を手放さない菅波先生なわけですよ。でも、登米の頃は全然なんでしょう?」
「それは、はい。一緒に勉強をしていたのも、永浦さんが知識を身に着ける、その後は気象予報士試験に合格する手助けをしたかったからですから」
「というわけで、そのあたりのお話を、ずっと二人を見守ってこられた、この方に伺ってきました」
錫木アナの振りでVTRが流れる。
「菅波先生!こんにちはー!新田サヤカです。インタビューがんばってねー!」
画面右上のワイプの菅波の表情は、ひたすら照れくさそうである。
<登米に来た頃の菅波先生の印象はいかがでしたか?>
「誠実そうだけど、なかなか殻もある感じの若い先生が来たねぇ、って感じでしたよ。ちゃんと仕事はするけど、人との交流の一線は越えません、っていうね」
<そんな菅波先生が永浦さんの勉強につきあうようになってどうご覧になってました?>
「最初はあの菅波先生が、ってびっくりしましたけど、モネはモネで一生懸命先生の話にくらいついてくし、先生もだんだんと生き生きしてねぇ。若いっていいねぇ、って見てましたよ。周りの連中はなんかあんでねかってはやし立ててたけど、あの時はほんっとに全然でねぇ。先生も絶対、テーブルの一番遠いとこ座って、モネが何か誤解されないように守ってましたね」
<でも、そんな二人を『熱の伝導』でソファに導きましたね>
「ちょっとは動かしてみようかと思ってみて。でもまぁ、その後も見事になんもないまんま。先生が『登米の頃は全然』っての、それはそれでほんとなんだと思いますよ。あくまで師弟愛みたいなね」
<今の菅波先生に一言どうぞ>
「せんせーい。いっつも私らのこと気にかけてくれてありがとうございます。たまにはわがままになって、自分のことも大切にしてくださいねー。私らはいつでも先生とモネが登米に帰ってくるの待ってるから!」
VTRが終わり、照れくさそうな菅波がうつる。
「いやぁ、さすがサヤカさんですねぇ」
代吉の言葉に菅波も頷く。
「ほんとに『登米のころは全然』だったんですね、サヤカさんから見ても」
「いや、ですからそう言ってて。はい」
「続いてですね、もうお一方。菅波先生をよっく知る方からもメッセージいただいてきました」
錫木アナの言葉に嫌な予感がしている表情の菅波。VTRに中村の顔が写り、やっぱり…とワイプ上で嫌そうな顔が捉えられる。
「東成大学医学部附属病院の中村です。菅波先生、こんちはー!」
ワイプには引き続き、何を言われるのかハラハラと頭を抱える菅波の姿。
<指導医のお立場から見た菅波先生について>
「優秀ですよ。最初に登米に行った頃はまだ新人医師から一歩踏み出したというような時期でしたが、診療所を担当するにあたっての勉強も熱心でしたし。ちょっとね、破ってほしいなーって殻はあったので、多少無理やりには巻き込んだところもありますが、それでも状況に食らいついてましたからね」
<最初の頃と今とで、どう思っていらっしゃいますか>
「いやぁ、殻は破って成長してくれましたけど、びっくりもしますよねぇ。地域医療に目覚めてくれたのはうれしいですけど、専念すると言われちゃうと、やっぱり菅波先生の医者としてのキャリアも色々考えないといけないですから。でも、そうやって自分自身で道を見つけていってくれていることが頼もしくもありますね」
<中村先生も菅波先生と永浦さんをずっと見てらっしゃいました>
「菅波先生と永浦さん、勉強会の頃から、いい影響を与え合っていたんでしょうね。僕なんか、隔週で登米に行くたびに、森林組合や椎の実の常連さんたちから、先週の菅波先生と永浦さんの話を毎回聞かされて。まぁ、菅波先生だから大丈夫だと信じてましたが。東京に来てからは、ちょっと後押しもしましたけどね。もう師弟関係が解消された後でしたから」
<チーム鮫島のサポートですね>
「やっぱり、お互いを知るには、一緒に仕事をするのが一番ですから」
<では、最後に菅波先生に一言お願いします>
「菅波先生!東京に戻ってくるの、待ってますよ!」
VTRが終わり、写っているのは俯いて両手で顔を覆っている菅波の姿。
「菅波先生、大丈夫ですか」
花圓の声に、かろうじて頷き、菅波が顔をあげる。
「なんか、中村先生の暗躍があったみたいですね」
代吉の言葉に、菅波は苦笑して頷くしかない。
「サヤカさんと中村先生には感謝しています。永浦さんとのことだけではなく、医者としての成長をさせてくれたのは、まさしくあの二人の作った場所の導きなので」
体勢を立て直して言う菅波の大人の対応に、きゃーと小さく黄色い声をあげる錫木アナ。
「ねぇ。あの診療所に菅波先生が通わなかったら色々な出会いがなかったですもんね。しかし実際、外科のお医者さんが、地域の診療所でいろんな病気を診たり、訪問診療に関わるとか、できるものなんですか?」
花圓の質問に、菅波がそちらに体を向けて答える。
「まぁ、できます、ね。外科というと手術が思い浮かぶと思いますが、本当に手術だけやる外科医というのは少ないんです。手術前後の患者さんを診るには一定程度の内科の知識は必要ですし、それも勉強します。その上で、高い専門性が必要なことは、それぞれの領域の医師に相談します。なので、地域の診療所でも訪問診療でも、まずは自分でできる範囲の治療や投薬をしながら、専門家に委ねるべきラインを見極める、それが大切だと意識しています。気象も医療もチーム戦ですね」
菅波の話をふむふむと聞いていた3人が、最後の一言にうわぁああと悶える。
「なんか最後のひとこと、普通に惚気じゃないです?」と花圓が呟き、「菅波先生、ほんとナチュラルに惚気るんですね」と錫木アナが身を乗り出した。
本人的には当たり前すぎて惚気とも思っていなかった菅波は、指摘をうけて耳を赤くしてもじもじとしている。
さらにつっこみたい気持ちを抑えつつ、代吉が話を軌道修正。
「なるほど。でもねぇ、初めの頃は週ごとに東京と登米と往復しながらですから、やっぱり大変なこともおありだったかと」
「いえいえ」
「そんな中、永浦さんの気象予報士の勉強も並走されて。先生も結構勉強されたんですよね、気象予報士試験のこと」
「教えるためには自分でも理解しておく必要がありましたから。最初の方は初歩的な内容が多かったですし。先ほどの診療所勤務の話にも繋がりますが、本業の勉強はずっと続ける必要があるもので、その中で違う分野のことを勉強するのは息抜きになって、自分のためにもなっていましたね」
花圓がのけぞってみせる。
「勉強の息抜きが勉強ですか」
「新しい知識を身につけるのは楽しいですしね」
「だのに、永浦さんには四六時中落ち込んでるのかとか言われちゃって」
そのころを思い出したか、菅波がふわりとほほ笑み、またその表情に錫木アナがきゃーと色めく。
「ねぇ。で、3回目の試験で合格して、登米から送り出して。寂しくなかったですか」
代吉の言葉に、菅波はうーんと首をひねる。
「そうですねぇ。2年間、勉強を並走してきて、寂しくないと言うと嘘になるかもしれませんが、試験合格という目標を達成して、自分が行きたいと思う方へ羽ばたこうとしていたわけですから、それは背中を押して見送るべきだ、とそう思っていました」
「東京で会う約束もしてなかったですよね?」
錫木アナの質問に、あいまいに頷く菅波。
「そう…ですね。する必要もないと思っていました。あの時、永浦さんは、これから新しい人間関係を始めていくタイミングだったわけで、昔の知り合いに気を取られている場合ではないですから」
花圓が言う。
「でも、その割に、再会した時には『納得いきませんね』でしたけど」
「それは!その、生活圏があれだけ重なっているのに出くわさなかったことと、いきなり出くわしたことへの疑問で…」
というわけでですね、と錫木アナがなにやらフリップを取り出す。
左から右に時系列が設定され、青色が途中で赤線に変わるグラフが描かれている。
「神野莉子さんのご協力の元、菅波先生が時系列でどんな感情の変化を抱いていたかを、グラフにしてもらいました!先生、これ作るの大変だったとお聞きしましたが」
「大変でしたね…。神野さんに根掘り葉掘り聞かれましたし、自分でも無意識のところを言語化する必要がありましたので…」
「早速見ていきたいと思うのですが」
「照れくさいですね…」
「まず、BRTのバスの時は0%なんですよね。そこから、勉強会をするようになって、青の線が30%になって。この青の線のところはどういう意味なんですか?」
「えぇと…。神野さんとも整理したのですが、線が青いタイミングは、いわゆる交友関係の一人として近しく感じていたということかと」
「なるほど。で、サヤカさんに自分の気持ちを伝えられない理由として、震災の時の想いを聞いて、手を差し出せなかった時に、線が赤に変わっていますね」
花圓が錫木の言葉にぐっと身を乗り出す。
「ここの変化、これ、聞きたいですねぇ。プロポーズまでつながってる赤い線ですもんねぇ」
その花圓の食いつきに、菅波がわずかにのけぞりつつ、首元に手をやる。
「そうですね…。思い返せば、ですが、あの時に『この人』のために自分ができることをしたい、と永浦さんとの関わり方の想いに変化があったな、と」
「ほほぅ」
さらに話を聞こうじゃないかという花圓に、菅波が向き合って真摯に言う。
「それまではあくまで交友関係の一人として勉強の手助けをしていましたが、あの時に、もう一歩近しくこの人を支えたい、というか」
「そこから、コインランドリーの再会でパーセンテージ上がってますよね」
「開き直って言いますが、再会できたことはうれしかったですから」
「そこからじわじわとあがっていって」
「一緒に仕事をして関係性が変わりましたし」
「ねぇ、牡蠣の箱も持たなかったのに。傘を持つようになって」
「あぁ、それはもう言わないでいただけると…」
「いやいや、大きな変化ですよ。で、そこから、60%になったところでまた変化が」
「あの時、ためらわずあててくれた手のぬくもりが、僕の凍っていた部分を溶かしてくれたのだと思います」
思いのこもった表情で両手を膝に置いた菅波の言葉に、一同頷き、代吉が話を続ける。
「もう、そこからはうなぎのぼりで」
「いや、もうそれは」
「で、ですね、永浦さんの方はどうだったか、というのも、実は神野莉子さんが聞いてグラフにしてくれています」
錫木アナの言葉に、菅波がえっ?!と顔をそちらに向ける。えー、神野さんと永浦さんには、内緒にしていただくようにお願いしました、と錫木アナが続け、菅波が緊張の面持ちになる。
どん、と出てきたフリップには、コインランドリーでのハグのタイミングからおもむろに実線が右肩上がりにのび、それより前には超低空飛行の点線が描かれていて、それを見た菅波から「へ?」という声が出た。
「えーっと、これ…は?」
花圓の問いに、手元のメモを錫木アナが読む。
「神野さんがのまとめによりますと、コインランドリーで菅波先生に抱きしめてもらうまで、自分の感情を自覚していなかったということで、その時点までは超低空飛行でかつ点線にしました、とのことです」
「え、菅波先生が60%とか70%とかになっていっているあいだも?」
花圓が重ねた問いに、錫木がうなずき、代吉が言う。
「菅波先生、その間独り相撲じゃないですか。独り相撲の大横綱ですよ」
花圓のツッコミに、菅波は両手で顔を覆ってうつむいている。
その菅波に、代吉がやさしく声をかけた。
「でもねぇ、その後は、もうずっと、とっても仲良しでいらっしゃるわけだから」
「ありがとうございます…」
「まぁ、『見せつけますか』にはびっくりしましたけど」
「あれ、何を見せつけるつもりだったんですか?」
錫木アナの問いに、菅波がぼそりと答える。
「あの…まぁ、手を繋いで中庭にでも逃げようかなと」
「あぁ、なるほど…。というところでですね、永浦さんからもビデオメッセージいただいていますので、ご覧ください」
「えぇ、聞いてないです…」
「これも内密にしていただきました」
VTRに画面が切り替わると、どこかの部屋の窓の前に座った百音の姿。
<菅波先生はどんな方ですか?>
常に正しく、フェアであろうとする人だと思います。私にとっても、いつもそういてくれるので、信頼しています。
<ずっとお二人は遠距離で関係をはぐくんでこられました>
登米と東京で離れていて寂しいこともありますが、お互いの仕事のことは理解していますし、そうできるのも先生と一緒だからと思っています。
ワイプの菅波は百音が何を言うかハラハラしつつ、百音の一言一言をかみしめてもいて、表情の変化がせわしない。
<お二人の今回の決断は>
結婚を保留ということにはなりましたが、お互いに今、目の前の大事にすべきことを大切にして、無理なく、急がない、が私たちだと思うので、見守っていただければ、と思います。
短いVTRが終わり、感無量の表情の菅波が写る。
錫木アナたちも百音の言葉と菅波の様子に、何かをかみしめる様子。
「これでご結婚されてないんですっけ?ってぐらいの、お二人の落ち着きですよねぇ」
「本当にねぇ」
花圓が感心したように口を開き、代吉も頷く。
「このVTRも神野さんが撮ってくださいましたが、『本当に、永浦さんが菅波先生を信頼しているんだなぁ、としみじみしました』とのことです」
という錫木アナの読み上げに、とにかく照れくさくもうれしそうな菅波。
その菅波をほほえましく見つつ、錫木アナが続ける。
「神野さんもずっとお二人を見守ってこられたおひとりですが、ここで、もう一つ、お二人を見守ってきた方からの特別VTRをご覧いただこうと思います」
「ん?スーちゃんさんですか?」
代吉の問いに、錫木アナが首を振り、VTRをご覧ください、と振る。
VTRに移ると、画面にうつったサメのぬいぐるみ。今までの人名紹介のところに『サメ太朗』の文字。画面右下に「※特別な許可の元、特別なカメラとマイクで撮影しています」の文字。
『こんにちはー!サメ太朗ですー!』
<サメ太朗さんはBRTで菅波先生と永浦さんが一緒になった時を見ていますね>
『そーなの!あの時はねぇ、スガナミがちょう、しおっしおで。サメの話を笑顔でしてドン引きされてたし、モネちゃんに絵本よめとか言っちゃうし、もー、ダメダメだった!荷物も持たないし。んで、ひよわそうって言われたらふふくそーだし、ナカムラセンセーにふっとばされてるし』
<その後、菅波先生のことをおうちでずっと見守ってこられました>
『あのねー、モネちゃんのことでね、めっちゃソワソワしたり、モダモダしたりしてた!サメ棚のみんなでねー、そりゃもうハラハラしどおし!てんぺんちいかな?ってぐらい。ジンベエザメくんなんか、たまに心配しすぎて息とまりそうになってたの!そんでねー、仲良しになってからはねー、ずっとデッレデレなの!ばくはつしろ!って感じ!』
<菅波先生が登米に行ってからは永浦さんのところにいましたね>
『スガナミがモネちゃんのそばにいられないから、その代わりにぼくがずっと支えてたんだよ!モネちゃんが寂しい時はぼくをぎゅーってだっこしてたし、いろいろお仕事の話も聞いたりしてた!そんでねー、モネちゃんがぼくに腹巻きを編んでくれて、残りの毛糸でスガナミのマフラーを編んだこともあるんだよ!でもねーなんだかんだ、ふたりがずっと仲良しなのが、ぼくのじまん!』
<菅波先生にひとことどうぞ>
『スガナミ、がんばー!』
<これからもお二人のこと見守ってください>
『もちろん!あのねー、二人はね、離れててもだいじょうぶ!スガナミはね、モネちゃんじゃなきゃダメだし、モネちゃんも、スガナミじゃなきゃダメなんだよ。んで、真ん中にぼくがいるの」
<ありがとうございました>
『どもどもー!』
VTRが終わって、頭にクエスチョンマークだらけの菅波がうつる。
「以上、お二人のはじまりからを知る、サメ太朗さんでした」
「いやぁ、サメ太朗さんのお二人を見守ってきた感半端ないですね」
特に疑問を抱いていない錫木アナと代吉の言葉に、菅波が口を開く。
「え、あいつ、しゃべるんですか?動くんですか?サメ太朗が?」
菅波が身を乗り出すと、錫木アナが言う。
「えー、特別な許可の元、特別なカメラとマイクで撮影したそうで今回限り、ぜひどうぞお気になさらず、とのことです」
「えぇえ。いや、気になるでしょう…」
そこに花圓が口をはさむ。
「いやねぇ、菅波先生と言えばサメ好きでいらっしゃることは、有名ですからサメ太朗にも、ということになりましたが、菅波先生はサメのどういうところがお好きなんですっけ」
質問を振られると、律儀に答えてしまう菅波。
「サメの生態ですね。サメは自然治癒力が高いんです。400年生きている個体も存在すると言いますし、あ、それは北極海のニシオンデンザメというサメなんですが、動物界最強の生命力には惹かれるものがあります。同じ種のなかでも生態が多様なことも興味をひきますね。」
「じゃあ、一番お好きなサメはなんですか?」
「えー、一番といわれると悩ましいですが…。レモンザメですね」
菅波がうれしそうに言うサメの名前にリアクションがない。
「えーっとレモンザメ…レモンザメ…。聞いといてごめんなさい」
「レモンザメ!写真ありますか?あ、ない」
「すみません、生放送でして…」
三様のリアクションに、菅波が照れくさそうに口許を覆う。
「ねぇ、ほんとにサメがお好きでいらっしゃるから…」
と代吉がフォローを入れ、「調べておきます」と錫木アナが頭を下げる。
それに菅波も、いえ、ほんとスミマセンと頭を下げた。
「それでは、9時のニュースを挟みまして、9時10分からは園芸のコーナーです。本日のゲスト、東成大学医学部附属病院 呼吸器外科の菅波光太朗さんでした、ありがとうございましたー!」
「ありがとうございました」