あまやかしのせんせいのたくさんのかわいい【あまやかしの先生のたくさんのかわいい（サメのしりとり・これから）】
昨日の夜、先生は私をとっておきにあまやかした。初めて尽くしに翻弄しておいて、その後には手のひらにもくちびるにもやさしい、とっても優しいキスをくれて。先生だって疲れてるはずなのに、私の身体のことをずっと気遣ってくれて。まさかお風呂までお姫様抱っこで連れてってくれるなんて、一緒に過ごすようになってからもそんなあまやかしなかったのに。（って寝る前につぶやいたら、ずっとそうするのを我慢してたんです、なんて笑う先生はとってもオトナな顔してた。もー、ほんとそういうとこ）

ずっと知ってた気がする初めての先生の熱を味わいながら、ゆったり寝た次の日。あと一日、登米にいられるからゆっくり先生と過ごせるとくべつ。朝ごはんは私が、って思ってたのに、先生がとんとんって起こしてくれて。森林組合に売りつけられた、なんてチベスナ顔して見せる大きな矢羽板のトレイの上には朝ごはんが載ってて。ベッドで朝ごはん食べるなんて、したことない。

作ってくれたレーズンブレッドバタートーストはサクリじゅわりでおいしくって、先生が私の言ってた食べ方を覚えててくれたのがうれしいし、ミルクたっぷりのカフェオレはほっとするちょうどいいあったかさ。先生もとってもうれしそうにあんぱんの片割れを食べてる。口許にこしあんがついてるのがかわいくて、思わず手を伸ばしてそれを拭うお世話を焼いたら、なんだか照れくさそう。そんな先生の顔が楽しくって、ひょいって指先のこしあんを食べてみちゃう。うーん、我ながら大胆なことをしてしまうけど、これも昨日の夜の魔法の続き、なのかなぁ。

ベッドの上のお行儀の悪い楽しいとくべつな朝ごはん、私はきっとずっと忘れない、って言ったら、先生が僕も、って笑って、とっても素敵なキスをくれる。私もおかえし、ってキスを贈ったら、先生も嬉しそう。

だのに、メロンパンのはんぶんこができないんだから、こういうとこ、先生はほんとかわいい。私が笑い転げすぎたら、やっぱりまたチベスナ顔。ビスケット生地がたっぷりの方の片割れをかたくなに私に差し出すものだから、それを受け取らざるをえなくって。ほとんどブリオッシュしかない元メロンパンをアライグマみたいに持ってる先生がかわいすぎる。

ものすごくはみ出したビスケット生地を割って、先生にあーんってしてみたら、ぱくっって大きな口で私の指ごと食べてしまう。ひょいって舌でビスケット生地を攫っていって、そっと唇で指をなぞってくの、ほんと反則。私が真っ赤になってるのに、にやりってする先生は、昨日の初めての間にはちらりとも見せなかった男の子の顔。

もー。って二人でベッドの上でくすくす笑い転げて。

おなかだけじゃないあれこれが満ち足りた朝ごはんの後は、先生がトレイをデスクにもどして、またふたりでベッドにごろごろする。先生は私に腕枕して。いいんですか？って聞いたら、今日は家でゆっくりする日です、って先生は生真面目に。うーん、腰に違和感はあるけど、私結構げんきですよ？でも、先生がこうしてベッドでごろごろしようなんて初めてだから、先生にもゆっくりしてほしくて、おとなしくその腕枕と抱擁の中にいて。

二人してちょっとうとうとしたり、どうしたらメロンパンを手で上手に割れるか議論してみたり、のんびりのんびりすごして。結局、メロンパンを手で上手に割る方法については、網目入りのメロンパンにおいて、力を加えるのはビスケット生地の方から、特に外縁部のビスケット生地は事前に割ってつられないようにすること、その際にブリオッシュ生地の繊維の方向を確認すること、ぐらいが結論になって、まぁ、とはいえ起きますか、ってベッドからやっと出たのはお昼過ぎ。

先生いわく『なんにもない』台所から、貰い物らしいクジラの大和煮の缶詰を発掘。みよ子さんたちに『これで先生になんか作ってけらいん』って私にウインクつきで持たせてくれたお野菜セットを使って、大和煮とお野菜・キノコの簡単煮込み風にして、簡単遅めお昼ご飯。昨日の夜にいくつか作った冷凍ご飯のかたまりがさっそく役に立つ。

また後でご飯炊けるかな。でも先生はついでじゃないなら、あなたの手を煩わせるのは、とかなんとか言いそう。解凍した冷凍ごはんをそれぞれのお茶碗に装いながら思わず笑っちゃったら、先生が怪訝な顔。なんでもない、って首を振って見せたら、ふむ、って顔して、それも予想通り。

なんにもないって思ってた台所でこんなうまいものが作れるんだなぁ、って食べながらうれしそうな先生の顔、ほんとかわいい。先生が私に甘いものせっせと食べさせようとするのも、きっと同じ気持ちなんだろな。

ふたりで食器の後片付け。私が洗って先生が拭いて。ついでに私が炊飯しようとしたら、やっぱり先生がついででもないのに手を掛けさせてってやっぱり言う。言うだろうなって思ってました、って笑うと、そりゃそう思うよ、ってちょこっとふくれっつら。でも、先生の食べるものお手伝いしときたいです、ってふくれっつらをつついたら、先生は照れ笑い。

先生の家の炊飯器は三合炊き。島の実家は一升炊きだったし、サヤカさんちと汐見湯はお客さんが多いから五合炊きだから、なんだか三合炊きってとってもかわいらしく感じてしまう。こう、トイプードル的な。あなたが来ると思ってこっちに住むのにマシなもの買ったんですよ、って先生は言うけど。普段は一合炊くのがせいぜいだから三合でも大きいなって思う、なんて聞くと、その感覚の違いが面白いなぁって思う。

めいっぱい三合の炊飯を仕掛けて、ご飯が炊きあがるまで何しましょっか、って二人でふむ、って、気づけば地域広報誌のクロスワードパズルに額を寄せて過ごして。縦横7マスだから炊き上がりまでには終わっちゃうよねなんて言いながら始めたのに、二人でやったら、カギの文章を読んで出てくる単語があれこれ違って、どっちだろ、でもその単語も存在するよね、とかでも違いってなんだっけとか脱線しちゃって、クロスワード解いてるんだか、国語辞書調べてるんだか。無口と寡黙とか、用事と予定とか、似てるけど違うのは、うん、その通り。

やっとクロスワードを解き終わって、太枠の文字を組み合わせてできる単語が『みずかぶり』だったんだけど、先生が麦川のお祭りを知らないって言った時に、ちょうど炊飯終了の電子音が鳴った。台所に並んで、ごはんを一膳ずつに分ける作業をしながら、どういうお祭りなのか説明したら全然信じてくれなくて。ラップで包んだごはんに保冷剤をのせて粗熱を取ってる間に、ふんどし姿の小学生から還暦以上の男性がわらでできた装束を纏って家に水をかけてく様子をスマホで見せると、知らなかった…って唖然としてる。

まだまだ知ることがありますね、ってなんだかそれも楽しそうな様子なのが、学ぶのを止めない先生らしいな、ってなんだかうれしくて、粗熱が取れたごはんを冷凍庫の隅っこに並べてく先生をついにこにこ見てたら、あの、ごはんを並べてるだけですよ？って怪訝に言われちゃって。その先生の隣にしゃがんで、水かぶり、いつか一緒に見たいですね、って言ったら、水をかけられるのはできればごめんこうむりたいですが、なんてちょっと天邪鬼なことを言う。まぁ、確かに、先生は水がかかるところに立っちゃいそうですもんね、なんて頷いてみせたら分かりやすくチベスナ顔。

そうならないように私が案内しますから、って胸を叩いて見せたら、よろしくお願いします、って頭を下げる、律儀な人。はい、って返事をしつつ、なんで二人して冷凍庫の前にしゃがみ込んで話してるんでしょね、って私が笑ったら、先生も笑う。笑いながら立ち上がった先生が私に手を差し出すから、私はその手をとってぴょんと立ち上がって、そしたら先生がやさしいキスを落としてくれる。そのキスに、はむっって先生の唇を食んで答えたら、驚いた顔のあとにこにこになった先生が、くしゃりと後頭部を撫でて、ぎゅってハグしてくれる。

ハグのまま、さて、今日の午後は何しましょうか、って話になって。そういえば、なにか映画を持ってきてるって言っていませんでしたか？って先生が思い出してくれる。そうだ、すーちゃんが、これ先生と見なよ！って、ブルーレイ貸してくれてたんだった。主人公の女の子が肺の難病らしいんだけど、先生見るの面倒じゃないかなって聞いてみたら、それは気にしません、って言う。医療系の作品の細かいことに目くじら立ててたらキリがないですからね、って先生、言い方。

ごめん、って笑う先生が、それでもかわいい。

じゃあ、またカフェオレ淹れて、映画見ますか。あ、っていうかこうなるとソファベンチが間に合わなかったの残念だな、なんて言って。その時にはまた来るから、何か一緒に映画見ましょう、って私が言うと、楽しみだ、ってまた先生が笑う。

そのくしゃって笑う先生に、その時には、私がもっと、先生との新しい過ごし方にも慣れてたらいいな、なんて、本人には絶対言えないんだけど。