ドラクエ2~8まとめ【ドラクエ2】
「背中」(3人組)
いつだって、その背中の後ろを僕たちは歩いている。
自分よりも年下なのにしっかりとしたその身体は実によく鍛えられていた。出会ったころのまだ幼い身体が次第に戦士のものに変わっていくのを、僕はずっと見ていた。
「次の町まで、どれくらいだろう」
「地図によると、まだ半日はかかるよ」
「王女は大丈夫?」
「平気よ。心配しないで」
「あと一刻したら、休憩しよう」
彼の判断は冷静で、冷徹で、そしてひどく優しく僕たちを扱う。壊れるもののように、僕たちを扱う。彼が前線に立って、僕たちを後ろにして、彼が一番傷ついているのに、彼はいつも振り返って「無事でよかった」と笑う。
そして、僕たちは、彼の背中を見て、安心する。
この背中がある限り、僕たちは負けないのではないか、と錯覚するほどに。そう、彼の後ろは僕たちが必ず守るのだから、無事に決まっているんだ。
「やっと見つけた本当」(3人組)
ロトの子孫なんて言い方は、きっと言い訳で、自分にはその価値がないと思っていた。
ロトの子孫なんていってその血筋には威厳があるような言い方してるけど、自分にはそれだけの価値がなかった。
ロトの子孫だからと栄えたこの国で、全てを奪われた自分はもうそんなもの名乗れないと思っていた。
各自それぞれ、思い悩んで、それをいえずに、みんな血によって縛れて出会った仲間たちだったんだと思う。ローレはそしてザクリと音を立てながら後列の二人を庇うように白く覆われた大地を歩いている。
しかし、長い旅も終わりに近づいて思うのは、そうか、僕らは真実が見えてなかったということ。
自分の思い込みで、自らを傷つけていたのかという気づき。この剣を手に入れて、使いこなせるまでの苦労もあったけど、いまやロトの装備は自分のすべて。なによりも動きやすく、戦いやすく、自信が持てる。
ツライことはたくさんあったけど、僕らは一緒に過ごしてきた。わかるんだ。もう旅が終わること。三人がそれぞれ、揃って、ようやっと「勇者」であったこと。僕らは弱いけれど、だから三人で一緒にいた。最後の戦いが終わればまた一人に還るけれど、きっと大丈夫なんだ。最後の敵は、きっと自分。
アイツを生み出したのは世界。世界中の全ての人の憎しみと悲しみと怒りと、そして大嫌いな自分の集まり。世界をひっくり返そうとするのはいつだって自分たち。
忘れない。僕たちは、魔王にも、勇者にも、いつだってなれること。
ロトとは、血筋ではない。
ロトとは、戦いによって、気づき、求めるもの。戦いの先の、真実へ。
「ひきこもり日和」(3人組)
「たまにはいいでしょ」
「仕方ないしね」
「いいね、こういうの」
おのおの勝手気ままな格好をしてロトの子孫たちはゆったりと体を伸ばした。
「外は雨」
「呪いもなし」
「金もなし」
「「それは余計」」
くすくすとこぼれる笑い声。王子たちと王女は居心地易くした洞窟内で響く声を楽しんで残り少ない食料をあぶっている。
「あとは、アイツを倒すのみ」
もうここまできたら引き下がれない。
「終わったら、幸せになろう」
合言葉は心に響いた。
「僕らの朝は早い」(3人組)
僕らの朝は早い。
大体男二人と女の子一人という人数上、本来は二部屋に分けるべきところをいつも同じ部屋を取るところが間違っていると思うのだが、本人たっての願いというのもあってよほど財政事情が豊かな時か、部屋が狭いという事以外では滅多に二部屋取る事はない。そのため、僕らが起きる前に必ず起きて全ての身支度を終えなければならないというのは、確かだ。そんなわけで、きっと必要以上に早くに自分の支度が終わるとムーンは僕らを起こしにかかるのである。それも、時として強引に。
最初は僕らが彼女の前で裸になろうものなら悲鳴を上げて顔を隠していたのに、今ではすっかり慣れてしまって、ちょっと彼女の女王としてのマナーが心配だ。ローレはそんなこと全く気にしてないみたいで、本当に平然として着替えをする。まあ、そりゃあ上ぐらいまでしか堂々と見せはしないけどさ。
三人揃って部屋を出て、宿屋で朝食を取るのがいつものパターンだ。最初はそういうメニューにもなれなかったけど、ローレの意見でそういう庶民の暮らしを具体的に知っとくのは大切だというのは最近はよく理解しているつもりだ。僕は食べるのが遅いから、いつも最後にはローレとムーンの会話を聞いているだけになる。彼らはまたそういう時にはどうでもいい話しかしない。僕を混ぜない限りは旅のことを話そうとは思わないらしい。それはなんだか、ちょっと、というか、かなり嬉しいことで、僕は彼らのそういう会話を聞く事が好きだ。
朝食を食べたあとは、一度部屋に引き上げることがほとんどだ。そこで、僕はマントを付け、皆帽子ををつけ、僕とローレはゴーグルをつけて、チェックアウトを済まして、前の晩に話し合った方向へと歩み始める。もちろん、場所や時期によっては一度街を通って買い物をしたりもう一度情報を聞きにいったりなども行うが、大体そういうのは着いた日にやってしまうか、着いた翌日に済ますので街を出る日というのは本当に出て行くだけだ。
その時の空気の冷たさと清々しさが、非常に他人の街にいるんだということを自分たちに教えてくれている気がして僕としては好ましい。なにもかもが優しくない世界の代弁者のようだと思うのだ。
そういう考えはどうなの? とよくムーンに言われるが、そう考えるのが僕なんだよ、と言ったら、彼女は納得したらしかったが、一言こういわれた。
「そうね、そして私たちはそんなあなたをいつまでも案じるのかしらね」
僕が思ったのは、彼女は優しすぎるんだ、ということだった。
外に出たが最後、僕らを襲う魔物どもは容赦ない。というか正直うざい。大体が僕とローレの剣だけで倒せてしまうが、そうはいかないことも多々あるからそういう時は僕も呪文を使うし、そんな時のムーン程頼りになる人はいない。普段は、守ってもらうだけなんて嫌、とか言っているけど、そんな彼女に守られているからこそ、僕とローレは彼女を守りたいと思う。
まあ、別に彼女が強いから守りたいとかではなくて、戦う力のある人間が、誰かを守りたいと思う気持ちも、力がなくても、戦いたい、守りたいという気持ちは人の感情としてみる以上なんの違いもない。
しかし、僕らの戦う力は精霊に守られたものだから、今のこの暗闇のような世界のために戦いたい人全ての代理人として、僕らが旅立っていることの理由なのだ。
合間合間、大体ムーンの体力に合わせて休憩を取る。そしてそれに合わせて時間を見計らって昼食を取る。
大体の場合用意をするのは僕かムーンだ。それ以外のことには結構頼りになるローレは全く役に立たないことが二人旅の時によぉっく実感した。おかげで僕の料理の腕と舌は上達したけれど。
ムーンが入ってよかったのはレパートリーが増えたことだ。彼女は元々第1王女ではないから、結構好きなことをやらせてもらえたという。元々料理が好きだったみたいで、別に苦ではないようである。まあ、僕も段々目覚めてしまったところもあるんだけど、二人一緒に作業するのも楽しいし、息抜きと実用を兼ねていて非常に効率がいいと思う。
その間は珍しくローレが手持ち無沙汰になる時間で、本当にすることがないとボーッとしていることもあるけど、大体は荷物のチェックを再度行ってたり、剣を磨いたり鍛錬したりひどいと筋トレもしてたりする。とにかく何かをしないとダメな性格みたい。人と話してる時はたまに上の空のこともあるけれど行動には決して隙がないのが彼らしい。
まあそんな感じで食事が出来れば、三人揃って「いただきます」。これは誰が言い始めたんだか、いつのまにやら儀式のようになっている。僕自身は昔からやっていた記憶が特にないのできっとローレの影響だろう。今では全員揃わないと食事が始まらない。もちろん夕食もだ。
適当なところに簡易テントを張って、たき火を焚いて見張りを置く。いつもローレが一番手で明け方近くになって「交代だ」と言って僕とムーンを起こすから、いつだったか二人でローレを叱ったことがある。それだと彼の体が持たないと思案したが、本人は本当に僕らのことを考えてくれていて、僕は胸が痛んだ。
彼は周りには敏感でも自分には鈍感だ。
余り人のことを言えない自覚があるけど、彼の行動は至極自然に行われているところが恐ろしい。故意ではないのだ。まあ、やはりいつだったか無理が祟ったのと、打ち所悪く魔物にやられたのが重なって見張りをしていたはずの彼がグッスリ寝ているのを見た時には呆れるやらおかしいやら、とにかく普段は余りみられない間抜け顔だったのが印象的だったのだ。彼は少し大人びているところがあるから、その顔で丁度年相応だった。
やはりローレの目は恐い。なにもかもを前から見つめようとする勇気のある目だと思う。その目が閉じられているだけで、彼はまるで別人のようだった。
そのため、その後はきっちり時間がわかるように目安をもうけて、見張り当番をちゃんと統轄した。ムーン一人に見張りをやらすのはなんだかお互い恐いからで、ローレが先に見張りをやるのは、本人曰く完全な熟睡型らしく朝の光を浴びれば起きるというのを聞かされてまるで湯に浸ければ戻る乾燥野菜みたいだが、実際寝たアイツは僕らがちょっと大きな音を出しても起きなかった。
ので、彼には結局朝まで眠ってもらうことにしたんだ。
そんな強情一本気なローレが変わったと思ったのは、ロト装備、というか剣を手にした時からだ。
彼はそこにつくまでの間、後から考えれば、確かに怯えていた。そこに着くまでの長い間、自分がロトの血ではないかもしれない、という彼の不安に僕とムーンは全く気が付いていなかった。
彼のように、きちんと王子としての素質を備え、剣の腕も一流で相手の尊厳を傷つけることなく人を使うことが出来、先を見通す目を持つ彼の、どこがロトの血を疑うことに繋がるのか、最初全然気が付かなかった。
彼の劣等感の原因というのが、自分たちが普通に使っていた魔法ということに僕は驚いた。
何気なく使っていたコレが、この旅の間、彼を苦しめていたのかと思うと自分の愚かさに呆れてくる。彼の初めて目の前で流される涙と共に語られた言葉は、彼の苦しみを伝えるのにピッタリだった。
いつも、年下なんて思えないほど大人びているのに、剣に認められたといって戸惑いを隠さず、素直に涙を流す姿を見て、僕はやっと彼が辛い思いをして長い間生きてきたということと、彼が本当に年相応の少年であるということに実感をもったのである。
そして、そんな彼を見て、僕は自分の「王」の資質に疑問を抱き、僕の内に潜む苦しみを加速させた。
僕は、彼のように、強くなれるだろうか。僕の血は、世界を救う力になれるだろうか。いつまでも迷いの抜けない心で、ロトの子孫を名乗ることに僕は疲れていた。
剣が手に入って、ある時夕食として質素な食事をみんなで食べていた時、ローレが言った。
「僕たち、きっとこれが終わったら、幸せになれるよ」
そういう彼の目は全てを含んでいる。
弱さも強さも、人としての光と魔物のような闇も。もちろん人の闇も。それはきっと同じ行程を歩んできた僕らにだってきっとあるもので、僕たちは三人で向かい合うことの本当の意味は、きっと鏡を写すように互いを見て、自分を見つめていることにすぎない。
「だから、僕たち、がんばろう?」
「しあわせになろう? 僕たち、きっとうまくいくから」
「なにもかもが。だって、こんなに、僕たち、がんばったんだから」
努力と実力、そして結果が全てイコールで繋がらないことを彼自身が身を持って知っているのに、このセリフを吐くことに、僕は強く動かされた。
所詮人は希望に縋る生き物。
そうだ、僕らが眠るのは、また明日目覚めることへの祈り。
僕らが生きるのは、まだ「生きたい」という執着を捨ててないことへの現れ。
だから、また同じ朝を迎える。世界のために。自分のために。
ここは、もう、ロンダルキア。
決戦は、目の前。幸せになるために、戦おう。相手が誰でも、どんなでも、そいつに言い訳があるのなら、僕らにだって言い訳がある。
この旅は苦しみの行者。それを乗り越えて、全てを受け入れる。もう戦いを繰り返さないために、僕らで全てを終わりにしよう。
そんな言い訳は、正直互いに聞き飽きてるよ。
「空は快晴」(3人組)
終わった。
雪に体をうずめて、空を見上げている。空は晴れ渡っていた。
「ねえ」
「うん?」
三人とも、寝転がって焦点の合わない目線で青空を見ている。
「国に帰ったらさあ、お祝いかなあ」
「そうだね」
「ムーンはしばらくうちにおいでよ」
「いいの?」
「いいよ、いいよ。しばらくどこの国もいいことなんか無かったんだ。美人の亡国の女王なんて来たら盛り上がるぜ」
「もう、いい加減なこといって」
「やっと、自分の部屋に帰るのかあ」
「長かったね」
「長かったわね」
「「「やっと、幸せになれる」」」
そしてガバと三人一気に立ち上がって駆け出した。
早く、早く! 帰りたい!!
世界に伝えたい! 平和になったよ! 幸せになれるよ!! と。