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    まだ恋じゃない金曜の夜、外が見えるカウンターで飲んでいた。薄汚れた窓には店内がぼんやりと映る。
    「おにーさんひとりー?」
    知っている声が笑いを滲ませてスマイリーを振り向かせる。
    「ソーン、上機嫌だな」
    えへへとほおだけでなく耳まで赤くしたソーンが笑う。少々過ごしすぎたように見える。
    「あっちにルナもマーズもいるぜ。別々に来たらみんな揃っちゃったってウケる。ねーそれ何?おいしい?」
    これは見ていてやらないとと、静かに使命に心を燃やしかけたスマイリーは、不意にソーンの背後に腕を伸ばした。
    痛ぇ!とだみ声が喚くのが聞こえ、ソーンはハッと身を固くする。
    スマイリーからは、ソーンに許可なく触れようと伸ばした髭面の男の姿が見えたのだった。
    「放しやがれこの野郎」
    「"悪さ"されちゃ楽しい週末が台無しだろ」
    男がスマイリーの手を離そうとしてもびくともしない。さりげなくソーンを背後に庇い、髭面を静かに見つめる。睨むほどの感情も熱もない。その冷静さが逆に男の恐怖を招いたのか、男は怒気を霧消させ、周囲の視線に肩をすぼませてすごすごと店を出ていった。
    「ソーン悪かった。なんともないか?」
    「ん」
    さっきまであんなによく話してたのに、表情も硬く、青ざめている。よくない、予兆。
    なにごとかと様子を見に来たマーズに手振りと口の動きだけで車を回せと伝え、スマイリーはソーンを支える。
    「よし、酔いすぎたんだな、送ってもらおう。俺もついてくよ」
    わざとらしいくらい説明的なセリフで周囲の好奇心を散らす。なんだもう終いかと急速に白ける場を背に、スマイリーはソーンを連れ出す。ルナには携帯端末にショートメッセージを送っておく。
    「ソーンち知ってるか?」
    「いいや」
    「一番近いモーテルで」
    「アイサー。出る時も連絡くれ。迎えに行く」
    「ありがとう助かる。頼む」
    短い応答の間もソーンは黙りこくり、その体は小刻みに震えている。


    「ソーン、まず座ろう。横になる方がいいか?」
    ベッドサイドにソーンを座らせようとしたスマイリーは自分のシャツを強く握っていることに気づき、引き剥がさないようそっと隣に座る。
    「……て…」
    「うん?」
    「さわ、って…!」
    「ソー…?!」
    掠れながら押し出された声をよく聞こうと顔を近づけたところに、ソーンの唇が押し当てられる。
    「おねがい、さわって、どこでもいいから」
    震える唇をとらえてなだめるように口付けを続ける。冷えた体を服の上から丁寧に撫でてゆく。
    「ん、ンふ」
    「オーケー、怖くない、大丈夫だ…」
    「んう」
    もう大丈夫、平気だと繰り返しているうちに、縋りつく体から力が抜けてゆく。眠ったようだった。
    「…シャワー借りるか」
    まだ顔色は悪いがなんとか落ち着いて眠ったソーンをベッドに寝かせ、諸々を振り払うためにスマイリーはシャワールームに向かった。
    「……」
    今のはパニックを治めるためのやむを得ない処置、そう、処置だ。推測するにシアトルダウン事件の収監時の"怖い"記憶による発作のようなものだろう。
    湯と共に余計な気持ちを流したスマイリーはしかし、寒そうに手足を縮めて眠るソーンを見てしまった。自称他称温め役だった自身の体温の高さを、今使わない訳にはいかない。リーダーとして。
    「ソーン、起きられるか?」
    「んん…?」
    「寒い?」
    「うん…」
    「俺が隣に寝てもいいか?」
    「…ん」
    律儀に了解のようなものを得て、ソーンの隣に潜り込む。
    「ふわ…」
    「平気か? 少し狭いけど勘弁な」
    「……ん」
    すう、と寝息が深くなるのを確認して、スマイリーも眠りに落ちた。


    肩もつま先も温かい。こんなことはいつぶりだろうとソーンはぼんやりと思う。目の前によれた白いTシャツ。知らない石鹸の匂い。
    ……誰だ?!
    一瞬にして強張った体に気づいたのか、隣に眠る男も目を覚ました。
    「ソーン、おはよう」
    「あ、え……スマイ、リー?」
    この状況で聞ける声ではなかったはずだがと、昨夜を思い出せずにいるソーンに、スマイリーは横になったまま、ソーンを抱えたままそっと問う。
    「うん。体調どうだ?」
    「えーと、うん、へーき」
    よかった、と青い目が穏やかに笑う。
    「寒そうだったから勝手に……どした?」
    いやそのーあのーと急に俯いて、正確には布団に少し深く潜って。
    「ゆうべ、ごめん、へんなことした」
    「変なことじゃない。必要だったんだろ、謝らなくていい」
    「許しのカミサマかよ懐深すぎ」
    「本当に気に……あー、あんまり照れないでくれ、こっちもつられて照れる」
    「なんでお前が照れるんだよ」
    「それは……」
    「なんだよ」
    しばし、沈黙。
    くく、と喉が鳴ったのはどちらからだったか。
    くつくつと小さく笑いが湧いて弾ける直前にここが安宿と気づいて無理やり収める。
    しかし、二人は向き合って額を合わせてしばらくくすくすと笑い続けていた。
    「俺もシャワー使う」
    「おう。マーズが迎えに来てくれるって言ってたから連絡しておく」
    「オッケ。今度お前のバイクにも乗せて」
    「もちろん。乗り心地は保証しないぞ」

    迎えに来てくれたマーズに二人で礼を言い、皆でその足で朝食を食べに向かうことになった。もちろんルナも呼び出して。必ず誰かを同行させろと説教をされたソーンは、わかったけどあんまガキ扱いすんなよとほおを膨らませたのだった。



    ロスの家に居候しているスマイリーが家を探すと言うので、ソーンが湯たんぽ係と口実をつけて同居に持ち込んだのは、別のお話。


    おわり。
    あおせ・眠月 Link Message Mute
    2024/03/23 23:34:00

    まだ恋じゃない

    #二次創作 ##スマソン

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