以心伝心熱い体がのしかかってくる。鍛え上げられた筋肉を滑らかな皮膚で包んだ体。その上には、まばゆいほど魅力的な顔立ちと甘い青の瞳が肌に負けじと熱を帯びて見つめている。自分にのみ向く熱と欲の贅沢さにめまいがする。
そういえば、とソーンの悪い癖が出る。触れ合おうとした時に限って思考があさってに飛ぶのだ。
付き合い始めた頃は俺に許可求めてたよな。
『いいか?』
いやならしない。調子が悪いとか、気分じゃないなら気軽に断ってくれ。
あんなに大事に触れてくれるのがいやなはずはなかった。
『いいよ』
すぐに体を許したがる淫蕩だと思われたくなくて緊張していたのを覚えている。
『……いい?』
懇願するように、けれど断る選択肢はそこにはない甘やかな強引さで。欲に潤んだ青が美味しそう。こんなに誠実に、率直に心と欲を向けてくる相手は後にも先にもスマイリーだけだった。
『うん』
気持ちが高まりすぎてそれしか言えず、震える舌を絡ませた。
「いつ頃だっけ」
「んー、五年くらいか」
厚くて大きな手のひらをゆるゆると触れさせ、スマイリーは何がとも聞き返さず答える。分かっているのだ。
かれこれ十年の付き合いなのだ。ソーンは自身の気持ちは分かりにくく伝わりにくいと思っているようだったが、はじめのうちこそ戸惑いこそしたけれどコツさえ掴んでしまえば至極簡単、スマイリーには手に取るように判ったのだった。
今ではすっかり、何をきっかけにどこに思考が飛び、どうしてその言葉が発せられたか分かる。そしてスマイリーも同じことを考えていた。言うのをやめた、というほどきっぱりとした決意ではなかったはずだ。言わずに触れてもソーンはおかしな顔をしなかった。それをきっかけに、肌を重ねることに相手の気持ちを言葉で確認しなくても分かるようになっていた。目つきが、視線の動きが、呼吸が、全身が諾を表す。だから触れるのだ。多少の熱を持って押しても戸惑わない、逃げ腰にならない。
風呂上がりでボディシャンプーのいいかおりをさせたスマイリーが隣に座る。いつもより少し近い。肩や足が触れる距離。
あ、これは合図だなと閃くようになったのはいつからだったか。試しに体重を少し預ければ、背もたり越しに腕が肩に回され、鼻先がこめかみをくすぐる。
ビンゴ、と心で唱えて視線を上げて合わせる。青くて、キラキラしていて、美味しそう。唇を合わせて、いい匂いを吸い込んで目を閉じれば、ゆっくりと押し倒される。もちろん抵抗なんてしない。自分の体の力を抜いたって、強い腕がしっかりと支えてくれているのを知っている。くらくらするような信頼と幸せに溺れていいなんて。
「すっごい贅沢」
くふふと笑って、大好きな相手に全てを明け渡す。
熱い体が重なる面積をじわりと増やし、言葉は少なく。弾む息と体が汗で滑る。やだも待っても言わなくていい。全部全部、思いのまま、望むがまま与えられる。今欲しい強さで。今望む強引さで。ほんの少し手荒にして欲しいとか、そんなことまで全部許されて惜しげもなく捧げられる。
ずっとずっとそんなに俺のことばっかり考えてくれているなんて。俺より俺のこと考えて、理解して、許してくれる。その強さはどこから来るのだろう。
「お前が、俺に、くれるんだ」
何にもしてない俺が、なんでもくれるお前に、なにを与えていたのだろう。
ああ
もしかしてこれが
「愛情」
そういうこと、と笑みを深く湛えた声が降って。
無性に泣きたくなったソーンは、もう、顔を隠すことも見るなと駄々をこねることもなかった。全部をスマイリーに渡して、スマイリーも全てで与えて、二人はどうにもできぬほど強く絡まり、結びついたのだった。