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    陰雨重く暗く立ち込めた雲からざあざあと音を立てて滴る雨が街を濡らしていた。
    連日降り注ぐ雨を誰もが憂鬱に感じている。

    庭に面したリビングの窓前でもえがせっせと洗濯物を畳んでいた。
    仕事の都合や連日の雨で見送っていた洗濯物を遂に纏めて洗濯乾燥したらしい。
    タオル類や衣服の他にも枕カバーやタオルケットなど大きなものもある様だ。

    一見、なんということも無い光景だが…
    ユーリはその姿を鋭く捉えた。

    その場に立ち尽くしたまま、音もなく壁に背を預ける。
    2、3分そうして彼女を見つめていたがその肩をちょい、ちょい、とつつかれ視線を向ける。しかしそこに姿はない。
    が…袖口を軽く摘まれそして引っ張られる。


    それは『話があるから来い』という合図だった。


    ユーリは彼女を振り返ったが洗濯物はまだまだ片付きそうにもない。
    眷属の蝙蝠達を控えさせていることもあり
    姿の見えない住人の誘いに乗ることとした。



    ダイニングに入ると姿の見えない住人は姿を表し、既に席に着いていた。
    つかつかと歩を進めて席に着くと見計らったかのようにもう一人の住人が特製のアイスティーを手にやってくる。

    「…改まって何用か?」
    「言わなくても分かってるデショ。」
    「…7月に入りましたからね…。」

    7月は彼女にとって1年の中で最も辛い時期と言える。

    「…口には出さないんですけど…
    しんどいんじゃないかと思うんですよ。」
    「…姫のことダカラサ、無理してるデショ。
    それにサ、何かしでかしそうで心配。
    …上手く言えないんダケド。」

    頬杖を付きグラスの縁を指先でなぞりながらそう零すスマイルの視線は憂いに揺れている。

    「……とは言え、我々に出来ることなどたかが知れて居るだろう。」

    「そりゃ…そうなんだケドさァ…」

    予想していた以上にユーリが淡々としている事にスマイルは少々苛立っているのだろう。
    子供のように頬を膨らませてそっぽを向いている。
    アッシュはアッシュで困ったように苦笑していた。

    そんな2人の様子にわざとらしく大きな溜息を吐いてユーリは席を立った。

    「話はこれで終わりか?」
    「え……?ええ、まぁ…」
    「…そうか。」

    ユーリは踵を返すとリビングに向かった。

    扉を開こうとした刹那、リビングに控えさせていた眷属達の警戒信号を捉え、ユーリは勢いに任せガラス戸を開きリビングに踏み込んだ。

    そこに彼女の姿はない。

    庭に通ずる窓が開け放たれており
    ふっかけた雨に僅か濡れたカーテンが風に揺れていた。

    「モエ!?」

    慌てて窓に駆け寄り身を乗り出し見渡したが彼女の姿は捉えられない。

    「「ユーリ!」」

    自分の声に2人が反応したのだろう。
    リビングから慌てて出てきて隣に立つ。

    「え、なに?姫は…?」
    「外に出たようだな…」
    「大雨だってのに…っ!!!」

    ここから出たとすれば勿論傘など持っていないだろう。
    そしてこの雨の降り方では…5分と待たずずぶ濡れだ。

    「アッシュ、湯浴みの支度を。
    スマイルはバスタオルを用意しておいてくれ。
    …私は迎えに行ってくる。
    それから…姫君が戻っても決して責めたり叱ったりせぬ様に。
    ……良いな?」
    「は……ハイ……」
    「ワカッタ…」

    では頼んだぞ。と残してユーリは窓から飛び立った。







    鈍く重い空、降りしきる雨、霞む景色。



    それはまるで発作の様に
    胸の奥に詰まって締め付け抉る。


    決まってどうしようもなく惨めで情けなく思えて…



    「『いっそ消えてしまいたい』」


    考えを読まれた。


    「…とでも思っている顔だな。」


    上空から降ってきた声に驚いて反射的に顔を上げた。



    愛らしくふわふわと揺れるくせっ毛は重く湿り…その頬を濡らしているのは雨か涙か既に判別できない。


    「……ゆー……り、さん…」


    「こんな所で何をしている?」
    「………。」
    「何を怯えている?」
    「……わた…し…」


    彼女の左腕をその右手が掴んだ。
    ぐっと握りしめ…爪を立てる。

    彼女の前に降り立ち、その右手にそっと手を添えた。

    「…!!」

    彼女の右手から力が抜けたのを感じて僅か頬が緩む。

    「……全く、こうも甘え下手では身が持たぬ。」


    そのまま右手を取り引き寄せると彼女をしっかりと腕に納めて強く抱き締めた。


    「…こんな場所で独り…
    更に涙を隠す必要がどこにあるのだ?
    確かに雨は涙を隠すかもしれぬが
    わざわざ冷たい雨を選ぶことはなかろうに。
    暖かいシャワーでも良いだろう。」

    軽く頭を撫でたあとその身体を離して一歩下がり両手で頬を包む。
    幼子の様にぼろぼろと零す涙を見て思わず苦笑してしまう。

    「…解っているよ。
    どうにもし難いその感情も、その行動も、その強がりも全て。

    …解っているから…
    安心して帰っておいで。
    2人も心配している。」



    さあ…と腕を広げた。


    無理矢理連れ帰るのは容易な事だ。
    しかしそれでは意味が無い。


    彼女自身に一歩踏み出させること。
    それは小さな一歩の様だが
    大きな意味を持つことを
    ユーリは…
    否、今のDeuilはよく知っている。



    「何も恐れることなど無いさ。
    一度は乗り越えているのだから、自信を持って良い。

    己のその足で
    その一歩を踏み出してご覧。

    私たちはいつまでも待っている。
    何度だってこうして迎えに来る。」

    不安に揺れる潤んだもえのその瞳にユーリが映り込む。

    未だ戸惑いを見せている彼女がきゅっと口を結んだ。



    「おいで、モエ。」


    その言葉と共にもえは踏み出しユーリの胸に飛び込んだ。
    ユーリはその身体を受け止めてしっかりと抱擁する。


    「…よく出来ました。」

    打ち付ける激しい雨も…
    この時ばかりは拍手喝采の様に聞こえたユーリだった。








    「……ま、こうなるヨネ。」
    「…仕方ないっス。」

    その数時間後。
    姫君は見事に高熱に魘されることになった。

    「大分溜め込んでいたでしょうし、コレで済んで良かったですよ。」


    何故かアッシュとスマイルの頭には大きなたんこぶが出来ている。


    「……デモサァ…コレはちょっとヒドクナイ?」
    「まぁ…八つ当たりですもんね…。」


    各々頭を擦りながら解せない表情をしている。


    もえが高熱に見舞われたため往診依頼の電話をした際、経緯を聞いたロティがすぐさま診察に駆けつけてくれたのは良かったが…アッシュとスマイルには管理不行き届きである!との理由でカミナリと共にゲンコツをお見舞した次第だ。

    「…でもマァ…いっか…」
    「…っスね。」

    7月は始まったばかりだ。
    まだまだ気を抜けない日々が続くことだろう。

    「ボクらも、ユーリに負けてらんないヨネ!
    姫の誕生日もあるコトだし!」
    「…ですね!!」

    姫君に甘い二人の兄はガッチリと手を組んで決意を新たにするのだった。






    月瀬 櫻姫 Link Message Mute
    2023/08/09 20:50:57

    陰雨

    余り楽しいお話ではありませんのでご注意ください。


    #ポップン
    #もえ(ポップン)
    #Deuil
    ##ユリもえ

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