なんでもない日々のお話4
どーしたもんかねェ…
そんな風に思いながらカウンター席で頬杖を付いた。
溜まった仕事に飽き飽きして
繰り出してきたカフェは今日も盛況だ。
俺様、鼻が高いってもんだ。
しかしまぁ…
それは置いておいて、だ。
「………。」
「おやまぁ、小難しいカオしちゃって。
お似合いになりませんよ、ダンナ?」
「……紫……」
「ふふふっ…嫌だよ、ダンナのそんな怪訝そうな顔、似合わないったらないねぇ!
こりゃ明日は大雪かい?」
自然と隣の席に腰掛けた和装の女、紫は鈴を鳴らすようにころころと笑い転げている。
「……うっせーな。考え事だよ。」
「おや、これまた珍しい事もあるもんだ。
ノーテンキな神様が考え事たぁ…
いよいよ槍でも降らすのかい?」
「……何でそーなるんだよ。
物騒にも程があるわ。」
「そのくらい珍しくて
似合わないってこった。
アンタがそんなんじゃ
みーんな調子狂っちまうよ。」
「………俺様にだって
そーゆー時くらいあるっつーの。」
「流石人間じみた神様だこと。」
ここが酒場なら
若しくはナイトタイムであれば
彼女は酌でもしてくれたのかもしれない。
…そんな風に思う。
だが生憎今はまだ夕方だ。
「……それで?」
「あ?」
「それで、何を考えてた?」
視線を落としたその横顔は驚く程に美しいと感じる。
落ち着いた大人の女の放つ色気。
『妖艶さ』…とでも言えばいいのか。
そしてこちらの内を見透かすような
涼やかで鋭い流し目と…微笑。
「おや、ここまで言っておいて
しらばっくれる気なのかい?
そりゃ無粋さね。
…ダ、ン、ナ…♡」
「…そーゆーお水テクは店でやってくれ。」
「じゃあ、店に来とくれよ。」
「……ハニーが暑ッ苦しいんだよ。」
「……そりゃ、ごもっともだねぇ…」
実の兄の話題には『解っている』と言いたげな表情を見せている。
やがて運ばれてきた注文の品を受け取った紫は何処か嬉しそうに微笑んでいた。
注文はいつもの珈琲と…
シンプルなバタークッキーの様だ。
「…珍しいな」
「何が」
「甘いもん。
お前さん、あんまり食わねぇだろ。」
「今日は特別さ。」
へぇ…と興味なさげに返してやれば紫は
アンタもひとつどうだい?と皿を押し出す。
「あの子のクッキーは優しい甘さだから
丁度いいのさ。」
偶に食べたくなるんだよねぇ…
と嬉しそうに頬張る。
それをただ無言で眺めていると
紫は呟くように小さく告げた。
「アンタがそんなに心配しなくても
…アタシがそんなに心配しなくても
今のあの子にゃ放って置かない奴らが付いているだろう?
それにあの子も。
何かあればちゃんとアンタに相談しに行くんだから。
アンタはどうしても最後なんだ。
仕方ないだろう?
……待っててやんなよ。」
やはりこちらの考えていることに
勘づいていやがったらしい。
「……そーだな……」
皿に乗ったクッキーをひとつ貰って
口に押し込んみ立ち上がる。
「んじゃ、仕事戻るわ。」
「はいはい。お疲れさん。
あ!そえそう。
アンタ、ちょっと偏り過ぎだよ。
気をつけな?」
図星を突く紫のその言葉に
『うるせー』と返して
カフェを後にした。