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    【十六夜】





    集中力が切れ
    息を吐いて顔を上げた。


    新曲の為の詩は既に候補が三つあるが
    どれもしっくり来ない。
    今夜は調子が悪いのだろうか。

    そんな風に思いながら窓辺に歩み寄りカーテンを開いた。




    満月を過ぎ、今宵は十六夜。
    まだまだ明るさを放つ初冬の月は
    辺りを優しく柔らかく包み込むようにして照らしていた。



    「十六夜、か。…明るい訳だ。」



    しばらく月に目を奪われていたが
    ふと外に出てみたくなった。
    たまには夜の散歩も良いだろう。と。


    外套を羽織るとバルコニーから夜空へ飛び立つ。


    冷たい夜風を切って城の上空へ昇ろうとして視界の隅に捉えたもの。
    それは…もえの部屋だった。
    オレンジの仄かな明かりが点ったその部屋の窓辺で
    彼女は膝を抱えて月を見上げている。
    更に、その頬に涙が伝っているのが月光に映し出され見えてしまった。




    「……。」
    ユーリは方向を変え、もえの部屋のその窓に向かう。




    もえの部屋のバルコニーに降り立つと
    もえの死角から近付きコンコン、と窓を軽く叩いてみれば
    それに驚いた彼女がこちらを見ると
    慌てて立ち上がりバルコニーに続く窓を開いた。

    「ユーリさん。…どうなさったんですか?」
    「ごきげんよう、モエ。」
    驚いた様子で問いかけるもえに微笑みを向ける。
    「余りに美しい月夜なのでな。
    散歩でもしようと出てきてみたのだが…
    ご一緒に如何かな、レディ?」
    すっと手を差し出してちらりと上目遣いにこちらを見ると共にウィンクしてみせる。

    それにはたちまち頬を真っ赤に染め
    …喜んで…とユーリの手を取った。






    もえを抱き上げて一気に上昇する。
    腕の中のもえはわぁ…と子供のようにはしゃいでいた。
    この反応は大変微笑ましい。



    城の頂上、屋根の上に着くとそっともえを降ろして自分も隣に腰を据える。



    遠くに見える街の灯りはまるで星のようだ。


    「身体が冷えるからな、遠出はしない方がいいだろう。」



    寒くはないか?と外套でもえを包んでやりながら問いかける。
    もえははい。とほんのりと頬を赤く染めて嬉しそうに答えた。

    しかし先程の涙に濡れた表情が脳裏を掠め
    ユーリはその頬を撫でる。



    「………何か、あったか?」

    「…え?」

    「先程、泣いていただろう?」

    「…み、見て、らしたんですか?
    …もしかして、それで…声を?」

    「ああ、そんなところだ。」


    真っ赤になって俯き恥じらう彼女は
    …見られてたなんて恥ずかしい…と小さく零した。


    「恥ずかしがることはない。
    …それに、辛い胸の内があるのならば
    無理に溜め押し込めると言うのは
    決して賢明な選択ではないと…私は思うのだが…?」



    心配そうに顔を覗いてユーリがそう告げれば
    もえは少し無理をした笑顔で……大丈夫ですよ…。と答えた。




    そう易々と彼女が弱音を吐くことなどないと
    予想はしていた。
    そして結果
    その予想が外れることはなく…

    さて、どうやって甘やかしてくれようか。
    とユーリは考える。



    「ならば良いが…
    如何せんお前の言葉には
    時折大きな嘘が混じることは理解している。

    ………そして
    今正に…嘘をついているな?」



    頬に手を添えた手で軽く自分の方を向かせて
    その目を覗き込んだ。


    「……あ、あの…」


    図星を突かれて気まずそうに視線を泳がせている彼女に変わらず穏やかに続ける。


    「責めている訳ではないのだ。

    ………ただ。
    今はあの二人も居らぬのだから
    少しくらい甘えてくれても良かろう?」



    努めて優しく囁けば彼女はほろほろと涙を零し始めた。
    本人も意図せず零れた涙に彼女は狼狽える。


    「…っ……あの…これ、はっ…」


    慌てて顔を背けようとするのを両手で頬を挟み阻止し
    こつんと額同士をつける。


    「…こうしてやらねば他者に甘えられぬと言うのは…難儀だな…。」


    「…み……見、ないで…下さい…
    酷い、顔…だから…」


    小さく告げる言葉にそうか。と相槌を打って
    彼女をまた横抱きに抱え上げて胸に顔を押し付けてやり
    更に外套ですっぽりと包んだ。

    彼女は小さく震えて…
    それでもまだ強がろうとしている様子が見える。


    「モエ。
    お前がここに来てからまだ三月も経たぬが
    我らはそれなりにお前を観て来た。


    その上で理解したことが幾つかある。」


    「……なん、ですか…?」


    「一つ。お前は身体が余り丈夫ではない。
    二つ。無理をすることが染み付いてしまっていて
    己の身体が限界に達するまで気付かないことがある。
    三つ。加えて極度の甘え下手。
    四つ。自分を疎かにして他人を甘やかす。

    ……上げればまだまだあるが、続けようか?」


    「も…っ……もう、いいです…っ


    …色々隠せていないことには…
    気付いて…います…」


    「気付いていているのなら今更隠すことはあるまい。」


    素直に甘えてくれる方が我らとしては有難いのだが…。と本音を漏らした。


    「……出来ません…そんなこと…」


    小さく呟いた声に腕の中の彼女を見れば
    涙を湛えたままのその瞳には揺るぎない決意の色が見えた。


    「……そうか。

    ならば仕方ない。
    来てくれないと言うのなら
    こちらから行くだけのことだからな。」


    腕の中に収まる小さく、華奢なその身体を抱きすくめてユーリは囁く。





    「…お前は太陽の様な明るい笑顔が似合うというのに
    其の実、十六夜の月の様だ…。」

    「…いざよい…?」

    「今宵の月の事だ。
    満月の翌日の月は満月よりも遅く顔を出すと言われている。
    それはまるで躊躇う様に見える…と『猶予う』から転じて。
    また、満月もとい十五夜の翌日であることから
    十六の夜と書いて十六夜と言う。」

    「…十六夜の…月」

    「そう。
    躊躇う十六夜の月だ。」


    「……ユーリさんの言葉や表現は
    とても詩的で綺麗ですね…」

    「…そうか?」

    「そうですよ。
    わたし…そんな綺麗な表現が似合うような人間じゃありませんよ…?」

    「そんなことはない。
    モエ、お前は充分に美しいと…私は思うぞ?」

    「……もう!なっ…何仰ってるんですか…!」

    またからかってますね?と怒った様子を見せたが…
    それはそれで大変愛らしいと思ってしまった。



    「……今宵、解ったことが一つある…。」
    「……?」


    きょとんとして見上げるその頬を伝う涙を
    指先で拭ってやりながらユーリは微笑む。



    「…お前は存外押しに弱いのだな。」

    「…そっ…そんな事…ないと思いますっ…!」

    「そうか?」

    「……そうです。」



    彼女の言葉にまた微笑んで
    そう言うことにしておこうか…囁けば
    彼女は些か不機嫌な腑に落ちない顔をしたままで。


    そんな彼女の様子に
    『その様な顔も愛らしいな?』
    …と図らずも口にしてしまったのだった。

    月瀬 櫻姫 Link Message Mute
    2023/08/19 9:03:58

    【十六夜】

    抜粋第四弾
    #ポップン
    #ユーリ(ポップン)
    #もえ(ポップン)

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