たぬきねいりある日の昼下がり。
この日昼食を済ませた後、アッシュとスマイルは各々ソロの仕事に揃って出かけて行った。
ユーリは一人リビングで作詞作業に勤しんでいた様だがダイニングからリビングへ出てきたもえがふと視線を向けると彼はすっかり眠り込んで居るようだった。
分厚く重い辞書のような洋書を胸の上に抱えるようにしたまま規則的な寝息を立てている。
重そうだなぁ…と過ったもえはそろりと近づきそっと彼の手を退けるとその本を持ち上げた。
ずっしりと重いそれをテーブルの上に移動させてふぅ。と息を吐くと
今度はクローゼットから薄手の毛布を取り出してきて広げ、彼の上にふわりとかけた。
さらさらと揺れた綺麗な銀糸の髪が整ったその顔にかかる。
美しい寝顔、長い睫毛…
いつ見ても見とれてしまう。
彼と恋人関係になってからは尚更…
普段はドキドキしてしまって直視出来ないでいる。
いつも優しく包み込んでくれる。
たくさん甘やかしてくれる。
大切に扱ってくれる。
恥ずかしくなるような…
甘い愛の言葉をかけてくれる。
「…ユーリさん…お疲れ様です…。」
小さく囁いたあとでその唇に自分の唇を控えめに重ねた。
「……。」
途端に頬が熱を持つ。
なんて事をしたのだろう…!と思わず頬を押えて固まってしまった。
「…おや…もうおしまいかな、姫君?」
「ふぇ!?
…おっ……起きて、らしたんですか…!?」
真っ赤になった顔で酷く慌てるその姿を見て彼は愉しそうに口角を上げる。
「否、姫君の口付けで目が覚めてな。
さながらお伽噺のロマンスの様だ。」
恥ずかしげもなくさらりと言って退ける彼はゆっくりと身体を起こした。
驚きと恥ずかしさであ、ともう、とも言えない声を零している自分の頬に手を当てて顔を近づける。
「…では…今度は私から姫君にお礼を。」
「…っ〜〜」
ぎゅっと強く瞼を閉じる。
柔らかな感触が額にあった。
恐る恐る目を開くと彼は満足そうに微笑んでいる。
「ふふ…愛らしいな。」
揶揄う様にそう言われて思わずムッとする。
「もうっ…!狸寝入りだなんて…酷いですっ!」
「狸寝入りなど、とんでもない。」
白々しいその顔を見てもえは
もぉぉぉ…恥ずかしぃぃぃ…と悶える。
「…お茶、もってきますっ!」
逃げるように立ち上がったもえの腕を掴み、引き止めたユーリはそのままひょいと抱えあげる。
「きゃ…っ」
「…最高の目覚めだ。
毎朝こうして起こされたいものだな。」
横抱きに抱えあげられてもえは拗ねたように横を向く。
「…そんなこと、しませんよ…」
「…それは…本当に残念だ。」
少しトーンの落ちた声にもえがユーリの顔を見上げると二人の視線が絡み合う。
「…モエ。」
囁く様に名を呼ばれたのを合図にゆっくりと瞼を降ろしたその直後
唇に触れる柔らかな感触は酷く甘く
そしてほんのりと薔薇の香りがした…。