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    【音にならない叫び声】






    西の空を血のように赤い斜陽が染め上げていた。
    逆光に映える鴉が不気味に鳴き声を上げ、不穏な空気を醸し出している。



    息を切らして全力で駆けた。


    決して止まってはいけない
    止まったらきっと…

    …命を取られる…

    そんな強迫観念に押し潰されそうになりながら…
    なりふり構わずに駆け抜ける。






    やっとたどり着いた城に駆け込んでばたん!とドアを閉める。
    ドアに鍵をかけて背中を預けると
    ようやく息がつけると安堵すると共に膝から力が抜けてへたりこんでしまった。
    上がった呼吸はしばらく落ち着きそうもなく、もうこのままでいいかと開き直った。


    一体なんだったのだろう。
    酷く混乱していて、状況がもうよく思い出せない。
    ただ背筋に残る異様な寒気。
    あの瞬間を思い返すと体が震えて来て
    無意識に考えるのを避け、思わず自分の体を抱いた。

    これが『恐怖』だと理解した時、ふと頭を過ぎる。

    自分は一体『何』に恐怖した?
    『得体の知れない何か』に?
    それとも『身の危険』に?


    「………ちがう……」


    『死ぬかもしれない』という『恐怖』だ。


    いつの間にそんなことを思うようになったのだろう。
    ここに来たばかりの頃は死ぬ事が怖いなど、露ほども思わなかった。
    寧ろ…いつそうなろうとも構わないとさえ思っていたはずだ。

    …一体いつから、それが怖くなったのだろうか。

    「……怖……かった……」

    改めてそう口にすれば
    もうどうにもならない程に身が震えて
    周囲が見えなくなる程に感情が乱れるのが分った。


    不意に肩を捕まれ、びくりと身体が跳ねた。
    恐る恐る顔を上げれば目の前にはユーリの姿がある。
    彼は心配を滲ませた表情でこちらを見ていた。
    「驚かせたようですまない…。」
    声をかけたのだが…。と申し訳なさそうに付け足してどうしたのかと問われた。
    彼の姿を見た瞬間、何も考えられなくなりその胸に飛び込み縋ってかたかたと震えた。
    それには大変驚いた様子のユーリだったが、彼女が酷く震えているのを前にしてその身体を抱き留め一体何があったのか、と改めて問いかけるが、彼女は極度の恐慌状態に陥っていて答えることができない様子だった。
    彼女のそんな様子にどうすることも出来ずユーリはもえを抱き上げリビングへと移動する。

    見れば両膝と右手の手のひらに怪我を負っているがこれは転んだのだろうか…。


    もえをソファーに下ろす前にダイニングにいるアッシュに声をかけた。
    振り返ったアッシュはもえのその様子に何事かと慌てている。
    ユーリ自身、それを知りたいと思っているのだが。
    「怪我をしている。手当を頼みたい。」
    そういった事はアッシュが一番丁寧で得意だ。
    「了解っス!」
    アッシュは急ぎ救急箱を取り出した。
    縋りついたまま酷く震えているもえの背中を落ち着くようにとユーリが優しく撫でる。
    「…転んだみたいっスけど…」
    擦りむき痛々しい手のひらの傷口は血が滲んでいる。膝に至っては僅か滴っている程だ。
    「…コレは強い力で押された感じですかね…」
    自ら転んだにしては酷い傷だ。
    子供ならば勢いでそうなる事もあろうが…
    もえはそんな年齢でもなければ、そんなに落ち着きのない性格でもない。
    消毒液を含ませた綿で傷口を拭けば痛みが走ったのかもえは体を強ばらせて小さく呻いた。
    「すみません、我慢してくださいね。」
    手のひらにはガーゼと包帯を巻き、膝にはガーゼを貼り付ける。
    よし。とアッシュは道具を片付けて、もえの頭をぽんぽんと撫でた。
    「…終わりましたよ。お疲れ様です。」
    幾分、落ち着いてきた様子のもえにユーリが落ち着いてきたか?と声をかけるともえは僅かに頷いた。
    「…何があったのか話してはくれまいか?」
    もえを抱き締めたままユーリが問いかけるともえは震える声で…よく、わからないんです…と答えた。
    「…逃げなきゃ、って…
    …ただ夢中で……怖くて……
    何だったのか、何があったのかも…もう、全然わかんない…」
    「……そうか……」
    ふたたび震え出す彼女にこれ以上問うのは酷だと判断したユーリはすまない…もうよい。と告げてまたもえの背中を撫でる。



    落ち着きを取り戻した頃には二時間ほどが経っていた。
    夕飯の時間も迫り、部屋に篭っていたスマイルもリビングに降りてきてその異様な光景にアッシュ同様何事かと問いかけていた。
    ユーリはもえに寄り添い抱き上げたまま様子を窺う。
    「…取り乱して、すみませんでした…」
    不安そうな様子を滲ませたまま、彼女はそう謝辞を述べた。
    それでもまだ指先が幾分震えており、余程の恐怖であったことを示している。
    「無理をするな。もう少しこのまま…」
    「…いえ…
    わたし、そろそろお夕飯のお手伝いを、しないと…」
    「ダメですよ。ゆっくりしてて下さい。
    今日はスマイルがやりますから。」
    「うんうん、そだよー。
    今日はボクが手伝うカラ、任せてヨ★」
    「今夜はここで食べますか。」
    「お、イイネ♪そうしよー!」
    いつも通りに振舞ってくれる優しさが身に染みる。
    もえは小さくごめんなさいと零すが、ユーリはもえの手を取り謝る必要など無い。と言い聞かせた。




    その夜。
    リビングでもえが眠りに落ちるまでユーリは彼女を抱えたまま離すことはなかった。
    いつもは恥ずかしがって下ろして欲しいと口にする彼女もそんな余裕は持てなかった様だ。
    アッシュは毛布を持ち出して、寝落ちた彼女の体に巻き付けてやる。
    「で…何があったのサ?」
    「分からぬ。」
    「もえさん本人にも分かってないっスからね…」
    「…『逃げねば』と思うほどだ。
    命の危険を感じたと言う事だろう?」
    「神に報告案件じゃない。」
    「そうなるな。」
    「原因、早く分かると良いんスけど…」
    「あんなに震えちゃって…可哀想にネ…。」
    そう零してスマイルがよしよしと頭を撫でる。
    彼女がこんなに心を乱すなど滅多にないだけに心配も不安もある。
    「彼奴なら何か掴むだろう。」
    「オレ、連絡入れときます。」
    「ああ、頼む。」
    一体何が起こったと言うのか…
    この怪我はどうしたのか。




    謎は深まるばかりだった。




    月瀬 櫻姫 Link Message Mute
    2024/03/26 5:00:30

    【音にならない叫び声】

    pixivより抜粋・転載
    自分用です。
    ##ユリもえ

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