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    【無音の世界に漂う】



    ソレは音のないセカイ
    音どころか光も闇もナイ
    真っ白なセカイ。

    ボクは世界に切り離されて
    このセカイに絡められて
    いつか溶けて行くんだ。






    「…スマイル、今夜も駄目か?」
    「……ウン。」
    「…そうか。」
    「まァ…大分久しぶりだケド…大丈夫、ダヨ。」

    この2、3日ムードメーカーである彼…スマイルが不調を訴えており
    いつもとは違う暗い雰囲気の食卓が今夜も終わる。
    彼の不調により新曲作成作業はストップしているが
    作詞や作曲等、二人は各々が出来ることを各自部屋に引けた後でしている様だった。

    現在笑顔を見せてはいるもののそれはいつものそれとは違っていて
    どこか辛そうで胸を締め付けられるような…
    そんな風にもえは感じ取っていた。
    かける言葉に躊躇い、俯いていると頭にポンと手が乗った。
    「大丈夫だってばー。
    前に比べたら相当減ったんだヨ。」
    彼の気遣いが痛みを増加させる。
    何も返せずにいると彼はまたポンポンと頭を撫でて立ち上がる。

    「…じゃあ…オヤスミ。」


    いつもならまだまだ部屋に戻る時間ではない。
    まして寝るような時間でもない。


    そんな状態が3日目ともなると嫌でも不安を抱いてしまうのは彼女だけではない。
    涼しい顔をしているユーリも
    なるべく出さないように努めているアッシュも。
    彼らしからぬ彼の姿には困惑や不安を抱いている。


    スマイルが部屋に戻った後いつものように食後の片付けをアッシュと共にしていると、彼は静かに語り出した。
    「…大丈夫ですよ。
    スマイル本人も言っていたように随分減ったんです。
    それに前はもっと酷くてね。
    暴れることもあったんですよ。
    それに比べたら全然。
    ………でもやっぱり…
    時々どうしても抑えられなくなるみたいで。
    …スマ曰く、透明人間の性らしいっス。」
    「………そう、なんですか……」
    彼女も彼女らしからぬ暗い顔をしてそう零した。


    スマイルも彼女もどこか似ている。
    他人のためにはその優しさや配慮を惜しまないくせに
    自分自身の為の優しさや配慮と言う考えが少ない。
    …スマイルの方が我儘を口にする分だけ幾分ましだが…。


    「それに、スマは貴女に心配かけたくないんですよ。
    『お兄ちゃん』気取りたいんでしょう。」
    「………。」
    最後の皿を水切りカゴに入れてアッシュは微笑んだ。
    彼もまた心配でたまらないのだろうに…。
    「もえさん、ユーリにお茶を持って行って貰えます?」
    オレもすぐ行くので。と、もえを先にリビングへ促した。
    はい。と小さく頷いて、彼女は用意していたお茶のセットを持ってリビングへ向かう。
    その背中を見つめてふう、とアッシュは溜息を零した。


    「ユーリさん、お茶です。」
    ことん、ともえはユーリの前に湯呑みを置く。
    「今日は緑茶か…。ありがとう。」
    手にしていた本を置き、ユーリはそう言った。
    いつもならここでいいえ。と笑顔を添えるが…
    今日はまるで上の空だ。
    「お茶請け、持ってきたっスよ。」
    そう言ってアッシュがダイニングから出てくる。
    「今日は和菓子の練り切りです。」
    これもアッシュの手製なのだろう。
    綺麗な薔薇の花を模している。
    「ほう…随分凝っているな。」
    「薔薇は難しいっスねぇ…。もうやんねぇっス。」
    「それは残念だ。」
    二人はそんな談笑をしているがもえはそんな気にはなれないらしい。
    二人で視線を交わし合うとユーリは口を開いた。
    「…モエ。」
    「は…はい?」
    名を呼ばれはっとするもえはユーリに向き直る。
    「すまないが遣いを頼めるか?」
    「…おつかい…?」
    「スマイルにこれを。
    たまには甘いものも食べた方がいいと思うんスよ。」
    「…届けてやってくれるか?
    私やアッシュが行くよりもお前が行ってくれれば奴も喜ぶだろう。」
    お願いします。とアッシュは練り切りとペットボトルのお茶の乗った盆を差し出した。
    どうやらこれは二人の気遣いの様だ。
    「…はい。行ってきます。」
    もえはしっかりと受け取り、しっかりと頷いてスマイルの部屋へ向かった。



    「……まったく……
    いつからそんなに甘くなったんスか?
    いつもなら放っておくってのに。」
    「お前程ではない。
    お前は初めから奴に甘いからな。」
    「オレは性分なんです。」
    「そうだったな。
    しかし…スマイルはともかくとしても…」
    「…そうっスね。解ってますよ。」
    「解っているならいちいち突っかかるな、馬鹿め。」
    「…言いたくなったんです。
    それに嬉しいんですよ、オレ。
    …彼女が来て……変わっていく二人が。」
    「………喧しいぞ、アッシュ。
    作るのに苦労したのだろう?
    ……静かに堪能させろ。」
    「ハイハイ。
    ホント、素直じゃないっスねぇ。」






    膨らんでいく月がその存在を示すように日に日に輝きを増していく。
    満月がほど近い今夜はそれがやたらに明るい。
    窓辺に腰掛けて眺める冷たい月はまるで嘲笑うかのようにこちらを見下ろしてそこに佇んでいた。


    月明かりに身体がゆっくりと透けていく。
    また…セカイに引き寄せられて…

    全身が全て透けた頃、こちらに近づく足音が聞こえた。
    これは…
    「もえチャン…?」
    彼女がここへ来ることは滅多にない。
    アッシュやユーリにお遣いでも頼まれない限り。

    彼女は部屋の前まで来て止まると一呼吸置いたあとで控えめにドアをノックした。
    『…スマイルさん、起きてらっしゃいますか?
    あの…アッシュさんからの差し入れをお持ちしました…。』
    差し入れと言う言葉に疑問符が浮く。
    あの二人はこんな時放っておくのに。と。
    そして察する。
    「……ナルホド。」
    ぽそりと呟いた一言が、静寂に満ちた部屋に響いた。
    「開いてるヨ?」
    ドアの向こうの彼女にそう言えば、彼女はそろりと扉を開いて入ってくる。
    月明かりだけの暗い部屋に。
    「…すみません、お邪魔します…。」
    やはり元気の無いその声が少し物悲しい。


    姿が見えないであろうスマイルの方をじっと見つめて彼女はそのテーブルでいいですか?と問うた。
    それにウン、アリガトネ。と返すと、彼女はそれをテーブルの上に音を立てずに置くとまた、こちらを見つめた。


    「……もしかして、見えてる…?」
    「……いいえ。
    でも、なんとなく…そこにいらっしゃる気がして。」

    真っ直ぐに捉えてそう告げた彼女にスマイルはへぇ…と驚く。

    「…昔、サ。」
    「…はい…」
    「初めてユーリに会った時、ユーリがボクの頭にゲンコツしたんだヨネ。
    ボクのイタズラに怒ってサ。」
    「……。」
    「びっくりしたヨ。
    だってボクのこと、見えてるみたいだったんだもの。
    見えてる?って聞いたら『勘だ』…ってサ。
    笑っちゃうヨネ。」

    ヒッヒッヒッ…と響く笑い声が今夜は幾分明るく聞こえた。
    懐かしい記憶に、気持ちが浮いたのだろうか。

    「…ユーリは初めてボクを見つけてくれた人なんだ。」
    「…そう、だったんですか。」
    「ウン。
    でさ?アッシュはアッシュで鼻が利くでしょ。
    ワンコだからネ。」
    「…アッシュさん、狼さんですよ?」
    「いいのいいの、ワンコでー。
    だから、ボクが透明で居てもすぐバレる。
    ダカラ…解ってるんだ。
    もう不安に思う事なんてナイってことは。」

    再び静かなトーンに戻って彼は胸を内を吐露する。

    「でもネ、時々…溶けて消えちゃいそうになるんだヨ。」
    気持ちが、ネ。と付け足した。


    彼の言葉を聞きながら
    もえはここへ来たばかりの頃に彼が『写真が好き』と話していた時のことを思い出していた。
    あの時の寂しそうな声色と同じ。
    きっとその目にも寂しさを携えているのだろうか。
    そう思うと、胸が…苦しくて押し潰されそうな思いがする。


    そんな事を考えていた矢先、ぎゅっと抱き込まれた。


    「…え?す、スマイル…さん??」
    「…なんで…泣くの…?」
    「…え…」
    そう言われて初めて涙が頬を伝っているのに気付く。
    「あ…えと…」
    「……言ったでしょ。
    『解ろう』としちゃダメって。」
    …キミは、優しすぎるんダヨ。とぎゅっと抱き締めてそう零すその声は震えていて
    もえはどうして良いかわからなくなったが彼の背に腕を回して抱き締め返した。


    「……あなたは、ここに…ちゃんといますっ。
    あなたが居なくなったら、ユーリさんもアッシュさんも…あなたを愛するファンも…みんな悲しむんですよ。

    …だからっ…!
    自分から消えてしまおうなんて…
    …そんなの、許さない…!」

    彼女の言葉に驚いて顔を覗いた。
    見えていないはずの彼女が、しっかりと見返してくる。

    「……わたしも、自分から投げようとしたから
    人にお説教できる立場じゃありません。
    …だけど…
    あなたは無意識にそうしようとしてるでしょう?
    …失うのが怖いからそうなる前に……って。

    でも、ダメです!

    ……『お兄ちゃん』のつもりなら……
    『遺される痛み』も
    ちゃんと、分かっててください…。」


    『彼女は自分達と似ている。』
    それは以前、自分がアッシュに言ったことではないか。
    そうだった。
    だから、放って置けないのだと。


    「…キミはずるいネ。
    普段、自分が辛い時には絶対甘えてこないクセに…
    こういう時だけ、ホントに上手に甘えてくるの。」
    …ズルイヨ…と再び彼女を抱きしめる。
    「…そうですよ。わたしはずるいです。
    ……今頃…気付いたんですか?」

    背中に当てられた彼女の手は暖かかった。
    透明な彼は、小さく…知ってた…と返す。

    わしゃわしゃといつものように頭を撫でられてもえはわわ…と漏らした。
    「ボクも温かいお茶が飲みたくなっちゃったナ。
    一緒にお茶してくれない?」
    すうっと姿を表したスマイルが、すっかりいつも通りに笑っていた。

    もえはほっと安堵して彼の腹辺りに額を押し付ける。

    「……いいですよ。
    …でも…もう少し待ってください…。」


    よかった、本当に…よかった…。
    そう震えた声で零す彼女の頭をまた撫でてやりながら『ボクらは幸せだネ…』と思うスマイルだった。




    月瀬 櫻姫 Link Message Mute
    2023/08/19 8:25:38

    【無音の世界に漂う】

    気に入っていて時折読み返すので
    ブログ(pixivにもある)から抜粋してきました。
    #ポップン
    #スマイル(ポップン)
    #もえ(ポップン)
    #Deuil

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