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    【水面に映る月のように】


    瞼を開けばそこは現実世界とは違った空間。
    そしてこれが『夢』であることは直ぐに判った。


    薄暗く静かな空間に己の足音のみが響く。
    辺りを見回しながら探るように進むが、右も左も前も後ろも。正直…よく分からない。


    素足の足元は歩を進める度にまるで水面を叩いた様に仄かに光る模様が浮くが、感触はフローリングの上を歩いているような、ややひんやりとした感触がある。








    ここには誰もいない。
    誰の声も聞こえず姿もない。
    優しく甘やかしてくれる兄達も恋人も。
    夢の中であるならば会えそうな弟さえも。


    辺りは変わらず薄暗く、孤独感が募る。


    思わず立ち止まって祈るように手を組み瞼をぎゅっと強く閉じた。


    しばらくそうして動けずにいたその耳に微かな声を捉える。
    それは子供の泣き声の様だった。
    瞼を開き顔を上げて辺りを見渡し、そしてその声のする方へと歩を進めると声はどんどん近くなってくる。


    どうやら泣いているのは少女の様だ。
    やがて視界に少女のシルエットが見えた。




    しゃがみこんで蹲り、すすり泣いている様だ。


    少女と思しきシルエットの前に視線を合わせるようにしてかがみ込むと穏やかに声を掛けた。


    「…どうしたの?どこか痛いの?」


    流石は夢の中。
    目の前少女はシルエットのまま…
    それでも涙を流していることだけは理解出来た。
    少女はふと顔を上げてこちらを向く。


    《……お父さんとお母さん…
    いなくなっちゃった…》


    少女は小さくそう告げた。


    「迷子になったの?」


    《ううん、違うの
    …もう会えないの
    ……もう、二度と……》


    少女の言葉にはっとする。


    「………そう…」


    《…ここでしか泣けないから…
    だからいつもここで泣いてるの。


    たくさん、たくさん泣いた。
    ずっとずっとひとりで。


    ここは暗くて、誰も来ないから
    何も気にしなくていいの。
    泣いていい場所なんだよ。》


    少女はその小さな見た目に比べ内面はしっかりしている様だ。


    ほろりほろりと溢れ続けている少女の涙が地に落ちて波紋を広げる。






    《…泣いて、いいんだよ…》








    そう言った少女は涙を零しながら微笑みを浮かべていた。






    「姫、体調良くないんじゃないっスか?」






    いつものようにアッシュの隣で朝食の支度にかかった。
    程なくして降りてきてダイニングの席にかけたスマイルとキッチンで忙しなく作業するアッシュが交わす仕事の話や雑談を聞き流しながら。




    しかしふと会話が止んで彼がそんな事を投げて寄越した。




    「え…?」




    「だって姫、今朝は全然混ざって来ないジャン。」


    「あ…えと…」


    彼らの会話を聞き流してはいたが、今朝見た夢が異様に気になっていて思考は別の所にあった。


    「姫、自覚してますか?顔色良くないですよ。」


    「…ちゃんと眠った?
    ソレ睡眠時間足りてナイんデショ。」


    彼らは鋭い視線で自分を射抜いている。


    「……。」


    いつも自分自身としてはそんなに無理を重ねているつもりもないのだが、彼らや仲間達に言わせるとそれは十分に無理…と言うより無茶なのだとよく叱られる。
    しかしそれは頭ごなしに『怒っている』のではなく、純粋に心配を寄せてくれているからなのだと判る。


    だからか最近では素直に不調や胸の内を話せるようになってきた。


    「あの…実は今朝、夢見が悪かったので…」


    「「夢?」」


    「…はい…」


    「ナニソレ、悪夢の類?」


    「いえ、たぶん…違います。」


    「悪夢ではないなら記憶の断片っスか?」


    「いえ、それもたぶん…違います。
    …よく、分からない、んですけど…
    目が覚めてからも変な感じがずっとしてて。」


    「「…うーん…」」


    「…少し、感覚とか感情が迷ってる…?
    みたいな感じで。
    その…『辛い』のか『悲しい』のか『寂しい』のか『苦しい』のか…
    そのあたりがはっきりしなくて
    …よく、分からない…」






    もえのその言葉を見にして二人の脳裏には同じ思考が過ぎっていた。


    「姫。」
    「は、はい?」
    「チョット、休もっか。」
    「へ…?え、休む…??」
    「ウン。
    …ネ、アッシュ。」


    スマイルの言葉に頷いたアッシュはぽんともえの肩に手を置いた。


    「頼みますね。
    ロティに連絡はしときます。」
    「リョ。」


    んじゃ…とスマイルが席を立つと同時にアッシュにはそのまま背中を軽く押された。
    スマイルが目の前に立つや否や横抱きに抱え上げられる。


    「あっ、あの…っ」


    「「ん?」」


    思わず声を上げると二人はきょとんとした様子を見せた。


    「……意味が、分からないのですけれど…」


    頬を赤く染めて上目遣いにこちらを見遣るその姿は相変わらず堪らない愛らしさである。


    「んー…ソウネ、強いて云うナラ…」
    「『分からない』から、ですよ。」


    そう言った二人の兄には言葉とは裏腹に何か確信があるようだ。


    「……うそ……」
    「ヒドイナァ…嘘なんて吐いてナイのにィ…」
    「まぁまぁとにかく、今は休んでてください。」
    アッシュが変わらぬ笑顔でそう促した。





    それは水面に映った月の様に
    波紋が立てば容易くかき消されてしまうが
    映した月そのものは変わらず空にある。


    それと同様に夢に映った幻影は目覚めとともに薄れてしまうが
    幻影となった原因そのものは変わらずそこにある。




    「モエは自分自身の事に殊更疎い。
    故に尚のこと放置は出来ぬであろうな。」


    「問題はそこよ、『自身に疎い』っての。」
    「ダネ。」
    「っスね。」




    ユーリがダイニング降りてきた時には既にロティが到着しておりスマイルはロティにもえを任せてアッシュと共にダイニングで話をしていた。
    それを見て『モエはどうした?』と問うたユーリに二人が事のあらましを語るとリビングに移動し、そのまま話し合いになだれ込んだ。




    ロティはもえを膝枕しつつソファーに寝かせやや声量を落として零す。
    「ま、仕方ないのよね。
    …あんたがそういう子だからこそ…
    神もユーリお兄様もアッシュもスマイルも…あのお兄様さえも絆されたんだもの。」


    ロティは優しい手つきで柔らかなそのくせっ毛を撫でている。


    「もえは『人間らしくない』所があるのよね。


    …初めてこの子に会った時、ポロッと零してたし…何気に現時点で一番『人間』を嫌ってるのはあたし達よりもこの子だと思うのよ。」


    「「「………。」」」


    それは三人も薄々感じていた事だった。
    それでも口にしてはならないような気がして言えずにいたのだが。



    「あ、図星って顔してる。」




    そんなわかりやすい三人の様子には思わず吹き出してしまうロティなのだった。







    月瀬 櫻姫 Link Message Mute
    2023/09/21 16:54:57

    【水面に映る月のように】

    2023年4月9日
    ブログにアップした突発短編です。
    あちらを削除したためこちらに移行。

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    #Deuil
    ##ユリもえ

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