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    【曖昧な記憶の向こう側】




    息苦しさを覚えてもえは目を覚ました。
    倦怠感、節々の痛み、悪寒
    ああ、これはダメなパターンだ…と朦朧とした頭でもすぐに理解出来た。
    同時に今夜のうちに何とかしなければ…。そんな焦りに駆られる。
    やっとの思いでベッドを這い出て毛布を羽織ると常備薬を握り締めて静かに部屋を出た。
    ふらつく脚を踏ん張るようにしてゆっくりと階段を下る。
    普段何気なく昇り降りしている階段もこんな時はつくづく高い障壁に感じる。

    今夜のDeuil面々は各自自室で自由に仕事や趣味をしているようだ。
    真っ暗なリビングやダイニングは珍しい…と思いながら手探りでダイニングの明かりをつけた。



    時刻はまもなく午前一時。
    とりあえず冷蔵庫からスポーツドリンクを取り出しグラスに注いで戻す。
    暖房のついていないダイニングは特に冷える。
    そんな中で冷たい物を口にしたものだから更に寒さを感じた。
    グラスを洗って水切りかごに置くと、ひとまず椅子に腰掛けた。


    季節柄寒暖差も激しい時期で空気の乾燥も目立ってきた。
    だからこそ注意はしていたのだが
    こんなにもあっさりと体調を崩してしまうなんて…と酷く気が滅入っている。


    これだから自分はダメなんだ。
    もっとしっかりしなければならないのに…


    そんな自責の念に囚われていく。


    何故こんな時に限って人は人肌が恋しくなるのだろうか。
    身体も心も弱るから誰かに寄り添って甘えたくなるのか…。
    いずれにせよ、ないものねだりだ。
    そんな甘えた心が漏れ出す自分が酷く情けなくて惨めになる。


    強くならないと
    しっかりしないと


    そんな思いとは裏腹な現実が
    今、目の前に転がっていた。


    「……頑張らないと……」


    そんな事は解っている。


    「……なのに……なんで…
    熱なんて出るの…っ…」


    じわりと目頭が熱くなる。
    誰もいないならいっそ吐き出してしまおうか…
    そう思った瞬間、ぽたりぽたり雫が落ちたのを皮切りに
    まるで子供のような嗚咽が溢れて止まらなくなった。


    縋る手も、温もりも。
    今はもう何も残っていない。


    「……会いたいよ…
    …さみしいよぉ……」


    口にすればもう堕ちていくばかりだと言うのに…
    それでも言葉にせずには居られなかった。


    声を上げて泣くのはどれ程ぶりになるのだろう…


    「もえさんっ!?」
    慌てたようなアッシュの声が飛んでくる。
    驚き一瞬固まったが、溢れる涙と嗚咽は止まってはくれなかった。
    「……あっ……しゅ……さん…」
    「一体、どうしたんです!?」
    駆けつけて背を撫でてくれるその手が暖かい。
    彼の問いかけに答えることすら出来ずにただただ噦り上げるばかりだ。
    「うわ、高熱じゃないですか…!」
    そう言って軽く抱き寄せてくれる。
    その優しさに、温かさに縋ってしまいたくなる。

    「………気を、つけてた…のに……
    なのに…っ」
    嗚咽の合間から甘えた心がぼろぼろと零れていく。
    「…どんなに頑張っても、ダメな時はあるものです。
    これは辛かったでしょう?
    独りで我慢しなくていいんですよ。」
    頑張りましたね。と彼はまるで小さな子供の如く泣きじゃくる自分を落ち着かせるようにいつまでも抱き締めてくれたのだった。





    翌日。
    はっと目を覚ました時刻は既に昼手前。
    これはまずい!と、寝間着のまま部屋を飛び出してダイニングへ降りた。
    「す……すみません!寝坊してしまって…っ!」
    ドアを開けながらそう告げ、転がり込むようにダイニングに入ったもえを出迎えた三人は酷く驚いていた。
    「目覚まし時計かけてたはずなのに、聞こえなくって…!!」
    寝間着の裾を握り締め、いく分混乱している様子の彼女を見てユーリはもえの前に立つと頬を包むように両手を添えた。
    「…そんな事よりも、起きてきて良いのか?」
    「え…?」
    「熱が下がったわけではないな?」
    「……熱……?」
    「…昨夜の事は、記憶にない…のか?」
    「昨夜の、事??」
    本当に分かっていない様子の彼女の背後にいつの間にか回っていたスマイルが抱き付いてくる。
    「!?」
    「……ああ、これはダメだネ。」
    こんな薄着のままで…と、彼にしては珍しく小言を零した。
    目の前にはユーリ、背後にはスマイル。
    「あ…あの…っ……」
    この状況にもえは顔を赤らめるばかりだった。
    言い募ろうとする彼女の唇にユーリは人差し指を軽く当てる。
    今の彼女は通常通りの様だが…
    そこには昨夜の表情がチラついてしまう。



    深夜、彼女が部屋からそっと抜け出したのが音と気配で感じ取れた。
    それは良くも悪くも妖怪の特性である。
    まして音の少ない深夜は日中よりもそれが拾えてしまうのだ。
    その後、同じくそれに気付いたのであろうアッシュが少々慌てて追いかけるように部屋を出ていった。
    アッシュにしては珍しく幾分配慮に欠けた大きな音を立てて。
    それを耳にして、ユーリは彼女の様子がおかしかった事を思い出した。
    まさか…と過った時には既にダイニングに向かっていた。

    階段までやって来たところでスマイルと出くわした。
    彼は偶然降りてきただけのようだったが、声をかけると酷く驚いたような表情をしていた。
    ……それもそのはずだ。
    ダイニングから聴こえてくる彼女の、彼女らしからぬ泣き声を耳にしてしまったのだから。
    それは自分とて同じ。

    幼い子供のように痛々しい程に泣きじゃくる様子には胸が痛んだ。
    普段笑顔を絶やさずに大人びた態度を見せている彼女の内には
    どれ程の苦しみや悲しみ、痛み、寂しさを押し込め覆い隠し…必死に耐えているのか…察するに余りある。
    そしてこうして何かが呼び水にでもならなければ外側に出すことさえ出来ないでいる。
    ダイニングのドアから揃って中を覗けばアッシュが彼女を慰めるように抱き締めていた。
    スマイルが中に入ろうとするのを、その手を反射的に引いて止めた。
    …彼女の性格からして弱みをあまり見せたくはないだろう。
    自分達まで行ってしまえばせっかくやっと押し出せた感情も涙も止めることになってしまうかもしれない。
    それではいけない。
    更に言えば自分達に出来ることは無いに等しい。
    ……そう思ったからだ。

    そしてそう思った時、アッシュと目が合う。
    アッシュが何か言おうとしたのを見てユーリは人差し指を口元に立てる。
    彼はその意を汲んで一つ頷くと、再び彼女を抱き締めたまま背を撫で続けていたのだった。





    ユーリは彼女の頬を包み込んだままその顔を覗き込んで、まだ赤く腫れぼったいその瞼に胸を痛める。


    …覚えていないのならばその方が彼女にはいいのかもしれない。
    思い出してしまえばまた自分達の事ばかりを気にして気遣い、彼女の負担になるだろう。


    「……あの…お二人とも……
    どう、なさったんですか?
    昨夜……?わたし、何を……?」

    いつもと違う空気を感じ取ったのか彼女がそんな事を零す。
    この娘はつくづく…お人好しだ。


    「…思い出さなくて良い。
    ……良いのだよ。」



    彼女の記憶が曖昧だというのならば
    …そのままでいい。
    月瀬 櫻姫 Link Message Mute
    2023/08/19 8:44:52

    【曖昧な記憶の向こう側】

    抜粋第二弾
    #ポップン
    #もえ(ポップン)
    #Deuil

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