catch a cold だりぃ、と呟く。言葉にすると余計に体が重く感じた。
カルデアの無機質な廊下を歩く。誰も彼もが熱病に罹っているせいか、前にも後ろにも、ランサー以外に人の姿は見当たらない。
右手前方の扉を目にして足を止めた。
「…………」
耳を澄ます。前にも後ろにも誰もいない。部屋の中にも誰もいないとは、ドアを開けなくても知っていた。
止めた歩みを再開させる。
部屋の前を通り過ぎる。
人間だけではなくサーヴァントも罹患する熱病によって、医務室はさながら野戦病棟の有様だった。半受肉状態であるカルデアの特殊な召喚が裏目に出たか。
「こちらはもう大丈夫です。あなたは休んでください」
フローレンス・ナイチンゲールは近づいてくるなりそう告げた。
リネン類を交換して戻ってくるなりの、有無を言わさぬ宣告だ。アーチャーはその腕にシーツを抱えたまま、「は?」思わず頓狂な声を上げた。
「聞こえませんでしたか? 熱で中耳が炎症を起こしているかもしれません。即時の休息を命じます」
「い、いやいや、待ってくれ。私はなんでもない、大丈夫だ」
人手が足りない現状、医療スキルのないアーチャーでも猫の手くらいの助けにはなっているはずだ。
にもかかわらず、
「いいえ。これは決定事項です。あなたは速やかに自室へ戻り、4時間の休息をとりなさい」
4時間後にはまた働いてもらいます。――そう言われて追い出された。
なぜ4時間なのか。睡眠時間かと首を捻るも、答えはない。休息と言われた以上は睡眠をとって体を休めることが優先事項か。
カルデアの無機質な廊下を歩く。誰も彼もが熱病に罹っているせいか、前にも後ろにも、アーチャー以外に人の姿は見当たらない。
右手前方に自室として割り当てられた部屋のドアが見えてくる。カギはかけていないため、ドアの前に立つと自動で開いた。
中に入る。当初から特に物を増やしてはいない。備えつけのテーブルと椅子と、衝立と、その奥にベッドがあるだけの簡素な部屋だ。
「……うん?」
ベッドには先客がいた。
「ランサー?」
アーチャーに背を向けた体勢で寝転んでいるため、その顔は窺えない。が、青い髪に青い武装姿の、よくよく見慣れてしまった男は、誰かがいたずらに化けていない限りはこのカルデアでひとりだった。
ベッドの脇に立つ。シーツに片手をついて顔を覗く。
緩く背を丸めて眠るランサーは眉間に皺を寄せていた。目は閉じたまま。
眠っているのだから当然だが、アーチャーが近くにいることに気づいていないのか。
「…………」
額に手を当てる。熱い。
まさかこの男が、と思う反面、ひとりで静かに眠る姿に“らしい”とも感じた。
それが自分の部屋でなければ、より強く、そう感じただろう。弱ったところを見せるような男ではないと。
「……よろこんでいいものかな、これは」
ひとりごちる。悪いと思いつつ、口元が歪む。
与えられた4時間はこのためか。
アーチャーは静かに隣に横たわり、タイマーをセットしてから明かりを消した。