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    ふつつかものですが! ここでは駄目だと言う相手を押し倒して乗った。なんだかんだ言うのははじめだけで、事が進めば手を伸ばしてくる。
     そうわかっていて誘いをかけたのはオレからだが、後始末まで気が回らなかったのは、まあ、目先の快楽を優先したツケと認めよう。
    「だから言っただろう」
     アーチャーが呆れた目を向けてくる。
     だから、と頭につけられた接続詞が示す惨状はひどいもんだ。互いのあいだにある寝袋シュラフは精液と汗がべったりついて、心なしか重さも増していた。水分か。乾きはじめている表面の汚れ以外にも、もう吸われている分がある。「専用の洗剤で洗わなければ落ちないだろうな」──だそうだ。
     最中は気にならないカルキ臭が鼻をついた。テントのファスナーを全開にする。丸いドーム状の形は風の抜けない作りだが、換気をしないよりはマシだろう。幌の向こうはまだ薄暗い。
    「蚊に食われるぞ」
    「英霊に虫がたかるって?」
    「霊体ならば問題ないだろうが、肉があれば別だろう」
     至極まじめな顔で諭されて、それもそうだとおとなしく従った。白いメッシュ地の布一枚で穴を覆う。ファスナーの立てるジジ、という音が空気を毛羽立たせた。
     広くはないテントに大の男が二人。裸で胡坐をかき、向きあう様は滑稽だ。
     散った精液をアーチャーがティッシュで拭きはじめた。オレは生乾きの布が不快で端に押しやる。鷹の目からちらりと批難の視線が寄越されるも無視する。
     事を始めるにあたって脱いだ服はもとより端にあったため被害を免れたものの、それを身につける体が濡れているのだから、袖を通すのは躊躇われた。適当に放ってあったタオルで体を拭う。水浴びしたいところだ。生憎と、この辺りにはちょうどいい滝も川もない。
     アーチャーは全裸のまま掃除に熱を上げていた。一度取りかかったら没頭するのがこいつの癖だ。
    「洗わなけりゃ落ちねえんじゃなかったのか」
     だが、出してすっきりすれば鎮まるのが男のさがとはいえ、さすがに情緒ムードに欠ける。
     今やったところで無駄だろう。あとにしろと言外に告げれば、
    「む。まあ、そうなんだが、……」
     汚れたままは気になるらしい。
     曖昧な返事をしながら手を止めず、結局、最後までやりきった。オレはボトムから煙草とライターを取りだして火をつけて、アーチャーの丸まった背を眺めながら一服する。
    「こんなものか。あとは手洗いだな」
     今のうちに洗濯して干せば夜までには乾くだろうと、寝袋を撫でて満足げに頷いた。
     正確な時刻は知れないが、今は、果ての空が白みはじめただろう朝方だ。湿度は高いが雨のはない。今日の天気は晴れ。弓兵の言うとおり、洗って干しておけば乾くに違いない。
    「で、また夜に汚すのか?」
     吸い差し片手に笑って茶化す。
     夜半にひとの塒を訪ねてきたこの男の腕を掴んで引きずりこんでの今だ。洗濯するのがアーチャーならば干すのもアーチャーで、そのままでいれば、同じことだろう。明日の天気はわからない。
    「汚すような真似をしなければいい」
    「手でも繋いで寝るつもりか?」
    「君が望むのならそうしよう」
    「ハッ!」
     求められたから答えただけだと言う。スカした顔で嘯く野郎を鼻で笑った。
     手を伸ばしてきたから、とは。ずいぶんと勝手な免罪符だ。
     灰で苦い口唇を舌で濡らす。鈍色の目がそれをきっちり捉えて、まばたきで外された。女の尻に吸い寄せられる視線と同じだ。オレを相手に、と思えば可笑しい。
     おかしいが、悪い気はしない。いまだ全裸だが気にせず片足を立てた。酷使された尻の違和感は意識の外へ追いやる。灰皿を引き寄せて灰を散らす。
     オレが誘ったから、と弓兵は言う。責任転嫁も甚だしい。
    「そう言うテメェもノリ気だったじゃねえか」
     特に最後のほう。ひとを俯せにして、背に重なって、挿れこんだままじくじくとなかから苛んだ。後頭部を吐息で焼いて、耳朶を溶かした。
     圧迫されて息が苦しい。前が潰れてくるしい。熱いし暑い。──そのすべてが、この男によって悦に変えられる。
     屋根があるとはいえ草地に厚い布一枚を敷いた状態と変わらない。のしかかられて、充血して反り返ったペニスは腹に潰され、息苦しさは思考を殺し、快楽だけを追う白痴にされた。
     射精できないペニスは欲を溜めて、なかを締めつけて、咥えこんだ雄を啜って、よがり震えた。汗みずくの体は互いの境を曖昧にして、ぶるり、ぶるりとわななく。耳元で名を呼ぶな。
     吐精を乞い悶える躰を長い長い法悦に浸しておきながら、こちらばかり加害者とされるのは心外だ。テメェも共犯だろうと。
    「否定はしないが」
    「が?」
    「……今度、きちんとしたアウトドア用品を揃えよう」
     薄い寝袋だけでなくマットも敷くべきだ、とアーチャーは話ともども目を逸らした。
     やりすぎた自覚はあるらしい。何を敷いたところでテメェのねちっこさは変わらんと思うがね。
    「きちんと、と言ってもな。オレにテメェのマメさは期待するなよ」
    「もとよりしていない。だが、マットぐらいはあってもいいだろう」
     そもそも地面に直に寝ていて体は痛くならないのか?
     気づかわれているのか遠回しに馬鹿にされているのかを一瞬だけ天秤にかけて、前者だろうと判断した。捻くれた男の捻くれた考え方がうつったか。
     岩場に寝転ぶでもなし、寝床テントを敷く場所にはやわらかい草地を選んでいる。特に問題はないと答えれば、「神代の御子には文明の快適さが実感しづらいとみえる」腹立たしい返事が寄越された。
     短くなった吸い殻を潰す。
    「おう、ケンカなら買うぞ」
    「すぐ暴力に訴えようとするな。今日はバイトがあるのか?」
    「テメェが訴えさせるようなことを言うからだろ。ねえよ」 
    「そうか」
     顎を引く。その了承はどちらにかかるのか。
    「この時間なら、一度私の部屋へ戻って寝袋を洗ってから出れば、新都に着くころには店が開いているな」
     後者だったようだ。ひとりで納得し、アーチャーはそこでようやく服に手を伸ばした。黒いシャツに袖を通す。君も服を着ろと投げ寄越されたシャツを片手で払う。
     スケジュールは決められた。こいつの部屋に行くのなら、ちょうどいい。
    「ついでにシャワー使いてえ」
     拭い、すっかり乾いた体はこのままでも支障はない。が、水を使えるのなら使いたい。すでに乾いていた精液は拭ったところで腹にこびりついて引き攣れている。
     アーチャーは下着とボトムを手に立ちあがり、テントの高さゆえに腰を曲げて履いた。ああ、と言う。
    「それがいいだろうな」
    「一緒に入るか?」
    「…………」
     黙った。
    「むっつりすけべ」
    「どこでそういう言葉を覚えてくるんだ」
     反論には呆れた指摘を入れられた。言葉を覚え途中のガキではあるまいし、どこでだかなぞ、いちいち憶えていない。
     それよりも。
    「否定しねえか」
     口角を吊りあげる。
     果たしてアーチャーは頷いた。
    「さて。光の御子は頭から足の先まで手ずから洗ってもらいたいようだからな。期待に応えよう」
    「応えんな」
     やめろ、とオレは鳥肌立てた両腕をさすって距離を取った。狭いテントだ、そう離れられない。アーチャーが手繰っていた寝袋を足で押しやり山を作る。ソッチの意味で手を出されるならまだしも、世話を焼かれるのは御免だ。
     やると言ったらやる弓兵は、肩をすくめた。冗談か本気かいまいち判別しづらい。
    「尻の中まで自分で洗えるのか?」
    「デケェ世話だ」
     歯を見せ威嚇する。こいつに任せようものなら洗浄と称してぐずぐずに溶かされて、だが挿れずに放りだされる。間違いない。
     欲しい、いれろ、とオレが言わなければそのまま。
    「あー、やだやだ」
     うっかり想像して鼻面に皺を寄せた。
     勃たせておきながら、こちらから手を伸ばさなければ身を引くのだから──生理現象だ、気にすることはない、などと言う──、まったく面倒くさい。
    「面倒なのはわかるが、きちんと洗わなければ困るのは君だぞ」
    「そっちじゃねえよ」
     的外れな指摘に頭を掻く。散ったままの後ろ髪が背中を滑る。仕方ねえ。
     オレは据わった目で野郎を見据え、ぴっと親指で外を指した。
    「出ろ」
    「──は?」
    「中のもの全部持って出ろ。テントを畳む」
     テメェも手伝えと、呆けたツラを晒すその両腕に寝袋を押しつけた。ついでに煙草とライターも布の中に捻じこむ。灰皿は外へ。
     ボトムに足を通してシャツを引っかける。
    「畳むって、場所を移すのか?」
    「テメェのとこに行くなら片づけたほうがいいだろ」
     アーチャーは眉根を寄せた。突然何を言いだすのかと訝しんでいる。それもそうだ、天気がかなり悪い日を除いてテントは張りっぱなしにしていた。
     オレだってガラじゃねえと思っている。だが、面倒な野郎の面倒を見てしまったからには、途中で捨て置けまい。
    「世話を焼かせてやると言ってるんだ。せいぜい感謝するんだな」
    「なんだそれは」
    「夜中に様子を見に来るならな、『オレの炉辺に来い』ぐらい言ってみろってことだ」
     たわけめ。
     吐き捨てて外へ出る。立ちあがりながら、靴のかかとを指で直した。
     木々の先に見える空は夜の濃度を薄めていた。夜明けが近い。
    「様子を見に来たわけではない。見回りのついでだ」
     アーチャーは嘯きながら、寝袋と、中に散らばっていたらしいタオルやら着替えやらを腕いっぱいに抱えて出てきた。落としそうになっているのはぬいぐるみか。そういやあ、そんな物もあった。
    「ついで、ね」
     まだ言うか。落ちそうなぬいぐるみを鷲掴みにして寝袋に埋める。捻じこむ。ついでにふざけたことを抜かす野郎を睨みあげた。
     腰を伸ばした弓兵はオレの視線に何を察したのか、その口角を上げて、いたずらっぽく片目を閉じた。
    「そのほうが、君にとっても都合がいいと思ったんだが」
    「はあ?」
    「どうやら私は、自分で思うよりも嫉妬深い」
     見回りの最中に、戯れで引かれた手に応える。その程度にしておかなければどうなるか知れんぞと、──つまりこの野郎は、オレが手を引くとわかっていて、目の前にちらつかせていた。
     取りたくなければそれでいいと。
    「選択の自由というやつだよ、ランサー」
     笑ってしまう。
    「テメェのそれは丸投げしているだけだ」
     求めてやれば、過剰に与えてきやがる。それだけ、してやりたい、と思っているくせに。
     突き放すようにぬいぐるみから手を離す。膝を折り、土に差したテントの梁へと近づいた。ピックを引き抜いて放る。途端にテントはバランスを崩して潰れる。
    「では、部屋に着いたら覚悟をしておくことだ」
     背に欠けられた不穏な宣言に振り向けば、不穏な笑みに見下ろされた。
     その手が頬を撫でる。
    「私がしたいことを、させてくれるのだろう?」
     部屋に入れば、頭から足の先まで洗われて、はらのなかまでぐずぐずにとかされる。
    「──いいぜ、やってみろ」
     やりたいだけ、やりゃあいい。
     開き直り上等。先だっては体を洗って、それからメシだ。朝食の時間に間に合うかはわからないが。
     マットを買う必要はなくなったなと言う弓兵に、枕がいるだろうと、オレはこれから部屋に増やすべきものを並べあげた。
    うえ Link Message Mute
    2018/12/16 10:53:38

    ふつつかものですが!

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    ##ホロアタ時空 #弓槍
    2016年8月の企画「弓槍利き小説」への寄稿文。

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