Let's get down to business ノックを三回。あいよ、と馴染みの返事を待ってドアを開ける。
「ランサー。このシャツなんだが、胸のシミが」
落ちなくて。
そう続けるはずが、アーチャーは途中で飲み込んだ。赤い目と目を合わせて数秒フリーズする。
「……あー、と、だな」
「すまない、失礼した」
握ったままのノブを引き、速やかに退出。
閉めた扉と無表情で向き合い、
「…………」
片手で顔を覆い、詰めた息を吐き出した。
やってしまった、と呻く。部屋の中から通じている
あちらには聞こえない小さな声で、クソ、と悪態もついておく。
ランサーが仕事中とはドアを開けた瞬間に理解した。急にミーティングが入ったのか元から予定していたのかはアーチャーの預かり知るところではないが、モニターに映っていた相手はアーチャーも知る他部署の男だった。
入る前の返事は通話相手に向けてに違いない。ヘッドセットをつけていたせいでノックの音は聞こえていなかった。
「……はあ」
改めてため息をつき、部屋の前から離れる。シミの落ちていないシャツで顔を拭ってやった。
家で仕事をするときは部屋のカギをかけるように言わなければ。──いつか、己も同じ爆弾を投げ込まれるだろう。
「噂にならなければいいが……」
アーチャーは遠い目をして儚い願いを口にした。