Log14-2当主だの面目だの。おれが従兄の立場だったなら、気持ちはわからなくも……あー、いや、想像してみても全くわからねえ。おれはただ造りたいだけだし、そっちのことを気にかけてる暇があったら、如何にして某包帯金髪を穏やかにさせるかについて考える。
おれの母方の先祖が権力争いに敗れた一派でも、いや、むしろそうやって「所詮分家の者のくせに」とか言うならそれでいいじゃねえか。
分家の人間のガキのことなんか気にするな。わざわざ呼ぶな。放っておけよ。真紅やら柑子の色を前に、金色銀色が恋しく感じるなんて屈辱だ。我ながら気持ち悪いから早く帰してくれ。
……といった具合に、幾らでもぐだぐだと並べられるわけだが、正直に白状する。
実際は――確かに羅列したそれは本心以外の何物でもねえが――帰りてえと思わせる最たる理由は、単純にひとつだけだ。
「では、この案について貴様の意見を窺おう。ウェールズファルツ」
姓が無いだけマシとか最早そういうレベルじゃない。名前呼ばれるのこれで何度目だ。
頼む、早く帰らせろ。
(アルバローサは元々有力な鍛冶職人一族で、その本家が催した談合に呼ばれ嫌々出向いたウェールズファルツ・アルバローサ氏。本人は色々どうでもいいと思ってる)
得物は剣。ある程度長さがあり、突くタイプや重量級のモノじゃなければ、それ以上の拘りはない。細身の長剣でも連結するツインダガーでもなんでもいい。
だから自分の部屋には何種類かの軽い剣が置いてあって、その日の気分と仕事の内容によって腰に下げていく物は変わる。
因みに、ウェズが打ってくれたバスタードソードが一番手に馴染むし切れ味も申し分無い、というのは本人には内緒だ。死ぬまで言ってやるものか。
ところで剣といえば、ユクシルはその近類であるナイフを、ベルトから下げた腿の鞘にいつも差している。
使っているところを見たことはない。戦闘の時でも彼が遣う刃は《月》のそれか、本当に稀に漆黒の鎌だけ。装飾用にしてはデザイン性がイマイチだし、身に付けている意図が不明だ。
本人に何か質問してもまともな答えが返ってくる確率は五分五分だし、今後の自分の方針(例えばそれを粗末に扱ったゴミクズがいたら処置をどうするかなど)に関わるコトであれば、訊かないでおいたほうが掃除に気が付かれる心配が減る。
そういう訳で、長らく観察して答えを得ようとしてきた。
けれど結論を言ってしまうと、ついぞ判らず今日に至っている。
ここまで存在意義がわからないとなると、きっとあのナイフは、存在にこそ意義のある物なのだ。
誰かの形見、思い出の品。
既に亡くなっているという親の物か、彼が幼少期世話になったという人々から譲り受けた物か。
だから仕方ない、確認のため直接本人に訊こうと思う。
なんたってユクシルの思い出の品(仮)は、自分にとっても大事なモノなのだから。
「そのナイフずっと持ってるよなー。何に使うの? 野菜の皮剥き?」
「南瓜の綿を抜くのには役立った」
「……うん?」
「皮を剥いたことはなかったな。今度使ってみよう」
「えっ、ウソだろゆっくん」
片刃を指でなぞる。皮膚は裂けた。一息置いて、赤い液体が奥から湧き上がる。
切れ味はあるらしい。わたを取り出すにも便利だったが、元は斬るが為の刃物なのだ。
そうして紅のついた白銀を眺めていると、ふいに幽かな既視感を覚えた。
はて、何処で見たものだったか。
木草が遍く生まるる月の、銀箭はまだ遠い。
セ「あー暑い」
ユ「髪、結い上げるか」
セ「んん、好意は嬉しいけど前科あるじゃん」
ユ「あの時は巻いたな」
セ「だろー」
ユ「今日は上にあげて、留めるだけだ」
セ「『今日は』?」
ユ「ああ」
セ「否定しないのw……うん、じゃあお願いしようかな」
メモ:ユクシル
魔の力を使わないとしても、護身術の様な体術は得手としているので一定の戦闘能力はある。
護身術の様な、というのは、自ら懐に飛び込み仕掛ける・蹴りかかるなどといったものではないの意。相手が攻撃を仕掛けてきて初めて、そのエネルギーを受け流しつつ急所に手刀を命中させたり、動きを利用し一撃が重い攻撃へと転化させたりするような。
早い話が初手、自分からは動かない。
つまり彼が得手とする体術においては、遠距離攻撃・質量を伴わない星術に対して相当不利。
(なお彼が彼として存在する以上、774の世界では、魔の力が使えない/体を、形成する素の元来の形状へと化させられない事態は有り得ない)