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    見せてるものが違うだけ 手元に置かれた灯りで、銀髪がほのかに染まっている。
     横顔は、こうして黙っていると確かに愛想などまるでないような、凍てついた美貌のそれである。
     ――顔はいいけど、冷たそうで近寄りがたくない?
     ――確かにね。でもそれがいいんじゃない。
     すれ違いざまに若い女が脚をもつれさせたのを受け止めてやったのは、昼間のこと。のぼせたような顔をしてみせた彼女は、直前までの会話から察するに、よそ見をしていたのだろう。クラヴィは少し離れた八百屋で野菜とにらみ合っていた。
     ハイドから見てもやたら整った顔面の彼は、現在、宿部屋に備えつけられた簡素な机に向かい、さして上等ではない紙にこまごまと数を書き込んでいる。
     そのようすを、ハイドは寝台のうえで片肘をついてなんとなしに眺めている。手元の酒はとっくに飲み干していたし、あとは眠るだけだったが、深い意味もなくそういう気分だった。
     手慰みに、空瓶を時おり指で叩く。
     クラヴィは今、いわゆる家計簿をつけている真っ最中だ。
     この面白い習慣は、彼を拾った当時、〝まともな方法〟で金を得たことも使ったこともないだろうと踏み、自分の財布の管理を半分任せたのがそもそものきっかけである。
     ハイドとしては一応支出が収入を上回りさえしなければ問題なく、それもおおよその感覚で分かることであるから、一般的な金の使いかたをざっくりと学ばせる程度のつもりだった。ところが、どこから――と言いつつおおよその見当はつくが――知識を得たのか、少年はきっちり金を管理する術を自力で身につけた。
     金貨と銀貨が何枚以上あるかさえ把握できていれば済むところを、いつ何に幾ら払ったのか、いつ幾ら報酬を得たのか、漏れなく正確に記録を残しながら数えはじめたのである。
     最近では、遣いを頼むついでに本人のものを買わせたところ、節約したようなきらいさえ覗かせた。ひとまずその折は買うべきものを・買いたいものを買えと言いつけたが……だいたい金に困るわけがないのだから、今のところその大半がハイドの稼ぎとはいえ、気にせず好きに使えばいいのだ。
     妙に真面目なやつである。
     まじめで、そしてこちらの想定よりも、なんというか自分を信頼している。
     たとえば今、自分が唐突に眼前へ手をかざしても、警戒しないがゆえに目すら瞑らなそうだ。ぼんやりとハイドは考え、お前って顔の前に手をやられても怯まなそうだよなと、そのまま口にも出した。
     クラヴィは帳簿から顔をあげると、やや気の抜けた返事をした。顔には「なにいってんだこの人」と心の声が露骨にあらわれている。
     ――昼間の買い出しで、若い女性らが遠巻きに、クラヴィを冷たそうだと声をひそめて話していたことを思い出す。
     彼女らを初めとする世の人間は、彼がまさか家計簿をつけているとは夢にも思わないだろう。想像上の彼は、きっと俗じみてわかりやすい表情など見せないのだろう。
     しかし実際は異なる。少なくともハイドの目には、そう映っている。
    makiwaka90 Link Message Mute
    2022/01/28 10:47:38

    見せてるものが違うだけ

    ##sk

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