Trick only「ハッピーハロウィーン!早速だけど写真撮らせてね~」
「ノータイムで来ますね」
問答無用で肩を抱き寄せられたことに別段動じた様子も無く、監督生はケイトとのツーショット撮影に応じる。
「♯NRC♯ハロウィン♯仮装ツーショット♯スケルトンとシーツお化け……ほい、アップ完了っと」
「今日はマジカメの更新頻度が凄そうですね」
「なんたってハロウィンだからねー、バズりそうなネタがよりどりみどり!」
「ボロくなったシーツを改造しただけのお手軽仮装をしてきた自分は悪目立ちしそうですね……」
「えーそう?オレはとってもかわいいと思うけどなー」
「っ!」
ケイトの率直な褒め言葉に監督生は赤面し、フードを目深に被る。
「お、お菓子あげますから次のマジカメ映えスポットに行ってきてください!」
「けーくんまだ「トリック・オア・トリート」なんて言ってないし、そもそもお菓子はいらないんだよねー」
「えっ」
驚いた拍子にフードが脱げた監督生の頭に自分が被っていたベール付きのシルクハットを乗せ、ケイトはにんまりと笑う。
「そういうわけだからイタズラさせてね」
ベールを持ち上げ、露となった唇にキスをする。
その光景はさながら結婚式のワンシーンを彷彿とさせ──
「ドキドキした?」
「ほ、本物のゴーストになりそうなぐらいには……」
「死なれるのは困るな~」
恥ずかしさのあまり珍妙な鳴き声を発することしか出来なくなった監督生を抱き締め、ケイトは苦笑いを浮かべた。
「──あ、さっきの投稿にコメントついてる」
「えっと……『シーツお化けの子はもっと凝った仮装をした方が良い』『ゴーストにイタズラされそうで心配』『素材が良いだけに勿体ない』……」
スマホの画面を操作しながら監督生が読み上げた内容にケイトはふてくされる。
「どのコメントもユウちゃんのことばっかりでけーくん複雑ー」
「な、なんかごめんなさい……」
「ユウちゃんはなーんにも悪くないんだから謝らなくていーの」
監督生に何度か頬擦りした後、ケイトは考え込む仕草を取る。
「んー……やっぱりここはクルーウェル先生に頼んで──」
「勿論引き受けてやるとも!」
勢い良く扉を開けてクルーウェルが入ってきたことに監督生は目を見開く。
「ふ、不法侵入ですか!?」
「失敬な!呼び鈴は鳴らしたし入る許可はゴーストからもらっている!」
「すまないねぇユウ、お取り込み中のようだったから勝手に対応させてもらったよ」
「お、お取り込み中ってまさか……!」
「あちゃー、覗き見されちゃってた感じ?」
「……何のことかは敢えて言及しないでやろう」
「情けをかけていただきありがとうございます……」
「その代わり、だ」
懐からメジャーを取り出し、クルーウェルは不敵に笑う。
「採寸から付き合ってもらうぞ、仔犬!」
「デジャヴー!」
監督生の絶叫にケイトは思わず吹き出した。