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    サイレン「とっくり、お茶でもして帰らないか?」
    新宿の南口から少し歩いたところに東海林と春子はいた。取引先との商談に付き合わされていた春子は足早に
    「中央線でさっさと帰りますよ」
    そう言って東海林の誘いを振り切る。
    「何だよ、そっけないな…あ、ちょっと待って。ATM寄りたいから銀行寄っていいか?」
    「仕方ないですね、そのくらいなら」
    取引先から駅まで徒歩15分、そして秋だと言うのに25度もある晴天の中歩いていると少し汗ばんできていた。
    銀行なら涼しいだろうと中に入り待つことにして、2人は水見銀行新宿南口店へと入っていった。

    新宿の銀行だけあってATMにも行列ができている。これは少し待たなければ順番はこないだろう。中には両替に来たであろうカフェ店員も並んでいた。
    「ちょっと時間かかりそうだから椅子に座って待っててくれよ」
    東海林がそう言った時点で春子はもうソファに腰掛けていた。
    相変わらず無愛想で可愛げのない女だが、やはり仕事のパートナーとしてはとても頼りがいがある、取引先との商談も春子のおかげでスムーズに行きうまく行きそうだー…そう考えながら上機嫌で列に並んでいる東海林の後ろに、突然後ろからドンと誰かがぶつかってきた。それは肩ではなくちょうど腰のあたりのところだった。
    振り返ると小学生くらいの女の子が一人で立っている。
    こんな平日の昼間にどうしたのか、心配になり東海林はしゃがみ込んだ。
    「どうしたんだ?一人で、お母さんは??」
    すると少女は黙りこみ、俯いている。
    その様子をみて心配した東海林は春子に声をかける。
    「とっくり、ちょっと来てくれ」
    呼びかけに気がついた春子は東海林と女の子の方へ向かってきた。
    「どうしましたか?」
    「この子、一人で来てるらしいんだけど…もしかしたら迷子かもしれないー」

    迷子かもしれないから、話を聞いてあげてくれ。



    そう言おうとした言葉を、激しい発砲音が制止してしまった。



    その音に、銀行の中にいた誰もが凍りつく。そして悲鳴が飛び交いATMに真っ直ぐ並んでいた列はあっという間に崩れて自動ドアへと駆け出す。

    「逃げるな!!撃つぞ!!」
    その銃の持ち主はマスクをつけてキャップを深く被っていた。声や体格からして男だろう。
    こんな様子ドラマでしかみたことがなかった東海林は足が震えて動けなくなっていた。
    銃を撃ち顔を隠している男は誰がどうみても銀行強盗だ。

    「おい、とっくり…どうするんだよ」
    「こう言う時は威嚇せず冷静に行動するんです…」
    さすがの春子も動揺しているようで、言葉に覇気がなかった。
    すると強盗は東海林と春子の方に向かってくる、何かされるのかと怯えつつも逃げることができず固まっていると、強盗は女の子を右手で捕まえて銃を突きつけた。
    「この子供を人質にする、客は全員奥に行って座ってろ、銀行員はあるだけの金を用意するんだ!」


    さすがの春子も銃と人質を盾にされては何もできず、
    強盗の言う通りに従った。女の子は強盗に言われるがまま引っ張られて固まっている。

    行員たちもパニックになり中には言われてもないのに手を上にあげたり、震えて涙目になったり、とにかく右往左往している人もいた。

    ATMに並んでいた客たちも、怯えながらそこに佇んでいた。するとカフェ店員がスマホを取り出している。それに気づいた春子はとっさに
    「ダメです!!」
    その声と同時に銃声が鳴り、スマホと当時に赤い血が滴り落ちた。
    カフェ店員の手をかすって銃弾はATMの横の壁に食い込まれている。そして大勢の悲鳴が響く。
    「余計なことをしたらこうだぞ!!早く奥へ行け!!」
    カフェ店員は涙目で流血をもう一つの手で抑えている。春子はそっとハンカチを出して無言で渡す。これ以上犯人を威嚇すれば危険だと思い、犯人から見えないようにわざとカフェ店員の前を歩いていく。

    人質にされた女の子は相変わらず硬直している、泣き出したりしていないところをみるとまだ怖いという感情が実感できていないのかもしれない。


    そんな周りを見渡しながら様子を伺う春子とは対照的に、東海林はただ自分がなんとかしないといけないという使命感を抱いていた。春子もそうだが人質の女の子のことが心配でたまらなかった。迷子になった上に銀行で人質にされているなんて、きっと自分が親ならショックで失神しているかもしれない。

    どうしたら、助けてあげられるのだろうー。


    「おい、早く金を用意しろ!!」
    犯人に怒号を浴びせられて行員たちは急いでお金を袋に詰めていた。そして銃のトリガーに指を当てて女の子の頭に当てている。その姿を見ていると、東海林はもう黙っていることはできなかった。


    「おい、強盗さんよ。そんな小さな子供人質にするなんてヘタレすぎないか?」
    東海林の言葉に、春子は思わずヒヤっとした。余計なことを言えばまた撃たれるのに、この男は何を考えているのか。

    「お前、俺にケンカ売ってんのか?」
    犯人は銃の向きを女の子から東海林に変えた。
    「ケンカじゃない、俺を人質にして欲しいんだ」
    そう東海林が口にすると、春子は少しだけ俯いてしまった。






    「は?なんでお前を人質に…」
    「女子供のように自分より弱い人間を盾にしなきゃ何もできないのか?銀行強盗なんて思い切ったことをする割にはちっちゃい男なんだな」 
    「うるさい!!」
    男は興奮してまた発砲する、東海林の真横にあった鏡を撃ち、破片がそこら中に散らばると、また大きな悲鳴が上がる。
    「もういい、お前が人質になりたいなら来いよ。あとで後悔しても知らないからな!」 
    犯人は乱暴に女の子を突き飛ばし、女の子はよろけながら床に倒れ込んだ。その女の子を春子がすばやく抱き上げて端の方に寄せてあげる。

    「おい!そこの銀行員、そいつの手首を縛れ」
    受付案内をしていた若い男性行員にそう命令すると、犯人はバッグから縄を取り出し手渡しした。

    行員は怯えながらも、東海林の手首を後ろに回して結っていく。思ったよりもきつくて、東海林は「そんなにきつくしないで」と小声で話しかけるが、聞こえているのかよくわからないような態度を取られた。
    そして縛り終えると、犯人の目の前に正座をして座れと命令された。ゆっくりと近づいて、膝をついて座っていく。そして犯人は銃口を東海林の頭に向けながら
    「おい、まだ用意できてないのか?」
    窓口の行員たちに重圧感を与える。
    「すみません、いくら用意したら…」
    「金額はいい、とにかくあるだけ詰めろ」
    支店長らしき男性がか細い声で対応しているが、明らかに動揺してうまく動けていない気がすると春子は思った。確か、銀行には足元に通報ボタンがあったはずだが誰か押しているのだろうか?もしそうならそろそろ警察がきてもおかしくない。犯人も1人なら、気をそらせば倒せるかも……そう頭の中で突破口を考えていたが、目の前に東海林がいることで、なかなか行動には移せなかった。
    春子はただ解放された女の子に寄り添いながらその様子を見守っていた。
    握っていた女の子の手はいつしか汗でにじんでいた。

    そして数分後、2つの大きな紙袋を窓口に置き行員たちは「これで全部です」といいながら、犯人に札束を差し出した。
    1人で両手で持つには少し重いくらいのその紙袋を、さっきの受付の男性に持つようにと指示した。犯人は片手で1袋持ちそれを乱暴に受付の左手へと渡した。
    そしてもう一つは自分で持ち、地下の駐車場まで持っていくよう指示する。そして東海林の胸ぐらを掴みながら立たせて、受付について歩くよう脅していた。
    「いいか、しばらくそのままでいろ。誰かがおかしな行動をすればまた撃つからな」
    そう言い残すと犯人たちは裏口へ向かうドアへと消えていった。春子はただ東海林の背中だけを祈るように見つめていた。


    その後フロアは時計の針の音が煩く聞こえるほど静かだった、だが数分経つとザワザワし始め、誰かが小声でもう大丈夫なんじゃないか?と言い出すと釣られるように他の客や行員たちも今のうちに逃げようと言い出したりしていた。
    そして行員のある1人が
    「先程警察への通報ボタンを押したので、あと少しで警察がきます…」
    と、言いかけていたその時だった。

    奥の方から『パン!!パン!!』と銃声が2発放たれる音がした。その瞬間、周りは凍りつき言葉を失う。
    春子も鼓動が高まるような不安に襲われた。最悪の事が脳裏に浮かぶ、まさか撃たれていないだろうか。
    2発も発砲があったと言うことは受付の男性と東海林を……そう考えるといてもたってもいられなかった。
    春子は躊躇うことなく、裏口へのドアへ向かう。
    「何してるんですか、危険です!」
    そう叫ぶ支店長の声も耳に入らずとにかく前へと進んだ。
    どうか、どうか無事でと祈ることしかできず階段を降りて地下の駐車場へと向かう。
    そして階段を下り切ったところで、あるものが床に転がされていることに気がついた。
    それを見つけたと同時に、あんなに逸っていた足が急ブレーキを踏む。
    それは、小さなレコーダーだった。

    ゆっくりと拾い上げると、音量ボタンを下げて再生ボタンを押す。まさかと思いながらも流れてきた音を聞き、やられたと感じ頬に手を当てる。
    その音はさっき聞いた2発の銃声音だった、だとしたら2人はどうしたのか。春子は駐車場へと向かおうと再び階段を降りようとした、だが何処かから音の気配を感じてゆっくりと廊下を見渡した。
    少し奥の方で、何かガタガタと音が聴こえる。
    もしかしたら、まだ犯人たちはこの建物にいるのかもしれない。
    春子は足音を消しながらゆっくりと前に進む、ドアを開けて急に撃たれても当たらないようにと体を下ろしながら音が聴こえた部屋の前まで行く。そこは男子更衣室と書かれていた。鍵がかけられているか僅かな隙間から確かめて、鍵がかかっていないのを確認すると、一気にドアノブを引いた。ドアを縦にしながらしゃがみ込み中を覗く。

    すると、そこには東海林だけが1人椅子に縛られて座っていた。


    口を塞いでいたタオルを解くと、東海林は小声で
    「とっくり、なんでここに…」
    そう聞かれたが春子の方が聞きたいことは沢山ある。
    「なぜあなただけ残されているんですか?」
    「わかんねーよ、急にここへ連れてこられて…あの銀行員と一緒にどっか行って…」
    そう話す口調は弱々しくて、拘束を解いていると体の震えが伝わってくる。それにしてもキツくてなかなか解けない。必死で引っ張り手首の縄まで解くと真っ赤な跡が残されている。少しだけ手の血の巡りも悪くなっているように感じて、春子は手をマッサージしながら話す。

    「もうすぐ警察もくるようですから、とりあえず落ち着きましょう…一緒に連れて行かれた行員も心配ですが…」
    そんな東海林の震えを感じながら、春子はある違和感に気がついた。


    そうだ、こんな怖い目に合えば震えて動揺するのが普通だと。でも、震えるのではなく緊張している人物がいた。そしてー…。

    「東海林課長、私にそのタオルを渡してください」
    春子は東海林が手にしていたタオルを渡すよう要求した。
    「え…でもこれツバついて汚いぞ…」
    「いいから、早く」
    「あ、ああ」
    東海林はよくわからずタオルを春子に差し出した。
    そのタオルを受け取り、強く握りしめた春子はもうひとつの違和感に気がついた。

    「もしかしたら……」



    2人で1階のフロアに戻ると、ちょうどサイレンの音が聞こえてきた。そこにいた客や行員たちも東海林の姿を見て、少し安心したようだった。だが受付の姿が見当たらないことで、一抹の不安を感じている。だが春子だけはもう全てわかってしまっているような清々しい顔をしていた。
    そして、最初に人質となっていた女の子の方へと向かい、目線をあわしながら話していく。


    「ねえ、あなた緊張してたのよね。ちゃんとうまくできるかどうか…」
    そう話を切り出すと、女の子はまた黙ったまま固まっている。
    「お願い、本当の事を話して。あなたは、人質になるように命令されていたのではないですか?」
    その言葉に、後ろにいた東海林はまだ意味が理解できずに動揺していた。
    「おい、どう言うことだよ…」
    春子は東海林の投げかけをスルーして女の子に問い続けた。
    「あなたは犯人を知っているんじゃない?犯人のために人質になった、だから震えるんじゃなく、緊張していた、バレずに人質になったフリができるかと…」
    責めるように言ってはいけないと、優しくゆっくりと話す春子を見つめながら、女の子はいつしか目に涙を溜めて口を開いた。



    「だって…お金が……お金がないと困るからって……パパが……」

    そのか細い告白をかき消すかのように、警察が窓口から大勢駆け込みあたり一帯は騒然としていた。





    1週間後ー。
    新聞を見ると銀行強盗の続報が小さく載っていた。犯人は女の子の父親で、会社の借金で手が回らず犯行に及んだと書いている。そしてあの受付の行員もグルで、最初は何事もなかったように戻ってきたが、犯人の証言であっさり逮捕されていた。あの女の子はどうなったのか、それだけが気がかりだった。

    「お前さ、昔銀行員だったんだろ?強盗とかあったりしたのか?」
    会社の休憩室で新聞を広げている横でお茶をすすっている春子に質問をするが
    「そんなのありません、今回が初めてでした」
    「マジで、じゃあ貴重な体験になったしよかっただろ」
    「あなたはバカですか?一歩間違えたら死んでたかもしれないんですよ」
    「わかってるよ、もうトラウマでしばらく銀行行くの怖いわ…」
    東海林は新聞を閉じて、横にあるコーヒーに右手を差し出して一口飲み込んだ。それを見て、春子は思い出す。

    あの時、なぜ犯人が紙袋を先に左側から渡したのだろうと思った。犯人は左手で銃を持っていたから、左利きの習性かとも思った。でも、縄を持つ手も左でやたらキツく縛っていたのを考えると、共犯でお互い左利きだと知っていたのではないなと感じた。その予想は見事に当たっていたのだった。

    そして春子は呑気にコーヒーを飲む東海林をちらりと見つめる。
    「もう、変にカッコつけて人質になるだなんて言うのはやめてください」
    「うるさいな、もっと褒めろよ。勇気ある行動だ!とかさ」
    「ただのバカです、あなたは」
    「何だと?とっくりだって何もできなかったじゃないか、お前も銃とか隠し持って犯人打ち倒せよ」
    「私は狩猟目的の所持許可しか持っていません」
    「って、打てるのかよ!!狩人か!!」

    春子は内心、またいつもの日常に戻れてよかったと心の中で微笑んでいた。



    しゅ Link Message Mute
    2021/01/12 11:17:20

    サイレン

    どんなトラブルに巻き込まれても春子がいれば大丈夫。

    #ハケンの品格 #東春 #二次創作

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