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    【小さな身体を抱き寄せて】





    ざぁーっと言う激しい音を立てて雨が降る。
    リビングの窓から外を見ていたスマイルがあーあ…と溜息を吐いた。
    「さっきまであーんなにイイお天気だったのにネ。」
    「…通り雨だろう。すぐに止む。」
    「そうカナー…。
    けっこー重たい雲みたいダヨ?
    ……おや、カミナリだ…」
    遠くで稲妻が走り、轟音が轟いた。
    「…うわっ…。」
    それにアッシュが思わず耳を塞ぐ。
    「ヒッヒッヒッ…なァに、アッシュ〜、コワイの?」
    「…イヤ、怖いんじゃなくて。
    ……苦手には、苦手っスけど…」
    「キミ、ライブの時イナズマモチーフのペンダントしてるじゃん?」
    「…あれはあれ。自然災害とは別ものっス。」
    「ぷぷー。結局コワイってことー?」
    「…やめんかスマイル。
    お前が鳩を苦手としているのと何が違う?」
    「……やーだァ…。
    そーゆの引き合いに出さないでヨ。
    ユーリのイジワル。」
    「同じことだと言っているだけだろう。」
    「ハイハイ、分かりま…………」
    「「?」」
    不自然に途切れたスマイルの言葉にどうしたのかと二人は顔を見合わせる。
    「…スマイル?」
    「…どう、したんスか?」


    スマイルの視線を辿ったその先で
    もえがクッションを抱きしめて顔を埋めていた。


    再び外で雷光が走り、直後に轟音を立てる。
    「うわっ…!」
    これには流石に驚いた様子でスマイルは窓を振り返る。
    「…い、今のは…近かったネ…」
    「どこかに落ちたな。
    ……スマイル、カーテンを閉めておけ。」
    「ハーイ。」
    ヨイショ。と重いカーテンを引けば激しい雨音も雷鳴も僅かに軽減された気がした。


    ユーリはもえの前に膝を付いて様子を伺う。
    小さく震えるその様子はただ雷に恐怖していると言う訳ではないだろう。
    先日も雷が鳴っていたが…
    その際には別段変わった様子もなくスマイルと他愛ない会話をしていたのをこの目で見ている。


    心とは繊細なものだ。
    恐らく今日この時のこの状況が
    彼女の中で過去の状況と結びつき
    心的外傷を呼び起こしてしまったのだろう。


    しかし彼女はそれを必死に抑えつけようとしている。

    「モエ、聞こえているか?」

    ぴくりと身体を跳ねさせて
    ゆっくりと顔を上げた彼女の青ざめた顔が苦しそうに歪んでいた。

    「…私に、出来ることはあるか?」

    その頬にそっと手を添えれば
    彼女は身体を強ばらせる。
    それは、驚きの感情の様だ。

    「……こんなに震えて、可哀想に…。」

    驚く程に優しい視線と口調でそんなことを放つユーリを見て、アッシュとスマイルはそっとダイニングへ引っ込んだ。




    永く生きていれば見てえしまうものもある。
    それは都合の悪いものの方が圧倒的に多い。

    だが今は、その経験があって良かったのかもしれないとさえ思っている自分がいる。

    彼女の心と身体が不安定な事は神からも聞かされていたが
    何よりも日々の彼女を観て…窺い知っている。
    その様な弱みは見せたがらない
    強がりな所さえも良く理解している。
    だからこそ見過ごせる事は極力触れないようにと努めてきた。
    …それが彼女の為でもあると思ったからだ。

    しかしそれは既に限界だった。
    彼女自身がそれを耐え忍ぶより先に
    自分たちの方が根を上げていた。
    辛く苦しいのは彼女の方であると言うのに。
    見ているだけの自分達は
    彼女のそんな姿にはもう耐えられずにいるのだ。


    例えその心の傷を癒すことが叶わないとしても
    その痛みを代わることが叶わないとしても
    せめて傍らに寄り添い、慰め、甘やかすことくらいならいくらでも出来よう。

    そう結論付けた。


    「モエ、すまない。」

    その小さな身体を腕に抱きしめれば
    彼女が息を呑んで身を固くしたのが分かった。


    そう、これは…彼女の意思を無視したエゴに他ならない。
    彼女が望むにしろ望まぬにしろ
    もう…傍観を気取るつもりは毛頭ない。

    「モエ、聞いておくれ。
    私は…苦しいその胸の内を無理に聞き出したいとは思わぬ。
    ただ、お前に寄り添う権利を我らに与えてはくれないだろうか…。」

    嫌がって居る訳ではない。
    何かを恐れている…そんな感じだ。
    それが何なのかは知る由もなく…
    また知らなくても良い。

    「ただただお前を甘やかしてやりたいのだ。
    アッシュもスマイルも、そう思っている。
    お前のその心が、その身体が…
    苦しみ、悲鳴を上げるのならば
    我らは何時でも寄り添い助けとなろう。

    だから僅かで良い。
    我らにその苦しみを分け、縋り、甘えておくれ。
    張り詰めてばかりでは本当に壊れてしまう。」

    とんとんと背中を優しく撫でてユーリは言い聞かせるように優しく告げた。

    「妖怪とは言え…してやれる事などほんの些細なものだ。
    モエが我らに気付かせてくれたものに比べれば
    遥かに小さい。」

    そっと体を離して頬に手を添えると額と額を付ける。
    僅かに潤んだ瞳が真っ直ぐに自分を見つめていて吸い込まれてしまいそうに思えた。

    「…安心して良い。
    我らがお前を『必要』としている事は
    もう間違いないのだから。」

    その言葉が、彼女の胸の仕えを幾分溶かした様だ。
    とめどなく溢れ出した涙に彼女自身すらも酷く困惑していた。

    「そう…それで良い。」


    彼女の頭を自分の胸に押し付けてやれば
    彼女は自分のシャツを握りしめ肩を震わせていた…。


    月瀬 櫻姫 Link Message Mute
    2023/08/19 8:49:40

    【小さな身体を抱き寄せて】

    抜粋第三弾
    #ポップン
    #もえ(ポップン)
    #Deuil

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