軽すぎる重さ──片腕で受け止めた身体の軽さに背筋が寒くなる、なんて経験は後にも先にもこれっきりだろう。
いや、これっきりにしなければいけない。
「新ジャガ一号二号、ちょっと良いかしら」
「はっ、はい!」
「やっべ、なんかやらかしたかなー……」
気まずそうに頭をかくエースを無視してヴィルは本題を切り出す。
「単刀直入に聞くけどマネージャー……監督生は日頃きちんとした食事をとっているの?」
「えっ?」
予想外の質問にエースとデュースは間の抜けた声を上げる。
「呆けた顔をしてないでさっさと答えなさい」
「えーっと……最近はちゃんと食べてる方……だったよな?」
「ああ、ろくに寝ても食べてもいなくて倒れたのはあれっきりで──」
「っその話、詳しく聞かせなさい!」
ヴィルの勢いに押され、エースとデュースは知っていることを洗いざらい話す。
「ってなわけであいつの飯は主にオレらが面倒見てる感じっすね」
「体重が落ちやすい体質の監督生をどうにか太らせようと先輩たちが頭を悩ませてたっけな……」
「そういう事情があるならあの子だけ食事のメニューを変えるわ」
「えぇーずりー!……って言いたいとこだけど、今回ばかりはしょうがないか」
「監督生が倒れたら合宿どころじゃ無くなりそうだしな」
渋い顔をしながら思案するヴィルに気づいた様子も無く、エースとデュースは監督生の体重に関する話に花を咲かせた。
そんなやりとりがあった暫く後。
「相変わらず軽いわね。ダンベル代わりにならないじゃないの」
「ヴィル先輩が力持ちなだけかと……」
「それを差し引いたとしても、よ」
監督生の身体を片腕で抱え上げた姿勢のままヴィルは溜め息を吐く。
「……合宿中、段差につまづいて転びそうになったアンタをアタシが受け止めたことがあったわよね」
「あっはいありましたね、そんなこと」
「正直ゾッとしたのよ。あんまりにも軽すぎて目の前にいるアンタが幻じゃないかと疑ったわ」
「そんな大袈裟な……」
「アタシだって馬鹿げたことを言ってる自覚はあるわよ」
空いた手で監督生の髪を弄びながらヴィルはきっと睨みつける。
「ところでアンタ、金欠を理由に食べる量を減らしたりしてないでしょうね?」
「し、してませんよ!ヴィル先輩ちょっと心配しすぎじゃないですか!?」
「黙らっしゃい!これ以上心配されたくなかったら体重を増やすことね!」
日常茶飯事となりつつある痴話喧嘩をルークがこっそり見ていたことにヴィルと監督生が気づくのはここから数分後のことだった。