化粧とまじない化粧は女性だけがするものである、という偏見はこちらの世界に来てから半月も経たない内に消え去った。
寮長を除くハーツラビュル寮の生徒はトランプのスートを模したフェイスペイントをするのが当たり前。
式典服への着替えは専用のアイメイクを施すまでがワンセット。
体力育成や飛行術の授業が終わった直後の休み時間は汗で崩れた化粧を直しながら駄弁る。
そんな日常を送る側に自分がなるなんて考えたことも無く──
「はーい出来上がり、っと」
「うわすっご……」
鏡に写る自分の顔──頬に描かれた複雑な模様に監督生は驚きの声を上げる。
「ところで化粧が課題に出される授業って何ですか?」
「防衛魔法だよー。アイメイクが魔除けのまじないになるって話はー……一年生の時にやるっけ?」
「えーと……ちょっと前の授業で聞いたような……」
「催眠魔法なんかが分かりやすいけど、目を合わせることが効果を適用する条件の魔法って結構多いんだよねー」
「あ、ジェイド先輩やジャミル先輩のユニーク魔法」
「そういうのを防ぐ手段の一つが目元に魔除けのまじないを施しておくこと」
化粧が崩れないよう注意しながらケイトは監督生の目元を優しく撫でる。
「限度はあるけど厄介な魔法から身を守りつつマジカメ映えするお洒落も出来るアイメイクは覚えといて損は無いよー?」
「やってみたい気持ちは一応あるんですけど、お金が……」
「もー、またそれー?金欠をチャレンジしない言い訳にしてなーい?」
「うっ」
ケイトの指摘に監督生は口ごもる。
「やりたいって言うだけならタダだよー?」
「そう……なんでしょうけど……うーん……」
「難しく考え過ぎるのはユウちゃんの悪いとこだよー」
「むぅ……」
「宿題手伝ってもらうのと同じ感覚で言って良いんだよ。そのくらいのことでバチが当たることなんて早々無いんだからさ」
申し訳なさそうに縮こまる監督生を抱き締めながらケイトは笑みを浮かべた。
──翌日。
「監督生~マジカメ見たぞ~」
「……エース、そのウザいノリはわざとなの?」
「こんなの見せられたらこういうノリにもなるっつーの」
呆れる監督生にスマホの画面を見せながらエースはにまにまと笑う。
「てかケイト先輩気合い入れすぎでしょこれ」
「それは自分も思ったけど言えなかったなぁ……」
目線を泳がせながら監督生は苦笑いを浮かべた。