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    #4 こっからはメンタリストの出番だね♪「ブロックチェーンって技術がっ、全てのベースになるんだけどねっ!」
    「ねえSAIちゃん、その話って長い?」
    「ピェ……」
    「八つ当たりか? らしくないなゲン、もう少し落ち着け」
    「っあ~……メンゴ……」

     さて何から説明しようか、と少なからずわくわくしながら話し始めたSAIを、ゲンの冷たい声がひっぱたく。龍水とのこじれきった仲を修復してくれたゲンには恩と共に若干の甘えもあったSAIがしゅんとなってしまい、それを見た龍水がゲンを腐して、それでゲンもさすがに頭を抱えた。

    「バイヤー……俺ジーマーで余裕ない……」
    「気にするなSAI、ゲンは千空が絡むとこうなる」
    「は~。そういうの知ってるの、龍水ちゃんと羽京ちゃんだけにしときたかったんだけどな~」
    「貴様は何を言っている? 大樹やコハクもよく知っているだろう、違うか?」
    「でっすよね~……ああ恥っず……」
     大きな両手で抱えたままの頭をぶんぶん、と数回振って顔を上げたときには、さすがに己を取り戻したらしい。消耗は残すものの、姿勢や目の光は、いつもの「人に見せるためのあさぎりゲン」になっていた。

    「SAIちゃん、さっきはごめん。龍水ちゃんの言う通り、八つ当たりだったわ。聞いておいてジーマーで失礼なことした。お願い。イチから教えてほしい」
     深々と頭を下げるゲンに、SAIがかすかにびくりとする。いてくれて良かった、とSAIが龍水を見上げると、弟はニカッと笑って「ひとつ貸しだな、SAI!」と言った。

    「じゃ、じゃあっ、説明するけど……」
    「うん、お願い。俺ジーマーで何も知んないから、変な質問するかもしんないけど、許してね」
    「う、うんっ、問題ないっ、よ」
    「ええとブロックチェーンね、ビットコインとかのやつだっけ?」
    「そうっ、仮想通貨とか暗号資産とかって呼ばれてるけど、あれはブロックチェーンの仕組みを通貨に適用したものなんだっ。ブロックチェーンっていうのはもともとデジタルデータが改ざんされてないことを証明する仕組みそのものを指すんだ。でねっ、信用を担保できる情報はそれそのものが通貨になるからブロックチェーンのモデルはそのまま貨幣経済に適用できる。つまり暗号資産はブロックチェーンで価値を保証されるデジタル通貨ってことでっ、分散型台帳とスマートコントラクトの仕組」
    「メンゴ待って待って~~~」

     SAIの早口をもう一度ゲンが遮る。今度こそ萎縮なく、自然に言葉を止めたSAIに、龍水が少しほっとしたような表情をした。龍水がふとしたときに見せる機微にSAIちゃんは気付かないんだよな、こういうとこをチェルシーちゃんは「健気」って言ってたんだよなあ、などと思いながら、ゲンは本音半分、道化半分の嘆き声を続ける。

    「わかんないよ~~~通貨になるって何よ〜〜〜」
    「貴様……経済への嗅覚は鋭いほうだと思っていたが」
    「違う違う! 俺は稼ぐのが楽しいだけ! ケーザイの仕組みとかにはそんなに興味ないの〜」
    「ほう、つまりはどんな仕組みでも稼げる自信があるということだ。違うか?」
    「まあね〜? だから仮想通貨も知ってはいたよ? でもぶっちゃけ石化前の時点ではゲンナマ持ってる方が強かったじゃない。んで俺はゲンナマ持ってたし」

     ガッポガッポ稼げるのは、当たり前に嬉しい。ギャラが増えるのも、それで預金の残高が増えるのももちろん嬉しい。大舞台でショーが出来る、地上波に冠番組を持っている。観客を騙して美味しいとこを持って行く、そういう「ゲームに勝った」喜びが好きなのだ。自分の能力が世界に通用する、その結果としてお金が手に入る。こういう分かりやすい成果は本当に手に入れたいモノができた時のための対価になるから、ストックしておくのは大事だけれど、大事と言っても手札は手札。欲しいものを得るための手段が増えて嬉しいってだけだ。

    「そういえば貴様、俺から巻き上げた石油代はほとんど千空に渡していたな」
    「あの時点では千空ちゃんに渡すのが俺にとっての最適解だったのよね。その結果として今があるわけだし?」
     ……そういう時のためにゲンナマ持ってんだよ。あんな唯一無二の男を手に入れられるなら、もう何だってやっちゃうに決まってるだろ。
    「フゥン、貴様のそれは、献身と呼ぶにはだいぶ生臭いな」
    「まあよくカン違いされてるかんね。千空ちゃんの隣って特等席を手放すつもりがなかっただけよ〜♪」
     ニヤリ、と笑うゲンに、SAIが慄いている。龍水が笑い返すと、尖った犬歯が覗いた。

    「フゥン、では貴様、現在のドラゴについてはどう思う?」
    「え? 別にどうでも良いんじゃないの? そりゃ基準通貨としての価値は高いけど実際のとこ人類全員分の現金を印刷する技術はまだ無いし、現金を物理的に輸送するのもバカバカしいし」
    「では、現金の総量が足りない地域では、何を基準に価値を定める?」
    「だから大急ぎでネット回線敷いたんじゃない。リアルでは現金とモノを物々交換して、ネット銀行では残高の数字が現金の代わりになる。ドラゴの総量が残高の総数に全然届かないのはちょっと危ういけど、そこは皆が龍水ちゃんのこと信用してるから無茶な貯め込みをしてない。それで市場の健全性が保たれてる」
    「フゥン。核は掴んでるじゃないか」
    「まあそんくらいはね? それと暗号資産に何の関係があんのよ」

    「つまり通貨の価値は、期待と信頼を共有することで確定するものだ。千空は石油を見つける、そう皆が信じたから、ドラゴはただの紙切れじゃあなくなった」

    「うん、それは分かるけど」
    「ブロックチェーンはシステムへの信用で価値が保たれる。まあ色々と細かい仕組みはあるが、『情報が鎖状に絡み合う長いデータ群』をイメージすればいいだろう。鎖の繋ぎ目には前後の情報の一部が記録されている。チェーンの中のデータを不正に書き換えると、前後のデータとの整合性がとれなくなって『チェーンが切れる』。つまり不正がバレるわけだな。……その仕組みを皆が信用することで、ブロックチェーンに記録される情報は『信用する価値のあるもの』になる。いくら千空や俺がいても手元に現金がなければ復興のモチベーションは起きん。現金を印刷するスピードで復興にブレーキがかかっては元も子もないからな。ドラゴを基準にネット上で誰もが参加できる経済圏を、ブロックチェーン技術でSAIが敷いた。これが現在の世界市場だ」
    「龍水ちゃんが復興中に銀行作ったじゃん、あれとは違うの?」
    「人口の増加ペースが速すぎるからな。龍水銀行の既存システムに全人類の口座情報を集約させるのは不可能だ。銀行機能の大きな役目に『正確な取引情報の守護』がある。このシステムは世界中にチェーンの複製を分散して保存し、定期的に照合する。その時に改ざんや不正が疑われるチェーンは破棄される。このプロセスを自動化して銀行機能の一部を不要にした。人々は支店に口座を作る必要もなく、自分のアカウントでネットにアクセスすれば経済圏に参加できる」

    「……なるほど。石化前にペイペイッて払ってたアレのイメージね。あれも現金ベースだったけど」

    「コード決済もっ、利用者が現金の価値とサービスの安全性を信用してるからこそ普及した方法だったね」
    「銀行支店やクレジットカードが届く前に、経済圏に参加できる。それが結果的に復興を促進させる。……現状がパーフェクトかは分からないが、SAIが敷いたインフラだ。これ以上の仕組みを作れるルートは無いさ。違うか?」

     ゲンは顎に手をあて、視線を中空に彷徨わせる。石化前と一部地続きの仕組みを咀嚼した様子で、片方の口角を釣り上げながら、

    「……つまり、ドルやら円やらユーロやらを龍水ちゃんがドラゴでまるっと統一しちゃったのと同じで、ペイペイッとか楽天ポイントなんかの仕組みをSAIちゃんの仕組みでまとめちゃったわけね。その仕組みが上手く動いてるのを誰もが信用するって、他ならぬ龍水ちゃんやSAIちゃんが信じた上で」

     と言った。

    「……そうっ、だよ」
    「フゥン。もう何か悪用する方法でも思いついたか?」
     鼻白むSAIと、嬉しそうに笑う龍水がいる。ゲンは軽く「まあね♪」と返し、
    「お人よしだよねえ、七海家は」
     と笑った。

    「オッケ〜、俺もちょっと分かって来たよ。外交官て基本アゴアシマクラで首都を飛び回るからさあ、このへん知る必要もなかったのよね。……で、これは何?」
     そう言いながらゲンが指さしたのは、SAIが出力していたデータ群の中で、先刻に龍水が指摘した部分だった。
    「……さすがっ」
     今度こそ声が出る。龍水はさらに嬉しそうに、笑みを深めた。
    「そうだろう、SAI」
    「なんで龍水ちゃんがドヤってんのよ。これ、数字ばっかで分かりにくいけど、図にしたらここまで2人が説明してくれたブロックチェーン経済圏のヒートマップになるんでしょ」
    「そうっ、まさに今からっ、その説明に入るとこなんだ」
    「うん、お願い」
    「SAI、さっきの貸しを使わせろ。俺は疲れた、後は任せるぜ」
     龍水は少しだけ気怠そうに身体を引きずって歩くと、SAIが小休止用に使っているロッキングチェアに背を預け、ため息を吐いて目を閉じた。

    「ああっ、大丈夫だ」
    「龍水ちゃんメンゴね〜怪我してんのに」

     2人の言葉に龍水は、自由の効くほうの手をひらひら振るだけで応える。そのまま船長帽を目元に引き下ろして、ゆっくりと呼吸をし始めた。

    「じゃあっ、続けるよ」
    「うん。これはヒートマップで合ってんの?」
    「そうっ! 僕の敷いたインフラはっ、さっき龍水が言ってた仕組みを万人に解放して、誰でも経済圏を立ち上げたり参加したりできるようにしてあるんだっ。ドラゴとは別に、独自の経済圏で流通させるローカル通貨を発行することも許容してる」
    「そんなことしちゃって良いの?」
    「経済圏によってお金の価値も重要性も変わるからねっ、全てをドラゴ基準にする必要はないさ」
    「利権を独占する気が無いあたり、エンジニアのSAIちゃんらしいね〜」
    「でね、これがっ、ロケーション情報。つまり、どの経済圏がどんなふうに活発化してるのかを地域別に見分けられる。具体的な取引内容まで監視する必要はないけど、経済規模や傾向から、ある程度地域の治安が読み取れる。たとえばこのデータ、見て」
    「……急にバーンって数字が大きくなって、しばらく拡大した後にパッタリ途絶えてるね」
    「さっきまで龍水を騙る偽物が立ち上げた経済圏があったんだっ」
    「さっきまで?」
    「うん、今僕が潰したから。こういう偽のカリスマが現れると、一部の経済圏が急に活発化するんだっ」
    「潰した?」
    「うん、こういうのは早めに対処しないと危険だからねっ。だから千空についても、何かしら分かるんじゃないかと思ったんだっ」
    「うーん、色々気になるけど千空ちゃんの話になるならいいや。それで千空ちゃんの行方が分かるっての?」

     SAIが無骨なコンソールを操作すると、龍水が注視していたデータの詳細を示す画面が出てくる。
    「このコンピュータには高度な作図機能なんてないからねっ、数字で読んでもらうよ」
    「ややこいけど、まあ地獄のモールス打ちよりは全然おっけーよ♪ で、これ何?」
    「DAO」
    「だお。また知らない言葉が出てきた」
    「Decentralized Autonomous Organizationの略」
    「ディ・センタライズ……中央に集めない、オートノマス……自動とか自律って意味だっけ。で、オーガナイゼーション……組織」
    「そうっ、日本語だど分散型自律組織」
    「うん、わかんない」
    「個人で立ち上げた経済圏の価値基準を共有する人たちの集まりのことだよっ」
    「うん、ますます分かんない」
    「世界中にこういう個人が立ち上げた経済圏があってねっ、そこで流通するローカル通貨によって区別してる。同じ通貨を使っているDAOは価値基準や思想や近いんだっ」
    「あ、ちょっと分かった。楽天ポイントとかANAのマイルとか使う人たちの集まりだ」
    「そうだねっ、ローカル通貨は旧世界のお金やポイントに近いと思うっ。正確にはトークンって言うんだけど、これはDAO内での報酬としても流通してる」
    「このDAOの中で使うポイントやマイルみたいなものトークンって言い換えて、お金に代わるものとして扱ってる、って理解でいい?」
    「そうっ、そうだよっ!!」

     表情を輝かせるSAIに、ゲンは「なら最初からそう言ってよ」と言うのをギリで堪えた。こちらは一秒でもはやく千空に辿り着きたいのだ。この気弱な天才を萎縮させている暇はない。

    「DAOの中でだけ流通するトークンはガバナンストークンって言って、お金よりも株式に近いものになるんだっ。ガバナンストークンは、参加者が組織に貢献した度合いによって支給される。DAOの運営方針は参加者の話し合いと合意によって決まるようになってるけど、その中でも多くトークンを持つ人がより大きな決定権を持つ」
    「……ふーん。ビミョーに中央集権的な気もするけど」
    「さらに、自分のトークンを信頼できる人に預けて決定権を委ねることもできる」
    「ん〜? そしたら結局カリスマ独裁が一番になっちゃわない?」
    「ふふっ、そうだねっ。この構造があるから、龍水の偽物が立ち上げたDAOには、当初たくさんの人が集まったわけさ」
    「なるほど、龍水ちゃんの名前があれば、何か新しくオイシイ思いができそうに見えるもんね〜。でもこれ、SAIちゃんが潰したわけでしょ? 今どうなってんの?」
    「さあね、それは知らないよっ」
    「うわ、怖」
    「いやっ! 悪質な騙りがなければ僕だって普段は無視するさっ! 嘘で始まる仕組みなんて、いくらでもあるものだしっ!」
    「……ああ、それは身に覚えがあるね〜」
    「うん? ……で、まあ、そんなわけだから、急成長中のDAOには何かしらのカリスマが絡んでる可能性がある、ってわけだよ」
    「……おぉ、そゆことね」

     ようやく、ようやく話が見えてきた。SAIと龍水がゲンに言いたかった事というのは。

    「……つまり、SAIちゃんが気にしてたいくつかのDAOの中に、千空ちゃんか、その騙りが関与してる可能性があるってわけね」
    「そういうことっ!」
    「オッケ〜……こっからは、メンタリストの出番だね♪」

     ニヤリ、と笑うゲンの横顔に、またSAIが「ピェ」と小さく鳴く。
     波を求めるようにロッキングチェアを揺らしていた龍水は、船長帽の隙間からそれを見て小さく笑い、今度こそ瞳を閉じて呼吸を深くした。
    酔(@Sui_Asgn) Link Message Mute
    2022/12/30 14:59:41

    #4 こっからはメンタリストの出番だね♪

    人気作品アーカイブ入り (2023/01/21)

    闇オクNFTスリラーのR18ゲ千4話目

    世界復興に合わせて急速に拡大する経済の通貨需要を満たすために暗号資産が一般化する中で、自立分散型のコミュニティが乱立していた。サイエンスカルト系DAOが千空を利用して経済圏を拡大し、生身の千空が標的になる。

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