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    しおり
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    しおり
    ペラペラ男が好きと言うからあさき、ゆめみしペラペラ男が好きと言うからペラペラ男のわるい企みペラペラ男の帰還とわがままペラペラ男とエゴのかたまりペラペラ男と石神千空ペラペラ男の3700年分の想いペラペラ男と甘いモラトリアムペラペラ男の本気のお願いあさき、ゆめみし
     右手に武器を持つとする。そうしたら左手はどうするべきだろう。

     知恵と科学を武器とする男は言った。
     「あ? 何だその非合理的な仮定は。新しいゴミ本のネタか?」
     ドイヒー、ゴミはないなあ。

     霊長類最強の武力を持つ男は言った。
     「そうだな……うん、俺は素手でも戦えるけれど、武器を持つなら両手剣がいい」
     なるほどね、武人らしい答えだ。君しか扱えないゴイスー重たいの、作ってもらおうか。

     声と身体のでっかい体力チートの男は言った。
     「俺は武器は持たない! 人を傷つけるのはいけないことだー!」
     それが君の誠実さだよね~。これは君に聞いた俺が悪いや。

     並外れた聴力を持つ可愛らしい顔の元自衛隊員は言った。
     「弓なら両手だけれど、銃なら……まあ、右手に添えて照準の精度を上げるね」
     なるほど、職業軍人って感じの、合理的な回答だ。

     3700年の時を超えた、創始者の末裔は言った。
     「槍は両手で扱うが、剣であれば盾を持つ」
     なるほど、この石の世界で人類が生き抜くための経験知ってやつだね。

     こういう答えはどうだろう。
     右手には花を持って、左手は君の肩を抱こう。敵の目を眩まして逃げたら、右手の花も君にあげる。
     ……メンゴ、ちょっと気取りすぎかも。
    ペラペラ男が好きと言うから
     闇に飲まれた意識が光を取り戻したのは、三ヶ月ほど前のこと。何が起きたのか戸惑う私に、目の前に立った男の子は世界のあらましと硝酸をベースにした「復活液」について手早く説明した。人類は数千年前に石になった。原理は不明、理由も不明。ただ工業用腐食液で石化元素をエッチングすれば、連鎖反応で全身の石化が解除される……? 言いたいことは分かるけれど、事実としては意味不明だ。どうしてそれが分かったのかと訊いたら、なんと手探りで詰めていったのだという。

     そして次の疑問、「なぜ私を復活させたのか」と訊いたら、男の子――千空は、ぐっと苦い顔をして「……技術者が必要だったから」と答えた。

     技術者は他にもいる、なぜ私だったのか、なぜそんなに苦い顔をするのだとさらに問い詰めたところで、千空の半歩後ろに控えていた彼が「まあまあ落ち着いて? 千空ちゃんはこれから、同じようにして人類七十億人を救う予定なのよ、そのミッションを可及的速やかに効率良〜く進めるために、君の力がどうしても必要だったってワケ。君にしか頼めないことがいっぱいあってさあ、俺ら困っちゃってんのよ、ジーマーで」と口を挟んだ。

     彼の顔は、テレビで見たことがあった。そんな彼の言葉は恥ずかしいほどに私の承認欲求を満たし、ちょろい私はすっかりほだされて、石神村で働いている。

     この村には二人の科学者と、一人の職人がいる。でも技術者がいない。千空は一人で世界を作れるけれど、科学者の作った世界の精度を上げてコストを下げ、量産してより多くの人が楽できるように規模を広げるのは技術者の役目だ。千空やクロム、カセキのおじいちゃんの作ったものを管理し、品質や耐久性を上げていくのは楽しい作業だった。

     千空は人類の叡智を石の世界に蘇らせることに夢中で、クロムは自分の探究心に「科学」という名がついたことで爆発的に成長している最中だった。カセキのおじいちゃんは磨き抜いたモノ作りの技能が世界にとって不可欠だったことを知り、熟れた腕を存分に奮っていた。私は世界が石化する前にもこういう仲間に囲まれていたから、彼らのことがすぐに大好きになった。

     彼らが新しい世界を切り開くことに熱中する一方で、私はいつも生活を楽にするための技術に惹かれていた。テクノロジーは、たくさんの多様な人が自分らしく生きる支えになるものだ。私はそんな世界を作る仕事に就きたいと思っていたし、そんな世界を一緒に目指せるような人に惹かれた。自分が配偶者を得るときは、そのような人を選ぶのだろうとすら思っていた。

     まさかあんな、虚構の世界に生きる人に心を奪われるなんて思ってもみなかったのだ。

     ゲン。幻。浅霧幻。まぼろしを名乗る男。ゲンは大抵ニコニコと、誰かの側で話していた。私はいつの間にかそんな彼を目で追うようになっていた。よく見ていれば、誰とも話していないときは村全体を見渡したり、手近な花や鳥の羽なんかをスっと袖口に隠したりしていて、その花や羽は、次の「妖術」のタネになった。

     ゲンの言葉は、いつだって虚から人を動かした。それは、人の心がまぼろしを求めるからだ。容赦ない現実の前にどうしても膝を屈するしかない時、ゲンは行き場のない悔しさを癒す優しいまぼろしを見せて、村の人たちや私の心を救ってくれた。ゲンは、虚構の世界で人を慰める人間だ。

     今だってそうだ。この触れるだけの口付けも、ゲンの術なのだろう。

     ギアの精度が上げられず、エネルギー供給が安定しない。真空管の量産は困難で、このままでは村のインフラが維持できない。そう苛つく私に背後から忍び寄り、油断した隙に顎を持たれ、抗議の声を上げる前に唇が重なっていた。

     「……目の隈、ドイヒーすぎない?」

     唇を離して私の頬を指で持ち上げたまま、ゲンはそう言った。息のかかりそうな至近距離で、困ったように笑っている。ほのかな香りは多分ギモンクセイかな、また何か仕込んでいたんだろうか。本来であれば花やカードを扱っていたはずの手は、手のひらが厚めで温かい。少し節のある指がすうっと長くて、キレイだと思った。軽く眉根を寄せた笑顔すら美しくて見とれてしまう。こんなにキレイに見えるのは、きっと私の惚れた弱みなのだろう。

     「仕方ないよ、千空やカセキのおじいちゃんやクロムには、新しいものに集中してもらわなくちゃ困るもん。こういう地味な調整は私の役目」

     内心の動揺を隠したくて、なるべく合理的な話で返した。「こんなこと誰にでもしてるわけ?」とは、恐ろしくて聞けないから。

     「そうね~。カセキちゃんは千空ちゃんが手放さないし、クロムちゃんは直感と手探りの男だもんね。エンジニアのお仕事は、ちょっと違うもんだよねえ」

     ゲンは私の顎を掴んでいた手を羽織の袖口に隠してすいっと身を離しながら、私の欲しい言葉を掛けてくれた。

     「みんな凄いよ、手探りでここまで作っちゃったんだもん。……だから、もっと便利にしたいの。でも木製ギアじゃロスが大きすぎるから鋼鉄で作り変えたいんだけど、転炉を作れる精度の高い工作機械も無いから、どうすればいいのかわかんない……なんかもう詰み。こういうのも千空なら、完璧にステップアップのロードマップ描けちゃえるんだよね。悔しいよ」

     ゲンの優しい術に誘われて、つい愚痴っぽくなってしまう。石化前の成熟した文化の上でしか使えない技術を持て余している自分が情けなかった。

     「そうねえ~千空ちゃんゴイスーすぎるよね。ときどき俺の専門分野にまで踏み込んで来るから勘弁してよってなっちゃう。……俺はアカリちゃんの専門知識のことはゼンッゼン分かんないけどさ、水車が止まった炉が壊れた~って、夜中に叩き起こされるのが減ったのはジーマーで助かってるよお~」

     ゲンは笑顔のまま、ぺらぺらと私を褒めてくれた。私の仕事の価値を認めてほしい、そんな思いも見抜かれているのだ。悔しいことにそのメンタルケアはすこぶる良く効いて、ちょっと救われたような気持ちになってくる。嬉しくて、なんだか凄く悔しい。私は彼の口車にすっかり乗れるほど素直でも彼を欺けるほど賢くもなくて、そんな自分がほとほと嫌になってしまう。

     「ゲンって、何でもお見通しって感じがするね」
     「まあね、俺メンタリストだからね?」
     「……私がゲンのことを好きなのも、どうせお見通しなんでしょ?」

     自棄になっていたのだと思う。悔しかったのだ、千空の目指す世界とそれを支えるゲンに、振り回されたり救われたりするような状況が。私はこの村と、千空と、そしてゲンが好きだ。そんな私の気持ちばかりが、空回りしているような気がして。だから、もういいや、言ってしまえ。と思った。戯れにキスした女の子に告白されて、少しは困ってみればいい。

     まっすぐに見つめて伝えたらゲンはすっと目を細め、左手で色を残したほうの髪を耳にかけながら、

     「……俺も、わりと、君のこと好きだけどね?」

     と返し、人を煙に捲くような、いつものへらりとした笑顔を見せた。

     わりと好き、がゲンにとってかなりの褒め言葉にあたることは、千空への接し方を見て知っている。ああ、嬉しいな、かっこいいな、悔しいな。好きだな。

     「……ありがと」

     華やかな世界で生き、無神経な好意を向けられるのに慣れた人の振る舞いだと思った。平和な世界だったら、私のために彼がこんなワンマンショーを見せてくれる事だって無かったのだ。なんて贅沢なんだろう。この優しい虚像に救われて、もう少しだけ頑張れそうな気がしてくる。甘い胸の痛みにも、きっといつか慣れるだろう。

     そんなに得意でもない笑顔を返して机に向き直る。仕事に戻ろうとしたところで、今度は背後から両手で目隠しをされた。胸がキュッと、喉まで握られたように痛む。

     「ね~え、俺さ、君にけっこう期待してるんだよね。千空ちゃんが七十億人の人間を蘇らせて、技術も文化も洗練されて、あらゆるエンタメが消費される世界になってくれないと、俺困るんだよ。だから、君みたいな実務型の人は大切にしたいのよ」

     意識して呼吸を整えると、ひんやりした手に目の疲れが癒えて、身体の力が抜け始めた。でも、ゲンが何を言いたいのかよく分からない。こういうとき、ゲンは何か術をかけようとしているものだ。抗わなくちゃ。

     「ゲン、手をどけてよ」

     「どけない」意地の悪そうな声。「まあ聞いてって。この石の世界じゃあ、俺の嘘ってエンタメにならないワケよ。効きすぎてシャレになんない。いわば虚構の核ボタンになっちゃう」

     ふふっ、と笑いが聞こえて、それから急に声の温度が下がった。

     「……嫌じゃあないけどさ、時々、さすがの俺にも荷が重いかも~ってなるじゃん?」

     彼が何を狙っているのかは分からない。でも、どんな顔をしているのかは何となく分かった。きっと少しだけ沈痛な、思慮と慈愛の表情だ。彼は人形遣いだ。自分が何をすれば相手がどう感じ、どう振る舞えば相手を意のままに操れるかを理解している。
     彼は、私の感情なんかとっくに見抜いている。その上で千空を支え、世界を救うために私を鼓舞しようとしている。彼が見ているのは千空が目指す世界だ。私はそのための駒にすぎない。

     そんなことは分かっていた。そういう相手に向かって「好きだ」と告げてしまったのは、つまりは降参の合図だ。私は君が好きです。駒でもなんでも良いです。さっきのキスで、もう少しだけ頑張れそうです。だからどうか、その手をどけてください、私の心が傷みだす前に。……そんな虚しい敗北宣言だった。

     「ゲン、手を」「どけないよ? 冷たくて気持ちいいでしょ」

     人の言葉を遮る人じゃないと思っていたから、ちょっと意外に感じる。でもゲンの言うことは悔しいくらい当たっていて、とても心地よい。声が直接脳に流れ込むようで、自分が術に落ちつつあることに気づく。

     「俺ね、アカリちゃんのこと、わりと大切に思ってるわけ。だからちょっとは寝てほしいのよね」
     「……うん……」

     堕落を誘う甘い嘘だと思った。石になった時よりもずっと暖かく、優しい闇に意識が包まれ始める。ゲンの穏やかな声が、痛い。そういえば、ゲンはどうして私の作業場に来たのだっけ? ……ああ、もうだめだ。頭が動かない。

     思考を諦め、意識を手放す刹那、柔らかく抱きしめられたような気がした。ふわりと花の香りが鼻腔に入り込む。それで、私の見たい嘘を見せてくれるゲンは、やっぱり優しいのだと思った。

     「ゲンは、優しいね」

     きちんと言えたかの自信は、なかった。
    ペラペラ男のわるい企み
     司ちゃんの元からなんとか頂戴してきた一人ぶんの石化復活液を使う対象には、何人かの候補があった。その中から彼女を選んだのは俺だ。

     「この子にしようよ~学生メカニックの世界大会で見たことあるけど、いまこの瞬間にジーマーで必要な技術持ってると思うな~~~」

     そもそも千空ちゃんは、特定の「誰か」を選んで復活させることに抵抗感を持っていた。大樹ちゃんと杠ちゃんは例外として、それ以外の有象無象から特定の人間を選ぶのは難しかったのだと思う。しかし、現代技術の担い手のことは喉から手が出るほど欲しがっていた。だから俺が一押ししてあげた。

     石化の解けた彼女は、粗末な皮の服だけ巻き付けた姿で、この世界についてや自分を選んだ理由についてを問い詰めてきた。千空ちゃんがにっがい顔をしているので、自分のケツくらい自分で拭くよと俺が説明役を買って出たわけだ。

     「ってワケ。君にしか頼めないことがいっぱいあってさあ、俺ら困っちゃってんのよ、ジーマーで」

     「……あぁ、この村には中間管理タイプの実務家が不足してる。……期待してるぜ」

     千空ちゃんの言葉が、彼女に火を点けたらしい。しばらくうつむいて何かを考えていた彼女は、顔を上げると「任せといて」と不敵に微笑んだ。

     それからの彼女の活躍は目覚ましかった。いや活躍って言うにはちょーっと、地味ではあるのだけど。

     カセキちゃんもクロムちゃんも、一度完成させたものをもう一度なぞるより、いつも新しいことにワクワクしていたいタイプだ。そして千空ちゃんは、彼のアウトプットがイコールで人類史の発展を意味するような存在だ。だから彼女は、千空ちゃんたちが切り拓いた新しい道を広く平坦にして、多くの人が歩けるようにしていった。

     彼女が忙しそうにした後は、村の灯りが消えにくくなった。水車のメンテナンスをする要員のシフトに余裕ができて、冬備えが豊かになった。水の汲み出しポンプが壊れにくくなって、ゴミ捨て場の悪臭が減った。千空ちゃんのような派手な成果がないぶん、彼女が何をしているのか本当の意味で理解しているのはごく一部の人間だけだと思う。彼女のそんなところが、俺は好ましかった。

     メンタリストは努力を見せないのが矜持だ。俺みたいな存在には超越感の演出が大切なわけで、裏側の努力なんか人に見せるものではない。人間を「人に振り回される側」と「人を振り回す側」に分けるとしたら俺は後者であるべきなので、まあ彼女みたいな堅実なコからすれば、俺なんかムカつくタイプだろうなと思っていた。のだけれど。

     司ちゃんたちとの戦いに備えてケータイ作りのロードマップを進める最中、マンガン電池のおにぎり製作が二日めに入ってゲンナリしていた俺に、彼女は「意外、そういうの好きだと思ってた」と呟いたのだ。

     「何でよ~俺こういう地味なのキッツイタイプよ~~リームーリームー」

     「いつもマジックのタネ仕込んでるじゃない、楽しそうだなって思ってたんだけど」

     「……えー?」うそ、見られてた? 羞恥心から冷や汗が吹き出しかけ、なんとか押し留める。

     「それにマジックや心理学ってすごく細かい分析や準備が必要なんでしょ? ステージに立つ瞬間のための努力みたいなのって、こういうコツコツ系の作業に近いんじゃないの?」

     うわ、やめてよ。俺がやってんのは自分をかっこよく見せるための恥ずかしい努力なんだから、そういうのはそっとしておいてよ。

     「あー……ホラ、意味の分からないものを延々作らされる苦痛ってあるじゃない!?」

     言ってから、しまった、と思った。誰にも見せないようにしていた姿を見られていた焦りから、よくない愚痴を言ってしまった。

     これは村の皆に意識させたくない、石神村の危うさだった。理由の分からない単純作業は人間の精神を摩耗させる。この村には千空ちゃんの崇拝者が多いからいろんな労働が成り立っているけれど、実は結構危うい。だから、こういう事は言ってはいけない。

     ヤバイな、どうリカバリしようかなと軽薄な顔を崩さずに考えていると、彼女が「あー、そうだね、分かってるほうが楽しいよね」と話を引き継いでくれた。

     二酸化マンガンがプラスで亜鉛がマイナス極、炭素棒はシューデン体って言って、電気を集めるからプラスの電極になる。亜鉛とマンガンはイオンなんとかの違いで発電するから、絶縁が甘いと内部でショートして電池にならない。そんなことをサラサラと説明してくれたが、そういえば義務教育で習ったなあと飲み込めるのは俺だけ。つまりこれは、俺だけのための特別講義だ。贅沢な時間だなあ。

     「……って言っても、こんな精度の知れてる手作り品なんかつないで、まともな出力が得られるかは疑っちゃうけど……まあここは、千空のロマンな計算を信じようか」クスリと笑いながら、背後から樫の木を削った玩具みたいなものをいくつも出す。

     「というわけで、もっと楽に精度を上げられるように、型と治具を作ってみました」
     「え、何これ、何に使うの?」

     子供のままごと道具みたいだ。千空ちゃんやカセキちゃんの作品に比べたら、お世辞にもカッコイイとは言えない。

     「これはね、道具作りを楽にする道具。ちょっとブサイクだから使おうか迷ってたんだけど、やっぱ私もラクしたいや」

     いたずらっぽく笑いながら浅いくぼみのある板に亜鉛を乗せて、対になる板を押しつけると、亜鉛に放射状のシワがよった。もう少し深い窪みのある台に置き換えて杵みたいなもので突くと亜鉛がお椀状になる。そこにマンガンを乗せて、半分に割れた菓子皿みたいな板で側面を叩くと、亜鉛がクルクルと丸まっていく。

     「……おおー」
     「亜鉛の箔って固くて手が痛くなるじゃない? この程度の道具なら誰でも作れて、結構ラクになるよ」

     ルリちゃんの顔が輝く。彼女は忍耐強いコだから「手が痛い」なんて言えなかったんだろう。この村では勤労が尊ばれる。怠惰を隠さないのは銀狼ちゃんくらいだから、ぶっちゃけ一緒にされたくないだろうし。

     「で、炭素棒ごとこっちの型でギュッと押し固める。ちゃんと作れているかをチェックするのがこの枠。これで生産スピード10%くらいは上がるし、何より身体負荷が軽減されるはず。ちょっとだけ、量産が楽になるよ」

     子供が手遊びで作った玩具みたいな木切れは、彼女の手の中で人を助ける道具になっていた。

     「ゴイスー……千空ちゃんとは違ったタイプの発明ってカンジ」
     「こんなの、思いつけば誰でもできるよ。私は開発補助でこんなのばっか設計してたから慣れてるだけ」

     はにかむ笑顔にはっとした。こんなに可愛かったっけこのコ。それで気がついた。俺は自分が思っていた以上に彼女のことを、わりと、だいぶ、強めに、ジーマーで、好ましいと思っていたのだ。

     ただそれは、司ちゃんとの戦いが近付くにつれて自分が少なからずナーバスになっていることの裏返しのようにも見えて情けなかった。きっと司ちゃんは今、どんどん脳筋たちを叩き起こしている。千空ちゃん率いる村の武力も着々と上がり、俺が戦争に行く日も近付いている。……怖いって、フツー。

     千空ちゃんは、未来しか見てない。司ちゃんを止めるために使えそうなものは全部使うだろう。だから俺は、ついていく。千空ちゃんには俺が必要だ。
     そして村には彼女が必要だ。
     そして彼女に、俺は必要ない。俺には、彼女は、……。

     ああ、イヤだなあ。俺、自分の本音とかに向き合いたくないんだよね。それに俺、千空ちゃんほど合理的じゃないんだわ。

     通信技術とレコードが生まれ、いよいよ旅立ちが迫ったある夜、未練がましく作業場を覗き込んでみれば、貴重な灯りにすがって計算を続ける彼女の背中が見えた。この村を、この世界を支えるにはちょっと小さすぎないんじゃないか。

     俺にできることって何だろうなと思った瞬間、ゲスな考えが吹き上がって顔が歪んだ。口角が吊り上がる。

     『――食っちまえよ――』

     そうだ、奪ってしまおう。抱きしめて惑わせて、優しい嘘で酔わせた隙に抱いてしまおう。

     俺の痕を残して、俺の嘘で穿って、俺の欲を刻みつけてやる。そうやって、俺のことを忘れられなくしてやるんだ。多少暴れたって構いやしない、男への本能的な恐怖心を利用すれば、どうってことない。

     俺は世界を騙して地獄に落ちる男だ。女ひとりをモノにしたくらいで罰も救いも与えられやしない。俺は3700年前から、そうやって生きてきたじゃないか。

     やってしまおう、死地に向かう男の本能に従え。

     そんなことを考えながら近付くと、彼女の独り言が聞こえた。

     「……無理だよこれ……どうしようどうしようどうしよう……」

     絞り出した悲鳴のような声に、数瞬前の毒っ気が霧散した。全く俺に気付いていない。おいおい、世界を騙すメンタリストがすぐ背後にいるってのに何そのムボービさ。ちょっと腹立たしくなって肩越しに手を伸ばし、顎を掴んで引き上げると、女のコにあるまじき濃い隈を浮かべた彼女がいた。……なんて顔してるんだよ、君。

     とても悲しくなって、思わず唇を合わせてしまった。少しでも女のコの顔になってくれないかと思って。

     彼女の唇は細かく震えて、それから弛緩した。うわー受け入れられちゃったよ、どうしよう。

     かっこいいところ見せて、コクらせちゃおうかな。可愛い顔とか甘い顔とか見たいし、あと、やっぱ乱れたところも見たい。俺そういうの引き出すの得意なんだよ。ねえ、俺に君を預けてみない?

     唇を離して息のかかる距離で見つめると、彼女の泣きそうな瞳が見返してきた。あ、こんな顔してるコに嘘とか無理かも。

     「……目の隈、ドイヒーすぎない?」

     俺の口からこぼれた言葉は、まったく酷いものだった。
    ペラペラ男の帰還とわがまま
     ――ゲンが、帰ってきたんだよ!

     獅子王司の国に通信拠点を運びに行ったゲンが、無事に帰ってきた。その情報は、狭い村をあっというまに駆け巡った。私のところにもスイカが知らせに来てくれた。クロムとマグマの安否は分からないらしい。ルリさんのことを考えると無神経には喜べない。でも、嬉しかった。

     あの夜、あの幸せな術をかけられた夢のようなひとときの次の日に、ゲン達は出立していった。私は間抜けにも日が高く昇るまで作業机に突っ伏して寝ており、ゲンを見送ることすらできなかった。
     背に掛けられた見慣れない皮の毛布からは、イヌホオズキの花の香りがした。それで、あの日の出来事が事実だったことを知らせてくれた。ただ私は、ゲンがこれだけ残していなくなってしまうようで、とても怖かったのだ。そのゲンが帰ってきたのだという。

     スイカの一報から半日経った夕刻に、ゲンはふらりと私の作業場に現れた。「アカリちゃん、おつ~~~」という軽口と共に、目の前の窓からひょいと顔がのぞく。

     「やーーーーっと見つけた、俺が最初に口説く娘」
     「ゲン!?」

     夕日を背負っていて表情はよく見えない。ただ、シルエットから服や髪がボロボロなのが分かった。

     「もうさ~、ジーマーでドイヒー目に遭ったよ~~~」
     「ちょっと、いいから入ってよ!」
     「いいよ~足とか泥だらけだし。ただいまの挨拶だけしにきたの♪」

     ぽん、と目の前で花が出現した。雪がこぼれるような白い花だ。

     「キレイでしょ、スノードロップってーの」

     いつものイヌホオズキじゃないんだ、と受け取ろうとしたとき、花を持つゲンの手が酷く荒れていることに気付いた。……あんなにキレイだったのに。悲しみと同時に湧き上がってきたのは、明確な怒りだった。この手は、花やカードを扱うためにあったものじゃないか。どうして、こんなに。

     「……? どうしたの?」顔色の変化にはすぐ気付かれた。
     「入って待ってて。お湯、沸かすから」我ながら、ドスのきいた声が出たと思う。
     「……ハイ……」ゲンは、若干引いていた。

     隣室で暖炉の火を熾し、お湯を沸かす。小さな手桶に手と足を浸すと、泥だらけのゲンの顔に色が戻った。もう少し大きな桶にお湯を張ってあげよう。

     「足湯だ~いいね生き返る~~~~」
     「ちょっと多めに沸かすから、顔も洗いなよ、酷いよ?」
     「ジーマーで? 困ったね、芸能人は顔が命なのに」

     よろ~! なんて軽い声も、今日はさすがに弱々しい。大丈夫だったの、怪我しなかったの、何があったの、これからどうなるの。訊きたいことは山ほどあるのに言葉が出てこなくて、ただ汲んだ水を沸かす作業に集中した。早く温まって、いつもの余裕綽々なゲンに戻ってほしい。

     たぷたぷと水面が踊る湯桶を抱えて部屋に戻ると、ゲンが手桶に足を浸したまま、見慣れた毛布にくるまってウトウトしていた。……ゲンがあのとき、私にかけていった革の毛布だ。実はいつも手近な場所に置いて、ずっと暖を取るために使っていた。本当に暖かかったから、という合理的な理由もあるが、まあ正直なところ、甘酸っぱい想いから手放せなかったものだ。それに、元の持ち主がくるまっている。

     「……あ」
     「……んぁ。」

     つい漏れた声にゲンが目覚めた。なんだか気恥ずかしくなって、視線を逸らして湯桶を下ろす。

     「あー、メンゴ、コレ借りた……っていうか、返してもらってた」
     「……うん、借りてた。ていうか、……返すね」
     「あ、あー。うん。お湯、ありがとね」

     何となく気まずくて、目を合わせないまま湯桶から手桶に湯を移した。一杯一杯、湯を移すたびにゲンのボロボロの足が見えて痛ましい気持ちになる。痛かっただろうに、怖かっただろうに。そんな場所に向かう人に対して、私はなんて身勝手だったんだろう。正面切って告白して、メンタリストの技術で受け流してもらって、気遣いまでさせた。あのときの自分を殴り飛ばしたい衝動に駆られる。勢いとはいえ、バカなことをしてしまった。

     ちゃぷ。無言の時間をからかうように、水面がはねた。

     「……あのさあ~」沈黙を破ったのはゲンだった。
     「……何」
     「アカリちゃん、背中だけ流してくんない? 身体あったまったら、なんか汗とかキモくなってきたのよね」

     思わず見上げると、ちょっと気まずそうな顔と目が合った。片目を閉じた「お願い」の表情だ。悔しいことに、こういう顔に私は弱い。

     「……ゲンって、時々すっごいあざといよね」
     思ったままに言ってしまうと、ゲンがガクンと顔を伏せた。
     「いや一応勇気出したんだけど? そういう返され方はココロ折れるよ?」
     「……いいよ」
     「ジーマーで!?」

     ぱっと顔を上げて笑顔。本当にずるいと思う。もういいや、利用でも何でもすればいいよ。そもそもあの告白は降参宣言だったんだ。
     タオルの代用にしている筵を熱い湯に浸す。硬めに絞って上肌を出したゲンの背中に滑らせると、泥をすくうように汚れが落ちた。ゲンが肩越しに唸る。

     「……あ゛~……きっもちぃ……」
     「すっごい汚い、ドロドロだよ。水浴びもできなかったの?」
     「ゼ~~ンゼン出来なかったよお、行きはず~っとほむらちゃんに追われてたし、帰りは箱根駅伝ダッシュだったし。戻ったら戻ったで千空ちゃんの人使いドイヒーすぎたし声帯模写は赤点食らうし……あ゛~~……」

     ぐちぐちとこぼす背中を強くこすれば、おっさんみたいな声が漏れた。確か私と同い年だったはずなのに、どこか中年の悲哀が漂う声に苦笑いしながら、私はゲンの筋張った背中に驚いていた。

     ゲンは、石神村の知将ツートップだ。だからマグマや金狼みたいな筋肉は持たないし、ゲン自身も「モヤシ」を称している。

     でも、確かにゲンの背中は男の人のそれだった。もしかしたら、旧時代の男性の中では筋肉質なほうに入るかもしれない。この村では千空のフィジカルがミジンコ扱いされているけれど、むしろアレが標準だ。そもそも千空の体力だって、そんなに低くはない。千空の強み……超長時間思考を続けられる集中力の持続性は、男の子ならではの原始的な体力に裏打ちされている。千空自身がそれに気付いていないだけだ。

     ゲンもそうだ。六本木から箱根まで、舗装もされていない自然道を駆け抜ける体力は決してモヤシではない。しかもゲンは、人から見られる仕事をしていた。身体が商売道具みたいな人の体格が、そう貧相なはずなかったのだ。

     ただ、肩口や背中にいくつもの痣や擦り傷があるのが痛々しかった。腰の打撲痕は真新しく、青黒く内出血を起こしている。たしか石化が解かれる時に多少の傷は修復されるという話だったから、これは全て石の世界でついた傷なんだろう。人類が石化せず、ずっとスポットライトの中で生きていれば、きっとこんな怪我をせずに済んだはずだ。

     「……けっこう傷、多いね」
     「コウモリ男は誰にも信用されないのが宿命なのよね。怖い?」
     「……ううん、怖くはない」少し、悲しいだけ。

     背中と腰と髪を拭き、「あとは自分でやってよ」と筵を渡すと「こっち見ないでよネッ!」と裏声で言われたので、バカじゃないのと背を向けて仕事に戻ることにした。

     「……でさ、ニッキーちゃんて子がリリアンちゃんのガチファンで、俺の仕事は大失敗。またしても科学の勝利ってワケ」
     「なんかさ、ゲンって筋肉とガチ勢には勝てないよね」
     「ね~、俺カッコ悪~」

     軽口に付き合いながら作業を続ける。背後では「ひー」とか「ふー」とかいう雑なため息と共に、じゃぶじゃぶと豪快な水音が聞こえた。重そうな布が翻る音は、たっぷりマジックのタネを仕込んだ上着の埃を払っているのだろうか。

     絞った筵を張るパンッという音がして、「はー、さっぱりした〜」という声が聞こえた。背後のすぐ近くに、ゲンの気配が来る。

     「ありがとね、アカリちゃん」
     「うん、もう終わっ……!?」

     振り返る前に、視界の両側からゲンの裸の腕が伸びてきた。毛布ですっぽり包むように背後から抱きしめられて、身体が固まる。「しーっ、こっち見ないでよネ」耳をくすぐる低い声に首筋が泡立った。

     「ゲン、服」
     「いや、なんかドロドロでもっかい着るのキモくて」
     「冷えちゃうよ」
     「毛布あるから大丈夫、アカリちゃんもいるし」
     「ゲン、ちょっと」やめてよ、心臓が破裂しちゃうよ。
     「ちょっと、ごめんね、俺ヘンみたい」

     泣きそうな声で「怖かったんだ」と呟かれて、脈が跳ね上がった。血流が脳を圧迫して耳が痛くなる。

    「怖かったんだよ、俺」
    「ゲ、ん」
    「アカリちゃん、……ねぇ」

     ゲンの荒れた手が頬を包む。そのまま首をひねられて唇が重なった。

     ゲンの唇はかさかさで、お湯で清めた髪が目の前に落ちてきた。キスの角度を変えられると揺れる白髪が冴え冴えと月灯りに映えて、綺麗だ。

     「んぅ、ァ……」

     何するの、と言おうとしたのかもしれない。やめて、かもしれない。ゲン、と呼びたかったのかもしれない。自分でも何を言いたいのか分からずに声を上げると、ゲンの舌が歯を割って咥内に侵入ってきた。久しく忘れていたぬろりとした感触に思考が停止する。

     「ん、んーーーっっ」

     抗議の声は届かない。眉間のシワと低い唸り声に、ゲンの理性の箍ががたついているのを感じた。強く押し当てられた腰の圧迫感が変わる。そういう欲求を、こんなにストレートに出してくる人だとは思っていなかった私は、停止しそうな思考を必死に回す。

     ゲンは疲れているんだ。これは、死地から帰った男性の生殖本能だ。それにしたって、利用するにも程度ってものがあるじゃない。さすがに少しは傷付くよ。好きな人とのキスだって、怖いものは怖いし悲しいものは悲しいよ。

     恐怖と悲しみがじわじわと身を支配していく間も、ゲンの舌は止まらない。渾身の力を込めて突き飛ばそうとした腕さえ掴まれて、盛大に椅子から転げ落ちた。後頭部を強かに打つのだけは免れたのだけれど。

     私は、ゲンに完全に組み伏せられていた。
    ペラペラ男とエゴのかたまり
     夜通し駆けて村に戻り、リリアンの声帯模写にそれはそれは酷い点数を付けられて、ニッキー先生にシメられた。そこからドイヒー特訓が始まって、解放されたのは夜のこと。クッタクタになってねぐらに帰るはずが、足は彼女の作業場に向かっていた。

     ちょうど通り道だし。ジーマーで疲れてるし、帰るにしたって女のコの顔を見てからのほうが寝付きが良いだろうし。心配してるかもしれないし。もしかしたら俺が帰ってきたことを知らないかもしれないし。

     言い訳はいくらでもできる。でもすべて無意味なものだ。「感情は行動を正当化するために作られる」って言ってたのはアドラーだったっけ。

     そう、すべては言い訳。

     俺がこうして彼女に覆い被さっているのは、俺が自分の欲を抑えきれなくなったせいだ。ただ、それだけだ。

     サプライズで窓から顔を出して、それで虚を突かれた彼女の顔を見た瞬間から「まずいなあ」と思っていたんだ。忙しいだろうに俺なんかのためにお湯沸かしに行ってくれて、ふと見回すと、彼女のスツールにあの日残した毛布が無造作に置かれていた。引き寄せてくるまると彼女のにおいがした。あ、これバイヤー。俺の毛布から彼女のにおいとか、ちょっとゴイスーすぎない?

     彼女が足下で湯を足してくれるとき、うなじのおくれ毛が月の光に透けて輝いた。透明なおくれ毛から見える首筋と、顎のラインと、少し赤くなった耳朶が視界を占めて、全身が熱くなった。血流が下半身に集まって身体が反応しかける。……さすがにまずい。

     「ぁ……あのさあ~」
     「背中だけ、流してくんない?」
     苦し紛れに、ものすごく恥ずかしいお願いをした。自分の声が、掠れてるのが分かってジーマーで恥ずかしかった。

     いや、もう、正面側から動いてくれるなら何でも良かったのよね。こんな状態に気付かれたらフツー引くじゃない。彼女は幸いに俺の変化には気づかず、軽口を叩きながらがっしがっしと背中をこすってくれた。ついでに自分でも身を清めれば、さっぱりしてやり場のない情念みたいなものも少しだけ落ち着き、この毛布のまま帰ろうかなという気持ちになっていったのだ。

     だって服ドロドロで、せっかくさっぱりした体に今さら着るのがちょっとヤだし。全裸にてるてる坊主は間抜けだけど、まあ夜も遅いし狭い村だ。誰かに見られることもないだろう。

     これ、また借りてもいいかなあ。また返すから。そう言いたくて彼女の背後に立ったら、すっと伸びたうなじと、耳の裏に点を見つけた。ほくろだ。

     こんなところにあるんだ、と思ってしまったら、もうダメだった。

     抱きしめてキスをした。唇を割って舌を絡めると、さすがに抵抗された。離したくなくて押し倒し、今に至る。

     石神村の夜は静かだ。ふーっ、ふーっ、と荒い息が宵闇に響くのが、どこか遠く聞こえる。

     「アカリ、ちゃん」

     みっともないくらい声が乱れていて、荒い息の主が自分だと気付いた。もう俺の身体の変化なんか気付かれてるんだろう。彼女は全身を硬直させている。少し涙ぐんでいるのは恐怖か、さっきのキスに驚いたか、少しはその気になってくれたか、どれだろう。

     首筋に顔をうずめると、さっきの毛布よりずっと強い、彼女の体臭に包まれた。見つけたほくろに口づけて、真っ赤な耳朶に軽く歯を立てると、小さく息を飲んだ。……なんかもうゴイッスーに可愛くて、喉の奥がチリチリ焦げるような気がする。

     一度顔を上げ、目を合わせてからもう一度口付ける。深く深く舌を絡めると、掴んだ両手首に力が入った。腰を擦り付ければ、女の子のからだ特有の柔い感触が押し返してきた。3700年ぶりの期待に、俺の欲が吐き出し先を求めて血流を局所に集め始める。でも彼女のからだは硬直したままで、俺はそれをどうにか開かせたいと思って脚に膝を割り入れようとして……、そして、思い至る。

     え、俺、何してんの。これ。
     ……レイプじゃん。

     自覚した瞬間、バカみたいな罪悪感に殴られた。慌てて腰を引いて、彼女の両手首を解放する。紫色に鬱血した手首に血の気が引く。そんな俺の様子を見て、彼女の身体からも力が抜けた。

     「アカリちゃん、ごめん、逃げて。……ごめん」

     全身から冷や汗が吹き出て頭がくらくらする。情けなくてへたり込むと、彼女は俺の下からもぞもぞと抜け出して身を起こし、しばらく自分を抱きしめるようにして息を整えていた。真っ直ぐに俺を向く視線が怖くて、俺は目を合わせることができずに顔を覆う。

     怖かったんだ。怖いに決まってる。その気になんてなるわけない。俺は、なんてことを。

     「ゲ、ン」声が震えている。
     「……ごめん、怖かったよね」
     「……怖か、った……」
     「ごめん……」

     メンゴ、とか、許して、とか、とてもじゃないが言えない。とんでもないことをした。怖かったから、疲れてたから、男の本能ってそういうモンだから。そんなの言い訳にすらならない。君と重なりなかったから。今そんな最低なこと、言えるわけがない。だいたい、こんなふうに傷付けたかったわけじゃない。俺は、君が。君のことが。

     言葉はぐるぐると渦巻くばかりで自分の口から出てこない。軽口で切り抜けられる段階なんて、とっくに踏み越えてしまっている。メンタリストっていうのは、口八丁で世界に別の色を乗せるもの。袋小路に追い詰められないように、ありもしない道を見せるものだ。だから自業自得で窮地に陥っている俺は、もう既にメンタリストとしては負けてる。

     「……帰るね。あの、これ、着てっていいかな」

     すべての言い訳を諦めてそう訊くと、彼女はコクリと頷いた。のそのそと、汚れた服をまとめる。戸口に立って振り返ると、彼女は少しだけ血の気の戻った表情で、というか警戒した様子で、俺のみっともない姿を睨んでいた。
     どこか遠く、自分自信を俯瞰するもうひとりの俺が「このまま、さよならだけ言って去れば、全てが終わるんだな」と思う。そうやって失った人との繋がりがたくさんあった。それが別れのけじめで、そういう別れが俺には似合うと思っていた。幻想のような記憶だけ残して花が散るように消える、あさぎりゲンはそういう存在、だった。

     じゃあ、今はどうなんだ? と自問し、「それは嫌だ」と思う。旧世界で守ってた「俺なりのかっこよさ」なんて、ラーメン食ってふいご労働した瞬間に瓦解したじゃないか。それなら今の俺は、ただの浅霧幻だ。これ以上取り繕うものなんて、何にもない。

     それで「俺さ、世界一ペラッペラな男だから信じてくれなくて良いんだけどさ」と言いかけると、
     「それ、やめなよ」ぴしゃりと叱られた。
     「セルフハンディキャッピングでしょ、そのくらい知ってる」

     図星を突かれ、またしても動揺する。そうだ、俺はいま、あらかじめ自分を卑下して、傷付くことを回避しようとした。傷付けたコを目の前に、さらに保身に走ろうとしていることを、他でもない彼女自身に咎められた。それでようやく理解する。彼女は俺の思っている以上に、めちゃくちゃに怒っているんだ。

     もうだめだ。降参しよう。

     「……うん。俺ね、キミの事、好き」

     言ってしまった。レイプまがいのことをしておいて、身勝手に。彼女は俺にまっすぐ向き直り、組んでいた腕をほどいて右手を振り上げる。あっこれビンタ来るかな。

     覚悟して目を閉じる。と、痛みの予感から数瞬遅れて、頬に指が触れた。俺の左頬、卑怯の象徴のような顔のヒビに添えられた指が細かく震えている。

     「……え」

     思わず目を開けると、すぐ近くに彼女の顔があった。真っ赤になって、目に涙を浮かべて、泣きそうに、怒ったように、憐れむ様に、俺を見ている。彼女の顔がぐいっと近付き、息のかかる距離に迫った。あと2cmほどで唇が触れるだろうか、という距離で止まり、彼女は再びぐんと身を離した。

     彼女の瞳の中に、心底から間抜けな顔をしている俺が映る。そのまま両手でトンっと胸を突かれ、トトッとバランスを崩して後ずさると、目の前で粗末な扉が閉まった。

     しばらく立ち尽したあと、おやすみの一言も言えずに帰路についた。

     吐き出した息が一瞬白く凍ってすぐに消えていく。冬の村は虫の声もなく、人工の灯りに乏しい星空は、壮絶なまでに美しい。そんな、絶景の原始の世界を全裸てるてる坊主コーデで歩きながら、石化前の世界でも似た様な事があったなあと思い返す。確かあの時は、お姉さんと火遊びしようとしてるときにダンナさんが帰ってきて、ベランダに追い出されたんだ。3700年ぶり二回め。わあ壮大。俺いま、間違いなく人類史上最悪にしょぼい記録打ち立ててる。

     村の片隅にある粗末なねぐらに帰って服を干し、あらためて毛布にくるまった。……あったかい。毛布にまだ残った彼女のにおいに、ようやく「生きて帰れたんだ」と実感する。

     窓から顔をのぞかせたときの、虚を突かれた顔。湯桶を運ぶ真剣な横顔。背中を流してほしいってお願いした時の、呆れたような顔。紅潮した顔。恐怖の顔。怒りの顔。ほくろ、首筋、唇、腿の感触、手首。唇。いろんな記憶が生々しく蘇って、十九歳の元気な俺がまたムダにやる気を出してきた。マジかよ。

     ……はー。こんな状況でひとり遊びかよ。しかもオカズ一択じゃん。どんだけ最低だよ、俺。

     罪悪感と情けなさでへろへろになりながら、行き場のない欲を処理する。さっきまでの熱はまだしっかり残っており、すこし手をやれば浅ましい本能が大喜びで集まってきた。毛布に顔をうずめると、彼女のにおいがものすごく脳に効いた。

    「……ぅ。アカリ、アカリ、……ッ……!」

     生理的に欲を吐き出してしまえば、すうっと頭が冷えた。それがまた虚しくて、もうジーマーでキッツい。

     右手に残ったみっともない欲を、泣きたいような気持ちで眺める。これは俺のエゴ、ただの汚い体液だ。命のもといなんて上等なもんにはなれず、誰にもたどり着けず死ぬ。俺自身も、多分そうなる。それでいいと思っていた。それなのに。

     「俺、カッコ悪いなあ……」

     きたない欲から目を逸らし、空を見上げる。灯り一つない星空は、とても綺麗だった。

     次の日にはマグマちゃんが帰ってきて、クロムちゃんが捕縛されたことが分かった。村長たる千空ちゃんの決断は「全軍出撃」。それで、村全体がメチャクチャに忙しくなった。クルマの構造を知っているのは千空ちゃんの他に彼女しかいなかったから、彼女はほぼ千空ちゃんのアシスタントに徹することになり、多忙に追われてどんどんやつれていった。

     開発がガチの修羅場に入れば、俺は千空ちゃんが村の些末な問題に巻き込まれないようにすることが仕事になる。それはそこそこのハードワークで彼女と話すチャンスなんか皆無になり、一瞬だけ顔を合わせた時はゲッソリした様子で「千空の人使いってこんなバイヤーなのね……」と呟いてまた仕事に戻られ、俺のほうは声すらかけられなかった。

     全軍出撃の日になって、一部の非戦闘員は残ることになった。自主的に募ると皆無理をしてついてこようとしてしまうため、俺が憎まれ役を引き受ける。

     「銀狼ちゃんは遠征組ね〜」
     「えーーーでも僕、門番の仕事があるよう!?」
     「銀狼ちゃんの槍術頼りになるもん〜〜それに金狼ちゃんとニコイチにしなきゃサボるからね? スイカちゃんは本当は残ってほしいけど斥候が必要だから来て。ジャスパーちゃんとターコイズちゃんは残って村を守って、アカリちゃんも残って村の生活守ってね」

     彼女も居残りにした。サクサクと振り分けをしていったから、違和感に気付く人はいなかったはずだ。そう思っていたのに。

     「アカリは連れていかねえのか?」村が見えなくなった頃、千空ちゃんに言われてヒヤッとする。
     「え~? クロムちゃん助けたらエンジニアが偏りすぎるよ? 生活の維持も大事だし、彼女は村にいたほうが良いんじゃない?」
     「あ゛? ……まあ、どうでもいいけどよ」

     この子、他人に興味なさそうに見えて、実は結構ちゃんと見てるのよね。

     言えないじゃん。危険な目に遭わせたくない、なんて。これから大勢巻き込んで地獄に落ちようとしてる俺が、たった一人の女のコだけを、自分のエゴで危険から逃がしたいと思っているなんて。

    俺は小さくて、汚い男なんだよ。
    ペラペラ男と石神千空
     素っ裸で毛布にくるまったゲンを家から追い出し、閉めた扉に背をつけて足音が遠ざかるのを待った。物音がしなくなって、もう大丈夫だと思ったら途端に膝が笑い出し、立っていられなくなった。恐怖と悔しさで息が苦しい。涙が止まらない。ゲンの前で泣かなかったのは、なけなしの矜恃だった。

     千空ならともかく、男の人に腕力で勝てるとは思っていない。ただ、全力の抵抗すらまるで通用しないとまでは思っていなかった。強く掴まれた手首はじんじん痛み、内腿には熱の名残がある。

     好きな人に好きと言われた。
     私の気持ちも伝わっている。……と、思う。だから相思相愛だ。
     すごいじゃないか。喜べば良い。この行き場のない怒りなんて、忘れてしまおう。……そう思えれば良かったけれど、私の尊厳がそれを許さなかった。好きなら襲っていいのか、好きな人に求められたら喜んで受け入れるべきなのか。そんなの違う。
     好きな人に求められる嬉しさがあった。圧倒的な腕力差で逆らえない恐怖があった。ゲンの求めに応じなければ嫌われるんじゃないかっていう恐怖もあった。応じれば、晴れて既成事実ができあがるという小狡い期待もあった。そして、そういう恐怖や期待を知らないはずもないメンタリストのあさぎりゲンが、私の想いを知った上で組み敷いてきた狡さに心底から腹が立った。
     それで嫌えれば良いのに、ゲンが発した「キミの事、好き」という声が耳に残って離れないのだ。それがものすごく嬉しくて、だからこそ悔しい。気持ちの整理なんかつかないまま眠って、ひどく甘ったるい夢を見た。夢の中で私は、これまでの自分を捨てて誰か大切な人の隣に立ち、幸せそうに笑っていた。甘くて温かく、グロテスクな夢だった。

     でも感傷は、長くは続かなかった。

     「起きろエンジニア、仕事だ」
     「んー……ぅ、……ってはいぃ!?」
     「いつまで寝てやがる、クルマ作るぞ手伝え」

     白々と開けた朝……いや、だいぶ日が高い。また寝坊していたらしい私は、枕元でヤンキー座りをした千空に叩き起こされた。和式トイレに仕込んだローアングルカメラみたいな光景が寝起きの視覚に飛び込んできて、私の尊厳が「これはキレていいやつ」とGoを出す。

     「いや今あたし寝起き! ここ寝室! あたし女子! ちょっとは気ィ使いなさいよ!? あとパンツ見せんな!」

     布団に寝たまま叫ぶが全く迫力がない。ていうか信じられない。普通こういう起こし方する? いやクルマって。

     え、クルマ??

     「ククク知るか起きろ、技師が必要なんだよ」

     働け、エンジニア。
     そのシンプルで乱暴なメッセージは、私を救ってくれると思った。喪失から立ち直るのに、仕事は有効だ。仕事の忙しさは、こういう傷を癒やしてくれるものだ。

     千空は自分の中から恋愛を意識的に排除している。目の前に溺れた子供とチョコレートを置かれてチョコレートを優先する奴はいないだろう、みたいな価値観なんだと思う。ただ千空の場合、助ける子供が七十億人いて、その七十億人全てを本気で救おうとしている。チョコレートはその後なのだろう。
     ただ、人類史に残る天才の築いた家庭っていうのがまあまあすべからく酷いのを見るに、あの手の人は独特の人類愛を持つものなんだろう。千空も「人間」という存在が好きな割に、目の前の人間に好かれようという気持ちは薄いのだと思う。
     そう、千空は人に好かれようとしない。好かれようとしていれば、こんなに山ほど仕事を押しつけてこない。

     「千空の人使いってこんなバイヤーなのね……」

     気まずい距離感を覚悟していたゲンについぼやいてしまうほどには、千空のアシスタントはキツかった。
     いや、好きだけどねクルマ、私も。ただ正直、マトモに動くとは思ってなかったけど。
     それらしい形を作ることと、クルマとして使えるものを作ることは全く異なる。後者にするための設計がメチャクチャに大変で、そのぶん完成したときは少なからず興奮した。その後、予想通りゲンが可哀想な初試乗をすることになっているのを見て、少しだけ溜飲が下がった。それで胸の痛みが薄れていることを自覚し、ちょっとほっとしたのだ。

     遠征隊に入れなかったのも、悔しくないといえば嘘になる。でも村の仕組みを保守する人員まで前線に投入するのはナンセンスだから納得はしていた。怖かったけれど、千空が一緒なら、ゲンは大丈夫だ。

     遠征隊を送り出した後、村には一見穏やかな空気が流れた。お元気いっぱい科学チームが行ってしまい、残ったのは子供と年寄ばかりになったため、村の労働力は激減。ジャスパーさんやターコイズさんが狩りに出ることもあった。
     もし千空たちが負けたら、遠からず司帝国が攻め入ってくる。村の残存戦力はゼロで、村の人が司帝国に立ち向かうのは不可能だ。おそらく私の首を差し出して科学の灯を途絶えさせ、その代わりに村のみんなの命を救ってもらうことになるだろう。それは村の皆が分かっており、穏やかな雰囲気の底には、いつでも恐怖が潜んでいた。

     数日後、村全体に鳴り響いた電話のベルは、勝利の号砲だった。司帝国との停戦が成立したという。
     電話を受けたなとりさんが「だいやいとで勝った」と言っているのが聞こえる。だいやいと? ……もしかしてダイナマイト? いやまさかね。
     それから指名されて電話を代わると、千空が出た。

     「仕事だエンジニア、安心して来い。誰も死んでねえ。もうテメーに危険ってやつは訪れねえ」

     シンプルで乱暴な言葉に笑ってしまう。ただ千空らしくない言葉選びだなあとは思う。ゲンは? と聞きたいのは堪えた。千空は、誰も死んでないと言った。つまりゲンは無事なんだ。

     ジャスパーさんとターコイズさんに挨拶して出立の準備をしていると、健脚のチタン君がわざわざ迎えにきてくれた。一人でも行けるのに、と言えば、「女のコの一人旅は危険だっていうからさ」と返される。

     獅子王司の帝国までは、私の足なら歩いて四日ほど。着いてから働くために、移動そのものに消耗しすぎちゃいけない。そんな理性とは裏腹に気持ちは急いた。車の轍を辿り、砂浜を歩くと四日めの朝には司帝国が遠景に見え始めた。

     ゲンに会えたのは、その日の昼過ぎだった。

     「アカリちゃん、おつ〜!」

     司帝国の領域の端っこにあたるのかな。砂浜と岩場が切り替わる地形の、強い風の吹く岩の上に、ライラックの裾とツートンカラーの髪がはためいていた。

     「……ゲン」
     「チタンちゃん、ご案内ありがとうね〜〜♪」
     チタン君が「いいってことよ」とニヤニヤ返し、なるほどゲンのお使いだったかと悟る。

     ふわっと舞った紙飛行機に一瞬目を奪われ、視線を戻すと目の前にゲンがいた。

     「ちょっと、二人で話がしたいんだよね」

     いつもの軽い口調に涙腺が緩む。チタン君は「おう」と笑い、ゲンの肩をバチンと叩いて去っていった。

     「アカリちゃん」

     ふわ、と首を傾げてゲンが笑う。瞳の奥に悲しさが見えてたまらなくなった。つらいことがあったんだ。誰も死んでいないことは、誰も傷ついていないこととイコールじゃない。

     「良かった、無事で」懸命に涙を堪える。泣くもんか。

     ゲンが手を挙げると、ポンと花束が咲いた。ゲンの羽織と同じ色、ラベンダーだ。

     掲げられて手に取ると、良い香りが鼻腔に満ちる。それで気が抜けて、ついでに膝の力も抜けた。歩き詰めの疲労が今さら襲ってきたらしい。

     ゲンに抱き留められながら、私の意識は暗転した。
    ペラペラ男の3700年分の想い
     崩れ落ちたアカリの身体を慌てて抱きとめると、せっかく見つけた早咲きのラベンダーが砂浜に散らばった。防砂林の名残らしい松の林まで引きずっていき、木陰を探してもたれるように座り込む。寝ているのをいいことにぎゅっと抱きしめて首筋に顔をうずめると、毎夜焦がれた彼女の匂いがした。あー、生きてる。俺も彼女も。

     ラベンダーの花言葉は「沈黙」「期待」「答えてほしい」、スノードロップの花言葉は「期待」「慰め」。

     一応、俺の気持ちは散々伝えてるんだよね。どこまで通じてるのかは分かんないけど。まあ通じなくても良いんだわ。マジックは、かけられた自覚なんかないほうがエモいじゃない?

     香りの鎮静作用で気を失うほどに疲れていたんだ、しばらく休ませてあげたい。疲労困憊の女の子にはマジックよりも花よりも睡眠でしょ。野犬やら猿やら出たら危険だから、俺も一応ね、ついててあげないといけないし。そんな言い訳をしながら、彼女をゆっくり横たえる。膝枕の体制にすると、彼女はふーっと深く寝息を立てた。

     さらさらと髪を梳く。砂に荒れた柔いおくれ毛が可愛い。あどけない寝顔が安堵と罪悪感を掻き立てて、どうにも心臓が痛む。

     会いたかった。無事でよかった。怖かった。好きだ。そんな甘ったるい気持ちが頭の中をぐるぐるして困る。俺、ジーマーでメンタリスト失格かも。

     髪を一房持ち上げて唇をつけると、彼女が身じろぎをした。あっ、起きちゃうかな。

     「ん……」

     眩しそうに目を開けてすぐ、彼女は俺に気付いて全身をこわばらせた。反射的に衣類に手をやり、素早く周囲を見回して身の安全を確認する仕草に胸が痛くなった。……これは俺のせいだ。一度でも、恐怖に晒された女の子はそうなるんだ。

     「……ごめ、あたし」
     「はい、ちょいまち」
     起き上がろうとする彼女の目を手のひらで覆い、他方の手で頭を撫でる。「何もしないよ」とささやくと、数回の呼吸を経て彼女の身体から力が抜けた。

     「……あたし、どのくらい寝てた?」
     「わかんない、時計ないし。30分とかそんなもんじゃないかな」
     「ごめん、重かったよね」
     「ぜーんぜん、俺けっこー体力あんのよ? コハクちゃんや金狼ちゃんがいるからモヤシ枠なだけで」
     「そう、だったね」軽く笑いながら、すぅっと息が深くなる。また寝るかな。
     「もう少し眠る? 落ち着く花でも出そうか」沈丁花なら見つけてある。
     「……ううん、ゲンがいればいい」
     「うん、分かっ……うん!?」
     「……ふふ、ゲンも焦るんだね」

     いたずらっぽく笑われて困る。ガキでもないし、お互い憎からず想ってるくらいは分かってる。だからこそ、俺がやったことのおぞましさは拭えないんだ。そんなだっていうのに、

     「俺メンタリスト失格ね、ジーマーで」だってこんなに。
     「そんなことないよ、だってゲン、もともと自分にだけは嘘つかないじゃない」目を閉じたまま、ほんわりと笑う顔に見惚れている。「そういうとこ、好き」

     困ったなあ、休ませたいのに。

     「ねえ、アカリちゃんさあ」

     砂に荒れた前髪を額から払うと、指がうなじのほくろに触れた。触覚がほくろのほのかな盛り上がりを捉えて俺の脳に電気信号を送る。脳がその先を期待して、指の神経に血流を送った。指先がピリピリする。彼女は目を閉じたまま、手のひらに少しだけ頬をすりつけてきた。耳が薄く染まっている。甘えた動作に胸が詰まる。

     「俺、この前ひどいことしたんだよね」
     「うん、ひどいことされた」
     「許してほしいって言ったら?」
     「それは無理だよ」
     「そうだよね、俺さ、アカリちゃんのこと好きだったの」
     「それは嬉しいけどね」
     「俺が君のこと、いつから好きだったか話してもいい? 別に許されたくてするわけじゃなくて……つまり、これから口説きたいって話なんだけど」
     「……いいよ」
     「お、嬉しーんだ。あのね……」

     ――俺、この世界が石に覆われる前に、君に会ってたんだよね。ロボット競技の世界大会、覚えてる? あのとき前座でマジックショーやったの俺なんだ。

     「覚えてる、ゲンのことも覚えてるよ」

     ジーマーで? 嬉しいな、全然話してくんないから忘れられてんのかと思ってたよ。あの時さ、軽薄なショーに皆が沸く中で、君の目だけが少し違ってたんだよね。俺の手元やショーの道具をずっと観察してたでしょう。ああいう目って大抵、俺のパフォーマンスを減点する奴らがすんの。粗を見つけてやる、タネを見抜いてネットで書いてやる、って。でもねキミのは違った。もっと楽しそうだった。

     「それは覚えてないよ、あたしそんな目してた?」

     してたしてた。ゴイスー可愛かった。で俺さ、マジックの修行中に師匠に言われた事があったの。「大勢に向かってのパフォーマンスじゃなくて、全ての一人に届くショーをやれ」って。会場にいる一人でも取り零したらショーは失敗だって。冷めた目の観客に熱を入れて、輝く目の観客に夢を見せろって。だから俺ね、あの時君のためのショーをしたんだよね。それで、俺のパフォーマンスに君が次第に酔っていくのが分かって、ものすごく気持ちよかったんだ。やった、落としたって思った。

     ……あの後君、チームへの指揮で俺のモーション取り入れたでしょ? ……そんな顔しないでよ、気付くってフツー。俺メンタリストよ?
     怒ってないって。アレさ、君の中に俺が潜り込んだみたいで、嬉しかったんだよね。まっすぐに勝利を目指す真剣な横顔と、常に注意に気を配る鋭い目がゴイスー綺麗でさ。そんな子がチームを鼓舞するのに俺のメンタリズムを取り入れてるのを見て、なんて正しいんだろうって思ったんだよね。メンタリズムの正しい使い方ってこういうものだったんだなって。

     俺はクソガキだったからさ、学校の同級生なんて心理実験のモルモットだったのよ。君みたいに、仲間のために仲間を騙すなんて使い方、考えてなかった。悔しかったし、眩しかったなあ。

     でさ、決勝戦でマシン動かなくなったじゃん? あの時の君、ゴイスーかっこよかったんだよね。

     「懐かしいなあ、決勝ステージの照明がすごく強くて、光学センサーに干渉しそうだなーって心配してたんだよね」

     やっぱ備えてたんだ。そうそう、動かなくなったロボット見てすぐチームに何か指示して、教官のサングラス奪ってきたじゃん? でサングラス折ってセンサーにレンズ突っ込んでさ、そしたら復旧したじゃん。大会イチ盛り上がってたよね、あそこ。俺も控室のモニター見ながらブチ上がってた。教官は崩れ落ちてたけど……あれレイバンでしょ? しかもゴイスー高いやつ。

     「あれね、遮断光をちゃんと計算してるグラスじゃないと意味ないから、あの時ある中で一番高いのから使わせてもらったの。すぐにハマってラッキーだったよ。そうそう、先生ガチ凹みしてたっけ。悪いことしちゃったけど……ふふ、うん、楽しかったよ、正直」

     そうそう、あの時も君、そういう顔してた。俺、君らのそういう目に弱いのよ。この世界には絶対、君みたいな子が必要だって思ってた。それで復活者選びのときに千空ちゃんに君をオススメしちゃったってわけ。もっと世界が豊かになってから起こしたほうが苦労かけなかったんだけど……それよりも、君と一緒に世界を作りたかったんだよね。ごめんね。

     「……ずっと見てた。好きだったんだよ」

     これで全部だ。3700年間持ち越していた想い。伝えられただけで僥倖の極みだ。ゴイスー恥ずかしいけど、恥ずかしいことこそ一気に言ってしまったほうがダメージは少ない。

     「俺ほんとにひどいことしたからさ、許してもらえるとは思ってない。嫌われて当然だし、これから君が抱えてく恐怖のこと考えたら、取り返しなんてつかないと思ってる。君の気持ちがどうあっても、それで君が不利益を被ることは絶対にない。だから絶対に無理しないでほしい」
     「うん」
     「……キスしてもいいかな」
     「……いいよ」

     一瞬の間をおいて、初めての同意を得た。心臓が跳ね上がって周囲が鮮やかに色づき、風の音まで見えるようだ。受け入れてもらえる、こんな俺が。

     ゆっくり顔を落とすと、松の葉からの木漏れ日が俺に遮られて彼女に影が落ちた。軽く重ねた唇は、お互いカサカサに荒れていた。鳥の啄みみたいに触れるとくすぐったそうに笑う。ああ、可愛いな。前の世界では、こんな初々しい触れ合いなんかしてなかった気がするな。

     「口、開けてくれる?」

     耳元で囁いて、うっすら開いてくれた唇をはむ。ギモーヴとかの柔らかい菓子を唇だけで味わう時みたいに、軽く吸う。唇を離しながら故意にリップ音を立てると、少なからず紅潮した目元で見返された。

     「何?」
     「恥ずかしい」

     怒ってる。そりゃそうだ。俺は聖人君子じゃないし、君が俺を拒まないのは分かってしまった。なら二人の時間は楽しみたいワケよ。ただ、絶対に怖い思いはさせない。だから、

     「お願い、アカリちゃん。口、開けてみて?」ね? と小首を傾げた。

     つとめて甘えた声を出すと、彼女の顔がぐっと歪み、怒ったままの顔で少しだけ目をそらしながら、あ、と口が開かれた。有機的な咥内はひどく淫靡だし、ちらちらのぞく歯は清らかな真珠みたいだ。全部に誘われてるように見えるあたり、俺もだいぶキてる。

     「あー、唆るなあ」

     我らがリーダーの口癖が自然に口をついて、そのまま舌を絡めた。深く侵入して誘うと彼女の舌が応える。

     千載一遇というか値千金というか。やっと作れたこの時間なのだから、忙しない行為には至りたくないとは思う。もともと慌ただしい交わりとか好きじゃないし、彼女の過去とか何にも知らないし、がっつくガキみたいになりたくないし、怖がらせたくないし、ゆっくり楽しみたいし……こう見えて、俺もそれなりに遊び慣れた大人だし。メンタリストが自分優先しちゃダメじゃん?そうは思うのだけれど、舌が絡まる刺激に脳が痺れて、どうにも理性がぼやけるのだ。

     彼女の手が俺の白髪に触れたから、手を重ねて指を絡めた。指先の神経が研ぎ澄まされて、彼女の爪の一枚一枚まで解るようだ。指の付け根を擦り合わせて掌を包み込むと、それだけで彼女の息が乱れた。そうだ、女の子ってこんなに柔らかくて感じやすいんだった。あの時は手首を拘束して自分の欲望を押し付けるだけで、彼女の身体を労ることすら忘れていた。つくづく俺、最低だった。
     彼女の身を起こして膝に座らせ、背の革紐を解けば肌が露出した。胸の柔らかい曲線に松の木の葉の影が落ちて、すっごくキレイだ。胸元を横一文字に通る大きなヒビが、彼女が旧世界でしてきた無理を物語っていた。

     「アカリちゃん、キレイ」

     首に、耳に、胸元に口付けながら囁くと、彼女は身を硬らせた。中指にキスして髪に顔をうずめる。「大好きだよ」と囁きながら頭を引き寄せたら、コトンと肩口に額が触れる。だんだん、彼女の全身からものすごくいい匂いがし始めた。どんな花よりも有機的で官能的で、すごく可愛い。すごく愛おしくて、きれいだ。

     げん、すき。
     確かにそう動いた唇を自分の唇で塞ぎ、俺は3700年分の想いを捧げた。

     ……

     身なりを整え、千空ちゃんのところへ彼女を案内すると、一瞥するなり心底呆れた顔をされた。

     「……テメーらなあ……」

     羽京ちゃんは思いっきり顔を背けて目深に帽子をかぶっているし、コハクちゃんはどこかへ行ってしまった。クロムちゃんはポカンとしている。う~ん、一人を除いてめっちゃバレてる。

     「えへ、メンゴ」
     「……ごめん……」

     なんかもうごめん、としか言いようがなく、何となく二人で謝る。千空ちゃんのこういう敏いところジーマーでおっかない。くそ、絶対童貞のくせに。

     「あ゛~……まあ、どうでもいい。待ってたぜアカリ。仕事だ、エンジニア」

     この状態の彼女を、いくらドキドキ純情少年を後回しにしてるとはいえ千空ちゃんに預けて良いもんだろうか。そう一瞬思ったけど、彼女は千空ちゃんの「仕事だ」の一言で顔つきを変えた。こういうプロ意識、やっぱかっこいいよね。

     「うん、任せて」

     不敵な笑顔は、千空ちゃんにも少しだけ似ていた。
    ペラペラ男と甘いモラトリアム
     「冷凍機を作る、二機だ」

     千空は唐突に言った。

     「まさかペルチェ素子?」
     「いや、素材が足りねえし放熱がややこい、今回はスターリング式で行く」
     「……ごめん知らない」
     「圧縮空気の放熱と減圧だ、ピストン二本でシュッポシュポ」
     「あ、それなら分かる! じゃあコンプレッサー作るのね。熱交換はどうするの?」
     「電線の金糸と滝の水、動力も滝を使う。ククク話が早くて助かるぜ」

     千空の構想する冷凍庫の原理は、とてもシンプルだった。スチームゴリラ号のピストンを再利用して空気を閉じ込めたシリンダを作る。まずは圧縮ピストンがシリンダ内の空気を加圧する。圧縮された空気は温度が上がるから、それを滝の水で冷やして常温にする。金は熱伝導性が高いから、滝の水が通る部分にほぐした金糸を仕込んでおけば冷却の効率を上げられる。
     圧力の高い状態で常温になった空気を膨張ピストンで減圧すると、空気の膨張でエネルギーが奪われて熱が下がる。圧縮ピストンと膨張ピストンを交互に動かし、滝の水で圧縮熱を捨てる動作を繰り返せば、氷点下を下回って冷凍庫になる。……確かにそれなら、電気なしでも作れそうだった。

     そして、二機ということは、とても大切なものを長期間凍らせることを意味した。絶対に停めてはいけない設備は同じものを複数作って稼働率を上げる。この石の世界では、「絶対に壊れないもの」なんて作れない。だから、同じものをもう一機作っておいて故障に備えるのだ。10%の確率で壊れるものも二台作れば故障率は10%の二乗、つまり1%になる。
     手作りのエアコンプレッサーなんかがノーメンテで無事に動き続けるはずはないのだから、私の仕事は二機の保守と整備。これが、私が千空に呼ばれた理由だ。仕事が分かればあとはやるだけ。

     「分かった、じゃあ強度設計するから必要な容量を教えて、何を凍らせるの?」
     「冷凍対象は獅子王司、210cmの96kgってところか? だから容積は2400×1200×1000は欲しい」
     「OK、獅子王つかんんんんん??」何言ってるのこの人?

     情報を処理しきれない私の肩を叩いて、大きな帽子の人……羽京さんっていったっけ。が、頷く。ゲンも背後で「だよね~~~そうなるよねフツ~~~」と呟いていた。

     敗血症で瀕死の獅子王司を石化させて救うために、冷凍保存して細胞を守る。そんなことが可能だなんて思えない。でも、千空はこれまでたくさんの不可能を可能にしてきた。神話の出来事みたいな石化現象を、医療に使えれば日常が変わる。千空ならやってしまうのかもしれない。

     冷凍庫の製造には、クルマ作りの経験が活きた。ミツロウで複雑な部品の原型を作り、砂で覆って型にする。型が固まったら中を焼いてミツロウを溶かして取り出し、そこに鉄を流し込む。ロストワックス製法は量産には向かないけれど、複雑で大きく、丈夫な鋳物を作れる。ミツロウをふんだんにつかった贅沢な部品がたくさんできて、千空は無事に獅子王司を眠らせた……らしい。ゲンからはそう聞いた。

     それからは、工業の時代になった。労働の細分化と同時に文化の多様化が進む、私の大好きな時代だ。ついでに七海財閥の御曹司が派手に復活して貨幣を作り、あっという間にインフレーションを起こした。

     「あれ、意味あるの?」とゲンに聞いたら
     「まあ使えるもんは使うべきじゃない? 楽しいことが起きそうだし♪」と心底楽しそうに返された。

     瀧水くんは欲の深い人で、視界に入るもの全てを欲しがった。ただ、彼の「欲しい」は占有とは違うものだった。限られた資源の奪い合いではなく、全員が一緒に豊かになること――トリクルダウンの実現を前提にしており、貨幣は多様化する娯楽や文化に共通の価値基準を与えた。ゲンは銀行の管理みたいなことも始め、「これも秩序」とか言いながら、それはそれは楽しそうに千空とドラゴを数えていた。

     そんな合間にもゲンはたびたび私のもとを訪れ、私たちはそのたびに唇と、ときどき肌を合わせた。どちらかが忙しい時には数日会えないこともあったけれど、戦争を控えた世界での忙しさとは違っていたから、切羽詰まるような怖さはなかった。

     ある春の日は「珍しい花を見つけた」と淡い紫の花を渡された。カタクリというらしい。「ゲンの羽織の色だね、きれい」と言うと盛大に照れられた。すぐにしぼんでしまい、悲しかった。

     夏が近づいてきた別の日には、杠さんが作ったという爽やかなワンピースを贈られた。嬉しいけれど仕事では着られないよと固辞したら「俺の前でだけ着てほしいの」と歯の浮くようなことを言われた。バックリボンで留めるもので、「コレほどく時、俺ゴイスー興奮するんだよね」と言われ、ますます外に着ていくことができなくなった。

     フネの建造シフトの見直しと工期の延長、それから安全設備の見直しが必要だと千空に訴えて却下されたときは、泣きながら愚痴ることになった。男の子特有の安全意識の無さを嘆いた気がする。「そうだね、悔しいよね」と慰められ、その日はぐずぐずに甘やかされて眠った。

     ダブルローラーの麻ほぐしとペダルを踏んで駒を回す糸紬ぎを作ると、麻布の製造が加速した。「技術は楽をするためにあるのよ」と千空に言うと「テメーのドヤ顔、メンタリストに似てきたんじゃねえか」と返される。思わず赤面して「教育に悪ィな!」と毒づかれた。

     ゲンはいつしか、千空とクロム、羽京さん、龍水くんとともに「五知将」と呼ばれるようになっていた。ゲンは特に羽京さんと一緒に子どもたちに勉強を教えることが多く、私も仕事の合間に手伝った。石神村のひとたちは文字を持たなかったにも関わらず、かなり高度な概念をあっさり飲み込むので「やっぱり宇宙飛行士の末裔って地頭バイヤーに良いのかもね」と舌を巻いた。

     司帝国の人達がマンパワーの中心となり、村の人達の知識水準が上がる。そして南さんやフランソワさんが文化を多様化させた。季節のイベントの日は仕事が少しだけ減り、二人で過ごす時間を作れた。バレンタインデーにあたる日、質素な素材からどうにかチョコレートらしいものを作ってゲンに贈ると大喜びされ、それはそれは甘い夜を過ごすことになった。

     夏の終わりにはお祭りもあった。麻の布でできた着心地の良い浴衣と黒色火薬の花火が流通して、王国全体が華やいだ。祭りの取り回しは、もちろんゲンの仕事だ。ゲンの和装はとてもサマになっており、石化前の世界で身につけた所作の美しさに皆が見とれていた。

     次の日、ひっついて腕枕の中で微睡んでいると、ゲンがふと「俺、多分ね、フネには乗らないと思う」と呟いた。

     「どうして?」

     「五人の誰かは王国に残るべきだと思うのよ。千空ちゃんの理解者も増えてるし、もうカリスマは揺らがない。なら千空ちゃんの不在期間に不穏な事が起きないように科学王国を守る参謀が必要でしょ、ルリちゃんは頼れるけど復活者側に彼女の威厳は効きにくい。それなら俺が一番適任だし」

     あと、君もいるし。

     そっと覆い被さるゲンの唇が、私の唇の5mm上で囁いた。色のない髪が朝日に透けて、すごく眩しい。私は未来ちゃんと一緒に冷凍機を守らなければならない。それに、発電機や通信機器の保守をマニュアルだけでルーチン化するのは不可能で、仕組みを理解した人間が必ず必要になる。技術は本来、カセキのおじいちゃんやクロムのような、稀有な天才に頼るものではない。私がみんなの補佐に徹すれば、誰もがエンジニアになれる。

     だから私がこの場所から離れることはあり得ず、したがって私は、竣工間近のフネには絶対に乗らない。

     それでも不安は残っていた。ゲンの言った通り、千空が不在の間の統治だ。ルリさんは立派な巫女だし通信設備もある。でも、通信で得られる情報は少ない。連絡が取れなくなっても、機器の異常か現地の非常事態かすら判らない。リモートの統制には限界があるのだ。しかも今回は船旅。万が一王国のカリスマからの連絡が途絶えたら? ……その時の、居残り組の混乱を思うと恐ろしくなる。

     だから……本当にゲンが残ってくれるとしたら、どれほど心強いだろう。でも。

     目を泳がせる私の逡巡なんかとっくに見抜いているに違いないゲンは、服も着ていないくせに手のひらからポンと可憐な花を出した。シロツメクサだ。「ホントはもっと、気の利いたもの渡したいところだけど」と器用に花輪を作り、私の薬指に着ける。

     じわっと涙が出て来て、「乗員決めるの、ゲンじゃないじゃん」とどうにか呟く。
     「そうね、決めるのは龍水ちゃん」
     「龍水くんには……通じないよね、こんな不安。世界の全てが俺のもの、どんな世界でも全部欲しい、だもんね」
     「あの子、全部への執着強すぎて逆に博愛主義者に見えるよねえ。俺、あそこまで自信家でもないからなあ」

     ふふっと笑う声が重なって、幸せだなあと思う。そのままゲンの手が私に触れた。眉根を寄せた酔うような目に、昨夜を思い出して顔が火照る。

     「もっかいだけ、いい?」答える前にキスされて、ゲンの瞳にも熱が籠もった。肌の触れたところが吸いつくように湿度を増して、個の境界を曖昧にする。

     もう少しで、フネが完成する。モラトリアムの終わりを惜しむように触れ合いに溺れながら、離れずに済めばいいのにと心から願った。
    ペラペラ男の本気のお願い
     メドゥーサを倒した英雄の名を冠する船は、日本近海を走っていた。甲板ではパワーチームを中心にすっかり凱旋気分で宴会が催されている。宝島での冒険を終え、科学王国に戻る航路の途中である。

     宴会から少し離れ、海面に向かうと水の色が見慣れたものに変わりつつあった。俺たちの王国が近付いているのが分かり、ガラにもない郷愁の思いに駆られる。

     まさか俺も乗ることになるとはねえ。そして、生きて帰れるとはね。

     乗員発表の最後、すっかり科学王国に残るつもりでいた俺は、龍水ちゃんのご指名にそれなりに面食らった。いや、だって行き先って百夜ちゃんの行き着いた島よね? そんな遠くもないし、別に俺いなくてもいいじゃん。あと近いとはいえ船旅だ。五知将が全滅なんてことになったら目も当てられない。それに俺はここに残って、千空ちゃんの不在を守ったほうが安全じゃないの? と思っていたからだ。

     俺はこの世界においては、政治家の動きをするべきだ。この小規模な共同体を平穏に維持するために必要なのって、俺みたいな性格の悪い人間がする政治なんだよね。メンタリズムと権力が結びつくと碌な事にならないのは時代が証明しているけれど、まあ俺がやる中継ぎの責任者くらいならどうにかなるだろう。司ちゃんチームに任せたら世紀末覇者しか生き残れない世界になっちゃってそれはジーマーで困るし。モヤシでもヘラヘラ生き残れる世界のほうが良いに決まってるし。

     ……あと、彼女もいたし。

     船が完成するまでの一年間ちょっと、まあ仕事はそれなりにキツかったけど、社会が発展していく実感の中にいられたのは幸福だった。学校とかラジオとか、あとシンデレラパーティーも楽しかったよね。国を挙げてのイベントにのんびりできる余裕は無かったけれど、そのぶん二人で過ごす時間は大切にしていた。ついでに言えば、男と女でからだを重ねれば、当然起きうることへの覚悟だってしていた。

     そもそも科学王国の人口比率は不自然だ。急激な発展のために福祉は置き去りになっているし、彼女が嘆いたように人的リソースの有限性の見積もりは甘い。しかも司ちゃんの帝国は大部分が若くてムサい野郎で、嫁不足は深刻だ。正直、肉体労働で疲れておいてくれないと何が起きるか分かったもんじゃない。
     そんな環境なので、石神村でも復活者の間でも、子どもの誕生は珍しく、喜ばしいことだった。ただ、それは「愛の結晶」とか「幸せな家庭」とかのふわっとした物語からもう一歩踏み込んで「種の存続」という合理的な価値観に関わる、そこそこにグロテスクな祝い事でもあった。

     ただまあ、案外そういうことって起きないのだ。石化前の飽食の時代においても、男女がただ何も考えずに交わったときに子をなす確率は二割を切っていた。そんなわけで、この欠食の時代で多少なりとも気をつけていた俺たちの間に、新しい命が宿ることはなかった。

     それでも、俺の覚悟は中途半端だったと思う。あのとき、すぐ枯れてしまう野草の指輪なんか贈ったのは、先の見えない中で彼女を縛りたくなかったからだ。だから乗船が決まったときは寂しさと恐怖に混じって「彼女を縛らずにおいて良かった」という思いも浮かんだ。
     万が一俺が死んだとしても、彼女に俺への操なんか立ててほしくない。人間は増やすべきだ。本当は海に出る前に、千空ちゃんの後宮を作るべきじゃないかとすら思っていたのだ。まあ少年マンガだし? さすがに言い出せなかったけどさ。都合の良い話だけど、俺たちが結果的に最善手を打っていたことは、後から分かる。
     宝島では、いろんな嫌なモノを見る羽目になった。仲間たちの石化した姿は想定をはるかに越えて俺のトラウマに突き刺さり、それから、あの汚い宰相、イバラのやり口には嫌悪と、……まあ正直な話、ほんの少しの唆りも感じたよね。

     イバラは党首を石化させ、トップと民衆を分断して自分の権力を確かなモノにした。科学王国の皆ったら良い子ばっかりだから気付いてないけど、科学王国においてイバラに一番近いのは、この俺だ。俺は、同じことができる。

     ソユーズちゃんの記憶力や人格を見るに、先代党首は暗愚の王ではなかったはずだ。そう簡単に、国民との間に二十年の不在が隠されるほどの分断が生まれるとは思えない。とすると、イバラが相当に有能だったか、石化王国に構造上の問題があったかだ。

     俺は原因を後者と見ている。石化王国にあって科学王国にないもの。それは後宮と貴族制だ。石化王国のやりかたは、共同体の維持という意味では合理的だった。党首は清く優しくあり、汚い仕事は特権と引き替えに貴族が担う。後宮に置いた女から賢く丈夫な者を選んで嫡子を残す。百物語は王族だけが継いだのかもしれない。これは百物語の純度と党首の血統を守り、権威を確固たるものにするための仕組みとして良く出来ていた。

     石神村は、巫女の百物語がダイレクトに求心力として機能していた。巫女はその性質上、多くの子は残せない。種の存続という意味ではあまりにも脆弱な仕組みだけれど、百物語に従って日本を目指す人たちの末裔だ。そもそも使命に真摯な人が多かったのだろう。アマリリスちゃんや松風ちゃんの話を聞く限り、宝島に「残った」中には、そうでもない者が少なからずいたのだと思う。
     その代わり石神村は、千空ちゃんが目覚めるまでたった四十人前後の小さな小さな集団で命をつないでいた。文字を持たないことは知識の共有をとても難しくする。千空ちゃんが目覚めるまで、人類はごく原始的な狩猟生活からの発展が不可能になっていたはずだ。それを百夜ちゃんが想像していないはずもない。

     つまり百夜ちゃんは人類から文字を奪い、3700年の人類文化を停滞させてまで、親子のバトンをつないだわけだ。なんてエゴイスティックなんだろう。

     一方で石化王国ではイバラの陰謀によって百物語が断絶し、メドゥーサを権威とする独自の文明が築かれた。もし千空ちゃんが目覚めなければ、その文明が否定されることもなかっただろう。たとえモラルハザードを起こして悪辣な宰相による私物化を許すに至っていたとしてもだ。それはそれで、皮肉な話だ。

     そこまで考えて、片頬がきゅっと釣り上がる。……俺がイバラにならないこと、千空ちゃんには褒めて貰いたいね。

     千空ちゃんと国の皆を分断して、千空ちゃんを孤立させる。元帝国側の子たちに何人か、使いやすい駒がいるのは把握済みだ。あのへんを焚きつけ、ルリちゃんは名ばかりの巫女とする。……できちゃうね、ヨユーで。

     もう少し言ってしまえば、これから帰る俺たちの王国が、出発前と同じであるとは限らない。いくら通信技術があるからって、それだけで全てを統べられるはずもない。俺たちが不在の間に、組織が内部崩壊していてもおかしくないのだ。俺より汚い奴はいないと思うけど、俺のやり口を見ていた国民も多い。その気になれば、ルリちゃんを陥れて王国を牛耳るなんて楽勝だろう。

     俺が指名されたとき、アカリの目が寂寥と心配に曇り、覚悟に燃えるのを見た。彼女も五知将不在の意味を理解しているはずだ。きっと大丈夫。そう自分に言い聞かせて乗船した。

     まあ結果的に俺たちはひとりも欠けることなく帰路についている。お土産と言えるのは、石化装置「メドゥーサ」とまたしても増えたクセの強い仲間、そしてコハクちゃん用コスメの残り物くらいだ。

     「王国が見えてきたぞ!」

     鬼視力のコハクちゃんが叫ぶ。そういえば海風に土の匂いが混じり始めたように思って目をこらすと、遠景に陸地が見えて脈が弾んだ。彼女は元気だろうか。王国は変わりないだろうか。司ちゃんの冷凍装置や発電所やエンジンは、問題なく稼働しているだろうか。

     接岸地点に近付くと、ペルセウス号の凱旋を迎える人だかりができていた。彼女の姿も見える。我らが村長を先頭に全員が下船すると、乗組員それぞれに近しいひとたちが駆け寄った。彼女が駆け寄ってきて、俺の前で止まった。さすがに少女マンガよろしくぎゅっと抱き合うシチュはリームーなので、ちょっと間抜けな距離感になる。

     「アカリちゃん」
     「お帰り、ゲン」
     「うん、ただいま。変わり、ない?」
     「うん、大丈夫。あっでも真空管のストックが心許なくなってたのとマンガン電池の製造が追いつかない。冷凍庫のピストンが一回壊れて未来ちゃんが気絶しそうになってたけど、繋ぎ変え成功して今は正常に稼働してるよ。でも早いところカセキのおじいちゃんに見てもらいたいかな。あと新しい鉄鉱石の鉱脈が見つかったの! 噴火口の……」
     「アカリちゃん、アカリちゃん」
     工作クラブの子たちは皆こんななのか。ペラペラと立板に水を流すようなトークを始める彼女に苦笑いをこぼすと、彼女ははっと口をつぐんだ。
     「あ、……うん、細かいトラブルはあったけど、大丈夫だよ。ゲンは……すごくキレイになったね、顔」

     彼女が眩しそうに目をすがめる。
     「イケメンになったでしょ」にやり、と笑うと、少し顔を赤らめて
     「うん、すごく」素直に言われる。うわ、これは恥ずかしい。

     仲間とか大切な人とか、そういう聞こえが良いだけのくッだらない言葉を自分が当たり前に使うようになるなんて、思いもしなかった。イバラには仲間なんかいなかったんだろうなと思う。石化前の世界の俺みたいに、笑顔の駆け引きで騙し騙され、利用しあう人間関係しかなかったのかもしれない。俺もあのまま歳とったら、あんなふうになっちゃってたのかもしれないな。……うわ、やだなそれ。ゴイッスーやだわ。

     俺はペラペラでヒラッヒラの、水にも風にも流されてどこまでも堕ちてしまう男だ。そんな俺をつなぎとめてくれたのは、この元気で頼れる仲間たち、そして彼女だった。なんて温かくて重く、厄介な鎖だろう。もう手放せないじゃないか。……もう、離れられないじゃないか。

     「色々あったのよ、ジーマーで」
     「うん」
     「でも、もう大丈夫。司ちゃんも救える」
     「……ほんとに?」
     「うん、だからさ」
     「そっか、じゃあ」
     「次の旅はさ」
     「うん」

     次の旅は一緒に来てくれないか。俺のことをつなぎとめておいてほしい。離れたくないんだ。こんなペラペラの口だけど、信じてもらえないかな。
     本気のお願いが引くほど陳腐な言葉になって喉を詰まらせる。俺はそろそろ本気でメンタリストの肩書きを返上したほうが良いかもしれない。

     「あ゛~~~オイ新婚夫婦、感動の再会の邪魔して悪ィけどよ」雑な声が割って入る。はっとすると千空ちゃんが小指に耳をつっこんだあのお行儀の悪い顔で立っていた。

     「ひゃ!? いやそんな」
     「るっせえ大樹と杠見習いやがれ、いやあいつらがテメーら見習うべきか」

     ケッケッケ、と言いながら、千空ちゃんは何か小さいものをポイっと投げてよこした。慌てて受け取ると、太陽の反射光が目を刺した。希少な金属を叩き固めて作った……指輪だ。

     「ってこれ」
     「るせえな、たまには男見せろよテメー」

     気がつけば、村の皆が俺たちを取り囲み、好奇と期待にあふれたキラッキラの目でこちらを見ていた。ここで、ここでか。今この状況でやれと。これは恥ずい。かなり恥ずい。俺ステージ慣れしてるヒトだけど、これはさすがにキツイって。

     助けを求めて周囲を見回す。たまたま目があったルリちゃんは、戦闘態勢のコハクちゃんと全く同じ顔をしていた。えっゴイスー怖いんですけど。ていうかこれ、何かごまかしたりスルーしようとしたら俺殺されるやつじゃん。ちなみに言えば、目の前の彼女も緊張を超えて恐怖の混じった顔をしている。だよね怖いよね超分かる。

     ……ええい、ええい。もういいよ。やりゃあいいんでしょ、やるよ、やってやんよ!

     「――――っあー! あの、アカリちゃん!!」
     「ッヒャいッ!?」

     片膝で跪いて、羽織に仕込んだありったけの花を出した。ガーベラ、マーガレット、スズラン、ハナミズキ。プロポーズに使えそうなの他にあったっけ? あ~~~待ってイヌホオズキは除外!

     「アカリちゃん! ――――――――――!!!」
     「……――――――」

     晴天の下で、歓声がペルセウス号を包んだ。なんだこれ、なんだこれ!?

     彼女の左手を取り、千空ちゃんから下賜いただいたばっかりの輪を薬指に通す。指先に口付けて見上げると、アカリが目を白黒させたまま涙目で微笑んでいた。ああちくしょー、もっと気取って余裕もって、かっこよくやりたかったなあ!

     両手をとって立ち上がり、陳腐な言葉で誓いを立てる。がしゃあん、と、幸せの鎖が足に絡む音がした。めっちゃ重い、バイヤーすぎでしょこんなの。

     ……こんなの、絶対手放せないじゃん!
    酔(@Sui_Asgn) Link Message Mute
    2022/06/02 11:06:51

    ペラペラ男が好きと言うから

    dcstあさぎりゲン夢小説

    2020年9月に発行したあさぎりゲン夢小説「あさき、ゆめみし」収録のメイン長編「ペラペラ男が好きと言うから」の再録です。
    ケータイ作り期間~宝島凱旋までのハッピーエンドです。
    デフォルトネームあり。

    本編含む夢小説集をとらのあなで通販中です: https://ecs.toranoana.jp/joshi/ec/item/040031051697/

    #dcst夢 #dcst #あさぎりゲン

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    • 占星術師は恋を知らない/錬金術師は恋を知る2022年10月16日頒布
      2023年10月20日Web再録公開

      占星術師のゲンと錬金術師の千空のファンタジーパロ
      カップリングなし全年齢
      作者はあさぎりゲンの限界夢女です
      いろ(@iro_dcst)様のこちらの絵が素晴らしすぎて世界が広がりました、文章化のお許しいただきありがとうございます。

      https://twitter.com/iro_dcst/status/1517118615526739968?s=21&t=Wv2V91DRJQhPAOCu62Brfw
      酔(@Sui_Asgn)
    • 恋するように君を追うdcstゲ千短編

      「あなたを知りたい、理解したいと思う、対象への熱烈な興味。これは恋の始まりによく似ている」
      千の足跡を追ううちに恋に落ちていったゲの話です

      #dcst #dcst腐向け #ゲ千
      酔(@Sui_Asgn)
    • #1 最短なら、六分だ。闇オクNFTスリラーのR18ゲ千導入

      世界復興に合わせて急速に拡大する経済の通貨需要を満たすために暗号資産が一般化する中で、自立分散型のコミュニティが乱立していた。サイエンスカルト系DAOが千空を利用して経済圏を拡大し、生身の千空が標的になる。

      #ゲ千
      酔(@Sui_Asgn)
    • グランド・フィナーレ! ~世界の復興で忙しいのに、視察先でクーデターに巻き込まれた件~dcstゲ千全年齢冒険小説

      【復興中捏造】
      米国組と和解してロケット開発を進める千空とゲンがアラビア海上の離島へ視察に向かう。パワーチームと別行動を取って潜入すると、豊かな小国には不穏な空気が漂っていた。
      謎の科学者・Dr.アリを救うため、千空は男娼に扮して宮殿に潜入する。

      明確なカップリング描写は薄めです
      北米編の最中に書いていたため、本編との展開に矛盾があります
      時系列的には「ロケット製造中のあたり」のふんわりイメージでお読みください

      #dcst #ゲ千 #dcst腐向け
      酔(@Sui_Asgn)
    • #3 あれは別格だ、違うか?闇オクNFTスリラーのR18ゲ千3話目

      世界復興に合わせて急速に拡大する経済の通貨需要を満たすために暗号資産が一般化する中で、自立分散型のコミュニティが乱立していた。サイエンスカルト系DAOが千空を利用して経済圏を拡大し、生身の千空が標的になる。
      酔(@Sui_Asgn)
    • ミライへの献身ゲ→千のゲと司が話す短編

      司帝国が最初から詰んでたことを指摘できたのは、ゲだけなんだろうなと思って書いたものです
      アニメ2期ですべてが回収されました もう思い残すことはありません(2021.3.11)

      #dcst #dcst腐向け #ゲ千
      酔(@Sui_Asgn)
    • #6 いやあ、なかなか……ムカつくね?闇オクNFTスリラーのR18ゲ千6話目

      世界復興に合わせて急速に拡大する経済の通貨需要を満たすために暗号資産が一般化する中で、自立分散型のコミュニティが乱立していた。サイエンスカルト系DAOが千空を利用して経済圏を拡大し、生身の千空が標的になる。
      酔(@Sui_Asgn)
    • ヨモツヘグイdcstホラー?短編

      黄泉の国のものを食べると現世には戻れない。
      石神村時代の世界は彼岸と此岸の境界が曖昧だったりしたのかな、と思って突発で生まれた短い話です。

      #dcst #dcst腐向け #ゲ千 #dcstホラー
      酔(@Sui_Asgn)
    • 石神村の憑き物落とし #周縁の人々ウェブ企画 参加作品です。

      巫女と村長、御前試合といった仕組みやクロムの「格下に見るな」「低レベルのフリをしろ」などのセリフ、カセキの回想にあった「皆から白い目で見られないように橋作ったり……」などから、石神村には潜在的に序列の構造や職業差別がありそうだと思い、それでも皆が楽しそうに暮らしているのは「与えられた仕事」ではなく「自分で定めた仕事」を遂行しているからではないかなと考えて作りました。

      千空の代にはこの構造はかなり薄くなっていたのだと思います。このお話の数代後に食糧危機で極端に人が減り、序列が曖昧になったという設定です。
      酔(@Sui_Asgn)
    • #4 こっからはメンタリストの出番だね♪闇オクNFTスリラーのR18ゲ千4話目

      世界復興に合わせて急速に拡大する経済の通貨需要を満たすために暗号資産が一般化する中で、自立分散型のコミュニティが乱立していた。サイエンスカルト系DAOが千空を利用して経済圏を拡大し、生身の千空が標的になる。
      酔(@Sui_Asgn)
    • #2. ゴールデンタイムラバーdcst石化前オールキャラ長編

      千空、杠、ニッキー、陽、司、ゲン、ジョエル、南、瀧水。
      幼い夢を現実に、愛を力に変えるのはそれぞれが持つ自らへの矜持だった。
      千空の一言が蝶の羽ばたきとなって皆を祝福し、福音はやがて千空自身を救う。

      伊坂◯太郎風を目指した群像劇(全4回の2話目)です。捏造設定盛り盛り。
      酔(@Sui_Asgn)
    • #1.全力少年dcst石化前オールキャラ長編

      石化前にあったかもしれない、矜持の連鎖の物語

      千空、杠、ニッキー、陽、司、ゲン、ジョエル、南、瀧水。
      幼い夢を現実に、愛を力に変えるのはそれぞれが持つ自らへの矜持だった。
      千空の一言が蝶の羽ばたきとなって皆を祝福し、福音はやがて千空自身を救う。
      伊坂幸太郎風を目指した群像劇(全4回の1話目)です。

      #dcst
      酔(@Sui_Asgn)
    • バーカウンターの笑顔/嘘つきの教室dcstあさぎりゲン夢小説

      まだ千空と会ってもいなければ大人の世界に揉まれてもいない、ただ異能を持て余していた頃のゲンの覚悟の話。初期ぎりゲンのピリピリした感じを回顧しました。
      推しに罵られたい性癖の持ち主へ。

      #dcst #dcst夢 #あさぎりゲン
      酔(@Sui_Asgn)
    • うすっぺらなキス、はじまりの予感dcstあさぎりゲン夢小説

      うすっぺらな同盟の夜にゲンを看病した村人の夢小説

      #dcst #dcst夢 #あさぎりゲン
      酔(@Sui_Asgn)
    • 波の、下にも。羽と龍の短編

      自分のほうが歳上で、組織人としても格上なのに瀧水の指示に従うのが割と好きだなと思ってる羽京さん。左右未定だけどボーイズラブではあります。

      #dcst #dcst腐向け #西園寺羽京 #七海龍水
      酔(@Sui_Asgn)
    • #5 貴様ら、ついて来い!闇オクNFTスリラーのR18ゲ千5話目

      世界復興に合わせて急速に拡大する経済の通貨需要を満たすために暗号資産が一般化する中で、自立分散型のコミュニティが乱立していた。サイエンスカルト系DAOが千空を利用して経済圏を拡大し、生身の千空が標的になる。
      酔(@Sui_Asgn)
    • 名前のないもの (shall we dance?)根矢崎さんの絵(https://twitter.com/MinoruNeyazaki/status/1434184974706491393?)あまりにも素敵で、三次創作を失礼しました……
      カップリングの左右はありませんが、ゲ千と同じ工場ラインで生産しています。

      #dcst #dcst腐向け
      酔(@Sui_Asgn)
    • 甘えん坊たちのモラトリアム造船期間中の気まぐれな寄り道の話
      ゲンと動物と甘えん坊たちは相性がいいなあと……特定のカプなし、あさゲに夢見がち女の願望
      とりしたさんのひよこまんが(https://twitter.com/STONE_Yakitori/status/1388166150685556740?s=20)のお礼SSです

      #dcst #あさぎりゲン
      酔(@Sui_Asgn)
    • 3ゲ千長編挿絵本編
      https://galleria.emotionflow.com/109665/617928.html

      #dcst #ゲ千
      酔(@Sui_Asgn)
    • 3イベント告知 @10月16日東京 西4P34b10月16日 The Rock9(東京)にて、dcstファンタジーパロ長編「エバー・アフター」を頒布します

      「占星術師は恋を知らない/錬金術師は恋を知る」からの改題、下記に長めのサンプルがあります。
      https://galleria.emotionflow.com/s/109665/619926.html

      174ページ/文庫サイズ/約7万字

      告知詳細

      https://twitter.com/genkai_dcst/status/1578671931485978624?s=46&t=X_CvVwsiVm44UAxNoyNfaw

      とらのあな通販
      https://ecs.toranoana.jp/joshi/ec/item/040031017992/

      #dcst
      酔(@Sui_Asgn)
    • 夢Webオンリー出展のお知らせ2021年に発行したゲ夢小説集「あさき、ゆめみし」再販本を2023/3/19 dcst夢WEBオンリー「君との夢を石の世界で!」で頒布します。 #dcst夢酔(@Sui_Asgn)
    • (番外編)俺が口説いた一人目の娘dcstあさぎりゲン夢小説、糖度高め
      夢主は長編の主人公ですが、これのみでも問題ありません

      #dcst #dcst夢 #あさぎりゲン
      酔(@Sui_Asgn)
    • (番外編)ペラペラ男の戦士の休息dcstあさぎりゲン夢小説

      ふきさんのイラスト(https://twitter.com/fukidameko/status/1325279817609089024?s=21)が素敵すぎて生まれました

      あさぎりゲン夢小説、いちゃついてるだけ
      造船期間中くらい
      夢主は長編(https://galleria.emotionflow.com/s/109665/617923.html)の主人公ですが、物語の関連性はありません

      #dcst #dcst夢 #あさぎりゲン
      酔(@Sui_Asgn)
    • ライフ羽京夢長編の第二話

      楽器職人の夢主が司帝国で目覚め、羽京と共にストーンウォーズを戦う。司を開放して音楽の灯火を復活させ、互いの恋心に気付くまでの物語。
      ストーンウォーズ~宝島前付近までのハッピーエンド。R18予定(未定)

      赤ブー2024年12月開催のDozen rose Fesで頒布予定です。
      酔(@Sui_Asgn)
    • おはよう、世界羽京夢長編の第一話

      楽器職人の夢主が司帝国で目覚め、羽京と共にストーンウォーズを戦う。司を開放して音楽の灯火を復活させ、互いの恋心に気付くまでの物語。
      ストーンウォーズ~宝島前付近までのハッピーエンド。R18予定(未定)

      赤ブー2024年12月開催のDozen rose Fesで頒布予定です。
      酔(@Sui_Asgn)
    • ネバーランドスケイプイネモト様限定公開

      広末高校の学パロミステリーです
      文章化のご許可をいただき、本当にありがとうございました。
      酔(@Sui_Asgn)
    • 最終話 これが、信用なき通貨の末路だ闇オクNFTスリラーのR18ゲ千10話目

      世界復興に合わせて急速に拡大する経済の通貨需要を満たすために暗号資産が一般化する中で、自立分散型のコミュニティが乱立していた。サイエンスカルト系DAOが千空を利用して経済圏を拡大し、生身の千空が標的になる。

      ※色々な技術を都合よく使ってガバガバこじつけ設定を続けています。現実とは異なる点が山ほどありますが雰囲気でお読みください。

      製本版にエピローグを追加します。千空が姿を消した夜のことや、仲良し極まりないめでたセめでたセッ……はそちらに収録します。6月25日の幻想千夜で頒布予定です(行けるかまだ未知だけど……)

      めちゃくちゃな設定とやりたい放題の物語にお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
      酔(@Sui_Asgn)
    • #9 あ〜っもうゴイスーめんどくせえ!闇オクNFTスリラーのR18ゲ千9話目

      世界復興に合わせて急速に拡大する経済の通貨需要を満たすために暗号資産が一般化する中で、自立分散型のコミュニティが乱立していた。サイエンスカルト系DAOが千空を利用して経済圏を拡大し、生身の千空が標的になる。

      ※色々な技術を都合よく使ってガバガバこじつけ設定を続けています。特に文中にある「加工画像から加工前の画像を作る遡上処理」なるものは完全なフィクションで、現実には存在しません。
      酔(@Sui_Asgn)
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